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第2章エクスプレス グランドプロローグ
サイドAプロローグ マイ・オールド・フレンズ/再開・竹馬の友
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それから2時間がたった。
午後7時をすっかり回り、周囲は夜の帳のなかにすっかり入りこんでいる。
やっと帰還できた大久保たちを待っていたのは意外にも布平班の金沢だった。大久保は彼女に問うた。
「あれ? ゆきちゃん、なぜ一人でここに?」
レクリエーションルームで一人、彼女は丸テーブルの上に様々な画材を広げていた。
その中には特攻装警のフィールをモデルとしたファッションイラストも数点ある。
彼女は大久保らに気付かれて照れ臭そうにそれらをかたずけている。
「あ、今、実働試験中のフィールの姉妹機の関連資料です。外見デザインの調整と、業務用のコスチュームも仕上げに入ったんで」
「そうか、ゆきちゃんの担当はそっち方面だったな」
「はい」
ゆきは呉川の声にコクンとうなづいた。照れ臭さのなかに喜びが交じっている。
「それ、F班の仕事?」
「それもありますけど自分の本来のお仕事のもあります。フィールが成功してから、アンドロイド関連で協力依頼が増えてるもので」
ゆきはF班所属だが嘱託職員扱いになっている。彼女本来の仕事である生活環境工学や服飾文化研究家としての活動も平行して行っているためだ。彼女が本来所属していた大学を休職して第2科警研に参加しているのだが第2科警研以外の仕事も依頼されることもある。特にアンドロイド関連の外見デザインやコスチュームについてのアドバイス依頼が急激に増えていた。いずれもフィールの成功によるものだった。
「そうか、大変だな」
「いえ、好きな仕事だからそうでもないです。あ、わたしもそろそろ帰ります」
そう言いつつも、金沢はあらかた片付け終えていた。いつもながら作業の手際が一番早いのが彼女の取り柄の一つだった。立ち上がろうとする彼女に大久保が声をかける。
「ねぇ、よかったらみんなと一緒に飲みに行かない?」
「あ、ひょっとしてグラウザーのテストの打ち上げですか?」
大久保は金沢の問いにうなずきで答える。
「来るかい?」
「はい~!」
金沢はバッグを抱えてうれしそうに立ち上がる。決して酒に強くはないが、人の輪の中に入るのは彼女は何よりも好きだった。そんな時、彼らに声がかけられる。
「班長! 後片付け終わりました!!」
大久保は、わかったと声を返すと、金沢を一行の中に加え一路第2科警研を後にする。
その第2科警研からそれほど離れてはいない場所、駅で2つほど移動した場所にそれなりの規模の繁華街がある。
第2科警研のある府中は周囲を様々な種の企業施設に埋めつくされた新産業エリアだ。
21世紀になり中央リニアが開通して以来、新たなる都市スポットとして横浜や池袋などに比肩する程の大情報都市へと変貌しつつあった。それゆえに、近在の色々な企業の技術者・エンジニアたちがその界隈に定番コースで流れてくる。
その店「こずえ」も、そんな種の店の一つで、とりわけアンドロイド・ロボット関連の技術者には名の通った店である。
大久保たちはのれんをくぐり店に入る。意外と広い店内にはカウンターや和風のテーブル席のほか、畳み敷きの和室もある。その和室の一角には第2科警研の幹部技術者である市野の姿もあった。
彼は部下の技術者を一人連れて先回り待っていた。
だが、ほとんど酒に手を付けずにシラフで待っていたのは彼なりの礼儀らしい。
市野が手を振って大久保たちを歓迎する。そして、一行は座敷へと集まって行く。
それから座にグラスが一通りまわった頃だ。
「失礼、ひょっとして呉川か?」
彼らの座敷を覗きながら声を掛けてくる人影がある。一同、何が起こったのかはすぐには理解できないでいる。だが、一人呉川だけはその声の主に記憶の一致があった。
