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第2章エクスプレス サイドB①魔窟の養生楼閣都市/集結編

Part24 静かなる男・後編/悪鬼蠢く

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 そしてその頃、東京アバディーンの中央街区北側付近に接近する二重反転ローターのヘリの姿があった。武装警官部隊・盤古、東京大隊所属、情報戦特化小隊所有のステルスヘリ『闇烏』である。
 それは姿を最大限に隠しながら、後部ハッチを開く。そして一人の人物をウィンチ付きのワイヤーで降下させる準備をしていたのだ。機内の隊員の一人が告げる。
 
「特攻装警ディアリオ、降下準備よし」

 その言葉は静かであり抑揚に乏しかった。もとより闇夜に紛れることに特化している彼らである。騒々しさとは全くの無縁であった。
 ワイヤーの先端は輪となっていて、そこに足をかけるスタイルになっている。そして両手でワイヤーに捕まって、ウィンチで静かに地上へと降ろされる手筈になっていた。今、そのための降下作業が開始されるところだったのである。
 
「ディアリオ、降下体勢、確認良しです」

 ディアリオ自身が装備の確認を終えて自らゴーサインを出す。それを受けて小隊の隊長である字田が独特の音声で宣言した。
 
「降下カイシ」

 無音化されたモーターユニットを持つ強力ウィンチが静かに作動を開始する。そして毎分10mの速度で慎重にディアリオの体が地上へと降ろされようとしていた。そのヘリの位置から地上まで300mの高さから慎重に降ろされつつあったのである。
 
「現在高度230……220……210」

 ディアリオが10m毎に連絡の音声を送ってくる。そして200mに差し掛かろうとしたその時である。
 
――バキィイン!――

 突如響き渡ったのはボルトが破断する音である。後部ハッチの開口部に設けられたウィンチ装備は数個のボルトで固定されていたが、あと2個ほどを残すのみであったのだ。
 ディアリオは、ワイヤーを伝って突如襲ってきた衝撃に驚愕しつつ頭上を仰いでみる。そしてそこに信じられない物を見る事となったのである。

――キリッ、キリリ――

 それは金属ワイヤーに鋭利な単分子ナイフが当てられていた音であった。地上までまだまだ200m近くの高さがある。ディアリオはその光景に恐怖に襲われる。だがその事を抗議する余裕はまったくなかった。
 
――ブツッ――

 そしてワイヤーは切れた。あとは耳障りな風切音を残しながら闇夜の街の地上へと落下していくディアリオの姿だけだ。その姿を視認しつつ情報戦特化小隊の隊員の一人が隊長に向けて告げた。
 
「えーーと、特攻装警一匹、ワイヤー降下作業失敗。ウィンチ装備固定部破断。それに伴うワイヤー断裂により特攻装警ディアリオ、地上へと落下」

 その口調は抑揚もなく淡々としていた。そして隊員は気だるげに言葉を漏らした。

「――っと、これでイイんすよね? あぎと隊長?」

 ニヤニヤと下品な笑いを浮かべながら問いかけてくる隊員に字田は言った。
 
「ソレで良い。ウィンチ装備は故障しタ。鉄くずノ機械人形に配慮ナド要らン」

 そして字田は機内を歩いて最後尾のハッチへとたどり着くと地上を眺めながらこう告げたのだ。
 
「ココまで送ッテもらッテ感謝しテもらいタいくらイダ」

 両目もカメラ、口元も動かさない電子音声――、それゆえに隊長字田は表情が全く読めなかった。無表情のまま字田は告げる。まるでロボットであるかのように――。
 
「このママ地上に激突シてスクラップに成るべキダ」

 そして背後の隊員たちを振り返りながら、右手を自らの首の前に掲げて左から右へと横に掻き切る仕草を見せた。その不気味な動作とともに字田は隊員たちに向けてこう告げたのである。
 
「全てノ犯罪者とアンドロイドに、死と破壊ヲ」

 そして隊員たちは右手に構えたサブマシンガンMP7を眼前で縦に構えて高らかに叫ぶ。それは情報戦特化小隊の全員が共有する一つの真意であった。
 
「機械どもに、死と破壊を!」

 それは一糸乱れぬ統率の取れた行動であり、彼らの意思統一の高さが伺える物であった。
 
「行くゾ。行動目標は2ツ、1つがベルトコーネの監視、及ビ、特攻装警ノ行動妨害! もう1つガこの空域に現れル警察ヘリの行動妨害ダ!」

 さらには字田もMP7をその両手で構えながら叫んだのである。
 
「ベルトコーネにハ順調に暴走してモラウ。そしてコノふざけタ島を廃墟にスル。蛆虫どもノうごめく街はこの日本に不要ダ! 行ケ!」

 その存在をさらに慎重に隠匿しつつヘリを移動させる。向かう先には高さ100mほどのビルがある。その上空に到達するとヘリ側面ハッチをあけてロープによるペラリング降下を開始する。ステルス機能をフル起動させて瞬く間に闇夜へとカメレオンの如く姿を消し去ってしまう。地上に降下したのは6名。機内にはパイロットを含めて3人が残った。隊長の字田もである。
 隊員の降下を確認し、その後にヘリを更なる場所へと慎重に移動させ始める。向かう先は――そう、第2科警研のティルトローターヘリである。
 
 今宵、悪意と絶望がひしめく街に、さらなる悪意がもたらされようとしていたのである。
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