上 下
428 / 462
第2章エクスプレス サイドB①魔窟の養生楼閣都市/死闘編

Part36 死の道化師・黒の巨人/戦闘準備

しおりを挟む
 彼女たちは思い出していた。ペガソに拾われ、救われた時の事を。
 エルバとイザベルは都市部近郊でそれぞれに異なる組織の戦闘員をしていた。抵抗を試み、無残に肉体を破壊され死に瀕していたがギリギリの所で一命をとりとめた。歩くことさえおぼつかなくなった彼女らに再び立ち上がり戦うことを命じたのは他ならぬペガソである。
 
 エルバはその視界にクラウンとイプシロンを捕らえながらペガソとの初めての邂逅を思い出していた。
 
〔そういや、地下病院だったね。あんたと知り合ったの〕

 エルバはその両手にナイフを持ちながら、イザベルに体内無線で問いかける。
 
〔そうだね。アタシは両足、あんたは両腕、そればかりかほとんど全身をずたずたにされてもう死ぬしか無いって諦めてたのをさ、ペガソ様ったら強引にサイボーグにしようとして地下病院に連れてきやがった〕
〔言いだしたら聞かなくってさあの人〕
〔いつもじゃん。ヤリたい時はいつでも襲ってくるし〕
〔ちょっとそれ言う? 今?〕
〔ペガソ様ならこう言う話笑って喜ぶけどね〕
〔それ言えてるし〕

 エルバと与太話を交えて過去を思い起こしているのは、両手に銃器を握りしめているイザベルだった。また少し離れた別箇所ではマリアネラが息を潜めて状況を見守っている。
 
〔みんな! アレが動くよ。カエルは移動するみたいだけどどうする?〕

 マリアネラの言葉にエルバが答える。
 
〔ほっときな。クラウンが孤立した時を狙うよ〕
〔わかった〕

 エルバはさらにもう一人のメンバーへと声を飛ばす。
 
〔プリシラ!〕
〔うん〕
〔カエルが離れたらあんたの能力(ちから)で一気にやっちまいな〕
〔もう準備できてるよ。いつでもオッケー〕
〔たのんだよ。あいつを抑える最高のチャンスなんだからさ!〕
〔わかってる――〕

 そっとシンプルに、かつ落ち着いた声でプリシラはつぶやく。
 
【 超高精度仮想実体ホログラムフィールド  】
【          統合管理制御システム 】
【                     】 
【    PROGRAM ―OZ―     】
【                     】
【 作動モード:指定領域完全離断工作    】
【 再現レベル:3D映像・完全音響再現   】
【              仮想触感再現 】
【                     】
【 指定フィールド外部への擬装映像投影準備 】
【 仮想実体ホログラムフィールド      】
【         展開プロセススタンバイ 】
【                     】
【 開始トリガー ―待機―         】

 プリシラは少し高い場所にて居場所を確保すると、周囲を見回しつつ身体の各部を〝展開〟させた。
 
【 仮想実体再現ナノマシン群体       】
【 《ELEMENTS‐OZ》       】
【 >高速散布準備             】
【 >ナノマシン高速散布マイクロスロット  】
【             [全展開開始] 】

 プリシラのマイクロドレスに包まれていない全身各部――腕、肩、背面、両足――それらいたるところから数センチ長さで1ミリ幅のスロットが開く。そしてそこから極めてかすかに銀色に光る霧の如き霞(かすみ)のような物が流れ出て漂い始める。それは、自らの意思を持つかのように速やかに周囲の空間へと広がっていく。
 クラウンを中心とする数百メートル程のエリアにその霞は広がる。それはまるで魔法使いの魔法が人知れず仕掛けられているかのようでもある。そしてその技の実体が姿を現したその時、それから逃れることはごく普通の人並みの人間なら、もはや叶うことはない。

