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第1章ルーキーPartⅠ『天空の未来都市』
幕間:キッズトーク
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午前7時半:御殿山東小学校
「ヒーローって居ると思う?」
そんな質問がその四年生クラスでは流行っている。
時が2040年に迫ろうというご時世なのに幼い彼らの世界は20年前30年前と何ら変わるところはなかった。
「ヒーロー?」
「うん、ヒーロー」
まだ生徒たちの姿がまばらな時間、話しかけてきたのはそのクラスで委員長をしている少年で飯田将と言う男子。銀縁眼鏡が似合う優等生タイプであり。彼らの間で流行ってるネットビデオコンテンツには余り興味のなさそうなタイプだ。勉強しているか読書にでも打ち込んでそうなキャラの持ち主と言える。
しかし、彼と膝を突き合わせて向かい合っている少年・竹原ひろきは逆だ。野球が好きで、幼馴染と一緒に悪ふざけして、はやりのビデオコンテンツに夢中になってるタイプだ。
どちらのタイプの少年もいつの時代になっても姿が絶えるということはなかった。
ちなみに今の御時世、テレビ放映の番組は極端に減ってる。ネットでビデオコンテンツとして配信されるが主流になっているためだ。放送局もその数を減らすことがあったとしても何ら不思議ではない。
ひろきは将に不思議そうに尋ね返した。
「どうしたの。そんなの興味ないって言ってたじゃん」
「うん、ちょっとあってね」
将は珍しく素直な笑顔を見せながら打ち明けてくる。
「この間、親戚のおじさんの所に泊まったんだけど、その人、昔のTV番組のライブラリとかすごいたくさん持ってるんだよ」
「へえ」
「それで、父さんたちを待ってる間、その人のライブラリを見させてもらってたんだけど」
「あ、じゃあアレもあった? あの〝改造人間〟とか出るの」
「うんあった! 1号から全部。流石に全部は無理だったけど、面白そうなのをピックアップして見てたら結構ハマっちゃってさ」
第一印象からして真面目一辺倒にしか見えない将が珍しく素直に笑顔をみせている。そんな意外な側面に内心驚きながらも、ひろきは彼と会話を続ける。
「造形とか色々、時代が時代だからさ、『なにこれ?』ってのはあったんだけど、それ以上に主役のヒーローの存在感がすごくてさ。1人目に興味が出たら他のも見たくなって」
「ほとんどチェックしたんだ」
「うん」
「じゃあアレもあった? あのトカゲみたいなの」
「あった! 野獣みたいなのと戦うのでしょ? あれデザインスゴイよね」
「だろ? あれ今じゃ同じコスチュームは作れないんだって。模様がすごすぎて」
「だろうな、それくらいよく出来てたよ。でもさボクが興味出たのはそっちじゃないんだ」
「え? どれ?」
昭和と言われた時代から残されていた〝変身ヒーロー〟には色々有る。今の時代も活発に続いてはいる。だが彼ら子どもたちの間ではレアなネットコンテンツとして、昔に作られたものをチェックするのが流行っている。ひろきはそう言うヒーロー探しに夢中になっている子供の1人だった。
そんなひろきにとって将の話は宝物そのものだった。もっと聞きたくなり思わず尋ね返した。
「どんなヒーロー?」
「警察ヒーロー、警察がハイテクで武装して犯罪と戦うってやつ」
「あぁ! それか! うんあった! 強化スーツを着てロボットを相棒にするやつとか」
将が興味を持ったのは、警察組織がハイテクで戦う、いわゆるハイテクヒーローと呼ばれる物だった。生身の人間が最新の科学をベースに自ら武装し、理不尽な暴力や犯罪に立ち向かう。とてもわかりやすく現実的なヒーローと言えた。
ひろきは彼の選択がとても彼らしいと感じずにはいられなかった。
「そうそれ! 未来から来た兵士が、現代の警察と協力してチームを作るのとか」
「災害や火災が怪人になって、それと戦うってのもあったな」
「あと、正体不明の謎のロボットが犯罪を解決していくのとか」
「うん知ってる! あれ絶対に人間は殺さないんだよね」
