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第2章エクスプレス サイドB①魔窟の洋上楼閣都市/グラウザー編
Part16 オペレーション/救いの手
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【 アラート:身体除菌処置指定プロセス終了 】
アラーム音とともにカチュアの身体への処置が終わったことが告げられた。次なるプロセスに移る時だ。
「よし、除菌処置が終わりだ。それとこれを設置しておかんとな」
端末を操作しマニピュレーターの一つのとある装置をカチュアの身体に装着させる。導尿用のカテーテルと股間の排泄部位全体を覆うカップ状の装置だ。それをカチュアの股間へとセットする。
「これでいい。早速だが、これより術式を開始する」
そしてシェンがあらためて端末のキーボードを操作する。
「患者への術式のプロセスだが――
まずは、腹腔内の内出血の止血処置を非開腹のまま腹腔内手術として行う。次に、頸部の骨折部分を整復処置し、頸部脊髄が傷つかないように保護する。
この後に頭部頭蓋骨骨折部位から破損骨片を除去、しかるのち、脳髄の挫傷部位を治療処置、さらに脳膜・硬膜の損傷を処置し、最後に頭蓋骨骨折部位を修復して全術式を終了とする。
クランケは現在昏睡中だが麻酔薬による深度麻酔をメインにし、必要に応じて痛覚遮断を併用する。
なお術式施術中にクランケのバイタルが急変する恐れがある。その場合は適時対応するものとする。それからチャオ、君にはオペに関連する補助作業を行ってもらう。他に質問はあるか?」
シェンが問うが、朝は顔を左右に振って答えた。
「いいえ、ありません」
「無ければこれより術式を開始する」
シェンが専用シートのコンソールを操作し始める。そして今、シェンと朝の長い夜が始まったのである。
@ @ @
「それじゃあとはお願いね」
そうジーナに問いかけながらローラは歩き出す。その背中に返事を返すのはジーナとアンジェリカである。
「はい。まかせてください」
「カチュアのこと、よろしくお願いしますね」
ローラが声をかければジーナたちからも声がかけられてくる。互いが互いに信頼しあっている証拠だった。
実はドクター・ピーターソンにラフマニを救ってもらった後に他の子供達の具合もドクターに見てもらっていた。今回は引き起こされた事件が事件だけに、怪我はなくても心に傷を負う者が出てこないとも限らなかった。
ジーナたちに連絡を取り、避難場所に一時的に身を隠していた子どもたちを宿舎として作っている廃倉庫ビルへと戻らせると、手分けしながら子どもたちの具合を確かめていく。その一方で最も症状の重いラフマニは安静にするようにベッドへと寝かせる。そして〝家〟の中がいつもの落ち着きを取り戻しつつあることを実感していた。
「これでカチュアが無事だったら」
そう不安を口にしつつ宿舎から離れていく。その時、たまたま建物の中から姿を表したドクターと視線が合ったのだ。
「ドクター! あとはお願いします!」
ローラがそう声をかけるとドクターが頷いている。
「こちらは引き受けた。早く残りの一人のところへと行ってあげなさい!」
老年男性の落ち着いた声。ドクター・ピーターソンの声が夜の帳に心地よく響いていた。ローラもまた頷き返すと踵を返して走り出した。向かう先はカチュアが運ばれたと言う李大夫の店だ。詳しい場所を尋ねるために天満菜館にも顔出しすることになるだろう。ローラはまずは楊夫人のところへと一路向かったのである。
@ @ @
中華風のドレスをなびかせて駆けてくる女性は天満菜館の女将である楊夫人だ。
本名、楊雪嬌(ヤン シージャオ)と言い今年で40になる。10になる前に祖父に連れられて日本に渡り、苦労に苦労を重ねてこの地に自分の店を作り上げた人物である。既婚者であり夫はいつも天満菜館の厨房で料理を作っている。
