上 下
433 / 462
第2章エクスプレス サイドB①魔窟の養生楼閣都市/死闘編

Part36 死の道化師・黒の巨人/正当なる権利

しおりを挟む
「ふざけんな」

 その銃口は確かにクラウンの方をむいていた。弾丸は弾かれて何処かへと飛び去っていた。だが確実にその弾丸はクラウンを捕らえていたのだ。
 
「だとしてもだ、アンタがアタシたちの家族を! 仲間を! 親友を! 故郷を! この世から消し去った事実には変わりはない! 私たちには、アンタの命に手をかける権利があるんだ! それだけは否定させない!」
 
 イザベルのその重い一言が辺りにこだましている。その言葉をクラウンは茶化すこと無く真摯に受け止めていた。両手を合わせてささやかに拍手をする。そして穏やかな口調でこう答えたのだ。
 
「正解です。貴方は正しい。現実に打ちひしがれず、現実を言い訳に後ろを向かず、たとえ怨讐にその身を焼こうとも一つの目的に向けてまっすぐに進むのであれば! 私はあなた達をいつまでもお待ちしていますよ」

 クラウンは右手をその胸にあててこう述べる。
 
「わたしは復讐者――」

 そしてその右手をイザベルたちへと向けて告げる。
 
「あなた達も復讐者――」

 更にその右手を再び己の胸にあてる。
 
「ならば皆さんにはわたしを討つ権利がある。誰もにも邪魔されない正当なる権利が――
 だからこそです。あなた方が宿したその刃を磨き続けるのです。この私に、その報復の刃が届くその時まで! 今はまだ未熟すぎます、まだまだ私には掠りすらもしません。ならば自らの力を少しでも磨くことです。そしてあなた達の刃が私に届いた時、私が見ていたものがあなた達にも見えるはずです! 世界の影に潜む、真の黒幕の存在について! まさに、真に撃つべき巨悪が存在する事に気づくはずなのです!」
 
 その言葉を告げた瞬間、クラウンは頭上を仰いでいた。その視線の先にはただの夜空しか無い。だがその視線は確かに何かを見抜いていたのだ――
 その視線の意味が何であるのか、イザベルたちには解ろうはずがなかった。訝りながら荒い言葉を投げかける。
 
「おい、何を見ている」

 その一言にクラウンは再びペラの女たちと向かい合っていた。
 
「教えてあげてもいいのですが今のあなた達には意味がない。それより――」

 苛立ちと敵意を収めようとしない彼女たちを諭すようにある事実を伝えはじめる。
 
「こんな所で油を売っている暇はありませんよ。なにしろあなた達のご主人様が死に瀕しているのですから」

 クラウンの言葉に驚きを超えにしたのはエルバ――

「え?」
 
 混乱から思わず否定したのはマリアネラ――
 
「ちょっと何血迷ったこと言ってんのよ」

 反対に冷静に受け答えするのはイザベルだ。
 
「どう言う事?」

 その問い掛けにクラウンは真面目に応答していた。
 
「サイレントデルタのファイブとかいう糞ガキが任務失敗で爆砕処分のお仕置きを受けましてね、席次順の都合、最も至近距離に居たペガソがまともに爆発の破片を食らったみたいなのです。どうやら脊椎を傷つけた模様で」

 その言葉にプリシラはとっさに通信連絡を飛ばしていた。メッセージを求める相手はペガソのそばにいつでもいるナイラ、そして彼女から返ってきたメッセージに蒼白な表情で皆に向けて叫んだのだ。
 
「みんな! 彼の言っていること本当だよ! 今、血圧が急低下して緊急手術を受けてるって!」

 その言葉に弾かれるように4人はすぐに行動を開始する。指示を出したのはエルバだ。
 
「急いで戻るよ」

 その一言を引き金に即座に彼女たちは動き出す。プリシラが広げたホログラム映像のフィールドを解除すればクラウンたちを覆い隠す物はもう何もないのである。一番最後に残ったのはイザベルだった。クラウンを鋭い視線で一瞥すると頷きもせずにそこから走り去った。その一瞥の意味をクラウンはもちろん理解していたのだ。
 
「解っていますよ。好きな時にいつでもおいでなさい。私はあなた達が来るのであれば、逃げも隠れもいたしませんから。なにしろあなた達は、大切な大切な復讐者なのですから。さて私も行くとしましょうか――」

 そしてクラウンは立ったままでその場で一回転する。夜の帳の下でその姿は風に吹き飛ばされたように掻き消えてしまう。そして、まるで奇術師のイリュージョンの様に一瞬にして消え去ったのである。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

狐塚町にはあやかしが住んでいる

佐倉海斗
キャラ文芸
狐塚町には妖狐が住んでいる。妖狐の名前は旭。狐塚稲荷神社にて祀られてしまったことにより神格を与えられた「あやかし」だ。 「願いを叶えてやろう」 旭は気まぐれで人を助け、気まぐれで生きていく。あやかしであることを隠すこともせず、旭は毎日が楽しくて仕方がなかった。 それに振り回されるのは、いつだって、旭の従者である鬼の「春博」と人間の巫女「狐塚香織」だった。 個性的な三人による日常の物語。 3人のそれぞれの悩みや秘密を乗り越え、ゆっくりと成長をしていく。 ※ 物語に登場する方言の一部にはルビを振ってあります。 方言は東海のある地域を参考にしています。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