「そうそう、ロボットなのにモラルをしっかり持ってるんだよ。それが欲望に目のくらんだ人間たちと戦う――彼が戦う理由もしっかり書かれてたのが良かった。こう言うヒーローもあるだって思ったよ」
飯田少年が興味を持ったのはそう言う部分だった。ヒーローが戦う姿そのものではなく、なぜ戦うのか、どうして戦わねばならないのか。そこまで踏み込んだヒーローもちゃんと存在する。彼が興味を持ったのはそう言うヒーローなのだろう。
「そうだよね。ヒーローって言葉は1つでも本当にいろんなのが居るよね」
「うん。それで僕、思ったんだ。こう言うリアルなハイテクなヒーローだったら居てもおかしくないって」
「あ、やっぱりそう思う?」
「うんもちろん! だって最近、今の警察も装甲スーツとかロボットやアンドロイドとか色々採用してるでしょ」
「知ってる。〝武装警官部隊〟とか〝特攻装警〟とか――」
そう、彼らに時代にはすでにそう言う存在が現実に活動している。
ハイテクの普及は幸せだけをもたらしたわけではない。悪事を働き、悪しきを志す人々をより強くしてしまったのだ。それはこの世界のいたるところに姿を現し、世界中の人々の生活を脅かしている。昔の日本ではあり得なかったテロについてのニュースが増えたのもここ最近のことだ。そしてもちろん、それに対抗するために大人の世代は壮絶なまでの苦労と困難を抱えているのだ。
その時、将がその新たな存在である警察についてつぶやいた。
「あれもスゴイよね。一度イベントで活躍してるのを見たけど、あれこそヒーローじゃないかって思うんだ」
「うん、僕も思う。でも特攻装警の方ってあんまりイベントとか出てこないんだよね――」
武装警官部隊、チーム名は〝盤古〟機動隊の様に市民の前には割と姿を現す存在だった。だが、もう一方の特攻装警は違う。活躍はしているがマスコミもあまり報道しない。警察も情報開示には消極的だ。追跡調査しようとしたマスメディアに圧力が加わったという噂もあった。
謎のベールに包まれた存在〝特攻装警〟――それ故に子どもたちの間でも様々な風説が飛び交っている状態だった。そんな疑問を抱えるひろきに将がもたらしたのは意外な提案である。
「実はさ、すごいディスクが手に入ったんだ。そのおじさんのところから」
「え? どんな?」
「特攻装警について紹介した動画でさ、警察や政府機関の間でしか流れないんだって」
「え?」
「すごいでしょ?」
「スゲー! 見たい!」
「そう言うと思ったよ。実はさ、本当に興味の有りそうな人に声をかけてたんだ」
「あぁ、だから『ヒーローって居ると思う?』って聞いてたのか」
「うん。じゃ君も見に来るでしょ?」
「もちろん!」
「じゃ、決まりだね。今日、学校終わったら来なよ」
「分かった! かならず行く! あ、そうだ。研二のやつも誘っていい? あいつこう言うの大好きだから」
「もちろんだよ」
前葉研二、彼らのクラスメート、ひろきと同タイプながらもっとやんちゃで活発なタイプだが、素行不良と言う程でもない。
「分かった、じゃあ、話ししておくよ」
「OK」
そんな風にやり取りをして会話を終える頃に二人に近づいてきた影がある。女の子の独特の気配と香りを携えながらジーンズ地のオーバーホール姿のポニーテール少女が現れる。
「ねぇ、何話ししてんの?」
「あ、今井さん。おはよう」
「かなえか。おはよう」
「うん、おはよう!」
今井かなえ、彼らのクラスメートだ。その服装からも分かる通り、お淑やかさとは縁遠いお転婆タイプだ。ランドセルの隙間から小型のスマートパッドが垣間見えていた。
「ちょっと聞こえちゃったんだけど、警察の話?」
かなえが問えば将が説明する。
「うん、ちょっと特別なのが手に入ってさ」
「へぇ、それってもしかして警察で使ってるって言われてるアンドロイドの事?」
「そうだよ。特攻装警っての」
かなえの問いにひろきが答える。それに対してかなえが返したのは意外な言葉であった。
「あぁ、それならうちのママのところに一人いるよ?」
「マジ?」
「ほんとに?」
「うん」
だがそこまで話して将が驚きはじめる。
「待って待って! 特攻装警って本庁に5人しか居ないはずだよ。それに今井さんのお母さんって――」
