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第2章エクスプレス サイドB①魔窟の養生楼閣都市/死闘編

Part 40 死闘・武人タウゼント/戦況

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 ロシアン・マフィア・ゼラムブリトヤ、
 極東ロシアを拠点として日本へそしてアジアへと進出を果たした野心的マフィア集団、
 そしてその上級精鋭部隊が Тихийチーヒィ человекチラヴィエーク――『静かなる男たち』である。
 彼らは部隊を率いる隊長であるウラジスノフ・ポロフスキーの下に集った元ロシア軍人の精鋭中の精鋭である。陸海空様々な経歴を持ち、いずれもが卓越したステルス戦闘のエキスパートである。そして彼らを一つに束ねている〝意思〟それは――
 
――ある一つの存在への〝復讐心〟である――

 彼らはマリオネット・ディンキーとその主戦力であったベルトコーネに対して積年の思いを抱いていたのだ。

 彼らは知っている。失うということの苦痛を、
 彼らは知っている。喪うということの残酷さを、
 彼らは知っている。残されることの孤独を、
 彼らは知っている。奪うということの酷さを、
 
 そして彼らは立ち上がる。いつか来るべき審判の日のために。
 老いた体に鞭打ち、過酷なサイボーグ処置を受け、戦闘エキスパートとして己をさらに磨き上げ、ウラジスノフの指導のもと、ゼラムブリトヤの首魁であるノーラ ボグダノワに忠誠を誓い日夜活動を続けてきた。
 そう――、全ては彼らの復讐対象である〝ベルトコーネ〟を討ち取るために――
 
 そして彼らは今、その本懐のすぐ間際へとたどり着きつつあった。復讐を果たすその直前までたどり着いたのだ。
 あと一歩、あと一撃、あと一発――
 悲願となるとどめの一撃のラストショットがまさに放たれる瞬間。理不尽は彼らのもとに降り掛かった。
 
――黒い盤古――

 犯罪を地上から滅殺せんと妄執する異形の官憲――、それはもはや法に基づく正義ですら無い。
 一般市民を犯罪から守ると称し、その犯罪要素をはらむ違法な存在の全ての滅却を望む非合法サイボーグ部隊。
 正式部隊名、武装警官部隊・盤古、情報戦特化小隊第1小隊――
 彼らは望む。破滅的暴走の発生を。
 かつて静かなる男たちが親愛なる肉親を喪うきっかけとなったベルトコーネの破局的暴走状態、それを成立させる事でこのならず者の楽園と呼ばれる洋上スラムを壊滅させんと欲しているのだ。
 
 そう、それは――『絶対に相容れぬ相反する価値観の衝突』

 今、打ち捨てられし洋上スラムの最果ての荒れ地の上で、静かなる男たちの尖兵である老兵たちохотникアクトーニクに悪意と敵意と憎悪をもって凶器の鉄槌を振るわんとする凶者が一人。
 
 建築構造物破壊用の電磁破砕大型ハンマーを振るう男、情報戦特化小隊隊員――〝権田〟

 小銃弾すら跳ね返す動力装甲スーツに身を包み、大地の地磁気を利用して加速移動を可能とする『抗地磁気反発加速システム』を装備したパワーファイタータイプの戦闘工作員。その手にした大型ハンマーにより破壊と殺戮を撒き散らす男だ。すでに権田は2名の静かなる男の命を屠っていた。鉄塊一閃、その酷いむごいまでの重圧にて法的正義を盾にして人命をすり潰したのだ。だが、砕かれる頭蓋、柘榴のように弾ける鮮血――、その光景にまともな正義があるとは到底思えない。だが到底看過できるはずが無い。
 静かなる男たちはその誇り故に、悲願達成を前にしてむざむざ退却するわけには行かなかった。それに加え、その彼らの背後にはあのハイヘイズの子供らが逃げ遅れているのだ。
 
「あの子供らを見殺しにはできない!」
 
 彼らを放置して撤退すれば最悪の事態が再び子供らを襲うだろう。それだけは――、そう、それだけは到底容認できない。
 なぜなら静かなる男たちは『誇りある軍人』なのだ。銃後にて恐怖に怯える者たちを護るのは当然の役目だ。
 そして戦陣を張る静かなる男たちの隊長であるはずのウラジスノフは狙撃の凶弾に倒れていた。
 今。部隊を率いるのは副官を務める熟練の元ロシア軍人のボリスと言う男だ。顎の貼った角顔の風貌で右手は黒い革手袋で覆われているが、それが金属製の頑丈な義手である事は容易に解る。右頬には三条の傷跡がある。ナイフ傷ではない。爆発物の破片により引き裂かれたような傷跡だった。右目も人工眼球に更新されている。ウラジスノフのそばにて彼の意図を正確に読み取り、静かなる男たちの第2の司令塔として活躍する男である。壮烈なる戦歴を持つ彼は今、状況を冷静に把握しようとしていた。
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