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第1章ルーキーPartⅢ『天空のコロッセオ』
第21話 天空のコロッセオⅡ/ー凶者の慈母愛ー
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「もう、終わりにしましょう」
そうつぶやくと、フィールは両手のタランチュラをフル稼働させる。そして、全身のMHD推進装置と電磁バーニヤを全開すると地上での最大速度での超高速移動を発動させた。
【 速度レンジ・マキシマム 】
【 体内負荷 限界値の95%まで 】
【 非飛行高速移動モード 】
【 ―――超高速機動――発動――― 】
最大瞬間速度、マッハ0.92
ソニックブームを起こすギリギリのレベルでの超高速移動
アンジェとローラの視界の中で、一瞬、歪んだ残像を残したと思うと、フィールは耳障りな超音波ノイズを撒き散らしながら、大量の単分子ワイヤーを放射していく。
そして、タランチュラの名が示す通り、犯罪者と言う得物を捕らえるための極めて高度な蜘蛛の巣を瞬く間に組み上げていく。
フィールに対して、大きく油断していたアンジェには、それから逃れるチャンスははじめから存在していなかった。
驚く間もなく、アンジェの頭部から広がっていた銀髪の群れは、フィールが放つ銀色に光る糸により瞬時に絡め取られ締めあげられていく。当然、アンジェは自分の電磁波能力を駆使することで容易に脱出可能だとたかを括っていた。
「こんな糸など――」
簡単に切れる――はずだった。
「なにっ?」
切れない。マイクロ波切断が通じない。加熱による破壊もできない。ただの炭素製の糸なのに、なぜ? 焦りと驚きを隠せないアンジェに、フィールは速度を落として姿を現すとこう告げる。
「よくお聞きなさい――」
わずか5秒足らずの間にアンジェの全ての髪とその体躯の拘束を完了する。そして、さらなる攻撃を加える。限界マックスレベルでの超加速のためフィールのボディの全身から熱気があがっていて、陽炎をまとっている。
【 単分子ワイヤー通電スタート 】
【 高圧三相マイクロ波放射 】
ワイヤーに高圧マイクロ波が流される。これにより単分子ワイヤーはさらなる切断力を発揮する。
「――技術と言うのはね、常に改良されるのよ!」
フィールのその叫びとともにアンジェの銀髪は無残なまでに切り刻まれる。そして、その本体にも高圧マイクロ波は流され、一瞬のけぞったかと思うと、そのままアンジェの身体は地面に崩れ落ちた。
「まずは一体」
アンジェを始末したフィールは、そうつぶやきつつ視線をローラへと向ける。使用済みのワイヤーを指の付け根から切り離すとローラに向けて数歩歩き出す。かたやローラは、その視線を受けて不意に怯えと恐怖をその体から発露し始めた。
「次はあなた。大人しく投降するなら破壊はしません」
鋭く、なによりも強い視線で、フィールはローラを見据えた。
こんな事は初めてだった。怖い、怖い、怖い――、ローラは、フィールの視線から恐怖と言う感覚を感じている。
生まれて初めて感じる恐怖という感覚。絶望的なまでに『敵わない』と言う感覚。
それを彼女は理解できずにパニックを起こしかけていた。
ローラは必死に探していた。今、この場で取りうる手段を。
逃げようか? 否、それだけは選べない。
ならば近接して格闘戦では? 否、あのワイヤーに捉えられるだろう。
それでは得意の超高速戦闘は? 否、この眼前のアンドロイドの瞬間高速性能はローラのそれと比肩するものだ。速度で凌駕できなければ、超高速戦闘には意味が無い。
それでは何がある? どうすればいい?