「うん、品川の警察署。本庁じゃないよ」
その意外な事実に驚きながら将は自分が想像した答えを口にする。
「じゃあ、6人目?」
「すげぇ」
「あ、でも――」
二人の会話を遮るようにかなえは声を潜めて告げる。
「これ内緒にしてね。ママが話してるのこっそり聞いた話だから」
つまりは部外秘なのだ。その点は将もひろきも聡明だった。
「もちろんだよ」
「わかってるって」
「ありがと。でもなんかママの話だと、教育が遅れてるとかって言ってた」
その言葉にひろきが問う。
「アンドロイドが教育? なんで?」
それに答えたのは将だ。
「アンドロイドって言うのは優れた頭脳を持っている代わりに、ある程度は人間と同じ様に物を教えてやらないといけないんだよ」
「うん、機能の高い優秀なアンドロイドほど教育が長くなるんだって。反対に教育がいらなくてはじめからプログラムされてるのがロボットって事になるのよ」
「あぁ、なるほど。それじゃそのかなえのお母さんとこのってそれだけ優秀なんだ」
「らしいけどねー」
かなえは以外にも苦笑しながら答える。
「なんか相当手こずってるみたいでさ、めずらしく愚痴をこぼしてたな」
会話がそこまで進んだところで話題を切り替えるように将が訪ねた。
「そうだ。今井さんもどう? たしかロボットとかそう言うの興味あったでしょ?」
「あぁそうか、かなえ、ロボットコンテストの常連だもんな」
「え? なに? あ! さっき言ってた特別なのってやつ?」
「そう。ビデオ映像なんだけど見に来る? ひろきくんも来るって」
「うん! 行く!」
「じゃ、決まりだね」
将がかなえとそんな会話をしていると、ひろきがツッコミを入れた。
「でも将君、気をつけろよ。こいつクラッシャーだから」
「え?」
「PCやパッド見るとすぐいじりだすから」
「ちょっと! ひろき! 壊してないわよ! ちゃんと治すもん! それにやるのはあんたのだけよ!」
「僕のはやるのかよ!」
二人のやり取りに将も思わず笑い声を上げていた。
気づけば他のクラスメートたちも三々五々に集まり始めていた。
学校は急ぎ足で喧騒の中へと入っていくのだった。
「ヒーローって居ると思う?」
そんな質問がその四年生クラスでは流行っている。
時が2040年に迫ろうというご時世なのに幼い彼らの世界は20年前30年前と何ら変わるところはなかった。
「ヒーロー?」
「うん、ヒーロー」
まだ生徒たちの姿がまばらな時間、話しかけてきたのはそのクラスで委員長をしている少年で飯田将と言う男子。銀縁眼鏡が似合う優等生タイプであり。彼らの間で流行ってるネットビデオコンテンツには余り興味のなさそうなタイプだ。勉強しているか読書にでも打ち込んでそうなキャラの持ち主と言える。
しかし、彼と膝を突き合わせて向かい合っている少年・竹原ひろきは逆だ。野球が好きで、幼馴染と一緒に悪ふざけして、はやりのビデオコンテンツに夢中になってるタイプだ。
どちらのタイプの少年もいつの時代になっても姿が絶えるということはなかった。
ちなみに今の御時世、テレビ放映の番組は極端に減ってる。ネットでビデオコンテンツとして配信されるが主流になっているためだ。放送局もその数を減らすことがあったとしても何ら不思議ではない。
ひろきは将に不思議そうに尋ね返した。
「どうしたの。そんなの興味ないって言ってたじゃん」
「うん、ちょっとあってね」
将は珍しく素直な笑顔を見せながら打ち明けてくる。
「この間、親戚のおじさんの所に泊まったんだけど、その人、昔のTV番組のライブラリとかすごいたくさん持ってるんだよ」
「へえ」
「それで、父さんたちを待ってる間、その人のライブラリを見させてもらってたんだけど」
「あ、じゃあアレもあった? あの〝改造人間〟とか出るの」
「うんあった! 1号から全部。流石に全部は無理だったけど、面白そうなのをピックアップして見てたら結構ハマっちゃってさ」
第一印象からして真面目一辺倒にしか見えない将が珍しく素直に笑顔をみせている。そんな意外な側面に内心驚きながらも、ひろきは彼と会話を続ける。
