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第2章エクスプレス サイドB①魔窟の養生楼閣都市/集結編
Part24 静かなる男・後編/ミハイルの記憶Ⅲ
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その距離、約60キロ。当然、舗装された道など無い。
異様なまでに厳重な警戒網も張られていた。それを一つ一つ突破しながら彼は着実に目的へと近づきつつあった。そして8日目の朝、ついに彼は事態の核心となる〝グラウンド・ゼロ〟へと到達したのである。
そこはロシアの大地に生い茂る大樹の森・タイガの森林地帯の筈であった。
だが唐突に開けた無人の荒野に彼は驚愕させられることになる。持参した装備品の中からガイガーカウンターを取り出し辺りを調べる。すると高レベルの放射線が感知された。それが意味することは一つだ。
「規模から考えてミサイルは有りえん。もしや――、核砲弾を使ったのか?」
〝核砲弾〟――野戦砲にて打ち出すことを目的とした核兵器内臓の砲弾だ。そんなものこの現代戦では装備することはあっても、使用することは絶対に無いはずだ。だがそれは確実に使われているのだ。
何もない無人の荒野と化した森林地帯。核砲弾――、それが意味するところにウラジスノフは最悪の予感を抱きつつあった。
そしてそれから二日後に、あるものを見つけた。
「これは?」
それは人間の〝肉片〟だった。周囲を調べれば調べるほど、それはまるで人間を巨大なミートプロセッサーで砕いたように、辺り一面に散財している。そして、グラウンド・ゼロの中心に向けて数はおびただしいほどに増していく。
「ミハイル――」
最悪の予感が湧く。
「ミハイル!」
引きちぎられた人間の遺体が死屍累々と並んでいる。そしてそれは何か巨大な力に圧殺されたかのように押しつぶされている。さらにグラウンド・ゼロの中心地点に信じられない物を目の当たりにするのである。
「ミハイル!!」
彼が中心地点にて見つけたもの。
ソレは直径数メートルに及ぶ、真球の肉塊であった。物理的にありえざる代物だった。赤黒い不気味な球体。そしてウラジスノフはそこにある物を見つけるのである。それは銀色に光る金属片だった。それは球体と化した謎の肉塊の表面に張り付いていたのだ。
「――――」
血に染まってグシャグシャに変形していたが、そこに記された文字はどうにか読めた。それは軍の個人識別表。いわゆるドッグタグである。
【 ――Михаил―― 】
ミハイル――、彼の息子の名である。
「これか――」
ウラジスノフはその認識票を剥がし取る。たしかにそれはかつて見たことがあった。
「これが俺の息子か」
震える手で必死に認識票の曲がりを治そうとする。
「これが俺の息子の成れの果てか!?」
血に染まったそれを指先で拭うと両手で握りしめる。
「これがアイツの信じた夢と理想の辿り着いた場所か?!」
そしてそれが限界だった。膝から崩れ落ちるとうずくまる。
「う、うぉぉぉぉぉおおおおおおおっ!!!」
凍てついた荒野の真っ只中に出現した地獄の真っ只中で、1人の老兵が慟哭の叫びを上げていた。だれもそれを救えない。だれも救済できない。
そう――、神であっても。
この日からウラジスノフは神を信じることを止めたのである。
このマリオネット・ディンキーによって引き起こされた謎の殺戮事件はロシア連邦軍中枢部によって極秘条項として封印された。被害総数、死者行方不明者含めて5782。その殆どが遺体収容不可能、局地限定核砲弾が使用され、事件現場一帯は封鎖され続けた。
ウラジスノフはそれでも事件現場周辺を調べ続けた。そこから先は親子の情と言うよりはもはや執念である。事件の核心へとつながるものをたとえかけらでもいいから手に入れたい。その一念だけであった。
そしてその思いに神ではなく悪魔が微笑んだのかもしれない。
