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第2章エクスプレス サイドB①魔窟の養生楼閣都市/集結編
Part27 黒い盤古/メンバーカウント
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それは調布飛行場から離陸した無灯火の漆黒の機体のヘリであった。
二重反転ローターの特殊静音ヘリ。ロシア製のカモフKa-226をベースとして大幅に改良されたモデルであり、特にエンジンとローターに徹底した静音化が施されていた。コレに加えて、ホログラム迷彩装置や、逆波形式電子消音システムなどを装備し、夜の闇に紛れてひっそりと飛び立ち、誰にも気づかれぬこと無く、作戦目的地域へと赴くことが可能である。機体名『闇烏』、武装警官部隊・盤古東京大隊所属でありながら、武装警官部隊の中央指揮権から切り離されて独立行動を許可されている特殊な2小隊にのみ与えられた機体である。機体開発発注者は警視庁公安部。運用しているのは武装警官部隊・盤古『情報戦特化小隊』警察の中にありながら、警察ではない〝無法者の巣窟〟と呼ばれたセクションである。
その機体の中にありながら、小隊長・字田は自らのネット能力と拡張身体機能を駆使して、地上に展開した6人の部隊員の位置を把握しつつあった。地上展開した人員は全員で6名。それぞれが対犯罪戦闘による負傷で医療用サイボーグの適用を余儀なくされた者たちばかりだ。そして医療用と言う言葉を隠れ蓑に、犯罪者を殺戮抹消出来るだけの戦闘力を手に入れた者たちだ。
彼らが望むことはただ一つ。
――犯罪者の絶対的な死――
彼らに一切の慈悲は存在しないのだ。
「始めるゾ。狩りノ支度ダ。俺は〝心〟をトバス」
今、二重反転ローターヘリの小隊長・字田はつぶやきながら自らの中枢頭脳の認識野を強制拡張する。パイロットの香田もスナイパーの才津も、聞こえてきたその言葉が字田隊長が戦闘行動のために自らの人間性と情緒を焼き切り、目の前の敵の一切を抹消する戦闘マシーンへと自らを追い込む合図だと言う事をわかりすぎるほどに解っていた。
「香田。了解」
「才津。オーケィ」
二人の声に頷きながら字田は声を発した。
「行くゾ」
【 生体中枢頭脳強制拡張ブースターデバイス 】
【 〔BRAIN BACK DOOR〕 】
【 】
【 ―システム起動― 】
【 】
【 コマンド実行 】
【 >ナイトヘッド領域活性化 】
【 ≫強制実行 】
【 〔中枢頭脳機能強化率⇒144%〕 】
【 >中枢意識時分割マルチタスク制御開始 】
【 ≫時分割レート 】
【 ①通常行動:37% 】
【 ②周辺監視ドローン制御:15% 】
【 ③対ネットワーク監視:20% 】
【 ④拡張身体制御:16% 】
【 ⑤制御余裕分:12% 】
そのメイン頭脳内に埋め込まれている特別な頭脳強化装置を起動する。それは人間の生脳をネット環境へと直接接続する技術の開発の過程で生まれた人体生脳の強制活性化装置である。中枢神経の中にくまなく超小型電子制御デバイスによるマイクロコンピュータ・ネットワークを埋め込み、己の脳を電子頭脳化して能力強化を図るものであった。
当然、脳その物への負担は大きく生命の危険も増大する。過激な連用は死に直結する。それ故に開発元の軍の非合法サイボーグ部隊においても、装着を望む者は皆無という代物であった。
だが字田はそれを自ら望んで装着した。自らの脳をほとんど分解するかのような過酷な施術処置の末に、彼が得たのは超高速アンドロイドの神経反射機能を遥かに超える、神速のレスポンス性能であった。そして対ネットワーク機能の強化はもとより、複数の異なる行動を同時に破綻無く行えるようになったのだ。
そしてその最終性能は、特攻装警4号のディアリオにすら匹敵する物であったのだ。
字田は今、隊員たちに対してネット越しに暗号化コマンドのやり取りで指示を伝達していた。情報戦特化小隊のメンバーは〝生脳のネット接続機能〟を全員が義務付けられている。それにより無線や音声による指示のやり取りを行わずにダイレクトに行動指示を下すことが可能となるのだ。