「造形とか色々、時代が時代だからさ、『なにこれ?』ってのはあったんだけど、それ以上に主役のヒーローの存在感がすごくてさ。1人目に興味が出たら他のも見たくなって」
「ほとんどチェックしたんだ」
「うん」
「じゃあアレもあった? あのトカゲみたいなの」
「あった! 野獣みたいなのと戦うのでしょ? あれデザインスゴイよね」
「だろ? あれ今じゃ同じコスチュームは作れないんだって。模様がすごすぎて」
「だろうな、それくらいよく出来てたよ。でもさボクが興味出たのはそっちじゃないんだ」
「え? どれ?」
昭和と言われた時代から残されていた〝変身ヒーロー〟には色々有る。今の時代も活発に続いてはいる。だが彼ら子どもたちの間ではレアなネットコンテンツとして、昔に作られたものをチェックするのが流行っている。ひろきはそう言うヒーロー探しに夢中になっている子供の1人だった。
そんなひろきにとって将の話は宝物そのものだった。もっと聞きたくなり思わず尋ね返した。
「どんなヒーロー?」
「警察ヒーロー、警察がハイテクで武装して犯罪と戦うってやつ」
「あぁ! それか! うんあった! 強化スーツを着てロボットを相棒にするやつとか」
将が興味を持ったのは、警察組織がハイテクで戦う、いわゆるハイテクヒーローと呼ばれる物だった。生身の人間が最新の科学をベースに自ら武装し、理不尽な暴力や犯罪に立ち向かう。とてもわかりやすく現実的なヒーローと言えた。
ひろきは彼の選択がとても彼らしいと感じずにはいられなかった。
「そうそれ! 未来から来た兵士が、現代の警察と協力してチームを作るのとか」
「災害や火災が怪人になって、それと戦うってのもあったな」
「あと、正体不明の謎のロボットが犯罪を解決していくのとか」
「うん知ってる! あれ絶対に人間は殺さないんだよね」
「そうそう、ロボットなのにモラルをしっかり持ってるんだよ。それが欲望に目のくらんだ人間たちと戦う――彼が戦う理由もしっかり書かれてたのが良かった。こう言うヒーローもあるだって思ったよ」
飯田少年が興味を持ったのはそう言う部分だった。ヒーローが戦う姿そのものではなく、なぜ戦うのか、どうして戦わねばならないのか。そこまで踏み込んだヒーローもちゃんと存在する。彼が興味を持ったのはそう言うヒーローなのだろう。
「そうだよね。ヒーローって言葉は1つでも本当にいろんなのが居るよね」
「うん。それで僕、思ったんだ。こう言うリアルなハイテクなヒーローだったら居てもおかしくないって」
「あ、やっぱりそう思う?」
「うんもちろん! だって最近、今の警察も装甲スーツとかロボットやアンドロイドとか色々採用してるでしょ」
「知ってる。〝武装警官部隊〟とか〝特攻装警〟とか――」
そう、彼らに時代にはすでにそう言う存在が現実に活動している。
ハイテクの普及は幸せだけをもたらしたわけではない。悪事を働き、悪しきを志す人々をより強くしてしまったのだ。それはこの世界のいたるところに姿を現し、世界中の人々の生活を脅かしている。昔の日本ではあり得なかったテロについてのニュースが増えたのもここ最近のことだ。そしてもちろん、それに対抗するために大人の世代は壮絶なまでの苦労と困難を抱えているのだ。
その時、将がその新たな存在である警察についてつぶやいた。
「あれもスゴイよね。一度イベントで活躍してるのを見たけど、あれこそヒーローじゃないかって思うんだ」
「うん、僕も思う。でも特攻装警の方ってあんまりイベントとか出てこないんだよね――」
武装警官部隊、チーム名は〝盤古〟機動隊の様に市民の前には割と姿を現す存在だった。だが、もう一方の特攻装警は違う。活躍はしているがマスコミもあまり報道しない。警察も情報開示には消極的だ。追跡調査しようとしたマスメディアに圧力が加わったという噂もあった。
謎のベールに包まれた存在〝特攻装警〟――それ故に子どもたちの間でも様々な風説が飛び交っている状態だった。そんな疑問を抱えるひろきに将がもたらしたのは意外な提案である。
「実はさ、すごいディスクが手に入ったんだ。そのおじさんのところから」
「え? どんな?」
