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第2章エクスプレス サイドB①魔窟の洋上楼閣都市/潜入編
Part5 七審・セブンカウンシル/メンツ―荒ぶる者の矜持―
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「状況は解った。それでこいつらに関して俺たちにどうしろっていうんだ?」
同様の疑問は他の者も抱いているのは明らかだ。ファイブはそれに答えた。
「まず――、四海幇の連中は見つけ次第粛清願います。彼らはこの街にふさわしくない。実を言うと僕の配下の者に命じて彼らと交渉を試みたのですがドロイドエージェントが3体破壊されました。マトモな交渉は不可能と見ていい。放置しておけば一般住民にすら手をかけかねない。極めて有害なクズどもです」
淡々冷静に説明するファイブだったが、使われる単語は極めて剣呑だった。そのファイブに伍が問いかける。
「貴方の配下――、サイレントデルタのメンバーユニットですね?」
「えぇ、下位ランクのディスポーザブルでしたので痛くも痒くもありませんが、交渉を持ちかけた途端、スタンガンとショットガンと鉄パイプで滅多打ちです。人間性のかけらもない。まさに動物以下です。即座に皆殺しにするべきだとは思うのですが、他の中華系住民――特に台湾系住民と誤認する可能性もあります。僕のサイレントデルタのネットワークで排除対象者リストを作成中です。それを用いて識別していただきたい。方法は皆さんにおまかせいたします」
サイレントデルタ――ファイブがメインリーダーとなり組織を束ねているサイバーマフィアだ。全メンバーがファイブのようなメカニカル体か偽装アンドロイドであり生身の人間は一人としていない。特に組織の下位ランクの者は所有する行動ユニットは使い捨てであり任務が終われば回収されることなく廃棄、または自爆する決まりを有している。極めて特殊な形態の組織である。
そして、ファイブの提案に答えたのは天龍だ。
「いいだろう、手を貸そう。東京都内や首都圏各地の緋色会系の傘下団体からも、シノギのじゃまになる台湾連中が増えたと相談が上がってきていたんだ。ただ、迂闊に手を出すと報復が面倒なのと、誤爆した場合に抗争案件になりかねないので手を焼いていたところだ。アンタのところの情報サポート付きなら誤爆も防げる。本来ならギャラを貰うところだが、うちの組織の粛清行動扱いでロハでやってやるよ」
「助かります、ミスター天龍。速やかなる処断をお願いいたしますよ」
「あぁ、任せておけ」
「さて、もう一つですが――」
「クラウンだな?」
ファイブの問いに即座に反応したのはペガソである。明確な敵意と殺意を隠そうともしなかった。
「今すぐにでもぶっ殺してやりたいところなんだがな」
「お気持ちはわかります。ミスターペガソ。ですが――」
「わかってるよ。ヤツとシェン・レイが手を組んでる状況で手を出すほど俺も馬鹿じゃねぇ。だが、何もせずに指を咥えて居るのも性に合わねえ」
「無論です。それにこのままやりたい放題に動かれるのも、この島の情報システムを束ねる僕としても居心地が悪い。そこで――」
ファイブは新たにデータベースを操作した。
「僕がこれまでに調べ上げたクラウンに関するデーターの全てを皆さんに公開します。そのうえで首都圏全域における、彼ら――クラウン一派の行動状況の監視活動をお願いしたい。その上でやつを仕留める『鍵』が得られたのなら、一気に畳み掛けるつもりです。正体不明の得体の知れないアンドロイドは2つもいらない。いずれ彼には姿を消していただくつもりです」
「まずは敵の足元を探る情報戦――、ってわけか」
「えぇ、その通りです」
「それにしても。ずいぶんとお前もやっこさんに敵意むき出しなんだな」
「もちろんです。多くは明かせませんがヤツと僕は相容れない存在だとだけ言っておきましょう。今はまだやつの足跡を追っている身ですが――、ミスターペガソ。貴方の復讐もいずれ果たせるはずです」