楊は自分の店『天満菜館』に駆け込むなり店員であるミンメイに声をかけた。
「ミンメイ! 居るかい?」
彼女が息せき切って駆けつければ、店内では来店客を相手にミンメイが注文をさばいていたところだった。店に戻ってきた女将に気づいてミンメイは振り返り際に問いかけた。
「女将さん? もう終わったんですか?」
「まさか! まだだよ! 今しがたカチュアの手術が始まったばっかりさ。カチュアの面倒見ていたローラちゃんがこっちに来ていないかと思ってね」
「え? ローラさんでしたらまだ来ていませんけど?」
その会話に割り込んできたのはカチュアを李大夫のところへと運ぶ手伝いをしていた若者の一人である。
「ローラだったら。ハイヘイズの他の子どもたちの様子を見に行きました。ラフマニも倒れたって聞いてます。そっちを片付けてからこっちに来るんじゃないかと思いますが」
「そうかい――」
楊は聞かされた内容に半ば安堵しつつ溜息を付きながら店外へと視線を向ける。店の入口のドアから顔を出しその通りを眺めれば、その向こうにはあの見慣れた白い木綿地のドレスをたなびかせながら小柄なシルエットが駆けてくるのが見えてきた。
「噂をすればだね」
そうつぶやきながら楊が手を振る。その仕草に気づいたのだろうローラも手を振りながら楊のところへと駆け寄ってきた。
「女将さん!」
肩で息をするように駆けつけるその姿には一人の女性として保護者として、幼子の安否を気遣う女性の姿があった。そんなローラに楊は告げた。
「ローラちゃん! 大変だったねぇ。他の子は無事だったのかい?」
ローラは楊の言葉を聞きながら彼女に歩み寄る。
「はい、怪我は無くカチュア以外は全員無事です。ですが――」
「何かあったのかい?」
不安げに言葉をつまらせるローラに楊がさらに尋ねてきた。
「実は今回の襲撃で小さな子たちがすっかり怯えてしまって。なかにはひきつけを起こす子まで出てきてしまって――。今、ジーナとアンジェリカが世話をしてくれてますが」
「あの子らだけではちぃっと心細いねぇ」
「はい、そうなんです」
ローラが不安を隠さずに深刻そうな表情でつぶやいていた。
「一応、黒人街からお医者さんが来てくれてますから怪我とかは大丈夫なんですが」
二人がそんな風に会話をしていたところだった。
別方向の通りの向こうから賑やかに声がしてくるのがわかる。その声の方に視線を向ければ、そこには中華系はもとより、アラブ系や、黒人系などいろいろな人種の妙齢の女性たちが入り交じった一団が駆け寄ってきている。その先頭の一人が楊夫人へと向けて手を降ってきた。
「雪嬌!」
そう声をかけてきたのは楊とほぼ同い年の女性であり楊と比べて少しばかり恰幅が良かった。黄淑美(ホアン シューメイ)と言いこの街で暮らす女性たちの一人だ。
「淑美?」
「話は聞いたよ。町外れの子たちが大変なんだって? 手伝いに来たよ」
「そりゃありがたいけど――でももう噂になってるのかい?」
「あぁ、あちこちで話が飛び交ってるよ。ここいら台湾系だけじゃなくて、色んな所から集まってるよ。それで見知った同士で声を掛け合ってこの店なら何かわかると思って来てみたのさ」
「それならちょうどいい。怪我は一人を除いてひどくはないんだけどさ」
楊がそこまで告げて横目でローラを見る。その視線にローラが現状を説明する。
「殆どの子が避難が間に合ったので怪我はしていないんですが、目の前で一人が殺されかけた姿を見てしまって恐怖心からすっかり怯えてしまっているんです。ひきつけやてんかん発作を起こしている子もいるので本当だったら居てやりたいんですが」
憔悴しきった顔でローラが説明する。その木綿の白ドレスにはカチュアの怪我から浴びた出血が返り血のように染み付いていた。あつまった女性たちは皆一様にローラのその血まみれの姿を訝しげに見ている。その疑念を代弁するかのようにシューメイが問いかけてくる。
「その〝血〟は?」
