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第2章エクスプレス サイドB①魔窟の養生楼閣都市/死闘編

Part39 死闘・ドンキホーテ/正義の騎士

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【 両脚部内高圧電磁イオンプラズマジェット 】
【 >出力上昇〔+46%〕         】

 擦り切れたマントをたなびかせて老騎士がいく。
 滑稽劇の主人公として、コメディドラマの寸劇を演じるものとして、彼は日々を暮らしている。だが、その鎧に秘められた思いは作り物ではない。そのランスに掲げた正義は偽りではない。
 彼は鋼の騎士。誇りある武人。その眼下に戦場を見ていたが、そこには惨殺死体として2つの命が失われていた。いずれも巨大な鉄塊による圧殺だった。
 
「おのれ! 命を何だと思っておる!」

 度し難い怒りに身を震わせながら狂気の主を探せば、現代的な黒い鎧を身にまとったその男は3人目の犠牲者を産もうとしていたところである。彼の下へと進路を変える。
 それは3つ目の血痕となるはずであった。狂気のハンマーは振り下ろされ、無慈悲な殺戮を続けるはずであった。だが――
 
「む? いかん!」

――それを阻止する力は確かに存在した。飛行軌道をカーブさせて、彼は権田とボルツの下へと舞い降りようとしていたのである。
 

 @     @     @

 
 そしてボルツ目掛けて、電磁破砕ハンマーは一気に振り下ろされる。
 
「潰れろ! 老いぼれ!」

 権田は今まさに薄汚れた歓喜の声をあげた。だが――
 
――ガギイイィィン!!――

――ハンマーは勢い良く弾かれる。振り下ろされた軌道は変えられ、ボルツの傍らの地面へと振り下ろされていた。

「なっ!? なんだ?!」

 突然に襲ってきた衝撃に不意を突かれて周囲を見回せば、そこに信じがたいモノを彼は見ることになる。
 ソレはコミックかRPGから抜け出したようなシルエットで、しわがれた老いた声で語りかけてきた。
 
「なんだと聞かれて答えぬわけにはいかぬなぁ?」

 右手に握りしめていた巨大な馬上槍ランスを後方へと引くと、それを突き出しながら権田へと突進する。ランスの先端が権田の装甲スーツの上で壮烈な電磁火花を吹き上げた。
 
「くそっ!」

 体制を整えるため権田は一旦、一歩下がる。そして突然に空から襲ってきた新た敵の姿をその目に焼き付ける事になる。それは滑稽すぎるほどに滑稽であり、到底、ふざけているとしか思えない姿であった。
 そのシルエットはまるでおとぎ話の寸足らずの老騎士のようであった。
 プロポーションは三頭身で頭はたてがみ付きの煤けた鈍銀色のフルフェイスの兜、全身鎧で寸足らずの胴体の下には太くがっしりした大きめの足がある。両腕にはごついガントレットが嵌められ、背中には擦り切れたマントがたなびいていた。
 そしてその右手には彼の身長よりも大きい2mほどの馬上槍=ランスが握られていた。
 その太くがっしりした両足の底部から銀色に光り輝く電磁プラズマを噴射し飛行能力としている。コミカルかつユニークなシルエットではあったが、それはまさに戦う者の姿だ。
 彼は告げる。己の名を――
 それは切り刻まれた身体であっても、誇り高く生きるという自己存在の証明である。
 
「我が名はタウゼント! 誇り高き遊歴の騎士である! かかるに、この理不尽見過ごせてはおけぬ!」

 それは道化である。滑稽ですらある。場違いと言ってもいいだろう。
 だがその姿に秘められた闘志は本物であった。
 それはまさに――
 
「なんだ! てめぇは! ドン・キホーテのつもりかぁ!」

――現代を生きる正義の騎士。
 
 権田は電磁破砕ハンマーを振りかぶるとタウゼント目掛けて振り下ろす。ハンマーの先端がタウゼントを捕らえたかと思った瞬間、そのシルエットは残像を残して掻き消える。次の瞬間、タウゼントのランスは勢い良くスイングされて権田の頭部を真正面から痛打する。その衝撃で権田は後方へと昏倒させられたのだ。
 その権田へとタウゼントの声が投げかけられた。
 
「来い! ワシが直々に相手をいたす! 貴様のそのネジ曲がった魂、矯正してくれる! いざ、尋常に勝負!!」

 それはまさにドン・キホーテ――
 そしてここでもまた一つの戦いが始まったのである。
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