「菱畑?」
呉川の発する声に人影は大きくうなづいた。
「おまえ、なんでここに?!」
「何ででもいいだろ! それより何年ぶりだよ!?」
「8年……いや12年ぶりか? それより以前に会ったのはどこでだったかな!?」
「俺が愛知の方に転勤になるときだろ? それより呉川――」
「なんだ?」
「老けたなぁ!」
[お前もだろう?!」
「お互い様だよ!」
その二人のやりとりを第2科警研の連中は呆然としてみていた。彼らをかやの外にして唐突に始まった再開劇にはみな立ち入ることはできなくなっていた。
呉川もその事をすぐに察して背後をふりかえる。
「紹介するよ、俺の高校時代からの友達の菱畑だ」
遅ればせながら、と菱畑は断りつつも自己紹介をする。そして呉川が言葉を足した。
「申し訳ないが少し席を外させてくれないか?」
「はい、どうぞごゆっくり」
大久保が呉川の本意を察して答えを返した。それに感謝するように手を振って呉川はその場を後にする。
そこそこに広い店内の中、窓際のテーブル席に4人の男たちが座っている。
彼らは菱畑の姿が戻ってくると、呉川の姿を見てこう声を掛けてくる。
「主任、その方は?」
「紹介するよ、俺の古い親友の呉川だ。たまたまこの店の奥で飲んでたんだ」
今度は菱畑が呉川の事を紹介する番だった。菱畑の紹介に彼の部下が頭をさげる。
そして呉川が用意された丸椅子に座ると、菱畑は彼にたずねた。
「そうだ、おまえ何をしているんだ?」
「あ? 俺か?」
そこまで尋ねられて呉川は言葉を詰まらせる。ほんの少し逡巡してトーンを押さえてみなに答える。
「ん~、役所がらみでアンドロイドの研究をやらせてもらってるよ。ま、事実上の宮仕えってところだ。今日きてたのは俺の部下たちだ」
「そうか」
菱旗は呉川の微妙な言い回しを問いただすこと無く受け流す。そして、菱畑は一息おいて逆に呉川に向けて言葉を発した。
「そうだ呉川、紹介するよ。俺がいま指揮をとってるリニアモーター列車の開発チームの幹部メンバーだ、皆十数年来の付き合いだ」
菱畑の声に導かれて、様々な顔が呉川に向けて礼をする。若い顔もあれば菱畑や呉川とさほど離れていない顔もある。ただ、その人数の少なさが、逆に彼らの結びつきの強さを醸し出していた。
呉川はさらにたずねる。
「リニアモーター? JRのマグレブか?」
「いや、違う」
「違う? じゃあ、HSSTか?」
そこで菱畑はいたずらげな笑みを浮かべる。
「な、呉川、関東サテライトリニアって知ってるか?」
「馬鹿にするなよ、それくらい知ってるさ。横浜・八王子・埼玉・千葉など、関東の大規模都市を巨大な環状線でネットする高速列車網だろ? 有明1000mビルとならんで騒ぎの的になってる。知らないほうが変だ」
「うれしいなそこまで言ってくれると……実はな、俺がいまやっているのは、そこの開発研究の総指揮なんだよ」
「ほうそうか――え、なに?」
めずらしくも、呉川はその口を半開きにしていた。彼らしくもない驚きの表情だ。
そのショックを押さえ込んで呉川は彼らに問う。
「サテライトリニアって、あのあれを? お前が? おいっ……数百億規模の巨大開発だろ? その指揮をお前がやっているのか?」
「正確には列車に関する技術開発がメインだがな。鉄道小僧のコケの一念さ」
そこで、呉川は黙って右手を差しだした。菱畑もその手の意味をすぐに悟り、同じく右手をだし返した。二人は何も言わず手を強く握り合う。やがて、感極まった呉川の口から言葉が漏れた。
「大望成就だな! おめでとう」
「ありがとう、呉川」
脇から菱畑の部下がビールビンを差しだしてきた。
「呉川さんもどうぞ。今日はその研究完成の打ち上げなんです」
呉川の前には座の者が気を利かせて用意したグラスがあった。彼はそれを遠慮無く手にとり乾杯にあずかる事にする。
「それじゃ、みなの夢の実現と、お前との再開を祝って」
