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第二話 救いの声

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 アマリリスの人生に光が差したのは、十六歳の誕生日を迎えた日のことだった。

 もちろん、家族から誕生日を祝われることはない。
 むしろアマリリスが産み落とされた凶日として、誕生日はいつも以上に痛めつけられる。
 とうとう今日、なぶり殺されてしまうのではなかろうか。
 そんな恐怖と、死ねばこの苦痛からも解放されるという僅かな期待。地下では時間が分からないが、恐らく昼過ぎには一家総出で地下牢にやってくるだろう。
 アマリリスは定まらない視線を泳がせながら、その時をひたすらに待った。


 けれども、階段から聞こえてきたのは知らない男の声だった。


「お前がアマリリスか」

 一言発しただけで澱んだ空気が澄み渡るような、そんな凛とした声に、沈んでいた視線を上げる。

 そこには見たこともないような美丈夫が立っていた。
 艶やかな深緑の髪に、金色の瞳。
 その装いから尊い人物であることは、教養のないアマリリスでさえ一見して理解できた。

 どうしてか、その顔を見た時、胸を締め付けるような懐かしさを感じた。
 記憶の彼方、竜の血の記憶なのだろうか――
 魂が震えて、涙が滲みそうになる。

「本当に――本当に長い間待たせてしまった。ああ、これほどまでに痩せて……垢も血の跡もこびりついているではないか。すぐに我が国に連れて行くぞ」
「な、ななっ! 勝手に現れて、何を言う! アマリリスは私の娘だ! い、許嫁もいるのだ! 連れて行くと言うなら相応の対価を――」
「――黙れ」
「グアッ!」

 目の前の男が軽く手を翳しただけで、父のマテロが石壁まで吹き飛んでいった。
 慌てて階段を駆け降りてきたらしい母のシーラと、妹のジネットは声にならない悲鳴をあげるが、身体が固まったように動けないらしく、真っ青な顔をして身を寄せ合っている。

「大切な我らが同胞への長年の仕打ち、許すつもりはない。お前たちの罪は帝国で洗いざらい吐かせてやる。連行しろ」
「はっ」

 いつの間にか現れた兵たちに、アマリリスの家族は瞬く間に縛り上げられていく。

「一体何の騒ぎですか? アマリリスが暴れているので? いつものように殴って黙らせましょうか……なっ、何だお前たちは⁉︎」
「――ふん、まだ下衆がいたか。此奴も捕えろ。手荒にして構わん。抵抗するのなら腕の一本でも折ってしまえ」
「なっ、触るな! 無礼者め! がはっ!」

 男の言葉通り、抵抗を試みたルシェルの腕は呆気なく折られた。ボキッという渇いた音が嫌に耳についた。声にならない悲鳴が無機質な地下牢に響く。

 その間に、男はアマリリスの足枷を素手で壊して、薄汚れて異臭すらも放つ彼女を躊躇うことなくその腕に抱き上げた。

「さあ、俺と共に帰ろう」
「あ……」



 ああ、やっとこの生活から解放される――



 そう思ったら安心したのか、アマリリスの視界はフッと暗転した。
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