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第2章エクスプレス サイドB①魔窟の養生楼閣都市/死闘編
Part30 死闘・錯綜戦列/グラウザーと、ウノと、フィールの場合――
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■世界の中心にて。グラウザーと字田の場合――
タイムリミットへのカウントダウンが進む。
微かに動きはじめているベルトコーネが居る。
そのベルトコーネを背後に守るように立ちはだかるのが、巨大なクモ型のボディの機械体だった。人間らしさは微塵もなかったが、悪意と敵意だけは枯れることがなかった。その3対の足を地面に踏みしめ、1対の腕を敵めがけて威嚇している。その機体を駆使するのは情報戦特化小隊を率いる隊長の字田だった。
字田は無言のままだった。そして攻撃対象を眼前の白磁のボディの戦士へと向けていた。
「特攻装警ダナ?」
濁りきった電子音声。字田の人工声帯から絞り出された機械の声だ。その声に応じるのが特攻装警の第7号機であるグラウザーだ。第2科警研の技術者たちが渾身の思いを込めて作り上げた2次武装アーマーをその身に装着している。
グラウザーは字田の呼声にハッキリ頷いた。
「そうだ。特攻装警第7号機グラウザーだ。そう言う貴様は誰だ?」
「答えル義務はナイ。消エ去るオ前が聞く必要モナイ。おとナシク消去サレろ」
「そう言う訳にはいかない! ベルトコーネを暴走させる気か? そこをどけぇ!! 邪魔だ!」
グラウザーは怒りを発露させていた。目の前に突如として立ちはだかった奇っ怪なる存在に対して、そこに秘められた意図に気づいたからだ。だが字田とて簡単には下がらない。彼にとって忌々しいこの都市エリアを破壊しつくして完全に消去するのにこれほどまで最適なチャンスは無いのだ。
「それコソ答えル義理ハナい。そしテお前ヲ放置すル理由もナイ!」
その叫びを残して、クモを模した奇っ怪なる存在は飛びかかるようにグラウザーへと襲いかかったのだ。
それは死闘だった。
絶対に引き下がれぬ死闘だった。
そして、戦いの火蓋は切って落とされたのである。
■東京アバディーンの夜空にて。使役するウノの場合――
ウノは、彼女が使役する軍用ドローンの上にいた。ビルとビルの間を縫うように飛びながら同じプロセスの皆が向かっている戦闘エリアへと移動していた。
そしてドローン上に腰掛けたまま仲間のプロセスへと声を伝えた。それはクラウンとの交渉結果を伝えるがためのものであった。
「みんな聞いて。交渉の結論が出たわ」
ウノからの呼びかけに返事は帰ってはこなかったが、仲間たちが聞いていると言う確信はたしかにあった。
「クラウンの答えはノー。ベルトコーネの機体は私自身の手で奪い取るしか無いわ。あれをむざむざ暴走させる訳にはいかない。そして、破壊もさせない。あれこそは父様が残した私達への大切な贈り物だから! 絶対に取り戻すわよ!」
ウノが宣言する。すると続々と声が帰ってきた。
「ダウ、了解」
「トリーも聞いたよ」
「ペデラ、承知しました」
「ペンプ、オッケーだよ」
「タン、了解した」
「デュウです。わかりました」
「グウェントも心得ました」
「ダエア、イエスだ」
全てで9人。それが全員の総意だった。
「それじゃみんな! 行くわよ! 父様の遺志! 取り戻すわよ!」
ひときわ高くウノが宣言する。そして新たなる彼らはたちもまた、動き出したのである。
■そして、東京アバディーン上空にて。フィールの場合――
フィールは失念していた。ここがいかなる場所であるかということを。
知識として理解はしていたが経験としてどれだけに危険な場所であるかということを見誤っていたと言ってよかった。そして、地上で行動しているはずのグラウザーとセンチュリーに向けてメッセージを発信したのは、やむを得ない事とは言えあまりに剣呑なる行為だった。
――グラウザー! 聞こえる!――
その叫びを地上へと向けて発信する。それが誰に受信され、どんな反応を生み、そして、どんな結末を迎えるかはわかろうはずがなかったのである。
そして今、フィールの視界には自らの行為の結果が映し出されようとしていたのだ。
フィールは己の目に写った〝ソレ〟を目の当たりにして絶句せざるを得なかった。
「なに? あれ――」
半ば呆然として事実を見据えるしか無い。音もなく忍び寄ってくる無数の影、闇夜の空を響かせるような低い振動音。まるでカラスの大群か、砂漠を覆うイナゴの大群を見るかのような光景であった。
「うそ――」
それがようやくにして紡ぎ出せた言葉であった。
フィールは自分の心臓を鷲掴みにされたような感覚に襲われる。そして、その小さな総身を貫いたのは、ただひたすらに純粋な〝恐怖〟そのものだったのである。
その目に映る物、それは――
――総数、100体以上戦闘ドローンの巨大な群れ――
それが眼下の東京アバディーンの市街地のあらゆる場所から湧き出てくるように空へと舞い上がっていく。そして逃げる間もなく瞬く間にフィールは全周を囲まれてしまったのである。今まさに『退路は絶たれた』のだ。
