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第2章エクスプレス サイドB①魔窟の洋上楼閣都市/グラウザー編
Part18 サイドストーリー・ファミリー/腰抜け
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そこは海沿いに有った。
倉庫に偽装したアジト、とある犯罪ソサエティの活動拠点の一つにして、アンダーグラウンドの非合法な医療施設であり違法サイボーグの提供拠点であった。
――バックヤード・クリニック――
その存在を知る者たちからはひどく知られた暗語だった。
大都市の闇に多数存在するそれらの施設の中の一つ、まだ日も沈みきらない午後半ばの頃からそこを訪れる二人の男がいる。いずれも恰幅のいい巨漢の黒人男性で、いずれも背丈は190を超える。二人共筋肉質だったが、一人は生身、もうひとりは着衣から露出している部分から義肢が装着されているのが解る。
一人はサイケ柄のVネックのカットソー、ロングのフード付きコート。ロング丈のダボダボのサルエルパンツを纏い、足元にはスエード地のショートブーツを履いている。襟元には金と銀のチェーンネックレスを幾重にも重ねてつけており、両の十指にはめているのは18金製のごついブロックリングでそれが装飾を狙っているとは到底思えない。ルビー、エメラルド、タイガーアイ、アメジスト――多彩な大粒の玉石が嵌められたソレは顔面への打撃を想定した威嚇用の物である。
もう一人は赤と青とイエローの派手な配色のフード付きウィンドブレーカーを身に着けドレッドヘアの頭をフードですっぽりと覆っている。両手は指先まで黒いレザーのグローブで包んで隠しており腰から下にはダブダブのオーバーサイズ気味のジーンズを履いている。両足は編み上げブーツで目元はガーゴイルズのサングラスで覆っている。
2人は横に並んで連れ立って、いかにも気の合った仲間といった風に歩いている。襟元に金銀のチェーンネックレスを幾重にもつけた男は一歩一歩踏みしめながら、もう一人のドレッドヘアは軽やかにリズムを刻みながら歩いている。2人は施設の中の地下廊下を歩いている。煤けたフードのLED照明の下、その施設の中の特別な部屋へと向かっていた。
ドレッドヘアの男が傍らの男を気遣うように呟く。
「ありがとよ兄貴、かなり手こずったんだろう?」
巨躯のサイケ柄シャツの男はこともなげにサラリと言い返した。
「なぁに、おめえのためならこの程度なんでもねえよ。それに身柄の回収だけなら思ったより簡単だったしな」
「簡単? 警察にパクられた連続殺人犯の身柄がか?」
「あぁ、普通の犯罪者なら監獄の奥底に閉じ込められてて俺でも相当に骨が折れるだろう。だが、調べてわかったんだが――」
サイケ柄シャツの男がそこまで語ったところで、通路の脇廊下から別な外国人が数人姿を表した。いかにも戦闘慣れしてそうなロシア系の筋肉質の体の男たちだった。その中の一人の男は右腕は総金属製の義肢である。一目して戦闘用だということがすぐに分かる。その剣呑な空気から普通は誰もが道をゆずるはずである。だが――
「Give way!」
――そのロシア男は流暢な英語で荒っぽく告げた。道を譲れ、すなわち『どけ』と言う意味だ。だがサイケ柄シャツの男は頭に目深に被ったフードを下ろすとカリカリに縮れたパーマ頭をさらけ出すと、異様に鋭い眼光をサングラスの下で光らせながら見上げるように睨みつけている。位置的には見下される位置にある。人数もロシア男たちのほうが上だ。だが――
「Say Something?」
――サイケ柄シャツの男は静かに淡々と告げる。言葉はシンプルで紳士的な語り口だったが、そのあまりに鋭く無慈悲な視線と組み合わさることで、神すらも身震いするような威圧感と恐怖が伝わってくる。
一番前のロシア男は一瞬たじろいだが、それでも体のサイズから言って自分が有利だと踏んだのだろう。拳を固めると再度威圧しようと進み出そうとする。だが、仲間のロシア男の一人が不意につぶやいた言葉にその場の空気は凍りつく事になる。
「Monster」
それは相手の風体を揶揄しての言葉ではない。この大都市の闇街で、その名を異名として背負っている男は一人しか無い。〝モンスター〟――その異名はただ一人の傑物にのみ許された称号である。
恐れを帯びて呼ばれたその名に、サイケ柄シャツの男は答える。
「Yes」
恐れから口を出た呼び名を、その男は簡単に肯定した。そしてその肯定はさらなる恐怖をもたらした。誰ともなく道が譲られ、ロシア男たちは足早に去っていく。モンスターの異名を持つその男に関わりを持つことを心から避けるかのようだ。その情けない姿の背中にモンスターは吐き捨てる。