そしていくつかのグラスが鳴る。
呉川と菱畑……再会した親友同士の最高の一時の始まりである。
午後7時をすっかり回り、周囲は夜の帳のなかにすっかり入りこんでいる。
やっと帰還できた大久保たちを待っていたのは意外にも布平班の金沢だった。大久保は彼女に問うた。
「あれ? ゆきちゃん、なぜ一人でここに?」
レクリエーションルームで一人、彼女は丸テーブルの上に様々な画材を広げていた。
その中には特攻装警のフィールをモデルとしたファッションイラストも数点ある。
彼女は大久保らに気付かれて照れ臭そうにそれらをかたずけている。
「あ、今、実働試験中のフィールの姉妹機の関連資料です。外見デザインの調整と、業務用のコスチュームも仕上げに入ったんで」
「そうか、ゆきちゃんの担当はそっち方面だったな」
「はい」
ゆきは呉川の声にコクンとうなづいた。照れ臭さのなかに喜びが交じっている。
「それ、F班の仕事?」
「それもありますけど自分の本来のお仕事のもあります。フィールが成功してから、アンドロイド関連で協力依頼が増えてるもので」
ゆきはF班所属だが嘱託職員扱いになっている。彼女本来の仕事である生活環境工学や服飾文化研究家としての活動も平行して行っているためだ。彼女が本来所属していた大学を休職して第2科警研に参加しているのだが第2科警研以外の仕事も依頼されることもある。特にアンドロイド関連の外見デザインやコスチュームについてのアドバイス依頼が急激に増えていた。いずれもフィールの成功によるものだった。
「そうか、大変だな」
「いえ、好きな仕事だからそうでもないです。あ、わたしもそろそろ帰ります」
そう言いつつも、金沢はあらかた片付け終えていた。いつもながら作業の手際が一番早いのが彼女の取り柄の一つだった。立ち上がろうとする彼女に大久保が声をかける。
「ねぇ、よかったらみんなと一緒に飲みに行かない?」
「あ、ひょっとしてグラウザーのテストの打ち上げですか?」
大久保は金沢の問いにうなずきで答える。
「来るかい?」
「はい~!」
金沢はバッグを抱えてうれしそうに立ち上がる。決して酒に強くはないが、人の輪の中に入るのは彼女は何よりも好きだった。そんな時、彼らに声がかけられる。
「班長! 後片付け終わりました!!」
大久保は、わかったと声を返すと、金沢を一行の中に加え一路第2科警研を後にする。
その第2科警研からそれほど離れてはいない場所、駅で2つほど移動した場所にそれなりの規模の繁華街がある。
第2科警研のある府中は周囲を様々な種の企業施設に埋めつくされた新産業エリアだ。
21世紀になり中央リニアが開通して以来、新たなる都市スポットとして横浜や池袋などに比肩する程の大情報都市へと変貌しつつあった。それゆえに、近在の色々な企業の技術者・エンジニアたちがその界隈に定番コースで流れてくる。
その店「こずえ」も、そんな種の店の一つで、とりわけアンドロイド・ロボット関連の技術者には名の通った店である。
大久保たちはのれんをくぐり店に入る。意外と広い店内にはカウンターや和風のテーブル席のほか、畳み敷きの和室もある。その和室の一角には第2科警研の幹部技術者である市野の姿もあった。
彼は部下の技術者を一人連れて先回り待っていた。
だが、ほとんど酒に手を付けずにシラフで待っていたのは彼なりの礼儀らしい。
市野が手を振って大久保たちを歓迎する。そして、一行は座敷へと集まって行く。
それから座にグラスが一通りまわった頃だ。
「失礼、ひょっとして呉川か?」
彼らの座敷を覗きながら声を掛けてくる人影がある。一同、何が起こったのかはすぐには理解できないでいる。だが、一人呉川だけはその声の主に記憶の一致があった。
「菱畑?」
呉川の発する声に人影は大きくうなづいた。
「おまえ、なんでここに?!」
「何ででもいいだろ! それより何年ぶりだよ!?」
