上 下
292 / 462
第2章エクスプレス サイドB①魔窟の洋上楼閣都市/グラウザー編 

Part13 神の雷/恐怖と異変

しおりを挟む
 グラウザーは一気に駆け出した。
 右手から伸張させたパルサーブレードを左上に胸の前に交差させる様に構えると敵の懐へと一気に飛び込んでいく。センチュリーやアトラスのようにダッシュローラーは無いが、それを補って余りあるフットワークと跳躍力が超人の如き俊足を可能にしていた。
 
「行くぞ!!」

 気合一線、ベルトコーネの前方10m程から跳躍すると至近距離に肉薄してそのまま敵を袈裟懸けに切りつけようと試みる。その際にグラウザーの2次武装装甲アーマーギアに備えられた拡張機能が巧妙に動作を開始していた。
 
【 アーマーギア武器管制システム      】
【        コントロールシークエンス 】
【                     】
【 >膨張性高周波振動サーベル       】
【          〔パルサーブレード〕 】 
【   ⇒展開完了             】
【   ⇒高周波振動開始          】
【 >マルチパーパスレーダーブロック    】
【   ⇒右腕部高周電磁波、出力アップ   】
【   ⇒高周波を内部バイパス       】
【    パルサーブレード全域にて発信開始 】
【 >機能合成               】
【    〔ショックハレーションブレード〕 】
【   ⇒作動開始             】

 パルサーブレードは金属高分子に通電することで膨張する特殊金属でできている。その際、構成金属が通電中に高周波振動を起こすのだが、それがブレードの斬撃力を強化する効果がある。だがグラウザーのアーマーギアにはフィール譲りの高周波発振機能が備わっていた。その機能をパルサーブレードに機能合成してブレード全体で高周波発振を行う。これによりさらなる斬撃の強化が可能となるのだ。
 グラウザーが持っている機能は、何もないところから生まれたわけではない。
 アトラスから始まって一つ一つ積み上げられたものの蓄積のその結果であるのだ
 それに加えてさらなる機能を行使する。

【 >MHDエアロダイン推進装置      】
【     〔エアジェットスタビライザー〕 】
【  ⇒機能作動開始            】
【   全身各部エアダクト内MHDユニット 】
【            <作動スタート> 】
【  ⇒MHDエアロダインジェット     】
【              気流生成開始 】
【  ⇒推進力発生             】
【     ――加速スタート――      】

 それはセンチュリーのウィンダイバー、フィールのマグネウィングの機能開発から生み出された装備だ。アーマーギアの各部に備えられたエアダクト構造。その内部に備えられたMHDエアロダインジェットユニットによるプラズマ電磁推進により常識を遥かに超えた加速移動を可能にする物だ。
 グラウザーはエアジェットスタビライザーの機能を加える事で、さらなる加速を生み出すと瞬時にベルトコーネとの間合いを詰めて斬撃の射程距離に捕える。そして振りかぶったブレードをベルトコーネの首筋へと斬りつける。
 
「ここだぁっ!!」

 破損した右拳を庇うように左腕を構えていたベルトコーネだったが、グラウザーが発揮したその神がかりな速技に防御行動を取るのは、誰が見ても困難だった。グラウザーのブレードを躱しきれずに袈裟懸けに切り捨てられる――、誰の目にもそう写ったに違いない。
 しかし、奥の手を有していたのはベルトコーネも同じである。ブレードを払おうとベルトコーネの左腕が跳ね上がる。その回避行動に加えてベルトコーネはさらなる絶技を繰り出すこととなる。
 
――ブゥゥンッ!――

 鋭い風切音をたててグラウザーの右腕のブレードが空を切った。その切っ先がベルトコーネを捕えることはない。その時、グラウザーの眼前で展開された絶技、それは日本の武術家が発揮する歩法術の一つ〝無足〟にも似ている物で、グラウザーの方を向いたまま姿勢を崩すこと無く、後方へと瞬時に退いて見せたのだ。
 だがそれは秘術でも魔法でもない。ベルトコーネにとって極当たり前の技であり機能であったのだ。
 
「なっ?」
 
 驚きを声にする間も無いくらいに返す刀でベルトコーネへと斬りかかる。だが、それすらもベルトコーネはまるで幽鬼の様に捉えどころのないままに逃げ続けるのだ。
 
「くっ、くそっ!」

 思わずグラウザーが口惜しげに声を漏らした。何度ブレードを振るおうとも、固有機能を駆使して加速しようとも、その剣先はベルトコーネには届かなかった。その理由に気づいたのは離れた位置から二人の戦いを見ていたセンチュリーである。
 