奇跡的にも、惨殺された兵士たちの遺骸や残存装備品の中から、身体装着式の記録カメラとそのメモリー媒体が得られたのである。ウラジスノフはそれを隠匿すると、ウラジオストックへの帰路についた。彼が事件の真相を調べるために出発してから実に一ヶ月近くが経過していたのだ。
そして回収されたメモリー媒体の中に、ウラジスノフは今回の事件の真実を知ることになる。
「こいつか」
その者の名はベルトコーネ
「こいつがミハイルの命を奪ったのか」
ディンキー・アンカーソン配下の狂える拳魔
「こいつが――、こいつこそが――」
映像の中に映し出された真実。それは確かに一般社会に対して公開できる性質のものではなかった。残虐すぎるという事もある。軍の威信に関わるという事もある。テロリズムの成果を喧伝してしまうと言う事もある。なにより、自国内においてたとえ無人地帯だったとしても核を使用したと言う事実は決して許されるものではない。
それは理性にかざしてみても当然と言うべきであろう。だが、一つの厳然たる事実がある。
「このアンドロイドが俺の息子を鏖殺したのか――」
そしてウラジスノフは己の中に悪魔を宿した。
無人の森林地帯の中で局地限定核を打ち込まれても倒れることなく、一切の慈悲なく繰り広げられた破壊と殺戮。さらには近代科学技術の範疇を超えた質量制御という非現実――
一切の通常兵器が聞かず、最終手段として局地限定核が投入され、一時は沈黙を果たした。だがその残骸を確認すべく集まった将兵たちの前で、その機械仕掛けの悪魔は〝真の覚醒〟をすることとなる。
そしてその残虐なる惨劇の主体となった男の姿をウラジスノフはその目に焼き付けたのである。
「ミハイル――」
ウラジスノフは決意した。
「お前の敵は父さんがとる」
その身を闇の社会へと投じる決意をする。
「その為には俺自身が悪魔となろう。たとえロシア軍人としての信念を曲げてでも」
それは老いた孤独な魂が選んだ修羅の道であった。
「いつか必ず、あの鋼の悪魔を葬りさる。この俺の手で!」
そしてウラジスノフは行動を開始した。そしてそれは果てしなく長い闘争と苦闘の日々の始まりだったのである。
異様なまでに厳重な警戒網も張られていた。それを一つ一つ突破しながら彼は着実に目的へと近づきつつあった。そして8日目の朝、ついに彼は事態の核心となる〝グラウンド・ゼロ〟へと到達したのである。
そこはロシアの大地に生い茂る大樹の森・タイガの森林地帯の筈であった。
だが唐突に開けた無人の荒野に彼は驚愕させられることになる。持参した装備品の中からガイガーカウンターを取り出し辺りを調べる。すると高レベルの放射線が感知された。それが意味することは一つだ。
「規模から考えてミサイルは有りえん。もしや――、核砲弾を使ったのか?」
〝核砲弾〟――野戦砲にて打ち出すことを目的とした核兵器内臓の砲弾だ。そんなものこの現代戦では装備することはあっても、使用することは絶対に無いはずだ。だがそれは確実に使われているのだ。
何もない無人の荒野と化した森林地帯。核砲弾――、それが意味するところにウラジスノフは最悪の予感を抱きつつあった。
そしてそれから二日後に、あるものを見つけた。
「これは?」
それは人間の〝肉片〟だった。周囲を調べれば調べるほど、それはまるで人間を巨大なミートプロセッサーで砕いたように、辺り一面に散財している。そして、グラウンド・ゼロの中心に向けて数はおびただしいほどに増していく。
「ミハイル――」
最悪の予感が湧く。
「ミハイル!」
引きちぎられた人間の遺体が死屍累々と並んでいる。そしてそれは何か巨大な力に圧殺されたかのように押しつぶされている。さらにグラウンド・ゼロの中心地点に信じられない物を目の当たりにするのである。
「ミハイル!!」
彼が中心地点にて見つけたもの。
ソレは直径数メートルに及ぶ、真球の肉塊であった。物理的にありえざる代物だった。赤黒い不気味な球体。そしてウラジスノフはそこにある物を見つけるのである。それは銀色に光る金属片だった。それは球体と化した謎の肉塊の表面に張り付いていたのだ。
