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第2章エクスプレス サイドB①魔窟の養生楼閣都市/死闘編
Part32 輝きの残渣/天馬のプライド
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視線の先ではペガソは、ナイラと自らが弄んでいた若い女官をかばって抱きしめていた。とっさで無我夢中だったのだろうか、2人を抱きしめる力はあまりに強く、そこから抜け出るのに苦労しているようであった。
ナイラがペガソに訴える。
「エル・ペガソ、もう大丈夫です。お離しください」
「あ? あぁ、ちょっと――ちょっとだけまて――ふっ!」
ペガソが大きく息を吸い背中に力を入れる。隆々とした背筋が膨れ上がり、無数に食い込んだ多数の破片を押し上げていく。
――カラン、チッ、チチン、カラッ――
大小様々な形の金属片が抜け落ちる。筋肉の力を使った自力での金属片排出である。そのうえで腕の力を緩めるとペガソは2人を開放する。そして大きく息を吐きながらペガソは立ち上がっった。
「エル・ペガソ!」
「ペガソ様!」
ペガソの腕から開放された2人は立ち上がるが否や、ペガソの側へと駆け寄った。ナイラが左肩に、女官が背中側である。そして女官はペガソの背中に突き刺さったままの物を見るのである。
「哎哟!」
驚きがそのまま嘆きになる。そこに見えたのは長さ30センチほどになるだろうか細長い鋭利なプレート状の金属片だった。それが自力の筋力で排出できなかったのは、ひとえに刺さっている深度があまりに深かったにほかならない。
女官の姿と言えば、ペガソの膝の上で弄ばれていたとき、そのままだった。前がはだけているのにもかかわらず、あられもない姿のままその金属片に飛びつくと両手で握りしめて引き抜こうとする。細い女の非力な力を振り絞りながら女官はゆっくりとそのナイフの如き金属片を引き抜いたのである。
――ズルッ――
血と肉がぬめるような耳障りな音が響く。
――カラァン!――
女官は金属片を放り投げながら、ペガソの背中の傷に手を当てた。
「ペガソ様!」
悲痛な表情を浮かべながら女官はペガソの背中の傷を気遣っている。そしてその男の傷を案じる思いが思わず口を突いて溢れてきた。
「大丈夫ですか? お体が!」
震える手でその背中に無数に開いた大傷に自らの衣装を布を押し当てて流れる血を抑えようとしていた。その手のぬくもりを背中に感じていたペガソは荒い息を漏らしつつも、こう言葉をかけたのである。
「これくれぇなんともねえよ。俺の体は作りもんだからな。サイボーグってやつよ。出血もすぐ止まる。死にゃしねえよ」
そして女官の方へと振り向くと、その強い右手で彼女の頭を撫でてやる。その表情には苦痛はなく、女官の彼女の不安を拭い去るように微笑むを浮かべるペガソの姿があった。
「悪かったな。怖がらせて。でももう心配ねぇ。安心しな」
そして、その彼女の乱れたままだった衣装の襟元に手をかけると、前の合わせ目を直してやる。
「これでいいか。そら――」
ペガソは笑みを浮かべたまま、その小さな体の女官の背中を押してやる。向かわせる先は麗沙のもとだ。
「お前さんの上司の所へと帰りな。もう終わりだ」
ペガソは言い放つと彼女の顔を一瞥することもなく自らが入ってきた扉の方へと歩いていく。その傍らにナイラがすぐに寄り添い肩を貸している。
「エル・ペガソ」
「すまねぇ」
ナイラが右に立ち、ペガソに体を持ち上げる。だが、戦闘を意識した頑強な体は想像以上に重い。それに加えてペガソの体に力が入らないようだ。
「クッ!」
ナイラの口から苦悶が漏れる。それを耳にしてペガソはそっとつぶやく。
「腰部脊髄の一部が傷ついてる。腰から下が少し麻痺してる。だが――」
ペガソは王老師たちを意識していた。
「やつらに弱みは見せたくねぇ。このまま引きずってでもあの扉から出てくれ」
ペガソの視線の先には自らが入ってきたサングレ専用のゲート扉がそびえていた。主人であるペガソの思いの〝真実〟をナイラは解っていた。どんなに辱められても心から忠誠を誓った主人である。そこに嘘も偽りもない。その彼が抱いている想いの底をナイラは知り尽くしていたのだ。
「心得ております。貴方様が来たるべき復讐を果たすその時のために、積み上げてきた苦難と誇り、サングレに身を置く者なら誰もが心得ております。それだけは誰にも汚させません」
そう語るナイラの口調は力強く真っ直ぐだった。だが――
「あぁ、そっか。お前は速度重視タイプだったな。ちぃっと俺は重すぎるか。まいったな」
自嘲気味につぶやいたその時だった。
「くっ――」
ペガソの体の左側で肩を貸す者が居た。あの小柄な体の女官である。
「おい??」
戸惑い声をかけるが彼女は本気だった。
「お手伝いいたします」
「やめろ」
「嫌です」
「邪魔だってんだよ。お前はうちの身内じゃねえ」
「いいえ、やめません。あの扉までの道のりだけでも恩返しさせてください」
「俺に恥かかせる気か! 身内じゃねえ奴に担がれるような安いメンツせおってるんじゃねえんだよ! さっさとどきやがれ!」