「You winp」
すなわち腰抜けを意味する言葉だ。その侮辱に反応は無かった。
倉庫に偽装したアジト、とある犯罪ソサエティの活動拠点の一つにして、アンダーグラウンドの非合法な医療施設であり違法サイボーグの提供拠点であった。
――バックヤード・クリニック――
その存在を知る者たちからはひどく知られた暗語だった。
大都市の闇に多数存在するそれらの施設の中の一つ、まだ日も沈みきらない午後半ばの頃からそこを訪れる二人の男がいる。いずれも恰幅のいい巨漢の黒人男性で、いずれも背丈は190を超える。二人共筋肉質だったが、一人は生身、もうひとりは着衣から露出している部分から義肢が装着されているのが解る。
一人はサイケ柄のVネックのカットソー、ロングのフード付きコート。ロング丈のダボダボのサルエルパンツを纏い、足元にはスエード地のショートブーツを履いている。襟元には金と銀のチェーンネックレスを幾重にも重ねてつけており、両の十指にはめているのは18金製のごついブロックリングでそれが装飾を狙っているとは到底思えない。ルビー、エメラルド、タイガーアイ、アメジスト――多彩な大粒の玉石が嵌められたソレは顔面への打撃を想定した威嚇用の物である。
もう一人は赤と青とイエローの派手な配色のフード付きウィンドブレーカーを身に着けドレッドヘアの頭をフードですっぽりと覆っている。両手は指先まで黒いレザーのグローブで包んで隠しており腰から下にはダブダブのオーバーサイズ気味のジーンズを履いている。両足は編み上げブーツで目元はガーゴイルズのサングラスで覆っている。
2人は横に並んで連れ立って、いかにも気の合った仲間といった風に歩いている。襟元に金銀のチェーンネックレスを幾重にもつけた男は一歩一歩踏みしめながら、もう一人のドレッドヘアは軽やかにリズムを刻みながら歩いている。2人は施設の中の地下廊下を歩いている。煤けたフードのLED照明の下、その施設の中の特別な部屋へと向かっていた。
ドレッドヘアの男が傍らの男を気遣うように呟く。
「ありがとよ兄貴、かなり手こずったんだろう?」
巨躯のサイケ柄シャツの男はこともなげにサラリと言い返した。
「なぁに、おめえのためならこの程度なんでもねえよ。それに身柄の回収だけなら思ったより簡単だったしな」
「簡単? 警察にパクられた連続殺人犯の身柄がか?」
「あぁ、普通の犯罪者なら監獄の奥底に閉じ込められてて俺でも相当に骨が折れるだろう。だが、調べてわかったんだが――」
サイケ柄シャツの男がそこまで語ったところで、通路の脇廊下から別な外国人が数人姿を表した。いかにも戦闘慣れしてそうなロシア系の筋肉質の体の男たちだった。その中の一人の男は右腕は総金属製の義肢である。一目して戦闘用だということがすぐに分かる。その剣呑な空気から普通は誰もが道をゆずるはずである。だが――
「Give way!」
――そのロシア男は流暢な英語で荒っぽく告げた。道を譲れ、すなわち『どけ』と言う意味だ。だがサイケ柄シャツの男は頭に目深に被ったフードを下ろすとカリカリに縮れたパーマ頭をさらけ出すと、異様に鋭い眼光をサングラスの下で光らせながら見上げるように睨みつけている。位置的には見下される位置にある。人数もロシア男たちのほうが上だ。だが――
「Say Something?」
――サイケ柄シャツの男は静かに淡々と告げる。言葉はシンプルで紳士的な語り口だったが、そのあまりに鋭く無慈悲な視線と組み合わさることで、神すらも身震いするような威圧感と恐怖が伝わってくる。
一番前のロシア男は一瞬たじろいだが、それでも体のサイズから言って自分が有利だと踏んだのだろう。拳を固めると再度威圧しようと進み出そうとする。だが、仲間のロシア男の一人が不意につぶやいた言葉にその場の空気は凍りつく事になる。
「Monster」
それは相手の風体を揶揄しての言葉ではない。この大都市の闇街で、その名を異名として背負っている男は一人しか無い。〝モンスター〟――その異名はただ一人の傑物にのみ許された称号である。
恐れを帯びて呼ばれたその名に、サイケ柄シャツの男は答える。
「Yes」
恐れから口を出た呼び名を、その男は簡単に肯定した。そしてその肯定はさらなる恐怖をもたらした。誰ともなく道が譲られ、ロシア男たちは足早に去っていく。モンスターの異名を持つその男に関わりを持つことを心から避けるかのようだ。その情けない姿の背中にモンスターは吐き捨てる。
「You winp」
すなわち腰抜けを意味する言葉だ。その侮辱に反応は無かった。
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