必死に判断を繰り返せば、ローラにとってもう一つの特殊機能である“光による攻撃”は、そのエネルギーの蓄積度を70%までに回復している事に気付いた。
殺ろう。相打ちとなってでもコイツを破壊する。
彼女には逃げるという価値観はない。ただただ、破壊と殺戮しか無いのだ。
だが、そのローラの脳裏に誰かが囁きかけてくる。
――逃げなさい――
短くシンプルなメッセージ、そのメッセージの主はフィールに打倒されたはずのアンジェだった。
アンジェは立ち上がった。短く乱暴に切断された髪の毛を不完全ながら再生しつつ、マイクロ波で焼かれた身体を起こして立ち上がろうとしていた。そして、フィールの背後からゆっくりと近づきつつ、その視線はローラへと向けられていた。
優しい視線だった。いつもの戦闘行動中の威圧的で高圧的な立ち振舞の中の視線とは違う。
その視線がローラに告げている。戦ってはいけないと。
アンジェは不完全ながら再生したその銀髪を再び広げると周囲の木々をなぎはらいはじめる。彼女の銀の髪は幾重にも分れる剃刀となり、なぎ払った木々をさらなる破片へと変える。
その木端が燃え上がった。粉塵爆発をするかのように、強力な衝撃波を伴いながら、それは周囲の木々へと大きく燃え広がる。
フィールは気付いていた。その火炎の中に立ちすくむアンジェを。
今はアンジェの方を完全に停止させねばならない。火炎に通常視力を奪われたが、フィールは迷う事なく視覚を熱光学サーモグラフィーに切り替える。
「マイクロ波点火だ――」
機能停止寸前のアンジェが最後に見せた技だった。その火炎の高温の中に、微妙に温度が低いところがある。そこにアンジェが居る。
彼女のその決死の行動が仲間の逃亡を促すためであることはフィールにもわかりきっていた。同時に、仲間が逃げおおせられたとしてもアンジェ自身は助からないことも明らかだった。
そこまで仲間を思う心性があるのなら、なぜテロリズムなどに手を染めるのだろう。
焼け焦げながらもローラを逃がそうとするアンジェの姿は矛盾に満ちていた。
だが、それと同時に人間もアンドロイドも、犯罪者というのは往々にして、同じ価値観を持つ仲間同士では信頼と慈愛に満ちた行動をすることがある。すなわち〝同胞〟であるからだ。
瞬時に広がりゆく火炎フィールドを目の当たりにしてフィールは彼女を破壊する決心をした。
そうつぶやくと、フィールは両手のタランチュラをフル稼働させる。そして、全身のMHD推進装置と電磁バーニヤを全開すると地上での最大速度での超高速移動を発動させた。
【 速度レンジ・マキシマム 】
【 体内負荷 限界値の95%まで 】
【 非飛行高速移動モード 】
【 ―――超高速機動――発動――― 】
最大瞬間速度、マッハ0.92
ソニックブームを起こすギリギリのレベルでの超高速移動
アンジェとローラの視界の中で、一瞬、歪んだ残像を残したと思うと、フィールは耳障りな超音波ノイズを撒き散らしながら、大量の単分子ワイヤーを放射していく。
そして、タランチュラの名が示す通り、犯罪者と言う得物を捕らえるための極めて高度な蜘蛛の巣を瞬く間に組み上げていく。
フィールに対して、大きく油断していたアンジェには、それから逃れるチャンスははじめから存在していなかった。
驚く間もなく、アンジェの頭部から広がっていた銀髪の群れは、フィールが放つ銀色に光る糸により瞬時に絡め取られ締めあげられていく。当然、アンジェは自分の電磁波能力を駆使することで容易に脱出可能だとたかを括っていた。
「こんな糸など――」
簡単に切れる――はずだった。
「なにっ?」
切れない。マイクロ波切断が通じない。加熱による破壊もできない。ただの炭素製の糸なのに、なぜ? 焦りと驚きを隠せないアンジェに、フィールは速度を落として姿を現すとこう告げる。
「よくお聞きなさい――」
わずか5秒足らずの間にアンジェの全ての髪とその体躯の拘束を完了する。そして、さらなる攻撃を加える。限界マックスレベルでの超加速のためフィールのボディの全身から熱気があがっていて、陽炎をまとっている。
