虐げられた少女は、竜王陛下の最愛となる 〜あなた達の非道な行いは、すべてその身に還るそうです〜

水都 ミナト

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第五話 因果報応

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「――最期に何か言い残すことはあるか?」

 玉座から、アデルバートが侮蔑の眼差しで見据えるのは、ようやく見つけた愛しの姫を虐げ続けてきた者たち。
 横一列に並ばされ、膝をついて頭を垂れている。もちろん後ろ手に腕を縛られ、兵士によって押さえつけられているのだが。

「ぐ……我々は無実だ! そのようなこと、実の娘にするはずがない!」
「ほう。ならば、この薬を飲んでも問題はあるまい? 何もしていないのならば、何も起こらないはずなのだから」
「……そ、それは」

 薬の効能については既に説明してある。
 本当にそんな魔法のような薬が存在するのだろうか。閉鎖的な島国で育ったマテロたちには甚だ信じることはできない代物だ。
 だが、もしもその効能が本当なのだったら――

 これまでの行いの数々を思い返し、一同の顔から血の気が引いていく。

「くそ……それもこれも、あんなものが産まれたせいで!!!悍ましい、化け物が……!!!」

 苦し紛れにマテロが吐き捨てた言葉に、その場が凍りついた。

 ガチガチと顎が震えて歯が鳴る。
 象に踏み付けられているかのような重圧が、身体にのし掛かる。
 ヒュッヒュッと肺が酸素を求める音が虚しく響いた。


「――黙れ。贖罪以外の発言は許さん」


 アデルバートは氷のような視線で、射殺すようにマテロを見据えていた。彼の放つ異様な圧力が、罪人達に重くのし掛かっていたのだ。


 ――バタン


 その重圧に耐えきれずに、ジネットが泡を吹いて倒れてしまった。
 だが、そのようなことが許されるはずもなく、グイッと髪を引っ張られて両頬を叩かれ強制的に覚醒させられる。ジネットは気絶することも許されないことに絶望し、大きく目を見開きながらボロボロと涙を流し続けていた。

 その様子に、ますます一同の表情には恐怖の色が深まっていく。

「カルロ、始めろ」
「はっ、竜王陛下の御心のままに」
「やめろ……やめろぉぉぉぉぉ!!!」

 アデルバートによる無慈悲な命を受け、魔術師カルロは反転の再現薬の小瓶の蓋を開けた。
 小瓶からはとぷん、と紫色の液体が球形を成して宙に浮かび上がる。四つの小さな玉が、ゆらゆら揺蕩いながら罪人達の口の前へと迫っていく。
 その球体を怯える眼差しで見つめる一同。
 兵によって無理矢理口を開かされた彼らの喉奥に、紫色の球体が吸い込まれていった。

「はぁっ……はぁっ……はぁ……」

 恐怖により瞳孔が見開き、荒い呼吸を繰り返す中、初めに悲鳴を上げたのはシーラだった。

「いやっ! 痛いっ! やめて……っ!」

 見えない何かに激しく両頬を打たれているのか、その身体は右に左に激しく揺れている。床を転がっては、再び身体が跳ね起きて繰り返し殴打されている。

「あ、あ、ああああああっ!!」

 続いて、ルシェルの爪がバリバリと剥がれ、鮮血が噴き上がった。ボキボキッと指が逆側に反り返る。連行時に折られた腕と共に、彼の手脚は異様な方向へと曲がっている。

「ひっ……いやぁぁぁ!!!」

 ジネットの腕の皮膚が大きく裂け、血飛沫を上げた。
 彼女に竜の鱗はないが、きっと、アマリリスの腕の鱗を引きちぎっていたのだろう。腕、脚、頬。瞬く間に身体中の皮膚が裂けていく。

「ぐわぁぁぁぁぁあ!!!」

 マテロの身体にも無数の刀傷や鞭で打たれた跡が現れ、足元には血溜まりが広がっていく。腕、手首、顔、足首、背中。身体中が切り刻まれて、鬱血し、真っ赤に染まっていく。

「やめろ」「やめてくれ」「頼むから」「もう死んでしまう」「助けて」

 彼らは悲鳴ともならない叫び声を上げながら、血と涙と絶望に塗れた顔で、縋るようにアデルバートにずり寄っていく。

 だが、そんな彼らの頭上に降ってきたのは背筋も凍るほどの冷たい声だった。

「お前達は、アマリリスに請われてその行いを止めたのか? 治癒力が高いといえども、痛みを感じるのは同じこと。今お前達が感じている痛みは、全てアマリリスの痛みと知れ。全てはお前達の非人道的な行いが故――因果応報であるぞ」

 アデルバートは、はらわたが煮え返っていた。
 歯を食いしばり、目の前の下衆共を引き裂いて殺してしまいたい衝動に辛うじて耐えていた。


 今、目の前で繰り広げられている惨状は、全てアマリリスの身に起きたことなのだ。
 常人であればとっくに死んでいるものを、アマリリスは竜人故に辛うじて生き延びていたのだ。
 切られた皮膚や鱗は再生し、折れた手足も数日で治ったことだろう。だが、その身に受けた痛みや心の傷は蓄積され続けていく。




 そう、常人であれば、到底耐えられるはずもなく――





 刑が執行された部屋からは、間も無く悲鳴も雄叫びも、何も聞こえなくなった。
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