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第2章エクスプレス サイドB①魔窟の養生楼閣都市/死闘編

Part31 シャイニングソルジャーズ/ショーの幕開け

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 ファイブ――その名を耳にした時、フィールはかつて、ディアリオや情報機動隊の人々に聞かされた話を思い出していた。
 
「ファイブ? 聞いたことがある。またの名をトリプルファイブ――、最近、首都圏の電脳犯罪界隈を賑わせている新型の組織、サイバーマフィア、サイレント・デルタのメンバーね?!」

 フィールは内心から沸き起こる恐怖と戦いながらも気丈にファイブに対して毅然とした口調で問い掛けていた。そこにはまだ恐怖や絶望に折れたような素振りは微塵も見られなかった。その気高さと強さを評して、ファイブの言葉が続く。
 
〔ほう? 君に知っていただけてるとは光栄だね。その通り、ボクが率いる組織はサイレント・デルタ――、世界でも類を見ないサイバーマフィアだ。ハイテクの未来世界を掌握し、その未来を食い尽くす新時代の〝悪〟だ! いずれは君たち特攻装警とぶつかりあうことになるだろう。それは他のサイレント・デルタのメンバーたちも意見を同じにするところだ。だが僕はかねてから君だけに強い関心を持っていた。なぜだかわかるかい?〕

 フィールは答えなかった。強い嫌悪感を抱いていたためでもあるが、到底理解できない理由であることは明白だったからである。
 
〔つれないなぁ、そう無視されると無理やりにでも聞いて欲しくなる! 僕はね、美しい女性型アンドロイド――ガイノイドが大好きでねぇ! 自分の支配下に置き、その存在の全てを踏みにじりたくなる! 君のように気高く雄々しい女性はなおさら欲しくなる! 全ての存在をこの手に掌握し支配し、そして指先から頭脳の中心に至るまで破壊したくなる! 体の末端から切り刻み引きちぎり、恐怖におののき、誤作動とエラーと作動障害に苦しむさまはたまらないくらいに美しい! 敵意を剥き出しにし逃げ惑う姿は、もっと愛してやりたくなる! 手足を全て分解し、頭部と胴体だけになった姿で、攻撃を加えながら生きながらえさせると、もっと愛おしくなる! 最後は頭部と最低限の動力だけにしてその頭脳中枢をダイレクトにハッキングし、頭脳の中の基底プログラムの最後の一行に至るまでいじりまわしそのAIや人工自我が許しを請い、人工知能としては禁断の自殺願望を発露させる姿は絶頂を覚えるくらいに素晴らしい! さぁ、君も愛してやるよ! 僕のこの100体の分身を駆使してね! 最期の亡骸はボクが組み立てなおしてオブジェにして飾ってやるよ! 麗しき白銀の戦乙女フィール! さぁ、最後に何か告げる言葉は有るかい!? そうさ! 遺言と言うやつだ! ククク――アーッ ハッハッハ!〕

 ファイブの口から溢れ出したのはおぞましいばかりの狂気と破壊衝動。そして、歪みまくったフェティシズムだった。理解も同意もできない吐き気を催すばかりの歪んだ情念だ。それをこの人工の体のアンドロイドへと向けようなどと言う嗜好が到底理解できなかった。それでもなお吐ける言葉があるとするならたった一つだ。
 
「ゲス野郎!」

 フィールは精一杯の抵抗として悪態をついた。今、この状況となってはソレしかできないだろう。だが――
 
〔ありがとう! 最高の褒め言葉だ! ならば最高の礼儀を持って君をもてなしてあげよう! 特攻装警フィールの処刑ショーでね!!〕

 そしてファイブはコマンドを実行する。
 
【 戦闘ドローン群、総括制御プログラム   】
【 攻撃対象:特攻装警第6号機フィール   】
【               (指定済み)】
【 攻撃モード:セミオート         】
【 >ヴァーチャルコンソール経由にて    】
【     攻撃手段、攻撃対象範囲を適時指定】
【 破壊攻撃コマンド            】
【      〔――実行――〕       】

〔さぁ始めよう! アイと破滅の宴を! さぁ! 踊れ! 踊れ! 踊れぇ!〕

 ファイブの狂声が闇夜にこだましている。
 そして、100を超える狂気と悪意は一斉にフィールへと襲いかかったのである。
 
 
 @     @     @
 
 
「始まったな。残酷ショーが」

 ペガソがグラスを傾けながら、フィールの処刑ショーの映像を眺めていた。もとよりナイラへの仕打ちから分かるようにサディストであり残虐性のある男だ。このようなイカれたお遊びも決して嫌いではなかった。
 そのペガソの傍らではナイラが嫌悪感を必死に堪えながら目を背けている。これから起こるであろう惨劇を目の当たりにすることは、彼女のトラウマを強く目覚めさせるのだろう。いかにも辛く苦しそうに自分の胸の心臓のあたりを押さえていた。
 さらにその背後では王老師の腹心の部下である王麗莎女史が蒼白な顔で、その光景を眺めている。やはり女性として同じ女性のシルエットをもつフィールが迎えるであろう悲惨な光景を想像するに至って冷静ではいられないのだ。
 最後にその麗莎を背後に立たせた王老師が憮然としてその中継映像を眺めている。王老師は何も語らなかった。ただ事の経緯を見守るだけである。そこには四者四様の有様が展開されていたのである。
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