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第2章エクスプレス サイドB①魔窟の養生楼閣都市/死闘編

Part31 シャイニングソルジャーズ/超高速起動―W―

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――キィィィィィィ――

 まるで天界の銀の鈴が鳴り響くような甲高い音が鳴り響く。それはフィールが宿した3対の白銀の翼が持てる全ての力を解き放っている姿。2枚一組の放電フィンが電磁波を解き放ちながら共振する時の作動音だ。
 
――ヒュボォォォォォ――

 それを追うように鳴り響くのは救いの聖火が吹き上がるような燃焼音。フローラの電磁フーターがフルスロットルで電磁火花とプラズマ火炎をほとばしらせている。フィールが銀色の羽を広げたようなハレーションの残渣を放射しながら飛翔し、フローラは七色の輝きの軌跡を、二条の直線光を細長く解き放っている。
 2人が放つ光の翼は退廃の街の頭上にて、鮮烈なる輪舞曲(ロンド)を奏でるのだ。
 しかし、その一方で、彼女たちが仕掛けた〝技〟である超高速起動は諸刃の剣でもある。
 限界を超える速度を得られる代わりに、メインリアクターも推進装置もギリギリまでの負荷に見舞われる。余剰熱も危険なレベルにまで達し、誘爆や自己発火の危険もある。けっして長い時間をかけることはできないのだ。それになにより――
 
「このダメージではリスクは大きい! でもせめて十数秒だけ!」

――無傷なら多少の無理を通した連続動作も可能だったが、今のフィールではギリギリ粘って十数秒程度が限界だろう。だがそれを押してでも限界に迫りたい理由が有るのだ。

「あの子の努力を無駄にはさせない!」

 今、フィールのあとを追って飛んでいるのは妹であるフローラなのだ。まだ何も知らないこの世に生まれ落ちたばかりの魂で、危険を犯してまで救いに来てくれたのだ。ならば姉妹で共に手を携えて飛びながら、立ちはだかる敵を捉え葬りさり、この街から生還することだけが、この恩に報いる唯一の手段なのだ。
 
 フィールがその右手の先端から、5本の耐熱仕様の単分子ワイヤーを放射していく。そして飛行軌跡のそのままにドローンの群れを取り囲んでいく。それを後続のフローラが両指の先端から10本の単分子ワイヤーを多様な方向へと射出し、姉のフィールが張る縦糸を確実に固定していく。
 100体以上のドローンが広範囲に拡散し切る前に行動範囲を制限しなければならない。そのためには100m以上の範囲地に散らばりつつ有るドローンの全個体を取り囲めるだけの大きな円を一刻も早く描かなければならないのだ。その速度は限りなく音速へと近づき、一つの円を描くのに1秒を切るほどになる。
  
――ギィィィィィィン―― 
 
 電磁火花のノイズと亜音速飛行が混じり合い、独特の唸り音を奏でていく。そして肉眼で捉えることも困難なくらいの加速で、2人は闇夜の真っ只中に鈍い白銀色に輝く微細鋼線の檻を構築し完成へと導くのだ。
 闇夜のコウモリの如きドローンどもは、着実にその中へと囚われていく。一切のあらゆる逃亡を許さず、ただ粛々と――
 だが、ファイブはドローン越しに声を響かせるとある事実を指摘する。

〔なんだ? 小細工でも弄するつもりか? どうした? 完璧には囲めてないぞ? 檻と呼ぶにはザル過ぎるぞ!〕

 その言葉のとおり、全ては囲みきれていない。数にして1割程度だろうか、囲みから漏れたドローンも有る。その数12機とけっして少ない数ではない。そのチャンスを逃すほどファイブは甘くはない。
 
〔くだらん小細工もコレで終わりだ!!〕

 奇声のような叫びとともにファイブが操作したのは、唯一一回りサイズが大きいタイプだ。その機体が左右に割れていて、そこから火炎放射のノズルが覗いているのだ。それがフローラの進行を遮る位置へと回り込むと、ノズルから紅蓮の炎を噴出させ高温のナパーム弾を浴びせかける。フローラのシルエットが瞬時にして真紅の炎へと包まれたのである。
 その光景はフィールにも見えている。突然の凄惨なヴィジュアルに叫ばずには居られなかった。
 