「解った。お前の計画に乗ってやるよ。最終的にたどり着くところが同じなら、お前みたいな正体不明なやつに協力するのも悪くねぇ」
ペガソのその言葉にファイブは答えなかった。だが、苛立ちや不快感を表すような反応が帰っていないことはペガソに対して好意的である事の証左でもあった。
「これは僕の個人的な推測ですが――、おそらくクラウンはこの国で何か大きな仕事をやろうとしているはずです。それがまだ何なのかは摑めていませんが、いかなる組織にも属さずスタンドアローンな存在で在り続けるアイツに自由に動かれるのは好ましくありません。我々のこの〝島〟の独立性を保つためにもヤツの行動には細心の注意をはらいたいのです」
それはファイブ自身の強い願望であった。それを否定する声は誰からも上がらなかったのである。
そして、之神老師が新たに問いかけた。
「それで、ミスターファイブ、残りの二人は?」
残る二人――シェン・レイとローラの事だ。
「こちらの二人は様子見といたしましょう。今のところ強い敵対関係には無いですしシェン・レイ自身がハイヘイズの子どもたちをこの島に住まわせている以上、我々と事を荒立てたいとは思っていないはずです。それにローラはその能力こそ侮れませんが、今やかつてのテロアンドロイドの印象はどこにもありません。まるっきりネニーロイドそのものの有様です。そこで――『ハイヘイズの子どもたちのお守役に専念している限り」――彼女の事は〝見なかった事〟にすることとしましょう。おそらくシェン・レイはいずれまた我々と交渉の席を設けるように望んでくるはずです」
「なるほど、その時の取引材料として温存しておくわけですな?」
「えぇ、その通りです。之神老師」
之神の問いにファイブは頷き、それに之神が畳み掛けた。
「切り札は少しでも多い方がいい。なるほど貴方の提案どおりとしましょう。私どもの配下にも監視の目は残しつつも、向こう側の行動については触れないように指示しておきましょう」
「あぁ、たしかにドラゴンのジィさんの言うとおりだな」
「あたしもそう思うよ。この小娘の情報はジョーカーとしてとっておいたほうが良い」
「それでしたら――」
モンスターやママノーラたちの会話に続くように伍が声を発した。
「彼女がこの街に住んでいる以上。表社会の一般市民と接触せずにはいられないはずです。この街の新華幇の口の硬い者にもローラについては、彼女とはごく普通に接するようにして、素性や正体に関しての情報は極力封じるように指示しておきましょう。その上でごく自然な生活が維持できるように裏から配慮しておきましょう。できるなら彼女がこの街から出ていく様な状況は避けるべきだと思います」
「僕もそれで良いと思います」
「では――」
之神が言葉を継いだ。四海幇、クラウン、シェン・レイ、ローラと続けば、その次に来るのはあの男だった。
「そうなると残る問題は〝あの男〟ですな」
そう、日本警察の手から逃亡したあの男だ。モンスターがその男の名を吐いた。
「ベルトコーネだろ? ディンキーの糞ジジィの人形の中じゃ一番面倒くさいヤツだ」
「そうだね、アイツは戦闘力は最強クラスだがすぐにキレて暴走する。ロシアのFSBでも相当腹を立ててるようだ。何しろ、公にできない形で、最低3度はロシア軍の精鋭部隊をぶっ壊しているからね。ヤツの横っ面をぶっ飛ばしたい御仁は世界中に居るはずさぁね」
ママノーラが補足をすれば天龍が苛立ちを隠さずに吐き捨てるように告げる。
「ヤツの戦歴なんてどうでもいい。今はヤツがどこに逃げたのか、それだけが重要なはずだ。日本警察すらも足跡を見失って頭を抱えてるって話だ。今、アイツにこの街にでも入られたら、やつを口実に日本の警察がいつ入り込んでくるとも限らん。この東京アバディーンの街で大暴れされたらそれこそ武装警官部隊を投入されかねん! あの疫病神を一刻も早く日本の外へとつまみ出す必要がある!」
「おやおや、サムライの同志、随分とご立腹だねえ」
ママノーラが天竜に指摘すれば返ってきたのは怒号である。
「当たり前だろうが!!」
どんなに紳士的に振る舞っていても天龍は生粋のジャパニーズヤクザだ。それも正統派の武闘派である。血の気の多さと口の悪さは隠しようがない。
