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第2章エクスプレス サイドB①魔窟の養生楼閣都市/死闘編

Part35 死闘・正義のシルエット/地上の二人

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―ホログラム迷彩― 
―光学迷彩―
―オプティカルステルス―
―CG迷彩―
―デジタルギリー―

 それは様々な名称で呼ばれている。
 そもそもは20世紀の終わり頃に、さらなる次世代の戦場を想定して戦闘員の保護のために軍需産業により開発されたものであった。当初は決して満足の行くものではなかったが、コンピュータグラフィックス技術の向上や、可搬可能な高機能プロセッサーの開発の成功、3次元立体映像技術の確立――などを経て、次第に戦場での使用に耐えうる光学ステルステクノロジーが採用されるようになっていった。
 そして21世紀、今は世界中の軍隊の半数以上は何らかの光学系ステルス機能を標準採用していると言われる。無論、その技術のレベルは様々であり単なる迷彩技術に毛の生えた程度のものから、光学情報はもとより、熱・電磁波・振動からはては匂いに至るまで、完璧に隠し切ることのできる極めて高度なものまで実に多彩なステルステクノロジーが反乱していた。

 今、彼女たちは頭上を仰いでいた。
 燃やし尽くすタン、吹きすさぶグウィントの2人は奇妙なカエル型の機体に手を貸して大空へと彼を運んでやった。だがその続きとして彼がどうなったのか? ――それを知ることはできなかった。

 グウィントがタンに問う。

「どう? 見える?」

 グウィントの問いにタンは顔を左右に振る。

「無理だな。ダウと違って僕らの眼はあくまでも標準的なものだから、あの夜の闇に隠れたステルス機能付きのヘリ機体を捉えるのは流石に無理がある。あのカエル君の眼力を信じるしかないな」
「そうね、でも――彼ならやってくれるでしょうね」

 2人が大空へと送り込んだ一匹のバケガエル・イプシロン。その彼の向かった先を彼女たちは案じていた。

「そうだな。それを信じよう。僕達にできることはここまでだ。彼なら子どもたちを守ってくれるはずだ」

 今、ここで出会ったばかりだったが、そのユーモラスなシルエットの中に見た思いを彼女たちは信じた。善意にもとづく絶対に叶えたい想いがあるのなら二人は手を貸さずには居られなかった。見返りはいらない。それで誰かが助かり幸せになるのであれば。人はその正義をこう呼ぶ――

『無償の善意』

――と。

 そしてタンとグウィントが何も見えない夜空を仰いでいたときであった。

「え?」

 不意につぶやいたのはグウィントだった。その彼女の方を掴むと、引き戻し背後へと追いやったのはタンである。

「下がって」

 2人の視界の中、何かが空から堕ちてくる。黒いプロテクタースーツ、細いシルエット、目元の光学ゴーグル――、それがまともな素性の人間ではないことはある部分を見れば判る。

「義手なの?」
「武器化しているぞ」

 左腕が手首から先が開いて展開されている。そして、地上へと落下してくるにも関わらず、その人物は受け身すら取る気配がない。
 その〝骸〟は身じろぎ一つもせぬまま、頭部を下にして地上へと真っ逆さまに落下してきたのだ。それも何もない空から地上へと――
 その骸の正体を2人はすぐに理解した。

「特殊部隊か?」
「あの空に隠れてたのね。それじゃこれがあのカエルさんの――」
「敵だな」
「えぇ」

――顔面から地上へと叩きつけられ、わずかにバウンドしながらうつ伏せに地面の上へと横たわった。そして、その遺体の様相から知り得るものがあった。

「タン、見てこれ」

 グウィントが指差したのは2ヶ所、首の後ろ側と延髄部である。

「刺し傷――ためらい傷も、ブレもない。急所に精密に2撃――、ほぼ即死だな」
「じゃああのカエル君が?」

 期待に満ちた表情でグウィントが空を仰ぐ。だがそれに答えるタンの声は冷ややかだった。

「違う。彼の外見から察するにこんな精密攻撃のできる武器は持っていない。カエルとしての脚力を利用した物理攻撃か、口の中から発射・放射する物、せいぜいそれくらいだろう。こんなミリ単位の微細な傷だけを残して急所を一撃なんて彼の不自由な手では不可能だ」
「え? じゃあ――」
「あぁ、他にも敵が居る」
「そんな」

 安堵は不意に不安へと変わる。だが今の彼女たちではステルス機能に隠された敵が相手ではどうにもできない。だがそんな不可視な夜空に飛ぶ小さなシルエットを2人は見逃さなかった。

「ん?」

 その数8機ほど、大きさは60センチ程度。半球状の丸いシルエットで色は漆黒だった。

「夜間用ドローン?」
「そのようだな」

 その動きは闇夜の空から骸が落下してきた辺りへと向かっていた。それが何を意味するのか即座には分かり兼ねた。だがタンは断言する。

「まだ終わりじゃない」

 そして不敵な笑みを浮かべつつパートナーであるグウィントへとこう告げたのである。

「彼ならきっとやってくれる。行こう。長居は無用だ」

 その言葉だけを残して、2人は歩き出したのである。
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