字田は拡張した脳機能全体の20%をネットワーク機能へと与える。これにより直接戦闘行動を低下させずに極めて素早いネット対応が可能となるのだ。同時に2重反転ローターヘリの機体から5機の情報偵察ドローンが放出された。これにより眼下の戦闘作戦領域を掌握するのだ。
その字田の側で、香田と才津が指示を待ち待機していた。その雰囲気には先程までのふざけたような空気は感じられなかった。あるのはただ冷静に行動指示を待とうとする忠誠心だ。
眼下を映像で掌握すれば、現場は北西から南東へと幅広い舗装路の真っ只中で、散乱する大型鋼材と砕けたアスファルトと、横転した大型クレーン車。そして壁をぶち破られた倉庫ビルとその他の建造物がある。その真っ只中にベルトコーネが居り、その側にセンチュリーとグラウザーが居る。
そのグラウザーの傍らには、スナイパー才津により撃たれたウラジスノフが居る。そしてそれを囲むようにして、姿を消しているのが〝静かなる男〟の隊員たちである。その彼らをさらに包囲し、退路を断つかのように展開しているのが、情報戦特化小隊の地上展開している6人だ。高機能なステルス装備でその姿を消し去り、ステルス戦闘部隊である〝静かなる男〟たちのお株を奪ってその姿を完全に消し去っている。
平穏な日々を失い、肉体の一部を失い、その代償として巨大な欲望を伴った悪意と戦う力を得た復讐者たち。そして、その内に秘めた犯罪に対する敵意は何よりも巨大であるのだ。
敵意と復讐心。字田と共通するそれらを有する部下たちは、隊長字田とは深い信頼の絆で結ばれていた。
字田はその6人に対して呼びかけた。香田・才津とともに絶対の信頼をおく懐刀たる6人へと。
【 ヨタカより、全ネズミへ 】
【 これより最終確認を行う。順次返答せよ 】
【 まずは――、ネズミ1 】
まずはじめの男は道路に隣接する雑居ビルの頂から眼下を見下ろしていた。
彼の名は真白(ましら)――
爆発物処理の撤去作業の失敗により全身を負傷し、生死の境を彷徨っていた所を字田に無法者の巣窟へと招かれた男だ。全身の皮膚が人造の特殊装甲素材で、両手両足も伸縮自在に特殊機能化されている。爆発物処理のエキスパートであり、高所構造物を利用した高速移動戦闘を得意とする副隊長だ。
【 ネズミ1、準備完了 】
字田の問い掛けに真白はネット越しにシンプルに答えた。
次いで2人目、ベルトコーネが横転させた大型クレーン車の背後にてその気配を消している。
2人目の名は柳生――
違法サイボーグ犯罪者との近接戦闘で両目を潰されて人工カメラ眼の移植を余儀なくされた男だ。近接戦闘力を強化するため、神経機能の強化と両手足の筋肉の人工筋肉化を医師の診察データを偽造改竄してまで全身機能を改造した執念の男だ。
日本剣術の高位有段者であり、剣術を実践で使える程の手練であるためそれを活かすために高精度セラミック製の日本刀型切断ツールを使いこなす切り込み役である。
【 ネズミ2、行ける 】
柳生も字田に返答のメッセージを飛ばす。
さらに、あのアラブ系の男たちが潜んでいた倉庫ビルの1階の物陰にも1人の男が潜んでいた。大柄な体を潜ませて小岩のごとく微動だにしない。その手には戦闘用の大型ハンマーが握られていた。
彼の名は権田――
とある違法アンドロイドによる自爆テロで、倒壊する小型ビルの瓦礫の下敷きとなり下半身を粉砕されている。その粉砕された両足と下半身全体の骨格が人工化されており、また両腕と背面にサブフレームが施されていて文字通り腕力とパワー出力は絶大であった。その腕力により障害物の排除を得意とする隊員である。
【 ネズミ3、了解 】
完結な言葉で権田も返答をする。
さらに4人目がアスファルトの路上に這うようにして目標から距離をとっている。
彼の名は亀中――
もともとは盤古で対サイバー犯罪対策要員をしていた電子戦の専門家で、すぐれたハッキング能力を持っていた男。とある犯罪者の銃弾乱射の犠牲となり、右手首から先と左手の3本の指を失っている。そしてその失われた機能を取り戻すかのように、両手首から先を脱着可能にすることで多彩な任務への適応が可能となった男であった。
【 ネズミ4、スタンバイ 】
亀中も行動開始の時をじっと待っている。
そしてさらに5人目、権田とは道路を挟んだ位置ブロック塀に同化するがごとくに完璧なまでのステルス隠身で姿を消している。
彼女の名は南城――
女性でありながらも優れた盤古隊員だったが、制圧戦闘に失敗、違法サイボーグの集団に拉致されて強姦・暴行を受けた経緯を持つ。女性固有の肉体機能と顔面を含む外見を大きく破壊されて除隊を余儀なくされるが、医療用サイボーグ素材の移植治療の過程の中で、自らがすでに幸せな結婚生活を望む事ができない身体状況にある事を思い知らされる事となった。さらに婚約を破棄され人生に絶望し、自ら憎悪の黒い海におのれを沈めた復讐の鬼女と化した女だ。
色、音、匂い、振動、電磁波などまでも完璧に消し去ることが出来るステルス行動のエキスパートであり、自己変形可能な特殊骨格と人造皮膚を全身に持つことにより高度な偽装能力を有するに至っていた。それも全て、犯罪者との違法サイボーグを憎むがゆえだ。
【 ネズミ5、いつでもどうぞ 】
周囲の動きに目配せしつつも、南城は目標であるベルトコーネからその視線を外すことはなかった。
最後に6人目――、
ハイヘイズの子らが住まう廃ビルの壁面に器用にその身を張り付かせるようにして待機している。
彼の名は蒼紫(あおし)――
単分子ワイヤーと高機能ケーブルを使いこなし、ビル構造物を利用したトラップにも長けている。あの有明事件でマリオネットとの戦闘の場に居合わせており、マリオネット・アンジェにより頭部を焼かれており、常に人造レザー製の全頭マスクをかぶっていた。そのため生身の肉眼は残っておらず、多彩なセンサーアレイを備えた専用のゴーグルを常用。また、もともと健康だった手足を負傷したと偽って四肢を戦闘用義肢化している。第1小隊の中では最も若輩の人物だ。
【 ネズミ6、GOだ 】
そして6人目の蒼紫が準備完了のメッセージを字田へと飛ばす。これで地上と空中との間での立体の包囲フォーメーションが完成したことになるのだ。
彼らはじっと待っていた。字田が作戦開始のサインを送ってくることを――、
彼らが望むのはまさに犯罪の完全なる撲滅と抹消。そのためならいかなる傷も犠牲もいとわない狂信者たちだ。
そしてその狂える6匹の黒いネズミたちを解き放つべく字田がメッセージを送信した。
【 ――作戦開始―― 】
引き金は引かれた。
真白が、柳生が、権田が、亀中が、南城が、蒼紫が、ある目的を達成するために行動を開始する。
その目的こそ〝ベルトコーネを正しく破局的暴走へと導くこと〟であり――、
この埋立地『東京湾中央防波堤外域埋め立て市街区』――、通称、東京アバディーンを雑草一つ、命一つ無い、荒野へと返す事であるのだ。
そして、字田は自らを――〝変形〟――させた。
人間のシルエットが崩れ落ちる。異形と化し、そして二重反転ローターヘリの下部に偽装隠匿されて吊るされていた小型コンテナを解き放つ。漆黒の直方体は瞬く間に変形し6本足と2本のマニピュレータを備えたクモ型の大型デバイスへと変じる。そして、字田であった物はヘリ機内の床面に設けられた移動ハッチから大型クモ型デバイスの胴体部分へと潜り込み、やがて同化するのだ。
【 任務状況開始 】
【 全隊員へ告ぐ 】
【 非合法殺傷行為、―限定制限全解除― 】
8人の字田の部下たちに課せられていた最後の悪意が今、完全に開放されたのだ。
さらに、大型クモ型デバイスはヘリから切り離され、地上へと無音のまま舞い降りていく。それはさながら闇夜の捕食場へと身をおどらせるタランチュラの如くである。
【 行くゾ、俺も喰らいに行く 】
今こそ9つの狂える力がグラウザーたちと静かなる男たちに向けて解き放たれたのである。
二重反転ローターの特殊静音ヘリ。ロシア製のカモフKa-226をベースとして大幅に改良されたモデルであり、特にエンジンとローターに徹底した静音化が施されていた。コレに加えて、ホログラム迷彩装置や、逆波形式電子消音システムなどを装備し、夜の闇に紛れてひっそりと飛び立ち、誰にも気づかれぬこと無く、作戦目的地域へと赴くことが可能である。機体名『闇烏』、武装警官部隊・盤古東京大隊所属でありながら、武装警官部隊の中央指揮権から切り離されて独立行動を許可されている特殊な2小隊にのみ与えられた機体である。機体開発発注者は警視庁公安部。運用しているのは武装警官部隊・盤古『情報戦特化小隊』警察の中にありながら、警察ではない〝無法者の巣窟〟と呼ばれたセクションである。
その機体の中にありながら、小隊長・字田は自らのネット能力と拡張身体機能を駆使して、地上に展開した6人の部隊員の位置を把握しつつあった。地上展開した人員は全員で6名。それぞれが対犯罪戦闘による負傷で医療用サイボーグの適用を余儀なくされた者たちばかりだ。そして医療用と言う言葉を隠れ蓑に、犯罪者を殺戮抹消出来るだけの戦闘力を手に入れた者たちだ。
彼らが望むことはただ一つ。
――犯罪者の絶対的な死――
彼らに一切の慈悲は存在しないのだ。
「始めるゾ。狩りノ支度ダ。俺は〝心〟をトバス」
今、二重反転ローターヘリの小隊長・字田はつぶやきながら自らの中枢頭脳の認識野を強制拡張する。パイロットの香田もスナイパーの才津も、聞こえてきたその言葉が字田隊長が戦闘行動のために自らの人間性と情緒を焼き切り、目の前の敵の一切を抹消する戦闘マシーンへと自らを追い込む合図だと言う事をわかりすぎるほどに解っていた。
「香田。了解」
「才津。オーケィ」
二人の声に頷きながら字田は声を発した。
「行くゾ」
【 生体中枢頭脳強制拡張ブースターデバイス 】
【 〔BRAIN BACK DOOR〕 】
【 】
【 ―システム起動― 】
【 】
【 コマンド実行 】
【 >ナイトヘッド領域活性化 】
【 ≫強制実行 】
【 〔中枢頭脳機能強化率⇒144%〕 】
【 >中枢意識時分割マルチタスク制御開始 】
【 ≫時分割レート 】
【 ①通常行動:37% 】
【 ②周辺監視ドローン制御:15% 】
【 ③対ネットワーク監視:20% 】
【 ④拡張身体制御:16% 】
【 ⑤制御余裕分:12% 】
そのメイン頭脳内に埋め込まれている特別な頭脳強化装置を起動する。それは人間の生脳をネット環境へと直接接続する技術の開発の過程で生まれた人体生脳の強制活性化装置である。中枢神経の中にくまなく超小型電子制御デバイスによるマイクロコンピュータ・ネットワークを埋め込み、己の脳を電子頭脳化して能力強化を図るものであった。
当然、脳その物への負担は大きく生命の危険も増大する。過激な連用は死に直結する。それ故に開発元の軍の非合法サイボーグ部隊においても、装着を望む者は皆無という代物であった。
だが字田はそれを自ら望んで装着した。自らの脳をほとんど分解するかのような過酷な施術処置の末に、彼が得たのは超高速アンドロイドの神経反射機能を遥かに超える、神速のレスポンス性能であった。そして対ネットワーク機能の強化はもとより、複数の異なる行動を同時に破綻無く行えるようになったのだ。
そしてその最終性能は、特攻装警4号のディアリオにすら匹敵する物であったのだ。
字田は今、隊員たちに対してネット越しに暗号化コマンドのやり取りで指示を伝達していた。情報戦特化小隊のメンバーは〝生脳のネット接続機能〟を全員が義務付けられている。それにより無線や音声による指示のやり取りを行わずにダイレクトに行動指示を下すことが可能となるのだ。
字田は拡張した脳機能全体の20%をネットワーク機能へと与える。これにより直接戦闘行動を低下させずに極めて素早いネット対応が可能となるのだ。同時に2重反転ローターヘリの機体から5機の情報偵察ドローンが放出された。これにより眼下の戦闘作戦領域を掌握するのだ。
その字田の側で、香田と才津が指示を待ち待機していた。その雰囲気には先程までのふざけたような空気は感じられなかった。あるのはただ冷静に行動指示を待とうとする忠誠心だ。
眼下を映像で掌握すれば、現場は北西から南東へと幅広い舗装路の真っ只中で、散乱する大型鋼材と砕けたアスファルトと、横転した大型クレーン車。そして壁をぶち破られた倉庫ビルとその他の建造物がある。その真っ只中にベルトコーネが居り、その側にセンチュリーとグラウザーが居る。
そのグラウザーの傍らには、スナイパー才津により撃たれたウラジスノフが居る。そしてそれを囲むようにして、姿を消しているのが〝静かなる男〟の隊員たちである。その彼らをさらに包囲し、退路を断つかのように展開しているのが、情報戦特化小隊の地上展開している6人だ。高機能なステルス装備でその姿を消し去り、ステルス戦闘部隊である〝静かなる男〟たちのお株を奪ってその姿を完全に消し去っている。
平穏な日々を失い、肉体の一部を失い、その代償として巨大な欲望を伴った悪意と戦う力を得た復讐者たち。そして、その内に秘めた犯罪に対する敵意は何よりも巨大であるのだ。
敵意と復讐心。字田と共通するそれらを有する部下たちは、隊長字田とは深い信頼の絆で結ばれていた。
字田はその6人に対して呼びかけた。香田・才津とともに絶対の信頼をおく懐刀たる6人へと。
【 ヨタカより、全ネズミへ 】
【 これより最終確認を行う。順次返答せよ 】
【 まずは――、ネズミ1 】
まずはじめの男は道路に隣接する雑居ビルの頂から眼下を見下ろしていた。
彼の名は真白(ましら)――
爆発物処理の撤去作業の失敗により全身を負傷し、生死の境を彷徨っていた所を字田に無法者の巣窟へと招かれた男だ。全身の皮膚が人造の特殊装甲素材で、両手両足も伸縮自在に特殊機能化されている。爆発物処理のエキスパートであり、高所構造物を利用した高速移動戦闘を得意とする副隊長だ。
【 ネズミ1、準備完了 】
字田の問い掛けに真白はネット越しにシンプルに答えた。
次いで2人目、ベルトコーネが横転させた大型クレーン車の背後にてその気配を消している。
2人目の名は柳生――
違法サイボーグ犯罪者との近接戦闘で両目を潰されて人工カメラ眼の移植を余儀なくされた男だ。近接戦闘力を強化するため、神経機能の強化と両手足の筋肉の人工筋肉化を医師の診察データを偽造改竄してまで全身機能を改造した執念の男だ。
日本剣術の高位有段者であり、剣術を実践で使える程の手練であるためそれを活かすために高精度セラミック製の日本刀型切断ツールを使いこなす切り込み役である。
【 ネズミ2、行ける 】
柳生も字田に返答のメッセージを飛ばす。
さらに、あのアラブ系の男たちが潜んでいた倉庫ビルの1階の物陰にも1人の男が潜んでいた。大柄な体を潜ませて小岩のごとく微動だにしない。その手には戦闘用の大型ハンマーが握られていた。
彼の名は権田――
とある違法アンドロイドによる自爆テロで、倒壊する小型ビルの瓦礫の下敷きとなり下半身を粉砕されている。その粉砕された両足と下半身全体の骨格が人工化されており、また両腕と背面にサブフレームが施されていて文字通り腕力とパワー出力は絶大であった。その腕力により障害物の排除を得意とする隊員である。
【 ネズミ3、了解 】
完結な言葉で権田も返答をする。
さらに4人目がアスファルトの路上に這うようにして目標から距離をとっている。
彼の名は亀中――
もともとは盤古で対サイバー犯罪対策要員をしていた電子戦の専門家で、すぐれたハッキング能力を持っていた男。とある犯罪者の銃弾乱射の犠牲となり、右手首から先と左手の3本の指を失っている。そしてその失われた機能を取り戻すかのように、両手首から先を脱着可能にすることで多彩な任務への適応が可能となった男であった。
【 ネズミ4、スタンバイ 】
亀中も行動開始の時をじっと待っている。
そしてさらに5人目、権田とは道路を挟んだ位置ブロック塀に同化するがごとくに完璧なまでのステルス隠身で姿を消している。
彼女の名は南城――
女性でありながらも優れた盤古隊員だったが、制圧戦闘に失敗、違法サイボーグの集団に拉致されて強姦・暴行を受けた経緯を持つ。女性固有の肉体機能と顔面を含む外見を大きく破壊されて除隊を余儀なくされるが、医療用サイボーグ素材の移植治療の過程の中で、自らがすでに幸せな結婚生活を望む事ができない身体状況にある事を思い知らされる事となった。さらに婚約を破棄され人生に絶望し、自ら憎悪の黒い海におのれを沈めた復讐の鬼女と化した女だ。
色、音、匂い、振動、電磁波などまでも完璧に消し去ることが出来るステルス行動のエキスパートであり、自己変形可能な特殊骨格と人造皮膚を全身に持つことにより高度な偽装能力を有するに至っていた。それも全て、犯罪者との違法サイボーグを憎むがゆえだ。
【 ネズミ5、いつでもどうぞ 】
周囲の動きに目配せしつつも、南城は目標であるベルトコーネからその視線を外すことはなかった。
最後に6人目――、