「奴は――いや、奴らはな! この渡世の世界じゃ最大の御法度の二重契約をやらかしてたんだぞ! しかも相手はあのガサクだ! 俺たちにこの国への密入国の手引を依頼する以前から、奴らとつながりを持ち、ガサクの方の手引で日本上陸の手筈を端っから整えてたんだ! 俺達は始めっから舐められてたんだ! このままじゃ俺たちヤクザとしてのメンツが立たねぇんだよ! ローラとか言う小娘はテロ現場じゃマトモな活躍もせずに日本警察にあしらわれる体たらくだからこの際無視して構わねぇが、あのディンキーのジジィの右腕だったアイツは! ベルトコーネだけはゆるしちゃおけねえんだよ!」
メンツ――、闇社会におけるメンツ。
ママノーラも、モンスターも、ペガソも、之神老師も、闇社会に住まう者であるがためにその重要性は痛いほど分かっている。天龍の怒りを諭せるような言葉を彼らは持ち合わせては居らず沈黙するしかなかった。ましてや首謀者であるディンキーがすでに死んでいたと分かっている今、天龍たちが面目を取り戻すには、まさにベルトコーネを討つ以外に手段がないことは明白であった。怒りをむき出しにする天龍だったが、その彼に声をかけたのは、この会合を招集した張本人であるはずのファイブである。
「ミスター天龍。その点に関して私に提案があります」
「なに?!」
怒りの形相をむき出しにする天龍に対して、一切怯むことなくファイブは声をかけた。それは狼狽しつつの取り繕いの言葉ではない。自信と知慧に満ちた知恵者の言葉である。
「今、ヤツの置かれている状態を逆利用するのです。そのための方策についてお話したいのですがお聞きになられますか?」
ファイブは天龍を試すように窺い声をかけてきた。その意図を察して、天龍はつとめて気持ちを落ち着けると、怒りを隠さぬ視線のままファイブを睨み返した。
「聞かせてもらおうか」
無視する訳には行かなかった。椅子に座りなおすと改めてファイブの方を睨み返してくる。
ファイブは言葉を選びながら皆にこう告げたのだ。
「では、今夜皆様にお集まりいただいたもう一つの目的についてご説明しましょう」
これまでの話は前哨戦に過ぎなかった。ファイブが彼らを招集した理由はまさに別にあったのである。
同様の疑問は他の者も抱いているのは明らかだ。ファイブはそれに答えた。
「まず――、四海幇の連中は見つけ次第粛清願います。彼らはこの街にふさわしくない。実を言うと僕の配下の者に命じて彼らと交渉を試みたのですがドロイドエージェントが3体破壊されました。マトモな交渉は不可能と見ていい。放置しておけば一般住民にすら手をかけかねない。極めて有害なクズどもです」
淡々冷静に説明するファイブだったが、使われる単語は極めて剣呑だった。そのファイブに伍が問いかける。
「貴方の配下――、サイレントデルタのメンバーユニットですね?」
「えぇ、下位ランクのディスポーザブルでしたので痛くも痒くもありませんが、交渉を持ちかけた途端、スタンガンとショットガンと鉄パイプで滅多打ちです。人間性のかけらもない。まさに動物以下です。即座に皆殺しにするべきだとは思うのですが、他の中華系住民――特に台湾系住民と誤認する可能性もあります。僕のサイレントデルタのネットワークで排除対象者リストを作成中です。それを用いて識別していただきたい。方法は皆さんにおまかせいたします」
サイレントデルタ――ファイブがメインリーダーとなり組織を束ねているサイバーマフィアだ。全メンバーがファイブのようなメカニカル体か偽装アンドロイドであり生身の人間は一人としていない。特に組織の下位ランクの者は所有する行動ユニットは使い捨てであり任務が終われば回収されることなく廃棄、または自爆する決まりを有している。極めて特殊な形態の組織である。
そして、ファイブの提案に答えたのは天龍だ。
「いいだろう、手を貸そう。東京都内や首都圏各地の緋色会系の傘下団体からも、シノギのじゃまになる台湾連中が増えたと相談が上がってきていたんだ。ただ、迂闊に手を出すと報復が面倒なのと、誤爆した場合に抗争案件になりかねないので手を焼いていたところだ。アンタのところの情報サポート付きなら誤爆も防げる。本来ならギャラを貰うところだが、うちの組織の粛清行動扱いでロハでやってやるよ」