〔いつも通り準備OK、いつでもいいよ〕

 プリシラはそっと告げる。それに言葉を続けたのはマリアネラだ。

〔アタシもいいよ。退路はアタシの〝レーザー〟でいつも通り遮断するから〕

 そしてイザベルもその両手にクリスベクターを構えながら言う。
 
〔じゃぁ、私とエルバがフロントだね〕

 その言葉にエルバが、両手に刃渡り20センチほどのチタンナイフを握りしめてうなづいていた。

〔オッケィ、いい弾たのんだよ!〕
〔任せときな!〕
 
 このチームで動く時、幾度となく繰り返されたフォーメーション。プリシラが領域掌握し、マリアネラが敵の動きを牽制、イザベルが敵の動きを捉え、とどめを刺すのはエルバのブレードテクニックだった。これにもう一人のチームメイトのビアンカが加わる。
 息を吸う様に、阿吽の呼吸で、彼女たちは動いていた。それは全てある一つの思いのために――
 
〔あたしたちでヤツを完全に抑えてペガソ様のところに引きずり出してやる!〕
 
――彼女たちの主人であるサングレの総帥ペガソへの忠誠心がゆえにである。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

拝み屋少年と悪魔憑きの少女

うさみかずと
キャラ文芸
高野山から家出同然で上京してきた高校一年生の佐伯真魚(さえきまお)は、真言宗の開祖空海の名を継ぐ僧侶であり、アルバイトの他に幼少からの修行により習得した力で拝み屋を営んでいる。 その仕事を終えた後、深夜の駅前で金髪碧眼の少女と出会った。 悪魔祓いと名乗る彼女には六体の悪魔が憑いていて、佐伯は無理だと呆れる彼女を救うことを宣言する。 東武スカイツリーラインを舞台に仏の道を説く佐伯真魚(空海)と悪魔祓いのアンネ・ミッシェルが学園の怪異や謎を解決しながら、家族になるまでの物語

正義の味方は野獣!?彼の腕力には敵わない!?

すずなり。
恋愛
ある日、仲のいい友達とショッピングモールに遊びに来ていた私は、付き合ってる彼氏の浮気現場を目撃する。 美悠「これはどういうこと!?」 彼氏「俺はもっとか弱い子がいいんだ!別れるからな!」 私は・・・「か弱い子」じゃない。 幼い頃から格闘技をならっていたけど・・・それにはワケがあるのに・・・。 美悠「許せない・・・。」 そう思って私は彼氏に向かって拳を突き出した。 雄飛「おっと・・・させるかよ・・!」 そう言って私のパンチを止めたのは警察官だった・・・! 美悠「邪魔しないで!」 雄飛「キミ、強いな・・・!」 もう二度と会うこともないと思ってたのに、まさかの再会。 会う回数を重ねていくたびに、気持ちや行動に余裕をもつ『大人』な彼に惹かれ始めて・・・ 美悠「とっ・・・年下とか・・ダメ・・かな・・?」 ※お話はすべて想像の世界です。現実世界とはなんの関係もありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。メンタルが薄氷なんです・・・。代わりにお気に入り登録をしていただけたら嬉しいです! ※誤字脱字、表現不足などはご容赦ください。日々精進してまいります・・・。 ただただ楽しんでいただけたら嬉しいです。すずなり。

赤ちゃんとのハイタッチで始まる、生前はまり込んでいた、剣と拳のオープンワールドRPG「スクエアジャングル」と瓜二つ異世界での新たなマイライフ

ドリームスレイヤー
ファンタジー
 子供の頃から学業、運動能力、仕事の効率、全てにおいて平均的であった平凡な男、山田翔太。そんな彼が平均寿命から50年も早い30代前半で末期癌によって亡くなってしまう。物語は彼が自分の葬式を霊体となって、見つめている所からスタートする。  ※なろうでも連載予定ですが、展開が少し異なるかも知れません。

初恋フィギュアドール

小原ききょう
SF
「人嫌いの僕は、通販で買った等身大AIフィギュアドールと、年上の女性に恋をした」 主人公の井村実は通販で等身大AIフィギュアドールを買った。 フィギュアドール作成時、自分の理想の思念を伝達する際、 もう一人の別の人間の思念がフィギュアドールに紛れ込んでしまう。 そして、フィギュアドールには二つの思念が混在してしまい、切ないストーリーが始まります。 主な登場人物 井村実(みのる)・・・30歳、サラリーマン 島本由美子  ・ ・・41歳 独身 フィギュアドール・・・イズミ 植村コウイチ  ・・・主人公の友人 植村ルミ子・・・・ 母親ドール サツキ ・・・・ ・ 国産B型ドール エレナ・・・・・・ 国産A型ドール ローズ ・・・・・ ・国産A型ドール 如月カオリ ・・・・ 新型A型ドール

