282 / 462
第2章エクスプレス サイドB①魔窟の洋上楼閣都市/グラウザー編
Part11 ――変身――/呉川の不安
しおりを挟む
センチュリーがベルトコーネの行動を必死の攻撃で阻止しようとしている傍らでは、グラウザーの2次武装装甲である『オプショナルアーマーギア』の装着プロセスが開始されようとしていた。
装着プロセス開始直前にG班が詰める研究室のモニターに、東京アバディーンからの街頭監視カメラからの映像が飛び込んで来たのだ。それは街頭施設に固定設置されているものではなく、警視庁が必要に応じて現場投入する非常用の望遠カメラドローンによるものである。洋上から数百メートルほどの距離を置いてグラウザーの姿を捉えているのである。
「これは?」
「グラウザーの現在映像ですよ」
「もしや? ディアリオか!」
大久保が問いかければ聞き慣れたディアリオの声が通信回線から届いてくる。
〔はい! 海上保安庁から緊急用の監視ドローンを1基拝借しました。東京アバディーンにあまり接近すると管理権限をハッキングされるのでこの辺がギリギリです〕
〔いや、望遠映像でも大助かりだ。このまま監視継続頼む!〕
〔了解です!〕
大久保がディアリオと言葉をかわしているその傍らで、G班研究室に駆け込んでくる人影が一つあった。長身の老齢の人物。その胸には第2科警研研究員主幹の肩書があった。
「大久保!」
その部屋に飛び込んできたのは呉川である。
「呉川さん?」
「新谷から連絡があってな。大急ぎで戻ってきたんだ。状況はどうなってる?」
大久保のすぐ背後に立つと多数並んだモニター・ディスプレイに映し出されるデータや映像に目を通して行く。
「はい、つい今しがたからディアリオの協力でグラウザーの現在映像を見ることができるようになりました。戦闘プログラムの自動起動の遠隔操作支援も成功、グラウザーの頭脳状況や自我意識をこちらからの支援で誘導することで、音声キーワードや幾つかの条件付けをリンクさせることに成功。これでいつでも自動装着プロセスに纏わる問題もクリアです」
自信ありげに満足そうに語る大久保には、成功への確信のほどが垣間見えていた。それを聞き、呉川も納得の表情で頷いていた。
「そうか! ついに成功したか!」
「はい、皮肉ですが、抜き差しならない状況を抱えた実戦に向かい合うことで、2次武装装着の必要性と戦闘プログラムであるBOシステム起動への強い動機が得られました。
それに加えて戦闘プログラムの起動トリガーをアイツの認識次第でいつでも起動可能な状態にまで引き上げることに成功しました。これでアイツの判断でいつでもBOシステムを作動させることができるようになります」
「よし! 最大の問題がまた一つ解決したな」
「はい、あとは――2次武装の自動装着プロセスが問題なく完了することを祈るのみです」
「うむ」
呉川も大久保の言葉にはっきりと頷いている。大久保は傍らの部下に問いかけた。
「懸案だった、人工脊椎システムと中枢頭脳部接続系統の余裕率はどうなってる?」
「余裕率は137%から落ちていません。負荷率も107%と安定します。このまま問題ないでしょう」
「よし、そのままモニタリングを継続してくれ」
「了解」
二人の会話に呉川が問いかける。
「余裕率? なにかあったのか?」
「どうやらグラウザーのやつ、ベルトコーネに相当強く頭部を打撃されたようです。自動回復は成功していますが、頭脳と脊髄の接続系統制御に若干の〝傷〟が残ってしまっているんです。バックアップ系統が問題なく作動しているんで今のところは問題ありませんが――」
「そいつぁまずいな――、この後の戦闘で問題が起きないといいが。脱出困難になる前に現状離脱と回収の方法を講じておこう。新谷に連絡して武装警官部隊の支援を取り付けさせよう」
「そうですね。私もそれがいいと思います」
「よし、そっちは任せろ」
「はい」
「――っと、なんだ? センチュリーも居るのか?」
「そのようですね」
モニター越しにセンチュリーの姿も映し出されている。だが、その時の彼の姿に呉川は驚きの声を上げたのだ。
「あの馬鹿! なんで戦闘用の防御装備を全部外してるんだ? ヘルメットも無しで丸裸じゃないか!?」
「たしか今夜のアイツの任務は潜入調査だったはずです。現地の人間に偽装するためでしょう」
「だからと言ってそんな状態でベルトコーネとやりあうなんぞ――いったい何考えてるんだ! 大久保ここは任せた、新谷に連絡してくるぞ」
「はい!」
センチュリーを手塩にかけて作り上げたのは呉川である。それ故にセンチュリーには日頃から何かと心を砕いてきた。それだけにモニター越しに見せられた綱渡りの状況に呉川も心穏やかというわけには行かないのだ。
足早にG班の部屋から出ると廊下でスマートフォンで新谷所長へと連絡を始める。大久保もその気配を感じながら、なおも中継映像とディスプレイされる各種データを注視し続けていた。いよいよグラウザーの変身プロセスが始まるのである。