「助かります、ミスター天龍。速やかなる処断をお願いいたしますよ」
「あぁ、任せておけ」
「さて、もう一つですが――」
「クラウンだな?」
ファイブの問いに即座に反応したのはペガソである。明確な敵意と殺意を隠そうともしなかった。
「今すぐにでもぶっ殺してやりたいところなんだがな」
「お気持ちはわかります。ミスターペガソ。ですが――」
「わかってるよ。ヤツとシェン・レイが手を組んでる状況で手を出すほど俺も馬鹿じゃねぇ。だが、何もせずに指を咥えて居るのも性に合わねえ」
「無論です。それにこのままやりたい放題に動かれるのも、この島の情報システムを束ねる僕としても居心地が悪い。そこで――」
ファイブは新たにデータベースを操作した。
「僕がこれまでに調べ上げたクラウンに関するデーターの全てを皆さんに公開します。そのうえで首都圏全域における、彼ら――クラウン一派の行動状況の監視活動をお願いしたい。その上でやつを仕留める『鍵』が得られたのなら、一気に畳み掛けるつもりです。正体不明の得体の知れないアンドロイドは2つもいらない。いずれ彼には姿を消していただくつもりです」
「まずは敵の足元を探る情報戦――、ってわけか」
「えぇ、その通りです」
「それにしても。ずいぶんとお前もやっこさんに敵意むき出しなんだな」
「もちろんです。多くは明かせませんがヤツと僕は相容れない存在だとだけ言っておきましょう。今はまだやつの足跡を追っている身ですが――、ミスターペガソ。貴方の復讐もいずれ果たせるはずです」
「解った。お前の計画に乗ってやるよ。最終的にたどり着くところが同じなら、お前みたいな正体不明なやつに協力するのも悪くねぇ」
ペガソのその言葉にファイブは答えなかった。だが、苛立ちや不快感を表すような反応が帰っていないことはペガソに対して好意的である事の証左でもあった。
「これは僕の個人的な推測ですが――、おそらくクラウンはこの国で何か大きな仕事をやろうとしているはずです。それがまだ何なのかは摑めていませんが、いかなる組織にも属さずスタンドアローンな存在で在り続けるアイツに自由に動かれるのは好ましくありません。我々のこの〝島〟の独立性を保つためにもヤツの行動には細心の注意をはらいたいのです」
それはファイブ自身の強い願望であった。それを否定する声は誰からも上がらなかったのである。
そして、之神老師が新たに問いかけた。
「それで、ミスターファイブ、残りの二人は?」
残る二人――シェン・レイとローラの事だ。
「こちらの二人は様子見といたしましょう。今のところ強い敵対関係には無いですしシェン・レイ自身がハイヘイズの子どもたちをこの島に住まわせている以上、我々と事を荒立てたいとは思っていないはずです。それにローラはその能力こそ侮れませんが、今やかつてのテロアンドロイドの印象はどこにもありません。まるっきりネニーロイドそのものの有様です。そこで――『ハイヘイズの子どもたちのお守役に専念している限り」――彼女の事は〝見なかった事〟にすることとしましょう。おそらくシェン・レイはいずれまた我々と交渉の席を設けるように望んでくるはずです」
「なるほど、その時の取引材料として温存しておくわけですな?」
「えぇ、その通りです。之神老師」
之神の問いにファイブは頷き、それに之神が畳み掛けた。
「切り札は少しでも多い方がいい。なるほど貴方の提案どおりとしましょう。私どもの配下にも監視の目は残しつつも、向こう側の行動については触れないように指示しておきましょう」
「あぁ、たしかにドラゴンのジィさんの言うとおりだな」
「あたしもそう思うよ。この小娘の情報はジョーカーとしてとっておいたほうが良い」
「それでしたら――」
モンスターやママノーラたちの会話に続くように伍が声を発した。