「――――」
血に染まってグシャグシャに変形していたが、そこに記された文字はどうにか読めた。それは軍の個人識別表。いわゆるドッグタグである。
【 ――Михаил―― 】
ミハイル――、彼の息子の名である。
「これか――」
ウラジスノフはその認識票を剥がし取る。たしかにそれはかつて見たことがあった。
「これが俺の息子か」
震える手で必死に認識票の曲がりを治そうとする。
「これが俺の息子の成れの果てか!?」
血に染まったそれを指先で拭うと両手で握りしめる。
「これがアイツの信じた夢と理想の辿り着いた場所か?!」
そしてそれが限界だった。膝から崩れ落ちるとうずくまる。
「う、うぉぉぉぉぉおおおおおおおっ!!!」
凍てついた荒野の真っ只中に出現した地獄の真っ只中で、1人の老兵が慟哭の叫びを上げていた。だれもそれを救えない。だれも救済できない。
そう――、神であっても。
この日からウラジスノフは神を信じることを止めたのである。
このマリオネット・ディンキーによって引き起こされた謎の殺戮事件はロシア連邦軍中枢部によって極秘条項として封印された。被害総数、死者行方不明者含めて5782。その殆どが遺体収容不可能、局地限定核砲弾が使用され、事件現場一帯は封鎖され続けた。
ウラジスノフはそれでも事件現場周辺を調べ続けた。そこから先は親子の情と言うよりはもはや執念である。事件の核心へとつながるものをたとえかけらでもいいから手に入れたい。その一念だけであった。
そしてその思いに神ではなく悪魔が微笑んだのかもしれない。
奇跡的にも、惨殺された兵士たちの遺骸や残存装備品の中から、身体装着式の記録カメラとそのメモリー媒体が得られたのである。ウラジスノフはそれを隠匿すると、ウラジオストックへの帰路についた。彼が事件の真相を調べるために出発してから実に一ヶ月近くが経過していたのだ。
そして回収されたメモリー媒体の中に、ウラジスノフは今回の事件の真実を知ることになる。
「こいつか」
その者の名はベルトコーネ
「こいつがミハイルの命を奪ったのか」
ディンキー・アンカーソン配下の狂える拳魔
「こいつが――、こいつこそが――」
映像の中に映し出された真実。それは確かに一般社会に対して公開できる性質のものではなかった。残虐すぎるという事もある。軍の威信に関わるという事もある。テロリズムの成果を喧伝してしまうと言う事もある。なにより、自国内においてたとえ無人地帯だったとしても核を使用したと言う事実は決して許されるものではない。
それは理性にかざしてみても当然と言うべきであろう。だが、一つの厳然たる事実がある。
「このアンドロイドが俺の息子を鏖殺したのか――」
そしてウラジスノフは己の中に悪魔を宿した。
無人の森林地帯の中で局地限定核を打ち込まれても倒れることなく、一切の慈悲なく繰り広げられた破壊と殺戮。さらには近代科学技術の範疇を超えた質量制御という非現実――
一切の通常兵器が聞かず、最終手段として局地限定核が投入され、一時は沈黙を果たした。だがその残骸を確認すべく集まった将兵たちの前で、その機械仕掛けの悪魔は〝真の覚醒〟をすることとなる。
そしてその残虐なる惨劇の主体となった男の姿をウラジスノフはその目に焼き付けたのである。
「ミハイル――」
ウラジスノフは決意した。
「お前の敵は父さんがとる」
その身を闇の社会へと投じる決意をする。
「その為には俺自身が悪魔となろう。たとえロシア軍人としての信念を曲げてでも」
それは老いた孤独な魂が選んだ修羅の道であった。
「いつか必ず、あの鋼の悪魔を葬りさる。この俺の手で!」
そしてウラジスノフは行動を開始した。そしてそれは果てしなく長い闘争と苦闘の日々の始まりだったのである。
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