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第2章エクスプレス サイドB①魔窟の養生楼閣都市/死闘編
Part 40 死闘・武人タウゼント/理不尽とプライド
しおりを挟む隊員たちに携行しているサブマシンガンの弾種の変更を命じ、彼らが得意とするステルス戦闘行動の深度レベルをⅠからⅢへと深化させる。彼らにとって取り得る最適な判断をしたはずであった。彼らにはロシアこそがステルス戦闘の世界最高峰であると言う痛烈な自負があったのである。
「いける。ヤツに重比重フレシェット弾は有効だ!」
頭部への集中攻撃を命じ敵の行動を牽制する。そして次の戦闘行動へとつなげる――はずであった。
「ば、馬鹿な――」
予想に反して彼が目の当たりにしたもの。それはステルス機能を見破り一直線に接近してくる権田の姿だったのである。
「ステルス戦闘はロシアが最高峰のはず――ステルス深度レベルⅢは破られていないはずだ!」
自らの誇りと自負の支えとなっていた事実を思わず口にする。だがそれに対して無慈悲に告げられたのは権田の悪意に満ちた嘲笑だったのだ。
「いいか、教えてやるよ! 技術ってのはなぁ! 常に進歩するんだよぉおおお!!」
それは優越感である。
それは敵意である。
それは充足感である。
それは快楽である。
それは憎悪である。
全ては犯罪者への敵対と断罪を大義名分として振りかざしているだけであった。
そこには何の正当性も、何の正義もなかった。
ただ理不尽だけが存在していたのである。
「潰れろ! 老いぼれぇ!」
そこに〝人間〟に対する尊厳と畏敬の念はどこにも存在しなかった。その抗いようのない理不尽に対してボリスが抱いたのは絶望よりも悔しさよりも心の底から湧いてくるのは組めども組めども尽きぬただ純粋なる怒りだ。
「なぜだ――」
思わず言葉が漏れる。その瞬間、時間はその流れをとてつもなく遅くする。そして、その記憶の彼方に思い出すのはかつての戦場での光景の数々。
命令に服して戦場へと赴く一兵卒、
不慣れな戦闘にて必死に銃器を構える新兵たち、
満足のいく量を届けられぬ糧食や支援物資、
それを分け合いながら戦地にて肩を並べた戦友たち、
だが彼らは一人、また一人と倒れていく。
生き残った者たちも、弾雨や爆風にて傷つき、時には体の一部を失っていく。
そして戦う相手は、
時にはイデオロギーを異にする異国軍であり、
時には死に物狂いの抵抗を続けるゲリラであり、
時には狡猾に組織されたテロ集団であり、
時にはかつては同じソビエト連邦下にあったはずの隣国でもあった。
時が流れ世界が変わり、国軍でも国家でも民兵組織でもない者たちが、大規模に支配領域を獲得し国際社会に驚異を与えていく。
無力な住民たちは虐げられ貪られ、難民として行き場のない流浪を強いられていた。
そんな残酷な現実に抗いながら戦場にて武器を取り戦うのは、どこでもいつでも、ボリスやウラジスノフたちの様な軍属であった。さらには時代が進むにつれて彼ら軍属たちの闘いは混迷の度合いを深め、いつ果てるとも解らぬものへと変質していく。
さらに時代が進み世界の様相が代わり戦場の様相も急速に変貌を遂げる。
空をドローンが飛ぶ。
無人化された小型戦闘機が頭上を行き交う、
負傷した体に義肢が移植され再び戦場へと追い返され、
国際社会は単なる利害関係では割り切れぬほど複雑化し、
ボリスたちの任務には諸外国に対しては公にできぬ極秘任務化した物が急速に増えていく。
あらゆる事情が極秘扱いとなり、寡兵で高難易度の任務を負わされ、
そして、
仲間と――
肉体と――
精神の安定とが擦り切れ失われていく。
だがそれでも最後の最後に残ったものがあった。それが〝誇り〟であった。
ウラジスノフはボリスに口癖のように言っていた。
「おれたちの誇りはマフィアにはない。俺達の誇りはいつでもあの場所にある。背後の者たちを護るために駆け抜けたあの〝戦場〟にある! いいか?!――ロシア軍人としてのプライドだけは絶対に捨てるな! あの狂える拳魔を討ち倒すその日まで!」
そうだ――、ロシアの男として、ロシア軍の軍属として、背後の者たちを護る。それが彼らの最後の最後のギリギリに残された唯一のプライドであり拠り所だったはずだ。
そしてボリスの脳裏に蘇る物があった。シリア領内の狂信的宗教原理主義集団の掃討殲滅任務。国際社会の記録には一切残されない極秘の非合法任務。勝とうが負けようが戦歴として記憶される事は絶対にない『存在しないはずの軍務』
ボリスにとって正規軍人としては最後となった闘いであった。
一度は死を覚悟した最後の戦場。その時の最後の被弾の瞬間がボリスの脳裏に克明に浮かび上がっていたのだ。
敵が手にしていたのは中国製のハンドグレネードランチャーで87式と呼ばれるモデル。そして、そこから放たれたのは手のひらほどのサイズのグレネード弾。それがボリスの右脇の至近距離にて炸裂する。
爆風、爆音、衝撃、そして全身が焼けるような感覚――
それを最後にして彼の戦場での記憶はぷっつりと断ち切られる。
気づいた時には既に一般生活用の医療用義肢が移植されたあとであった。
彼は今、己の軍人としての戦歴の日々が終わったその瞬間を呼び起こされていた。
「クソォッ! こんな所で!」
思わず口から漏れた言葉は誰にも届かない。そして今まさに彼に目掛けて血にまみれた電磁破砕ハンマーは振り下ろされたのである。
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