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第2章エクスプレス サイドB①魔窟の養生楼閣都市/死闘編
Part36 死の道化師・黒の巨人/正当なる権利
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「ふざけんな」
その銃口は確かにクラウンの方をむいていた。弾丸は弾かれて何処かへと飛び去っていた。だが確実にその弾丸はクラウンを捕らえていたのだ。
「だとしてもだ、アンタがアタシたちの家族を! 仲間を! 親友を! 故郷を! この世から消し去った事実には変わりはない! 私たちには、アンタの命に手をかける権利があるんだ! それだけは否定させない!」
イザベルのその重い一言が辺りにこだましている。その言葉をクラウンは茶化すこと無く真摯に受け止めていた。両手を合わせてささやかに拍手をする。そして穏やかな口調でこう答えたのだ。
「正解です。貴方は正しい。現実に打ちひしがれず、現実を言い訳に後ろを向かず、たとえ怨讐にその身を焼こうとも一つの目的に向けてまっすぐに進むのであれば! 私はあなた達をいつまでもお待ちしていますよ」
クラウンは右手をその胸にあててこう述べる。
「わたしは復讐者――」
そしてその右手をイザベルたちへと向けて告げる。
「あなた達も復讐者――」
更にその右手を再び己の胸にあてる。
「ならば皆さんにはわたしを討つ権利がある。誰もにも邪魔されない正当なる権利が――
だからこそです。あなた方が宿したその刃を磨き続けるのです。この私に、その報復の刃が届くその時まで! 今はまだ未熟すぎます、まだまだ私には掠りすらもしません。ならば自らの力を少しでも磨くことです。そしてあなた達の刃が私に届いた時、私が見ていたものがあなた達にも見えるはずです! 世界の影に潜む、真の黒幕の存在について! まさに、真に撃つべき巨悪が存在する事に気づくはずなのです!」
その言葉を告げた瞬間、クラウンは頭上を仰いでいた。その視線の先にはただの夜空しか無い。だがその視線は確かに何かを見抜いていたのだ――
その視線の意味が何であるのか、イザベルたちには解ろうはずがなかった。訝りながら荒い言葉を投げかける。
「おい、何を見ている」
その一言にクラウンは再びペラの女たちと向かい合っていた。
「教えてあげてもいいのですが今のあなた達には意味がない。それより――」
苛立ちと敵意を収めようとしない彼女たちを諭すようにある事実を伝えはじめる。
「こんな所で油を売っている暇はありませんよ。なにしろあなた達のご主人様が死に瀕しているのですから」
クラウンの言葉に驚きを超えにしたのはエルバ――
「え?」
混乱から思わず否定したのはマリアネラ――
「ちょっと何血迷ったこと言ってんのよ」
反対に冷静に受け答えするのはイザベルだ。
「どう言う事?」
その問い掛けにクラウンは真面目に応答していた。
「サイレントデルタのファイブとかいう糞ガキが任務失敗で爆砕処分のお仕置きを受けましてね、席次順の都合、最も至近距離に居たペガソがまともに爆発の破片を食らったみたいなのです。どうやら脊椎を傷つけた模様で」
その言葉にプリシラはとっさに通信連絡を飛ばしていた。メッセージを求める相手はペガソのそばにいつでもいるナイラ、そして彼女から返ってきたメッセージに蒼白な表情で皆に向けて叫んだのだ。
「みんな! 彼の言っていること本当だよ! 今、血圧が急低下して緊急手術を受けてるって!」
その言葉に弾かれるように4人はすぐに行動を開始する。指示を出したのはエルバだ。
「急いで戻るよ」
その一言を引き金に即座に彼女たちは動き出す。プリシラが広げたホログラム映像のフィールドを解除すればクラウンたちを覆い隠す物はもう何もないのである。一番最後に残ったのはイザベルだった。クラウンを鋭い視線で一瞥すると頷きもせずにそこから走り去った。その一瞥の意味をクラウンはもちろん理解していたのだ。
「解っていますよ。好きな時にいつでもおいでなさい。私はあなた達が来るのであれば、逃げも隠れもいたしませんから。なにしろあなた達は、大切な大切な復讐者なのですから。さて私も行くとしましょうか――」