装着プロセス開始直前にG班が詰める研究室のモニターに、東京アバディーンからの街頭監視カメラからの映像が飛び込んで来たのだ。それは街頭施設に固定設置されているものではなく、警視庁が必要に応じて現場投入する非常用の望遠カメラドローンによるものである。洋上から数百メートルほどの距離を置いてグラウザーの姿を捉えているのである。
「これは?」
「グラウザーの現在映像ですよ」
「もしや? ディアリオか!」
大久保が問いかければ聞き慣れたディアリオの声が通信回線から届いてくる。
〔はい! 海上保安庁から緊急用の監視ドローンを1基拝借しました。東京アバディーンにあまり接近すると管理権限をハッキングされるのでこの辺がギリギリです〕
〔いや、望遠映像でも大助かりだ。このまま監視継続頼む!〕
〔了解です!〕
大久保がディアリオと言葉をかわしているその傍らで、G班研究室に駆け込んでくる人影が一つあった。長身の老齢の人物。その胸には第2科警研研究員主幹の肩書があった。
「大久保!」
その部屋に飛び込んできたのは呉川である。
「呉川さん?」
「新谷から連絡があってな。大急ぎで戻ってきたんだ。状況はどうなってる?」
大久保のすぐ背後に立つと多数並んだモニター・ディスプレイに映し出されるデータや映像に目を通して行く。
「はい、つい今しがたからディアリオの協力でグラウザーの現在映像を見ることができるようになりました。戦闘プログラムの自動起動の遠隔操作支援も成功、グラウザーの頭脳状況や自我意識をこちらからの支援で誘導することで、音声キーワードや幾つかの条件付けをリンクさせることに成功。これでいつでも自動装着プロセスに纏わる問題もクリアです」
自信ありげに満足そうに語る大久保には、成功への確信のほどが垣間見えていた。それを聞き、呉川も納得の表情で頷いていた。
「そうか! ついに成功したか!」
「はい、皮肉ですが、抜き差しならない状況を抱えた実戦に向かい合うことで、2次武装装着の必要性と戦闘プログラムであるBOシステム起動への強い動機が得られました。
それに加えて戦闘プログラムの起動トリガーをアイツの認識次第でいつでも起動可能な状態にまで引き上げることに成功しました。これでアイツの判断でいつでもBOシステムを作動させることができるようになります」
「よし! 最大の問題がまた一つ解決したな」
「はい、あとは――2次武装の自動装着プロセスが問題なく完了することを祈るのみです」
「うむ」
呉川も大久保の言葉にはっきりと頷いている。大久保は傍らの部下に問いかけた。
「懸案だった、人工脊椎システムと中枢頭脳部接続系統の余裕率はどうなってる?」
「余裕率は137%から落ちていません。負荷率も107%と安定します。このまま問題ないでしょう」
「よし、そのままモニタリングを継続してくれ」
「了解」
二人の会話に呉川が問いかける。
「余裕率? なにかあったのか?」
「どうやらグラウザーのやつ、ベルトコーネに相当強く頭部を打撃されたようです。自動回復は成功していますが、頭脳と脊髄の接続系統制御に若干の〝傷〟が残ってしまっているんです。バックアップ系統が問題なく作動しているんで今のところは問題ありませんが――」
「そいつぁまずいな――、この後の戦闘で問題が起きないといいが。脱出困難になる前に現状離脱と回収の方法を講じておこう。新谷に連絡して武装警官部隊の支援を取り付けさせよう」
「そうですね。私もそれがいいと思います」
「よし、そっちは任せろ」
「はい」
「――っと、なんだ? センチュリーも居るのか?」
「そのようですね」
モニター越しにセンチュリーの姿も映し出されている。だが、その時の彼の姿に呉川は驚きの声を上げたのだ。
「あの馬鹿! なんで戦闘用の防御装備を全部外してるんだ? ヘルメットも無しで丸裸じゃないか!?」
「たしか今夜のアイツの任務は潜入調査だったはずです。現地の人間に偽装するためでしょう」
「だからと言ってそんな状態でベルトコーネとやりあうなんぞ――いったい何考えてるんだ! 大久保ここは任せた、新谷に連絡してくるぞ」
「はい!」
センチュリーを手塩にかけて作り上げたのは呉川である。それ故にセンチュリーには日頃から何かと心を砕いてきた。それだけにモニター越しに見せられた綱渡りの状況に呉川も心穏やかというわけには行かないのだ。
足早にG班の部屋から出ると廊下でスマートフォンで新谷所長へと連絡を始める。大久保もその気配を感じながら、なおも中継映像とディスプレイされる各種データを注視し続けていた。いよいよグラウザーの変身プロセスが始まるのである。
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
神の国から逃げた神さまが、こっそり日本の家に住まうことになりました。
羽鶴 舞
キャラ文芸
神の国の試験に落ちてばかりの神さまが、ついにお仕置きされることに!
コワーイおじい様から逃げるために、下界である日本へ降臨!