異世界二度目のおっさん、どう考えても高校生勇者より強い

八神 凪
ファンタジー
   旧題:久しぶりに異世界召喚に巻き込まれたおっさんの俺は、どう考えても一緒に召喚された勇者候補よりも強い  【第二回ファンタジーカップ大賞 編集部賞受賞! 書籍化します!】  高柳 陸はどこにでもいるサラリーマン。    満員電車に揺られて上司にどやされ、取引先には愛想笑い。  彼女も居ないごく普通の男である。  そんな彼が定時で帰宅しているある日、どこかの飲み屋で一杯飲むかと考えていた。  繁華街へ繰り出す陸。  まだ時間が早いので学生が賑わっているなと懐かしさに目を細めている時、それは起きた。  陸の前を歩いていた男女の高校生の足元に紫色の魔法陣が出現した。  まずい、と思ったが少し足が入っていた陸は魔法陣に吸い込まれるように引きずられていく。  魔法陣の中心で困惑する男女の高校生と陸。そして眼鏡をかけた女子高生が中心へ近づいた瞬間、目の前が真っ白に包まれる。  次に目が覚めた時、男女の高校生と眼鏡の女子高生、そして陸の目の前には中世のお姫様のような恰好をした女性が両手を組んで声を上げる。  「異世界の勇者様、どうかこの国を助けてください」と。  困惑する高校生に自分はこの国の姫でここが剣と魔法の世界であること、魔王と呼ばれる存在が世界を闇に包もうとしていて隣国がそれに乗じて我が国に攻めてこようとしていると説明をする。    元の世界に戻る方法は魔王を倒すしかないといい、高校生二人は渋々了承。  なにがなんだか分からない眼鏡の女子高生と陸を見た姫はにこやかに口を開く。  『あなた達はなんですか? 自分が召喚したのは二人だけなのに』  そう言い放つと城から追い出そうとする姫。    そこで男女の高校生は残った女生徒は幼馴染だと言い、自分と一緒に行こうと提案。  残された陸は慣れた感じで城を出て行くことに決めた。  「さて、久しぶりの異世界だが……前と違う世界みたいだな」  陸はしがないただのサラリーマン。  しかしその実態は過去に異世界へ旅立ったことのある経歴を持つ男だった。  今度も魔王がいるのかとため息を吐きながら、陸は以前手に入れた力を駆使し異世界へと足を踏み出す――

女神様から同情された結果こうなった

回復師
ファンタジー
 どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。

メカメカパニックin桜が丘高校~⚙①天災科学者源外君の躁鬱

風まかせ三十郎
キャラ文芸
 桜が丘高校の二年生にして天災(?)科学者の平賀源外。彼の実験と発明品が他の生徒に恐怖と破壊と殺戮をもたらし、高校を血と涙と笑いで染め上げる! そんな彼の傍若無人な暴走を止められるのは、幼馴染にして正統派科学者の同級生、織美江愛輝ただ一人だけだった。彼女は源外の悪魔の実験の犠牲者、桜井咲子を救うべく、己の研ぎ澄まされた知性と鍛え上げられた肉体を駆使して、狂気の科学者と化した源外と対峙するのであった。  属性 マンガオタ、アニオタ、特撮オタ、科学オタ、古典文学オタ、医学オタ、拳闘オタ、戦国オタ、お笑いオタ、その他。おっさんホイホイ。 (かなり以前に執筆した作品なので、時事ネタなどに多分に古いものが含まれていることをご了承ください) ※短編集②の方もご愛読していただければ幸いです。

アンドロイドちゃんねる

kurobusi
SF
 文明が滅ぶよりはるか前。  ある一人の人物によって生み出された 金属とプラスチックそして人の願望から構築された存在。  アンドロイドさんの使命はただ一つ。  【マスターに寄り添い最大の利益をもたらすこと】  そんなアンドロイドさん達が互いの通信機能を用いてマスター由来の惚気話を取り留めなく話したり  未だにマスターが見つからない機体同士で愚痴を言い合ったり  機体の不調を相談し合ったりする そんなお話です  

処理中です...