ハイヘイズの子らが住まう廃ビルの壁面に器用にその身を張り付かせるようにして待機している。
彼の名は蒼紫(あおし)――
単分子ワイヤーと高機能ケーブルを使いこなし、ビル構造物を利用したトラップにも長けている。あの有明事件でマリオネットとの戦闘の場に居合わせており、マリオネット・アンジェにより頭部を焼かれており、常に人造レザー製の全頭マスクをかぶっていた。そのため生身の肉眼は残っておらず、多彩なセンサーアレイを備えた専用のゴーグルを常用。また、もともと健康だった手足を負傷したと偽って四肢を戦闘用義肢化している。第1小隊の中では最も若輩の人物だ。
【 ネズミ6、GOだ 】
そして6人目の蒼紫が準備完了のメッセージを字田へと飛ばす。これで地上と空中との間での立体の包囲フォーメーションが完成したことになるのだ。
彼らはじっと待っていた。字田が作戦開始のサインを送ってくることを――、
彼らが望むのはまさに犯罪の完全なる撲滅と抹消。そのためならいかなる傷も犠牲もいとわない狂信者たちだ。
そしてその狂える6匹の黒いネズミたちを解き放つべく字田がメッセージを送信した。
【 ――作戦開始―― 】
引き金は引かれた。
真白が、柳生が、権田が、亀中が、南城が、蒼紫が、ある目的を達成するために行動を開始する。
その目的こそ〝ベルトコーネを正しく破局的暴走へと導くこと〟であり――、
この埋立地『東京湾中央防波堤外域埋め立て市街区』――、通称、東京アバディーンを雑草一つ、命一つ無い、荒野へと返す事であるのだ。
そして、字田は自らを――〝変形〟――させた。
人間のシルエットが崩れ落ちる。異形と化し、そして二重反転ローターヘリの下部に偽装隠匿されて吊るされていた小型コンテナを解き放つ。漆黒の直方体は瞬く間に変形し6本足と2本のマニピュレータを備えたクモ型の大型デバイスへと変じる。そして、字田であった物はヘリ機内の床面に設けられた移動ハッチから大型クモ型デバイスの胴体部分へと潜り込み、やがて同化するのだ。
【 任務状況開始 】
【 全隊員へ告ぐ 】
【 非合法殺傷行為、―限定制限全解除― 】
8人の字田の部下たちに課せられていた最後の悪意が今、完全に開放されたのだ。
さらに、大型クモ型デバイスはヘリから切り離され、地上へと無音のまま舞い降りていく。それはさながら闇夜の捕食場へと身をおどらせるタランチュラの如くである。
【 行くゾ、俺も喰らいに行く 】
今こそ9つの狂える力がグラウザーたちと静かなる男たちに向けて解き放たれたのである。
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次に目が覚めた時、男女の高校生と眼鏡の女子高生、そして陸の目の前には中世のお姫様のような恰好をした女性が両手を組んで声を上げる。
「異世界の勇者様、どうかこの国を助けてください」と。
困惑する高校生に自分はこの国の姫でここが剣と魔法の世界であること、魔王と呼ばれる存在が世界を闇に包もうとしていて隣国がそれに乗じて我が国に攻めてこようとしていると説明をする。
元の世界に戻る方法は魔王を倒すしかないといい、高校生二人は渋々了承。
なにがなんだか分からない眼鏡の女子高生と陸を見た姫はにこやかに口を開く。
『あなた達はなんですか? 自分が召喚したのは二人だけなのに』
そう言い放つと城から追い出そうとする姫。
そこで男女の高校生は残った女生徒は幼馴染だと言い、自分と一緒に行こうと提案。
残された陸は慣れた感じで城を出て行くことに決めた。
「さて、久しぶりの異世界だが……前と違う世界みたいだな」
陸はしがないただのサラリーマン。
しかしその実態は過去に異世界へ旅立ったことのある経歴を持つ男だった。
今度も魔王がいるのかとため息を吐きながら、陸は以前手に入れた力を駆使し異世界へと足を踏み出す――
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といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
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