その言葉にハッとなりつつ悲壮な気持ちを押し殺しながら淡々と言葉を口にする。
「カチュアと言う子の返り血です。襲撃者に殴打されて、開放している――時に――」
そこまで口にしたところで、ローラは思わず言葉をつまらせた。愛するカチュアが襲われたあの瞬間を思い出してしまったのだろう。気丈に振る舞っていたローラだったが、やはりその心には深い後悔と罪悪感がある。自らの顔を覆うように両手を口元に当てる。
だが、その手に手を差し伸べたのは誰であろうシューメイである。
「解ったよ。わかったから。もう何も言わなくていいよ」
ローラの両手をしっかりと握りしめるとローラの目を見つめるようにして言い聞かせ始めた。
「他の子はあたしらが面倒を見るから安心をし。あんたはその怪我している子の所へ行っておやり!」
シューメイが強い口調で励ましてくる。ローラが顔を上げ周りに視線を向ければ、集まっている女性たちがローラを励ますように頷いていた。
「みんなこの街で子供を育てる事がどれだけ大変か分かってるんだ。普段は何もできないけど、こう言う時くらいは助け合わなきゃ。だから他の子はあたしらにまかせておくれ」
「皆さん――」
シューメイの言葉にローラの目には涙が浮かんでいた。
「ありがとうございます」
感謝の言葉を述べるとローラは深々と頭を下げた。そして集まっていた女性たちの中からアラブ系の一人が進み出てローラの肩にショールを掛けてくれる。そしてそっと耳打ちするように語りかけてくる。
「早く、お行き。手術が始まってるんだろう?」
その彼女の問いかけにローラは頷くと静かに歩き出す。そして、振り返って頭を下げた。
「よろしくお願いいたします」
シンプルだが心の底から感謝の思いが詰まった言葉がローラの口から告げられる。皆がその言葉に相槌を打っているのに気づく。そんな彼女に楊夫人が手招きする。
「おいで、カチュアは李大夫のところだ。あたしが案内するよ」
「はい!」
楊夫人のあとをローラは追っていく。二人が向かう先は李大夫の占いの店だ。そこでカチュの命が必死に戦っているのだから――
アラーム音とともにカチュアの身体への処置が終わったことが告げられた。次なるプロセスに移る時だ。
「よし、除菌処置が終わりだ。それとこれを設置しておかんとな」
端末を操作しマニピュレーターの一つのとある装置をカチュアの身体に装着させる。導尿用のカテーテルと股間の排泄部位全体を覆うカップ状の装置だ。それをカチュアの股間へとセットする。
「これでいい。早速だが、これより術式を開始する」
そしてシェンがあらためて端末のキーボードを操作する。
「患者への術式のプロセスだが――
まずは、腹腔内の内出血の止血処置を非開腹のまま腹腔内手術として行う。次に、頸部の骨折部分を整復処置し、頸部脊髄が傷つかないように保護する。
この後に頭部頭蓋骨骨折部位から破損骨片を除去、しかるのち、脳髄の挫傷部位を治療処置、さらに脳膜・硬膜の損傷を処置し、最後に頭蓋骨骨折部位を修復して全術式を終了とする。
クランケは現在昏睡中だが麻酔薬による深度麻酔をメインにし、必要に応じて痛覚遮断を併用する。
なお術式施術中にクランケのバイタルが急変する恐れがある。その場合は適時対応するものとする。それからチャオ、君にはオペに関連する補助作業を行ってもらう。他に質問はあるか?」
シェンが問うが、朝は顔を左右に振って答えた。
「いいえ、ありません」
「無ければこれより術式を開始する」
シェンが専用シートのコンソールを操作し始める。そして今、シェンと朝の長い夜が始まったのである。
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「それじゃあとはお願いね」
そうジーナに問いかけながらローラは歩き出す。その背中に返事を返すのはジーナとアンジェリカである。
「はい。まかせてください」
「カチュアのこと、よろしくお願いしますね」