新・八百万の学校

浅井 ことは
キャラ文芸
八百万の学校 其の弐とはまた違うお話となっております。 十七代目当主の17歳、佐野翔平と火の神様である火之迦具土神、そして翔平の家族が神様の教育? ほんわか現代ファンタジー! ※こちらの作品の八百万の学校は、神様の学校 八百万ご指南いたしますとして、壱巻・弐巻が書籍として発売されております。 その続編と思っていただければと。

煌の小匣 キラノコバコ

小牧タミ
キャラ文芸
両親の遺言で超の付くお坊ちゃんお嬢様学校『煌星学園』に入学することになった皇朱綺(すめらぎあき)。 煌星学園にはお坊ちゃんお嬢様学校以外にもう一つの顔があった。“異能の力”を持つ者たちが通う学園ということ。 露とも知らず“力も財力”もない朱綺はクラスで浮いた存在となる。 ある日、危ないところを助けてくれた翁宮羅央(おうみやらお)と出会いーー

元34才独身営業マンの転生日記 〜もらい物のチートスキルと鍛え抜いた処世術が大いに役立ちそうです〜

ちゃぶ台
ファンタジー
彼女いない歴=年齢=34年の近藤涼介は、プライベートでは超奥手だが、ビジネスの世界では無類の強さを発揮するスーパーセールスマンだった。 社内の人間からも取引先の人間からも一目置かれる彼だったが、不運な事故に巻き込まれあっけなく死亡してしまう。 せめて「男」になって死にたかった…… そんなあまりに不憫な近藤に神様らしき男が手を差し伸べ、近藤は異世界にて人生をやり直すことになった! もらい物のチートスキルと持ち前のビジネスセンスで仲間を増やし、今度こそ彼女を作って幸せな人生を送ることを目指した一人の男の挑戦の日々を綴ったお話です!

ニャル様のいうとおり

時雨オオカミ
キャラ文芸
 ――優しさだけでは救えないものもある。  からかい癖のある怪異少女、紅子と邪神に呪われたヘタレな青年令一。両片想いながらに成長していく二人が絶望に立ち向かう、バトルありな純愛伝奇活劇!  邪神の本性を見て正気を失わず一矢報いてしまった青年、令一は隷属させられ呪われてしまった! 世間から忘れ去られ、邪神の小間使いとしてこき使われる毎日。  諦めかけていた彼はある日夢の中で一人の怪異少女と出会う。  赤いちゃんちゃんこの怪異、そして「トイレの紅子さん」と呼んでくれという少女と夢からの脱出ゲームを行い、その日から令一の世界は変わった。  *挿絵は友人の雛鳥さんからのファンアートです。許可取得済み。  ※ 最初の方は後味悪くバッドエンド気味。のちのち主人公が成長するにつれてストーリーを重ねていくごとにハッピーエンドの確率が上がっていきます。ドラマ性、成長性重視。  ※ ハーメルン(2016/9/12 初出現在非公開)、小説家になろう(2018/6/17 転載)、カクヨム、ノベルアップ+にてマルチ投稿。  ※神話の認知度で生まれたニャル(もどき)しか出てきません。  ※実際のところクトゥルフ要素よりあやかし・和風要素のほうが濃いお話となります。  元は一話一万くらいあったのを分割してます。  現行で80万字超え。

お兄ちゃんの装備でダンジョン配信

高瀬ユキカズ
ファンタジー
レベル1なのに、ダンジョンの最下層へ。脱出できるのか!? ダンジョンが現代に現れ、ライブ配信が当たり前になった世界。 強さに応じてランキングが発表され、世界的な人気を誇る配信者たちはワールドクラスプレイヤーと呼ばれる。 主人公の筑紫春菜はワールドクラスプレイヤーを兄に持つ中学2年生。 春菜は兄のアカウントに接続し、SSS級の激レア装備である【神王の装備フルセット】を持ち出してライブ配信を始める。 最強の装備を持った最弱の主人公。 春菜は視聴者に騙されて、人類未踏の最下層へと降り立ってしまう。しかし、危険な場所に来たことには無自覚であった。ろくな知識もないまま攻略し、さらに深い階層へと進んでいく。 無謀とも思える春菜の行動に、閲覧者数は爆上がりする。

大阪の小料理屋「とりかい」には豆腐小僧が棲みついている

山いい奈
キャラ文芸
男尊女卑な板長の料亭に勤める亜沙。数年下積みを長くがんばっていたが、ようやくお父さんが経営する小料理屋「とりかい」に入ることが許された。 そんなとき、亜沙は神社で豆腐小僧と出会う。 この豆腐小僧、亜沙のお父さんに恩があり、ずっと探していたというのだ。 亜沙たちは豆腐小僧を「ふうと」と名付け、「とりかい」で使うお豆腐を作ってもらうことになった。 そして亜沙とふうとが「とりかい」に入ると、あやかし絡みのトラブルが巻き起こるのだった。

処理中です...