執拗に食い下がる女官をペガソは左手で振りほどいた。彼女の小さな体は床の上へと投げ出される。だがそれでも彼女は引き下がらなかった。ペガソのもとへと這いよるとこう求めたのだ。
「それならば貴方様のお身内になります!」
ナイラがペガソに訴える。
「エル・ペガソ、もう大丈夫です。お離しください」
「あ? あぁ、ちょっと――ちょっとだけまて――ふっ!」
ペガソが大きく息を吸い背中に力を入れる。隆々とした背筋が膨れ上がり、無数に食い込んだ多数の破片を押し上げていく。
――カラン、チッ、チチン、カラッ――
大小様々な形の金属片が抜け落ちる。筋肉の力を使った自力での金属片排出である。そのうえで腕の力を緩めるとペガソは2人を開放する。そして大きく息を吐きながらペガソは立ち上がっった。
「エル・ペガソ!」
「ペガソ様!」
ペガソの腕から開放された2人は立ち上がるが否や、ペガソの側へと駆け寄った。ナイラが左肩に、女官が背中側である。そして女官はペガソの背中に突き刺さったままの物を見るのである。
「哎哟!」
驚きがそのまま嘆きになる。そこに見えたのは長さ30センチほどになるだろうか細長い鋭利なプレート状の金属片だった。それが自力の筋力で排出できなかったのは、ひとえに刺さっている深度があまりに深かったにほかならない。
女官の姿と言えば、ペガソの膝の上で弄ばれていたとき、そのままだった。前がはだけているのにもかかわらず、あられもない姿のままその金属片に飛びつくと両手で握りしめて引き抜こうとする。細い女の非力な力を振り絞りながら女官はゆっくりとそのナイフの如き金属片を引き抜いたのである。
――ズルッ――
血と肉がぬめるような耳障りな音が響く。
――カラァン!――
女官は金属片を放り投げながら、ペガソの背中の傷に手を当てた。
「ペガソ様!」
悲痛な表情を浮かべながら女官はペガソの背中の傷を気遣っている。そしてその男の傷を案じる思いが思わず口を突いて溢れてきた。
「大丈夫ですか? お体が!」
震える手でその背中に無数に開いた大傷に自らの衣装を布を押し当てて流れる血を抑えようとしていた。その手のぬくもりを背中に感じていたペガソは荒い息を漏らしつつも、こう言葉をかけたのである。
「これくれぇなんともねえよ。俺の体は作りもんだからな。サイボーグってやつよ。出血もすぐ止まる。死にゃしねえよ」
そして女官の方へと振り向くと、その強い右手で彼女の頭を撫でてやる。その表情には苦痛はなく、女官の彼女の不安を拭い去るように微笑むを浮かべるペガソの姿があった。
「悪かったな。怖がらせて。でももう心配ねぇ。安心しな」
そして、その彼女の乱れたままだった衣装の襟元に手をかけると、前の合わせ目を直してやる。
「これでいいか。そら――」
ペガソは笑みを浮かべたまま、その小さな体の女官の背中を押してやる。向かわせる先は麗沙のもとだ。
「お前さんの上司の所へと帰りな。もう終わりだ」
ペガソは言い放つと彼女の顔を一瞥することもなく自らが入ってきた扉の方へと歩いていく。その傍らにナイラがすぐに寄り添い肩を貸している。
「エル・ペガソ」
「すまねぇ」
ナイラが右に立ち、ペガソに体を持ち上げる。だが、戦闘を意識した頑強な体は想像以上に重い。それに加えてペガソの体に力が入らないようだ。
「クッ!」
ナイラの口から苦悶が漏れる。それを耳にしてペガソはそっとつぶやく。
「腰部脊髄の一部が傷ついてる。腰から下が少し麻痺してる。だが――」
ペガソは王老師たちを意識していた。
「やつらに弱みは見せたくねぇ。このまま引きずってでもあの扉から出てくれ」
ペガソの視線の先には自らが入ってきたサングレ専用のゲート扉がそびえていた。主人であるペガソの思いの〝真実〟をナイラは解っていた。どんなに辱められても心から忠誠を誓った主人である。そこに嘘も偽りもない。その彼が抱いている想いの底をナイラは知り尽くしていたのだ。
「心得ております。貴方様が来たるべき復讐を果たすその時のために、積み上げてきた苦難と誇り、サングレに身を置く者なら誰もが心得ております。それだけは誰にも汚させません」
そう語るナイラの口調は力強く真っ直ぐだった。だが――
「あぁ、そっか。お前は速度重視タイプだったな。ちぃっと俺は重すぎるか。まいったな」
自嘲気味につぶやいたその時だった。
「くっ――」
ペガソの体の左側で肩を貸す者が居た。あの小柄な体の女官である。
「おい??」
戸惑い声をかけるが彼女は本気だった。
「お手伝いいたします」
「やめろ」
「嫌です」
「邪魔だってんだよ。お前はうちの身内じゃねえ」
「いいえ、やめません。あの扉までの道のりだけでも恩返しさせてください」
「俺に恥かかせる気か! 身内じゃねえ奴に担がれるような安いメンツせおってるんじゃねえんだよ! さっさとどきやがれ!」
執拗に食い下がる女官をペガソは左手で振りほどいた。彼女の小さな体は床の上へと投げ出される。だがそれでも彼女は引き下がらなかった。ペガソのもとへと這いよるとこう求めたのだ。
「それならば貴方様のお身内になります!」
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