「離れろ!」

 裂帛の気合で怒鳴りつける。戦いの中で焦りを抱くことの危険さをセンチュリーはその長い経験から知り尽くしていた。その兄からの声にハッとなり冷静さを取り戻す。そして逆方向へとステップを踏んでベルトコーネから距離を取る。体制の立て直し、戦略の練り直しが必要な状況なのは明らかである。
 
「――!」

 無言のまま驚きと苛立ちを、その全身から立ち上らせるとグラウザーはベルトコーネに感じた疑問を口にしていた。
 
「何だ今のは?」
 
 グラウザーが疑問を抱くその姿にベルトコーネは一切の焦りも戸惑いも見せない。沈黙したままグラウザーを冷ややかに睨み返すだけだ。
 かたや――、眼前で展開された謎の絶技の正体について、思案を巡らせていたのはセンチュリーであった。彼の目の前で、ベルトコーネとグラウザーの間で繰り広げられていた事実と現実に対して直感を働かせた。
 
「てめぇ、そこまで〝機能〟を使いこなせるのか?」

 センチュリーが勘に基づく判断を口にする。その言葉にニヤリと笑うのはベルトコーネだ。
 
「使って見せれば俺の固有機能の正体がバレる恐れがあるからな。今までは使わなかったが、すでにバレている現状なら隠す意味など無い」

 そして。両の拳を眼前に構えるとフットワークと速度に特化したキックボクシング系のスタンスへとスイッチする。それが意味するのはこれまでのパワーファイトから、スピード重視のラピッドファイトへの、ファイトスタイルの変化である。その事実がすぐに理解できていたセンチュリーの口からは、グラウザーへと何よりも強い警告が告げられたのである。
 
「逃げろ! グラウザー!!」

 それはセンチュリーが初めて見せる〝恐怖〟であったのだ。
 
 その〝異変〟はシェン・レイの方からも即座に見えるものであった。
 ベルトコーネが見せた〝隠し技〟の正体。その事実をにシェン・レイも驚きと不安を口にせざるを得ない。

「まずい――」

 急がねばならない。
 今こそ、あの狂える拳魔の力を封じるために――
 シェンは一気に走り始めた。 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

転職したら陰陽師になりました。〜チートな私は最強の式神を手に入れる!〜

万実
キャラ文芸
う、嘘でしょ。 こんな生き物が、こんな街の真ん中に居ていいの?! 私の目の前に現れたのは二本の角を持つ鬼だった。 バイトを首になった私、雪村深月は新たに見つけた職場『赤星探偵事務所』で面接の約束を取り付ける。 その帰り道に、とんでもない事件に巻き込まれた。 鬼が現れ戦う羽目に。 事務所の職員の拓斗に助けられ、鬼を倒したものの、この人なんであんな怖いのと普通に戦ってんの? この事務所、表向きは『赤星探偵事務所』で、その実態は『赤星陰陽師事務所』だったことが判明し、私は慄いた。 鬼と戦うなんて絶対にイヤ!怖くて死んじゃいます! 一度は辞めようと思ったその仕事だけど、超絶イケメンの所長が現れ、ミーハーな私は彼につられて働くことに。 はじめは石を投げることしかできなかった私だけど、式神を手に入れ、徐々に陰陽師としての才能が開花していく。

正義の味方は野獣!?彼の腕力には敵わない!?

すずなり。
恋愛
ある日、仲のいい友達とショッピングモールに遊びに来ていた私は、付き合ってる彼氏の浮気現場を目撃する。 美悠「これはどういうこと!?」 彼氏「俺はもっとか弱い子がいいんだ!別れるからな!」 私は・・・「か弱い子」じゃない。 幼い頃から格闘技をならっていたけど・・・それにはワケがあるのに・・・。 美悠「許せない・・・。」 そう思って私は彼氏に向かって拳を突き出した。 雄飛「おっと・・・させるかよ・・!」 そう言って私のパンチを止めたのは警察官だった・・・! 美悠「邪魔しないで!」 雄飛「キミ、強いな・・・!」 もう二度と会うこともないと思ってたのに、まさかの再会。 会う回数を重ねていくたびに、気持ちや行動に余裕をもつ『大人』な彼に惹かれ始めて・・・ 美悠「とっ・・・年下とか・・ダメ・・かな・・?」 ※お話はすべて想像の世界です。現実世界とはなんの関係もありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。メンタルが薄氷なんです・・・。代わりにお気に入り登録をしていただけたら嬉しいです! ※誤字脱字、表現不足などはご容赦ください。日々精進してまいります・・・。 ただただ楽しんでいただけたら嬉しいです。すずなり。