「彼女がこの街に住んでいる以上。表社会の一般市民と接触せずにはいられないはずです。この街の新華幇の口の硬い者にもローラについては、彼女とはごく普通に接するようにして、素性や正体に関しての情報は極力封じるように指示しておきましょう。その上でごく自然な生活が維持できるように裏から配慮しておきましょう。できるなら彼女がこの街から出ていく様な状況は避けるべきだと思います」
「僕もそれで良いと思います」
「では――」
之神が言葉を継いだ。四海幇、クラウン、シェン・レイ、ローラと続けば、その次に来るのはあの男だった。
「そうなると残る問題は〝あの男〟ですな」
そう、日本警察の手から逃亡したあの男だ。モンスターがその男の名を吐いた。
「ベルトコーネだろ? ディンキーの糞ジジィの人形の中じゃ一番面倒くさいヤツだ」
「そうだね、アイツは戦闘力は最強クラスだがすぐにキレて暴走する。ロシアのFSBでも相当腹を立ててるようだ。何しろ、公にできない形で、最低3度はロシア軍の精鋭部隊をぶっ壊しているからね。ヤツの横っ面をぶっ飛ばしたい御仁は世界中に居るはずさぁね」
ママノーラが補足をすれば天龍が苛立ちを隠さずに吐き捨てるように告げる。
「ヤツの戦歴なんてどうでもいい。今はヤツがどこに逃げたのか、それだけが重要なはずだ。日本警察すらも足跡を見失って頭を抱えてるって話だ。今、アイツにこの街にでも入られたら、やつを口実に日本の警察がいつ入り込んでくるとも限らん。この東京アバディーンの街で大暴れされたらそれこそ武装警官部隊を投入されかねん! あの疫病神を一刻も早く日本の外へとつまみ出す必要がある!」
「おやおや、サムライの同志、随分とご立腹だねえ」
ママノーラが天竜に指摘すれば返ってきたのは怒号である。
「当たり前だろうが!!」
どんなに紳士的に振る舞っていても天龍は生粋のジャパニーズヤクザだ。それも正統派の武闘派である。血の気の多さと口の悪さは隠しようがない。
「奴は――いや、奴らはな! この渡世の世界じゃ最大の御法度の二重契約をやらかしてたんだぞ! しかも相手はあのガサクだ! 俺たちにこの国への密入国の手引を依頼する以前から、奴らとつながりを持ち、ガサクの方の手引で日本上陸の手筈を端っから整えてたんだ! 俺達は始めっから舐められてたんだ! このままじゃ俺たちヤクザとしてのメンツが立たねぇんだよ! ローラとか言う小娘はテロ現場じゃマトモな活躍もせずに日本警察にあしらわれる体たらくだからこの際無視して構わねぇが、あのディンキーのジジィの右腕だったアイツは! ベルトコーネだけはゆるしちゃおけねえんだよ!」
メンツ――、闇社会におけるメンツ。
ママノーラも、モンスターも、ペガソも、之神老師も、闇社会に住まう者であるがためにその重要性は痛いほど分かっている。天龍の怒りを諭せるような言葉を彼らは持ち合わせては居らず沈黙するしかなかった。ましてや首謀者であるディンキーがすでに死んでいたと分かっている今、天龍たちが面目を取り戻すには、まさにベルトコーネを討つ以外に手段がないことは明白であった。怒りをむき出しにする天龍だったが、その彼に声をかけたのは、この会合を招集した張本人であるはずのファイブである。
「ミスター天龍。その点に関して私に提案があります」
「なに?!」
怒りの形相をむき出しにする天龍に対して、一切怯むことなくファイブは声をかけた。それは狼狽しつつの取り繕いの言葉ではない。自信と知慧に満ちた知恵者の言葉である。
「今、ヤツの置かれている状態を逆利用するのです。そのための方策についてお話したいのですがお聞きになられますか?」
ファイブは天龍を試すように窺い声をかけてきた。その意図を察して、天龍はつとめて気持ちを落ち着けると、怒りを隠さぬ視線のままファイブを睨み返した。
「聞かせてもらおうか」
無視する訳には行かなかった。椅子に座りなおすと改めてファイブの方を睨み返してくる。
ファイブは言葉を選びながら皆にこう告げたのだ。
「では、今夜皆様にお集まりいただいたもう一つの目的についてご説明しましょう」
これまでの話は前哨戦に過ぎなかった。ファイブが彼らを招集した理由はまさに別にあったのである。
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