フィールが今感じた物――それを人は〝絶望〟と呼ぶのである。
フィールはついに死を覚悟しようとしていたのである。
タイムリミットへのカウントダウンが進む。
微かに動きはじめているベルトコーネが居る。
そのベルトコーネを背後に守るように立ちはだかるのが、巨大なクモ型のボディの機械体だった。人間らしさは微塵もなかったが、悪意と敵意だけは枯れることがなかった。その3対の足を地面に踏みしめ、1対の腕を敵めがけて威嚇している。その機体を駆使するのは情報戦特化小隊を率いる隊長の字田だった。
字田は無言のままだった。そして攻撃対象を眼前の白磁のボディの戦士へと向けていた。
「特攻装警ダナ?」
濁りきった電子音声。字田の人工声帯から絞り出された機械の声だ。その声に応じるのが特攻装警の第7号機であるグラウザーだ。第2科警研の技術者たちが渾身の思いを込めて作り上げた2次武装アーマーをその身に装着している。
グラウザーは字田の呼声にハッキリ頷いた。
「そうだ。特攻装警第7号機グラウザーだ。そう言う貴様は誰だ?」
「答えル義務はナイ。消エ去るオ前が聞く必要モナイ。おとナシク消去サレろ」
「そう言う訳にはいかない! ベルトコーネを暴走させる気か? そこをどけぇ!! 邪魔だ!」
グラウザーは怒りを発露させていた。目の前に突如として立ちはだかった奇っ怪なる存在に対して、そこに秘められた意図に気づいたからだ。だが字田とて簡単には下がらない。彼にとって忌々しいこの都市エリアを破壊しつくして完全に消去するのにこれほどまで最適なチャンスは無いのだ。
「それコソ答えル義理ハナい。そしテお前ヲ放置すル理由もナイ!」
その叫びを残して、クモを模した奇っ怪なる存在は飛びかかるようにグラウザーへと襲いかかったのだ。
それは死闘だった。
絶対に引き下がれぬ死闘だった。
そして、戦いの火蓋は切って落とされたのである。
■東京アバディーンの夜空にて。使役するウノの場合――
ウノは、彼女が使役する軍用ドローンの上にいた。ビルとビルの間を縫うように飛びながら同じプロセスの皆が向かっている戦闘エリアへと移動していた。
そしてドローン上に腰掛けたまま仲間のプロセスへと声を伝えた。それはクラウンとの交渉結果を伝えるがためのものであった。
「みんな聞いて。交渉の結論が出たわ」
ウノからの呼びかけに返事は帰ってはこなかったが、仲間たちが聞いていると言う確信はたしかにあった。
「クラウンの答えはノー。ベルトコーネの機体は私自身の手で奪い取るしか無いわ。あれをむざむざ暴走させる訳にはいかない。そして、破壊もさせない。あれこそは父様が残した私達への大切な贈り物だから! 絶対に取り戻すわよ!」
ウノが宣言する。すると続々と声が帰ってきた。
「ダウ、了解」
「トリーも聞いたよ」
「ペデラ、承知しました」
「ペンプ、オッケーだよ」
「タン、了解した」
「デュウです。わかりました」
「グウェントも心得ました」
「ダエア、イエスだ」
全てで9人。それが全員の総意だった。
「それじゃみんな! 行くわよ! 父様の遺志! 取り戻すわよ!」
ひときわ高くウノが宣言する。そして新たなる彼らはたちもまた、動き出したのである。
■そして、東京アバディーン上空にて。フィールの場合――
フィールは失念していた。ここがいかなる場所であるかということを。
知識として理解はしていたが経験としてどれだけに危険な場所であるかということを見誤っていたと言ってよかった。そして、地上で行動しているはずのグラウザーとセンチュリーに向けてメッセージを発信したのは、やむを得ない事とは言えあまりに剣呑なる行為だった。
――グラウザー! 聞こえる!――
その叫びを地上へと向けて発信する。それが誰に受信され、どんな反応を生み、そして、どんな結末を迎えるかはわかろうはずがなかったのである。
そして今、フィールの視界には自らの行為の結果が映し出されようとしていたのだ。
フィールは己の目に写った〝ソレ〟を目の当たりにして絶句せざるを得なかった。
「なに? あれ――」
半ば呆然として事実を見据えるしか無い。音もなく忍び寄ってくる無数の影、闇夜の空を響かせるような低い振動音。まるでカラスの大群か、砂漠を覆うイナゴの大群を見るかのような光景であった。
「うそ――」
それがようやくにして紡ぎ出せた言葉であった。
フィールは自分の心臓を鷲掴みにされたような感覚に襲われる。そして、その小さな総身を貫いたのは、ただひたすらに純粋な〝恐怖〟そのものだったのである。
その目に映る物、それは――
――総数、100体以上戦闘ドローンの巨大な群れ――
それが眼下の東京アバディーンの市街地のあらゆる場所から湧き出てくるように空へと舞い上がっていく。そして逃げる間もなく瞬く間にフィールは全周を囲まれてしまったのである。今まさに『退路は絶たれた』のだ。
フィールが今感じた物――それを人は〝絶望〟と呼ぶのである。
フィールはついに死を覚悟しようとしていたのである。
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