ローラが声をかければジーナたちからも声がかけられてくる。互いが互いに信頼しあっている証拠だった。
実はドクター・ピーターソンにラフマニを救ってもらった後に他の子供達の具合もドクターに見てもらっていた。今回は引き起こされた事件が事件だけに、怪我はなくても心に傷を負う者が出てこないとも限らなかった。
ジーナたちに連絡を取り、避難場所に一時的に身を隠していた子どもたちを宿舎として作っている廃倉庫ビルへと戻らせると、手分けしながら子どもたちの具合を確かめていく。その一方で最も症状の重いラフマニは安静にするようにベッドへと寝かせる。そして〝家〟の中がいつもの落ち着きを取り戻しつつあることを実感していた。
「これでカチュアが無事だったら」
そう不安を口にしつつ宿舎から離れていく。その時、たまたま建物の中から姿を表したドクターと視線が合ったのだ。
「ドクター! あとはお願いします!」
ローラがそう声をかけるとドクターが頷いている。
「こちらは引き受けた。早く残りの一人のところへと行ってあげなさい!」
老年男性の落ち着いた声。ドクター・ピーターソンの声が夜の帳に心地よく響いていた。ローラもまた頷き返すと踵を返して走り出した。向かう先はカチュアが運ばれたと言う李大夫の店だ。詳しい場所を尋ねるために天満菜館にも顔出しすることになるだろう。ローラはまずは楊夫人のところへと一路向かったのである。
@ @ @
中華風のドレスをなびかせて駆けてくる女性は天満菜館の女将である楊夫人だ。
本名、楊雪嬌(ヤン シージャオ)と言い今年で40になる。10になる前に祖父に連れられて日本に渡り、苦労に苦労を重ねてこの地に自分の店を作り上げた人物である。既婚者であり夫はいつも天満菜館の厨房で料理を作っている。
楊は自分の店『天満菜館』に駆け込むなり店員であるミンメイに声をかけた。
「ミンメイ! 居るかい?」
彼女が息せき切って駆けつければ、店内では来店客を相手にミンメイが注文をさばいていたところだった。店に戻ってきた女将に気づいてミンメイは振り返り際に問いかけた。
「女将さん? もう終わったんですか?」
「まさか! まだだよ! 今しがたカチュアの手術が始まったばっかりさ。カチュアの面倒見ていたローラちゃんがこっちに来ていないかと思ってね」
「え? ローラさんでしたらまだ来ていませんけど?」
その会話に割り込んできたのはカチュアを李大夫のところへと運ぶ手伝いをしていた若者の一人である。
「ローラだったら。ハイヘイズの他の子どもたちの様子を見に行きました。ラフマニも倒れたって聞いてます。そっちを片付けてからこっちに来るんじゃないかと思いますが」
「そうかい――」
楊は聞かされた内容に半ば安堵しつつ溜息を付きながら店外へと視線を向ける。店の入口のドアから顔を出しその通りを眺めれば、その向こうにはあの見慣れた白い木綿地のドレスをたなびかせながら小柄なシルエットが駆けてくるのが見えてきた。
「噂をすればだね」
そうつぶやきながら楊が手を振る。その仕草に気づいたのだろうローラも手を振りながら楊のところへと駆け寄ってきた。
「女将さん!」
肩で息をするように駆けつけるその姿には一人の女性として保護者として、幼子の安否を気遣う女性の姿があった。そんなローラに楊は告げた。
「ローラちゃん! 大変だったねぇ。他の子は無事だったのかい?」
ローラは楊の言葉を聞きながら彼女に歩み寄る。
「はい、怪我は無くカチュア以外は全員無事です。ですが――」
「何かあったのかい?」
不安げに言葉をつまらせるローラに楊がさらに尋ねてきた。
「実は今回の襲撃で小さな子たちがすっかり怯えてしまって。なかにはひきつけを起こす子まで出てきてしまって――。今、ジーナとアンジェリカが世話をしてくれてますが」
「あの子らだけではちぃっと心細いねぇ」
「はい、そうなんです」
ローラが不安を隠さずに深刻そうな表情でつぶやいていた。
「一応、黒人街からお医者さんが来てくれてますから怪我とかは大丈夫なんですが」