初恋フィギュアドール

小原ききょう
SF
「人嫌いの僕は、通販で買った等身大AIフィギュアドールと、年上の女性に恋をした」 主人公の井村実は通販で等身大AIフィギュアドールを買った。 フィギュアドール作成時、自分の理想の思念を伝達する際、 もう一人の別の人間の思念がフィギュアドールに紛れ込んでしまう。 そして、フィギュアドールには二つの思念が混在してしまい、切ないストーリーが始まります。 主な登場人物 井村実(みのる)・・・30歳、サラリーマン 島本由美子  ・ ・・41歳 独身 フィギュアドール・・・イズミ 植村コウイチ  ・・・主人公の友人 植村ルミ子・・・・ 母親ドール サツキ ・・・・ ・ 国産B型ドール エレナ・・・・・・ 国産A型ドール ローズ ・・・・・ ・国産A型ドール 如月カオリ ・・・・ 新型A型ドール

異世界二度目のおっさん、どう考えても高校生勇者より強い

八神 凪
ファンタジー
   旧題:久しぶりに異世界召喚に巻き込まれたおっさんの俺は、どう考えても一緒に召喚された勇者候補よりも強い  【第二回ファンタジーカップ大賞 編集部賞受賞! 書籍化します!】  高柳 陸はどこにでもいるサラリーマン。    満員電車に揺られて上司にどやされ、取引先には愛想笑い。  彼女も居ないごく普通の男である。  そんな彼が定時で帰宅しているある日、どこかの飲み屋で一杯飲むかと考えていた。  繁華街へ繰り出す陸。  まだ時間が早いので学生が賑わっているなと懐かしさに目を細めている時、それは起きた。  陸の前を歩いていた男女の高校生の足元に紫色の魔法陣が出現した。  まずい、と思ったが少し足が入っていた陸は魔法陣に吸い込まれるように引きずられていく。  魔法陣の中心で困惑する男女の高校生と陸。そして眼鏡をかけた女子高生が中心へ近づいた瞬間、目の前が真っ白に包まれる。  次に目が覚めた時、男女の高校生と眼鏡の女子高生、そして陸の目の前には中世のお姫様のような恰好をした女性が両手を組んで声を上げる。  「異世界の勇者様、どうかこの国を助けてください」と。  困惑する高校生に自分はこの国の姫でここが剣と魔法の世界であること、魔王と呼ばれる存在が世界を闇に包もうとしていて隣国がそれに乗じて我が国に攻めてこようとしていると説明をする。    元の世界に戻る方法は魔王を倒すしかないといい、高校生二人は渋々了承。  なにがなんだか分からない眼鏡の女子高生と陸を見た姫はにこやかに口を開く。  『あなた達はなんですか? 自分が召喚したのは二人だけなのに』  そう言い放つと城から追い出そうとする姫。    そこで男女の高校生は残った女生徒は幼馴染だと言い、自分と一緒に行こうと提案。  残された陸は慣れた感じで城を出て行くことに決めた。  「さて、久しぶりの異世界だが……前と違う世界みたいだな」  陸はしがないただのサラリーマン。  しかしその実態は過去に異世界へ旅立ったことのある経歴を持つ男だった。  今度も魔王がいるのかとため息を吐きながら、陸は以前手に入れた力を駆使し異世界へと足を踏み出す――

女神様から同情された結果こうなった

回復師
ファンタジー
 どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。

もしも、記憶力日本一の男が美少女中学生の弟子を持ったら

青キング
キャラ文芸
記憶力日本一の称号を持つ蟹江陽太は、記憶力の大会にて自身の持つ日本記録を塗り替えた。偶然その瞬間を見届けていた一人の少女が、後日に彼の元へ現れ弟子入りを志願する。  少女の登場によりメモリースポーツ界とそれぞれの人間関係が動き出す。 記憶力日本一の青年+彼に憧れた天才少女、のマイナースポーツ小説

神の国から逃げた神さまが、こっそり日本の家に住まうことになりました。

羽鶴 舞
キャラ文芸
 神の国の試験に落ちてばかりの神さまが、ついにお仕置きされることに!   コワーイおじい様から逃げるために、下界である日本へ降臨!  神さまはこっそりと他人の家に勝手に住みこんでは、やりたい放題で周りを困らせていた。  主人公は、そんな困った神さまの面倒を見る羽目に……。 【完結しました。番外編も時々、アップする予定です】

処理中です...