神さまはこっそりと他人の家に勝手に住みこんでは、やりたい放題で周りを困らせていた。
主人公は、そんな困った神さまの面倒を見る羽目に……。
【完結しました。番外編も時々、アップする予定です】
社畜がひとり美女に囲まれなぜか戦場に~ヘタレの望まぬ成り上がり~
のらしろ
ライト文芸
都内のメーカーに勤務する蒼草秀長が、台風が接近する悪天候の中、お客様のいる北海道に出張することになった。
移動中の飛行機において、日頃の疲れから睡魔に襲われ爆睡し、次に気がついたときには、前線に向かう輸送機の中だった。
そこは、半世紀に渡り2つの大国が戦争を続けている異世界に直前に亡くなったボイラー修理工のグラスに魂だけが転移した。
グラスは周りから『ノラシロ』少尉と揶揄される、不出来な士官として前線に送られる途中だった。
蒼草秀長自身も魂の転移した先のグラスも共に争いごとが大嫌いな、しかも、血を見るのが嫌いというか、血を見て冷静でいられないおおよそ軍人の適正を全く欠いた人間であり、一人の士官として一人の軍人として、この厳しい世界で生きていけるのか甚だ疑問だ。
彼を乗せた輸送機が敵側兵士も多数いるジャングルで墜落する。
平和な日本から戦国さながらの厳しいこの異世界で、ノラシロ少尉ことヘタレ代表の蒼草秀長改めグラスが、はみ出しものの仲間とともに仕出かす騒動数々。
果たして彼は、過酷なこの異世界で生きていけるのだろか
主人公が、敵味方を問わず、殺さずに戦争をしていく残酷シーンの少ない戦記物です。
【完結】国を追われた巫女見習いは、隣国の後宮で二重に花開く
gari
キャラ文芸
☆たくさんの応援、ありがとうございました!☆ 植物を慈しむ巫女見習いの凛月には、二つの秘密がある。それは、『植物の心がわかること』『見目が変化すること』。
そんな凛月は、次期巫女を侮辱した罪を着せられ国外追放されてしまう。
心機一転、紹介状を手に向かったのは隣国の都。そこで偶然知り合ったのは、高官の峰風だった。
峰風の取次ぎで紹介先の人物との対面を果たすが、提案されたのは後宮内での二つの仕事。ある時は引きこもり後宮妃(欣怡)として巫女の務めを果たし、またある時は、少年宦官(子墨)として庭園管理の仕事をする、忙しくも楽しい二重生活が始まった。
仕事中に秘密の能力を活かし活躍したことで、子墨は女嫌いの峰風の助手に抜擢される。女であること・巫女であることを隠しつつ助手の仕事に邁進するが、これがきっかけとなり、宮廷内の様々な騒動に巻き込まれていく。
※ 一話の文字数を1,000~2,000文字程度で区切っているため、話数は多くなっています。
一部、話の繋がりの関係で3,000文字前後の物もあります。
モニターに応募したら、系外惑星に来てしまった。~どうせ地球には帰れないし、ロボ娘と猫耳魔法少女を連れて、惑星侵略を企む帝国軍と戦います。
津嶋朋靖(つしまともやす)
SF
近未来、物体の原子レベルまでの三次元構造を読みとるスキャナーが開発された。
とある企業で、そのスキャナーを使って人間の三次元データを集めるプロジェクトがスタートする。
主人公、北村海斗は、高額の報酬につられてデータを取るモニターに応募した。
スキャナーの中に入れられた海斗は、いつの間にか眠ってしまう。
そして、目が覚めた時、彼は見知らぬ世界にいたのだ。
いったい、寝ている間に何が起きたのか?
彼の前に現れたメイド姿のアンドロイドから、驚愕の事実を聞かされる。
ここは、二百年後の太陽系外の地球類似惑星。
そして、海斗は海斗であって海斗ではない。
二百年前にスキャナーで読み取られたデータを元に、三次元プリンターで作られたコピー人間だったのだ。
この惑星で生きていかざるを得なくなった海斗は、次第にこの惑星での争いに巻き込まれていく。
(この作品は小説家になろうとマグネットにも投稿してます)
釣り人居酒屋『魚んちゅ~』
ツ~
キャラ文芸
主人公、小城 綾香(こじょう あやか)は、ひょんなことをキッカケに釣り人居酒屋『魚んちゅ~』(うぉんちゅ~)でアルバイトを始める。
釣り人居酒屋と言うくらいだから、大将も店員も釣り好きばかり、もちろん、お客さんも釣り好きが多かった。そんな中、ド素人のアヤカは釣りにアルバイトに奮闘していく。
果たして、アヤカはどんな成長を遂げるのか?!
ほのぼのとしたお話です。料理も出てきますので、釣りにあまり興味のない方もよろしくお願いします
新・八百万の学校
浅井 ことは
キャラ文芸
八百万の学校 其の弐とはまた違うお話となっております。
十七代目当主の17歳、佐野翔平と火の神様である火之迦具土神、そして翔平の家族が神様の教育?
ほんわか現代ファンタジー!
※こちらの作品の八百万の学校は、神様の学校 八百万ご指南いたしますとして、壱巻・弐巻が書籍として発売されております。
その続編と思っていただければと。
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる