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第2章エクスプレス サイドB①魔窟の養生楼閣都市/死闘編
Part33 天へ……天から……/フィールの赦し
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その言葉に強く頷いている者がいる。ジュリアである。
そう――、かつて有明の1000mビルにてフィールを完膚無きまで破壊した者だ。静かに微笑み、そして頷きながら問い掛けてくる。
「フィール」
その声に導かれてフィールは視線を向ける。
「私が憎くはないのか? 私が恐ろしくはないのか?」
その声には詫びる気持ちと、許しを乞う気持ちがにじみ出ていた。だがフィールはきっぱりとその顔を左右に振る。
「いいえ、もうあの時の事には何の感慨も抱いてません。あなたは貴方に課せられた業から逃れるすべはなく、貴方が自分の〝本心〟を抱くことすら許されてませんでした。貴方はテロアンドロイドとして貴方の出来ることの全てで私に向かってきた。そして、私は警察用のアンドロイドとしてなすべき事の全てで貴方に立ち向かいました。結果、私が生き残り、貴方が潰えた――、それはほんの僅かな差でしか無い。そこに憎悪も敵意も残すこと事態が誤りなんです。それに――」
フィールはジュリアに歩み寄りその右手をそっと両手で包むように労った。
「貴方も一度は思ったはずです。この手を〝殺戮〟以外に使ってみたいと」
フィールの語るその言葉を耳した時、ジュリアはハッとした表情を浮かべる。そして、ぐっと唇を噛みしめるとその目から涙を溢れさせ始めたのだ。フィールはさらに言葉を続けた。
「それに貴方が断末魔のその時に口にした言葉を私は覚えています。あなたは自らの主人と、仲間と――、そして少しだけ手間のかかる妹の名を呼んでいた。それは貴方が彼らを大切な〝家族〟であると認識していたからにほかなりません」
その言葉はジュリアに胸に突き刺さっていた。そして彼女もまた心の堰を解き放っていた。
「わたしは――軍需産業に〝不死者〟としてこの世に生み出された。だが生まれてすぐに法がわたしの存在を否定した。動くことも考えることも許されず、ただ破壊されることを待つだけだったのを救い出してくれたのはあのかつての主人たる老人だった。その彼の求めに応じてわたしは喜々として人の命を奪い続けた。自分が存在する理由が肯定された――、ただその事だけが嬉しかったのだ。だが――」
ジュリアはゆっくりと息を吐いた。
「日々の戦いの中でわたしはずっと感じていた。あの主人以外にわたしを肯定してくれる人はこの世界中のどこにも居ない。誰もわたしを肯定してくれず、この世界に生まれ落ちたその事だけが罪なのだと恐れられ罵声を浴びせられ続けた。私を肯定してくれたのは主人と、して私と同じようなマリオネットたちだけ――、ローラは手間のかかる妹だったが、彼女を守ってやるその時だけが私に課せられた〝殺戮〟と言う業から目を背ける事が僅かに許された。そんな時だ――」
そしてジュリアはフィールの目をじっと見つめ返した。
「お前に出会ったのは」
それはあの有明の超高層ビルの頂に近い場所であった。あのVIP襲撃の現場、その時のことをフィールは忘れられずに居た。ジュリアはさらに言葉を紡ぐ。
「私は――あなたがうらやましかった――」
心の奥底に封じていた言葉をジュリアは口にする。肩が震え、嗚咽がにじみ出ている。
「人を守り、命を守り――そして戦うことで人間たちから賞賛され、そして愛されている――そんなあなたが私は――私は――」
それ以上は言葉にならなかった。嗚咽が慟哭となり叫びとなる。
「すまない――許してくれ――」
その両手で自らの顔を覆う。そんなジュリアのシルエットは儚げで脆くも崩れてしまいそうになっている。そんな彼女に歩み寄りフィールはそっと抱きしめる。
「もう良いよ。もう謝らないで。私は貴方を憎んでいない。貴方に真の罪があるとは思っていない。アンドロイドにそこから逃れられる術は存在しない。破壊される以外には――、そんな悲しい命を憎むことも裁くことも、誰にも出来はしないのだから。だからジュリア」
そしてフィールはジュリアのその手をそっと握りしめたのだ。
「もう泣かなくていいよ。貴方のその手を血で濡らさせようとするものは誰も居ないのだから。だからもう自分を罰するのはやめて」
そう――、かつて有明の1000mビルにてフィールを完膚無きまで破壊した者だ。静かに微笑み、そして頷きながら問い掛けてくる。
「フィール」
その声に導かれてフィールは視線を向ける。
「私が憎くはないのか? 私が恐ろしくはないのか?」
その声には詫びる気持ちと、許しを乞う気持ちがにじみ出ていた。だがフィールはきっぱりとその顔を左右に振る。
「いいえ、もうあの時の事には何の感慨も抱いてません。あなたは貴方に課せられた業から逃れるすべはなく、貴方が自分の〝本心〟を抱くことすら許されてませんでした。貴方はテロアンドロイドとして貴方の出来ることの全てで私に向かってきた。そして、私は警察用のアンドロイドとしてなすべき事の全てで貴方に立ち向かいました。結果、私が生き残り、貴方が潰えた――、それはほんの僅かな差でしか無い。そこに憎悪も敵意も残すこと事態が誤りなんです。それに――」
フィールはジュリアに歩み寄りその右手をそっと両手で包むように労った。
「貴方も一度は思ったはずです。この手を〝殺戮〟以外に使ってみたいと」
フィールの語るその言葉を耳した時、ジュリアはハッとした表情を浮かべる。そして、ぐっと唇を噛みしめるとその目から涙を溢れさせ始めたのだ。フィールはさらに言葉を続けた。
「それに貴方が断末魔のその時に口にした言葉を私は覚えています。あなたは自らの主人と、仲間と――、そして少しだけ手間のかかる妹の名を呼んでいた。それは貴方が彼らを大切な〝家族〟であると認識していたからにほかなりません」
その言葉はジュリアに胸に突き刺さっていた。そして彼女もまた心の堰を解き放っていた。
「わたしは――軍需産業に〝不死者〟としてこの世に生み出された。だが生まれてすぐに法がわたしの存在を否定した。動くことも考えることも許されず、ただ破壊されることを待つだけだったのを救い出してくれたのはあのかつての主人たる老人だった。その彼の求めに応じてわたしは喜々として人の命を奪い続けた。自分が存在する理由が肯定された――、ただその事だけが嬉しかったのだ。だが――」
ジュリアはゆっくりと息を吐いた。
「日々の戦いの中でわたしはずっと感じていた。あの主人以外にわたしを肯定してくれる人はこの世界中のどこにも居ない。誰もわたしを肯定してくれず、この世界に生まれ落ちたその事だけが罪なのだと恐れられ罵声を浴びせられ続けた。私を肯定してくれたのは主人と、して私と同じようなマリオネットたちだけ――、ローラは手間のかかる妹だったが、彼女を守ってやるその時だけが私に課せられた〝殺戮〟と言う業から目を背ける事が僅かに許された。そんな時だ――」
そしてジュリアはフィールの目をじっと見つめ返した。
「お前に出会ったのは」
それはあの有明の超高層ビルの頂に近い場所であった。あのVIP襲撃の現場、その時のことをフィールは忘れられずに居た。ジュリアはさらに言葉を紡ぐ。
「私は――あなたがうらやましかった――」
心の奥底に封じていた言葉をジュリアは口にする。肩が震え、嗚咽がにじみ出ている。
「人を守り、命を守り――そして戦うことで人間たちから賞賛され、そして愛されている――そんなあなたが私は――私は――」
それ以上は言葉にならなかった。嗚咽が慟哭となり叫びとなる。
「すまない――許してくれ――」
その両手で自らの顔を覆う。そんなジュリアのシルエットは儚げで脆くも崩れてしまいそうになっている。そんな彼女に歩み寄りフィールはそっと抱きしめる。
「もう良いよ。もう謝らないで。私は貴方を憎んでいない。貴方に真の罪があるとは思っていない。アンドロイドにそこから逃れられる術は存在しない。破壊される以外には――、そんな悲しい命を憎むことも裁くことも、誰にも出来はしないのだから。だからジュリア」
そしてフィールはジュリアのその手をそっと握りしめたのだ。
「もう泣かなくていいよ。貴方のその手を血で濡らさせようとするものは誰も居ないのだから。だからもう自分を罰するのはやめて」
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