二人がそんな風に会話をしていたところだった。
別方向の通りの向こうから賑やかに声がしてくるのがわかる。その声の方に視線を向ければ、そこには中華系はもとより、アラブ系や、黒人系などいろいろな人種の妙齢の女性たちが入り交じった一団が駆け寄ってきている。その先頭の一人が楊夫人へと向けて手を降ってきた。
「雪嬌!」
そう声をかけてきたのは楊とほぼ同い年の女性であり楊と比べて少しばかり恰幅が良かった。黄淑美(ホアン シューメイ)と言いこの街で暮らす女性たちの一人だ。
「淑美?」
「話は聞いたよ。町外れの子たちが大変なんだって? 手伝いに来たよ」
「そりゃありがたいけど――でももう噂になってるのかい?」
「あぁ、あちこちで話が飛び交ってるよ。ここいら台湾系だけじゃなくて、色んな所から集まってるよ。それで見知った同士で声を掛け合ってこの店なら何かわかると思って来てみたのさ」
「それならちょうどいい。怪我は一人を除いてひどくはないんだけどさ」
楊がそこまで告げて横目でローラを見る。その視線にローラが現状を説明する。
「殆どの子が避難が間に合ったので怪我はしていないんですが、目の前で一人が殺されかけた姿を見てしまって恐怖心からすっかり怯えてしまっているんです。ひきつけやてんかん発作を起こしている子もいるので本当だったら居てやりたいんですが」
憔悴しきった顔でローラが説明する。その木綿の白ドレスにはカチュアの怪我から浴びた出血が返り血のように染み付いていた。あつまった女性たちは皆一様にローラのその血まみれの姿を訝しげに見ている。その疑念を代弁するかのようにシューメイが問いかけてくる。
「その〝血〟は?」
その言葉にハッとなりつつ悲壮な気持ちを押し殺しながら淡々と言葉を口にする。
「カチュアと言う子の返り血です。襲撃者に殴打されて、開放している――時に――」
そこまで口にしたところで、ローラは思わず言葉をつまらせた。愛するカチュアが襲われたあの瞬間を思い出してしまったのだろう。気丈に振る舞っていたローラだったが、やはりその心には深い後悔と罪悪感がある。自らの顔を覆うように両手を口元に当てる。
だが、その手に手を差し伸べたのは誰であろうシューメイである。
「解ったよ。わかったから。もう何も言わなくていいよ」
ローラの両手をしっかりと握りしめるとローラの目を見つめるようにして言い聞かせ始めた。
「他の子はあたしらが面倒を見るから安心をし。あんたはその怪我している子の所へ行っておやり!」
シューメイが強い口調で励ましてくる。ローラが顔を上げ周りに視線を向ければ、集まっている女性たちがローラを励ますように頷いていた。
「みんなこの街で子供を育てる事がどれだけ大変か分かってるんだ。普段は何もできないけど、こう言う時くらいは助け合わなきゃ。だから他の子はあたしらにまかせておくれ」
「皆さん――」
シューメイの言葉にローラの目には涙が浮かんでいた。
「ありがとうございます」
感謝の言葉を述べるとローラは深々と頭を下げた。そして集まっていた女性たちの中からアラブ系の一人が進み出てローラの肩にショールを掛けてくれる。そしてそっと耳打ちするように語りかけてくる。
「早く、お行き。手術が始まってるんだろう?」
その彼女の問いかけにローラは頷くと静かに歩き出す。そして、振り返って頭を下げた。
「よろしくお願いいたします」
シンプルだが心の底から感謝の思いが詰まった言葉がローラの口から告げられる。皆がその言葉に相槌を打っているのに気づく。そんな彼女に楊夫人が手招きする。
「おいで、カチュアは李大夫のところだ。あたしが案内するよ」
「はい!」
楊夫人のあとをローラは追っていく。二人が向かう先は李大夫の占いの店だ。そこでカチュの命が必死に戦っているのだから――
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