【 単分子ワイヤー通電スタート 】
【 高圧三相マイクロ波放射 】
ワイヤーに高圧マイクロ波が流される。これにより単分子ワイヤーはさらなる切断力を発揮する。
「――技術と言うのはね、常に改良されるのよ!」
フィールのその叫びとともにアンジェの銀髪は無残なまでに切り刻まれる。そして、その本体にも高圧マイクロ波は流され、一瞬のけぞったかと思うと、そのままアンジェの身体は地面に崩れ落ちた。
「まずは一体」
アンジェを始末したフィールは、そうつぶやきつつ視線をローラへと向ける。使用済みのワイヤーを指の付け根から切り離すとローラに向けて数歩歩き出す。かたやローラは、その視線を受けて不意に怯えと恐怖をその体から発露し始めた。
「次はあなた。大人しく投降するなら破壊はしません」
鋭く、なによりも強い視線で、フィールはローラを見据えた。
こんな事は初めてだった。怖い、怖い、怖い――、ローラは、フィールの視線から恐怖と言う感覚を感じている。
生まれて初めて感じる恐怖という感覚。絶望的なまでに『敵わない』と言う感覚。
それを彼女は理解できずにパニックを起こしかけていた。
ローラは必死に探していた。今、この場で取りうる手段を。
逃げようか? 否、それだけは選べない。
ならば近接して格闘戦では? 否、あのワイヤーに捉えられるだろう。
それでは得意の超高速戦闘は? 否、この眼前のアンドロイドの瞬間高速性能はローラのそれと比肩するものだ。速度で凌駕できなければ、超高速戦闘には意味が無い。
それでは何がある? どうすればいい?
必死に判断を繰り返せば、ローラにとってもう一つの特殊機能である“光による攻撃”は、そのエネルギーの蓄積度を70%までに回復している事に気付いた。
殺ろう。相打ちとなってでもコイツを破壊する。
彼女には逃げるという価値観はない。ただただ、破壊と殺戮しか無いのだ。
だが、そのローラの脳裏に誰かが囁きかけてくる。
――逃げなさい――
短くシンプルなメッセージ、そのメッセージの主はフィールに打倒されたはずのアンジェだった。
アンジェは立ち上がった。短く乱暴に切断された髪の毛を不完全ながら再生しつつ、マイクロ波で焼かれた身体を起こして立ち上がろうとしていた。そして、フィールの背後からゆっくりと近づきつつ、その視線はローラへと向けられていた。
優しい視線だった。いつもの戦闘行動中の威圧的で高圧的な立ち振舞の中の視線とは違う。
その視線がローラに告げている。戦ってはいけないと。
アンジェは不完全ながら再生したその銀髪を再び広げると周囲の木々をなぎはらいはじめる。彼女の銀の髪は幾重にも分れる剃刀となり、なぎ払った木々をさらなる破片へと変える。
その木端が燃え上がった。粉塵爆発をするかのように、強力な衝撃波を伴いながら、それは周囲の木々へと大きく燃え広がる。
フィールは気付いていた。その火炎の中に立ちすくむアンジェを。
今はアンジェの方を完全に停止させねばならない。火炎に通常視力を奪われたが、フィールは迷う事なく視覚を熱光学サーモグラフィーに切り替える。
「マイクロ波点火だ――」
機能停止寸前のアンジェが最後に見せた技だった。その火炎の高温の中に、微妙に温度が低いところがある。そこにアンジェが居る。
彼女のその決死の行動が仲間の逃亡を促すためであることはフィールにもわかりきっていた。同時に、仲間が逃げおおせられたとしてもアンジェ自身は助からないことも明らかだった。
そこまで仲間を思う心性があるのなら、なぜテロリズムなどに手を染めるのだろう。
焼け焦げながらもローラを逃がそうとするアンジェの姿は矛盾に満ちていた。
だが、それと同時に人間もアンドロイドも、犯罪者というのは往々にして、同じ価値観を持つ仲間同士では信頼と慈愛に満ちた行動をすることがある。すなわち〝同胞〟であるからだ。
瞬時に広がりゆく火炎フィールドを目の当たりにしてフィールは彼女を破壊する決心をした。
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