「フローラ!!!」

 驚きの声を上げるフィールにファイブが嘲りを浴びせた。
 
〔残念だな! 初めて会えた妹ともいきなりお別れだ! だが寂しくない! スグに廃品置き場で再会させてやるからなぁ!!〕

 状況の逆転に成功して、再びチャンスを手に入れたと確信しての発言だった。
 だが――
 
――ドォォン!!――

 突如として鳴り響いたのはフローラがその手にしていた専用ツール――ハイプレッシャーウォーターガン――である。
 
――ガシャッ――

 火炎放射仕様のドローンは瞬時にして粉砕される。そしてフローラは何の損傷もなくナパーム火炎を振り切って残存ドローンの囲みへと突入するのである。
 
「どけぇ!」
 
 強い叫びを上げながらフローラはウォーターガンの引き金を引き続けた。
 
「壁面破壊用の砂鉄と水銀の混合粘液弾よ! 食らえ!」
 
 残る12機のドローンをさらに半数以下へと追い込んでいく。携帯していたカートリッジは使い果たしたフローラは、空となったカートリッジケースを排莢しながらファイブにこう告げたのだ。

「あなた馬鹿?」
〔なにぃ?〕
「消防のレスキューを、炎で葬れるはずがないでしょうが! わたしは炎を退治する者よ! 覚えておきなさい!」

 フローラは警察ではない。消防庁所属のレスキューである。彼女にとって炎とは恐れるものではなく、立ち向かうものなのだ。
 その叫びはフィールにも聞こえていた。単分子ワイヤーのネットで行動を制限したドローンの群れを挟んで互いに反対側に位置していた。フィールが上空でフローラが地上に近い。それはフィールにとって絶好のポジションだったのである。

「決めるなら今だ」

 フィールは一言つぶやくとフローラへと叫んだ。
 
「フローラ! 電磁波反射シールドを展開して! ショックオシレーションの応用モードで可能よ! 急いで!」
「了解! 電磁波反射シールド展開します!」

 姉からの声にフローラは即座に反応した。
 
【体内高周波モジュレーター作動       】
【両腕部チャンバー内、電磁衝撃波発信準備  】
【発信モード:対波形増幅反射モード     】
【                     】
【  ――ショック・オシレーション――   】
【  ――電磁波反射シールド・展開――   】

 腰裏にウォーターガンを戻し両手の平を広げてフィールの方へと向ける。それは高圧電磁波を対消滅させ、電磁波を投射してきた方へと反射させるための機能であった。
 
「反射シールド、準備よし!」
 
 そしてフィールは自らの右の手の平を広げて、捉えた全てのドローンへと向ける。しかる後にその体内で所定のプログラム動作を開始させた。
 
【体内高周波モジュレーター作動       】
【両腕部チャンバー内、電磁衝撃波発信開始  】
【チャンバー高速蓄積スタート        】

 それはかつて有明の第5階層ブロックでの戦闘でも用いたことの有るショックオシレーションの使用プロセスであった。その動作の意味をファイブはすでに調査済みであった。
 
〔何の真似だ? そんなちゃちい電磁波でこのドローンの大群が始末できると思うのか?! 今この単分子ワイヤーを切断してやるから待っていろ! 今度こそ終わりだ!〕

 だがその挑発にもフィールは全く動じなかった。

「いいえ、終わるのはアナタです。あなたは私達の事を何も知らない」

【体内電磁波チャンバー           】
【〝法的リミッター〟強制解除        】
【作動状況証明ログ、強制記録を開始     】
【物理リミッター限界値まで高速充填完了   】

 そしてフィールは、その攻撃機能の最終トリガーと自らの意識を接続する
 
「レベル・オーバーマキシマム!」

 その叫びと共に、自らの意識でトリガーをオンにして全てを作動させたのである。
 
「ショックオシレーション! ――インフェルノ!!――」

 その瞬間、フィールの全身が青白い炎を上げた。
 物理的な炎ではない。電磁波放電による発光現象、いわゆるセントエルモの火にも似た現象である。その青白い光の炎をまといながら、フィールの右手は純白へと輝き始める。そして、あらゆるものを焼き尽くす〝裁きの業火〟を解き放ったのである。
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