「8年……いや12年ぶりか? それより以前に会ったのはどこでだったかな!?」
「俺が愛知の方に転勤になるときだろ? それより呉川――」
「なんだ?」
「老けたなぁ!」
[お前もだろう?!」
「お互い様だよ!」
その二人のやりとりを第2科警研の連中は呆然としてみていた。彼らをかやの外にして唐突に始まった再開劇にはみな立ち入ることはできなくなっていた。
呉川もその事をすぐに察して背後をふりかえる。
「紹介するよ、俺の高校時代からの友達の菱畑だ」
遅ればせながら、と菱畑は断りつつも自己紹介をする。そして呉川が言葉を足した。
「申し訳ないが少し席を外させてくれないか?」
「はい、どうぞごゆっくり」
大久保が呉川の本意を察して答えを返した。それに感謝するように手を振って呉川はその場を後にする。
そこそこに広い店内の中、窓際のテーブル席に4人の男たちが座っている。
彼らは菱畑の姿が戻ってくると、呉川の姿を見てこう声を掛けてくる。
「主任、その方は?」
「紹介するよ、俺の古い親友の呉川だ。たまたまこの店の奥で飲んでたんだ」
今度は菱畑が呉川の事を紹介する番だった。菱畑の紹介に彼の部下が頭をさげる。
そして呉川が用意された丸椅子に座ると、菱畑は彼にたずねた。
「そうだ、おまえ何をしているんだ?」
「あ? 俺か?」
そこまで尋ねられて呉川は言葉を詰まらせる。ほんの少し逡巡してトーンを押さえてみなに答える。
「ん~、役所がらみでアンドロイドの研究をやらせてもらってるよ。ま、事実上の宮仕えってところだ。今日きてたのは俺の部下たちだ」
「そうか」
菱旗は呉川の微妙な言い回しを問いただすこと無く受け流す。そして、菱畑は一息おいて逆に呉川に向けて言葉を発した。
「そうだ呉川、紹介するよ。俺がいま指揮をとってるリニアモーター列車の開発チームの幹部メンバーだ、皆十数年来の付き合いだ」
菱畑の声に導かれて、様々な顔が呉川に向けて礼をする。若い顔もあれば菱畑や呉川とさほど離れていない顔もある。ただ、その人数の少なさが、逆に彼らの結びつきの強さを醸し出していた。
呉川はさらにたずねる。
「リニアモーター? JRのマグレブか?」
「いや、違う」
「違う? じゃあ、HSSTか?」
そこで菱畑はいたずらげな笑みを浮かべる。
「な、呉川、関東サテライトリニアって知ってるか?」
「馬鹿にするなよ、それくらい知ってるさ。横浜・八王子・埼玉・千葉など、関東の大規模都市を巨大な環状線でネットする高速列車網だろ? 有明1000mビルとならんで騒ぎの的になってる。知らないほうが変だ」
「うれしいなそこまで言ってくれると……実はな、俺がいまやっているのは、そこの開発研究の総指揮なんだよ」
「ほうそうか――え、なに?」
めずらしくも、呉川はその口を半開きにしていた。彼らしくもない驚きの表情だ。
そのショックを押さえ込んで呉川は彼らに問う。
「サテライトリニアって、あのあれを? お前が? おいっ……数百億規模の巨大開発だろ? その指揮をお前がやっているのか?」
「正確には列車に関する技術開発がメインだがな。鉄道小僧のコケの一念さ」
そこで、呉川は黙って右手を差しだした。菱畑もその手の意味をすぐに悟り、同じく右手をだし返した。二人は何も言わず手を強く握り合う。やがて、感極まった呉川の口から言葉が漏れた。
「大望成就だな! おめでとう」
「ありがとう、呉川」
脇から菱畑の部下がビールビンを差しだしてきた。
「呉川さんもどうぞ。今日はその研究完成の打ち上げなんです」
呉川の前には座の者が気を利かせて用意したグラスがあった。彼はそれを遠慮無く手にとり乾杯にあずかる事にする。
「それじゃ、みなの夢の実現と、お前との再開を祝って」
そしていくつかのグラスが鳴る。
呉川と菱畑……再会した親友同士の最高の一時の始まりである。
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