「特攻装警について紹介した動画でさ、警察や政府機関の間でしか流れないんだって」
「え?」
「すごいでしょ?」
「スゲー! 見たい!」
「そう言うと思ったよ。実はさ、本当に興味の有りそうな人に声をかけてたんだ」
「あぁ、だから『ヒーローって居ると思う?』って聞いてたのか」
「うん。じゃ君も見に来るでしょ?」
「もちろん!」
「じゃ、決まりだね。今日、学校終わったら来なよ」
「分かった! かならず行く! あ、そうだ。研二のやつも誘っていい? あいつこう言うの大好きだから」
「もちろんだよ」
前葉研二、彼らのクラスメート、ひろきと同タイプながらもっとやんちゃで活発なタイプだが、素行不良と言う程でもない。
「分かった、じゃあ、話ししておくよ」
「OK」
そんな風にやり取りをして会話を終える頃に二人に近づいてきた影がある。女の子の独特の気配と香りを携えながらジーンズ地のオーバーホール姿のポニーテール少女が現れる。
「ねぇ、何話ししてんの?」
「あ、今井さん。おはよう」
「かなえか。おはよう」
「うん、おはよう!」
今井かなえ、彼らのクラスメートだ。その服装からも分かる通り、お淑やかさとは縁遠いお転婆タイプだ。ランドセルの隙間から小型のスマートパッドが垣間見えていた。
「ちょっと聞こえちゃったんだけど、警察の話?」
かなえが問えば将が説明する。
「うん、ちょっと特別なのが手に入ってさ」
「へぇ、それってもしかして警察で使ってるって言われてるアンドロイドの事?」
「そうだよ。特攻装警っての」
かなえの問いにひろきが答える。それに対してかなえが返したのは意外な言葉であった。
「あぁ、それならうちのママのところに一人いるよ?」
「マジ?」
「ほんとに?」
「うん」
だがそこまで話して将が驚きはじめる。
「待って待って! 特攻装警って本庁に5人しか居ないはずだよ。それに今井さんのお母さんって――」
「うん、品川の警察署。本庁じゃないよ」
その意外な事実に驚きながら将は自分が想像した答えを口にする。
「じゃあ、6人目?」
「すげぇ」
「あ、でも――」
二人の会話を遮るようにかなえは声を潜めて告げる。
「これ内緒にしてね。ママが話してるのこっそり聞いた話だから」
つまりは部外秘なのだ。その点は将もひろきも聡明だった。
「もちろんだよ」
「わかってるって」
「ありがと。でもなんかママの話だと、教育が遅れてるとかって言ってた」
その言葉にひろきが問う。
「アンドロイドが教育? なんで?」
それに答えたのは将だ。
「アンドロイドって言うのは優れた頭脳を持っている代わりに、ある程度は人間と同じ様に物を教えてやらないといけないんだよ」
「うん、機能の高い優秀なアンドロイドほど教育が長くなるんだって。反対に教育がいらなくてはじめからプログラムされてるのがロボットって事になるのよ」
「あぁ、なるほど。それじゃそのかなえのお母さんとこのってそれだけ優秀なんだ」
「らしいけどねー」
かなえは以外にも苦笑しながら答える。
「なんか相当手こずってるみたいでさ、めずらしく愚痴をこぼしてたな」
会話がそこまで進んだところで話題を切り替えるように将が訪ねた。
「そうだ。今井さんもどう? たしかロボットとかそう言うの興味あったでしょ?」
「あぁそうか、かなえ、ロボットコンテストの常連だもんな」
「え? なに? あ! さっき言ってた特別なのってやつ?」
「そう。ビデオ映像なんだけど見に来る? ひろきくんも来るって」
「うん! 行く!」
「じゃ、決まりだね」
将がかなえとそんな会話をしていると、ひろきがツッコミを入れた。
「でも将君、気をつけろよ。こいつクラッシャーだから」
「え?」
「PCやパッド見るとすぐいじりだすから」
「ちょっと! ひろき! 壊してないわよ! ちゃんと治すもん! それにやるのはあんたのだけよ!」
「僕のはやるのかよ!」
二人のやり取りに将も思わず笑い声を上げていた。
気づけば他のクラスメートたちも三々五々に集まり始めていた。
学校は急ぎ足で喧騒の中へと入っていくのだった。
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