そしてクラウンは立ったままでその場で一回転する。夜の帳の下でその姿は風に吹き飛ばされたように掻き消えてしまう。そして、まるで奇術師のイリュージョンの様に一瞬にして消え去ったのである。
その銃口は確かにクラウンの方をむいていた。弾丸は弾かれて何処かへと飛び去っていた。だが確実にその弾丸はクラウンを捕らえていたのだ。
「だとしてもだ、アンタがアタシたちの家族を! 仲間を! 親友を! 故郷を! この世から消し去った事実には変わりはない! 私たちには、アンタの命に手をかける権利があるんだ! それだけは否定させない!」
イザベルのその重い一言が辺りにこだましている。その言葉をクラウンは茶化すこと無く真摯に受け止めていた。両手を合わせてささやかに拍手をする。そして穏やかな口調でこう答えたのだ。
「正解です。貴方は正しい。現実に打ちひしがれず、現実を言い訳に後ろを向かず、たとえ怨讐にその身を焼こうとも一つの目的に向けてまっすぐに進むのであれば! 私はあなた達をいつまでもお待ちしていますよ」
クラウンは右手をその胸にあててこう述べる。
「わたしは復讐者――」
そしてその右手をイザベルたちへと向けて告げる。
「あなた達も復讐者――」
更にその右手を再び己の胸にあてる。
「ならば皆さんにはわたしを討つ権利がある。誰もにも邪魔されない正当なる権利が――
だからこそです。あなた方が宿したその刃を磨き続けるのです。この私に、その報復の刃が届くその時まで! 今はまだ未熟すぎます、まだまだ私には掠りすらもしません。ならば自らの力を少しでも磨くことです。そしてあなた達の刃が私に届いた時、私が見ていたものがあなた達にも見えるはずです! 世界の影に潜む、真の黒幕の存在について! まさに、真に撃つべき巨悪が存在する事に気づくはずなのです!」
その言葉を告げた瞬間、クラウンは頭上を仰いでいた。その視線の先にはただの夜空しか無い。だがその視線は確かに何かを見抜いていたのだ――
その視線の意味が何であるのか、イザベルたちには解ろうはずがなかった。訝りながら荒い言葉を投げかける。
「おい、何を見ている」
その一言にクラウンは再びペラの女たちと向かい合っていた。
「教えてあげてもいいのですが今のあなた達には意味がない。それより――」
苛立ちと敵意を収めようとしない彼女たちを諭すようにある事実を伝えはじめる。
「こんな所で油を売っている暇はありませんよ。なにしろあなた達のご主人様が死に瀕しているのですから」
クラウンの言葉に驚きを超えにしたのはエルバ――
「え?」
混乱から思わず否定したのはマリアネラ――
「ちょっと何血迷ったこと言ってんのよ」
反対に冷静に受け答えするのはイザベルだ。
「どう言う事?」
その問い掛けにクラウンは真面目に応答していた。
「サイレントデルタのファイブとかいう糞ガキが任務失敗で爆砕処分のお仕置きを受けましてね、席次順の都合、最も至近距離に居たペガソがまともに爆発の破片を食らったみたいなのです。どうやら脊椎を傷つけた模様で」
その言葉にプリシラはとっさに通信連絡を飛ばしていた。メッセージを求める相手はペガソのそばにいつでもいるナイラ、そして彼女から返ってきたメッセージに蒼白な表情で皆に向けて叫んだのだ。
「みんな! 彼の言っていること本当だよ! 今、血圧が急低下して緊急手術を受けてるって!」
その言葉に弾かれるように4人はすぐに行動を開始する。指示を出したのはエルバだ。
「急いで戻るよ」
その一言を引き金に即座に彼女たちは動き出す。プリシラが広げたホログラム映像のフィールドを解除すればクラウンたちを覆い隠す物はもう何もないのである。一番最後に残ったのはイザベルだった。クラウンを鋭い視線で一瞥すると頷きもせずにそこから走り去った。その一瞥の意味をクラウンはもちろん理解していたのだ。
「解っていますよ。好きな時にいつでもおいでなさい。私はあなた達が来るのであれば、逃げも隠れもいたしませんから。なにしろあなた達は、大切な大切な復讐者なのですから。さて私も行くとしましょうか――」
そしてクラウンは立ったままでその場で一回転する。夜の帳の下でその姿は風に吹き飛ばされたように掻き消えてしまう。そして、まるで奇術師のイリュージョンの様に一瞬にして消え去ったのである。
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