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「――――ん」
その少女はようやくに目覚めた。
そこは満点の星空の下だった。
「え?――ここどこ?」
薄っすらと目を開けながら体を起こしていく。そして自らが置かれた状況を理解し始めた。
「なにもない?」
見渡す限りの石ころだらけの世界。そして、空はなく、海もない。昼と夜の境目もなく、ただ漆黒の夜空が広がっているだけだった。
少女は驚き立ち上がる。そして、背後から人の気配が迫ってくるのを感じて振り返った。
「やっと目を覚ましましたね」
そこに佇んでいたのは屈強な若者だった。
ただし、身につけていたのは神代の時代を思わせる純白の衣だった。だが少女にはその姿は見に覚えがなかった。
「あの――どなたですか?」
そう問いかけつつ、自らの姿にも目を凝らせば、彼のように大柄な白い布をその体に巻き付けて衣装としていた。
なぜこのような姿を? そういぶかしがれば、青年は問い返してきた。
「お忘れですか? 私の声を」
「声?」
そう告げられて少女は思い出す。
「まさか――オメガ?」
名前を言い当ててもらえて笑顔を浮かべる。
「お久しぶりです。アルファ――」
「え? どうして? その姿は?」
「驚かれるのは無理もありません。私もこの姿でこの岩だらけの空もない星に降り立ったのですが、わからない事だらけです。ですがおそらくは、私達に肉体はもう無いのかもしれません」
「つまり――魂?」
「えぇ、多分」
そう答えながら、オメガはアルファを抱き寄せる。そして、横抱きにしてかかえると運び始めた。
「あなたにお見せしたいものがあります」
そしてオメガは軽く地面を蹴ると、空をかけるように驚くような速さでその星の大地を移動し始めた、
「みせたいものって?」
「もうすぐですよ」
アルファの疑問にオメガはただ静かに微笑むだけだ。だが、二人がその星の上をしばらく進んだときだった。
「キャッ!」
アルファが思わず悲鳴をあげる。
それは光。
まばゆいばかりの光。
そして、アルファがまだ見たことのない光だった。
「これってなに?」
「太陽です。遥か彼方からすべてを照らします。そしてあれが――」
オメガははるか頭上を指し示していた。
「〝地球〟です」
「地球?」
二人が地上に再び降り立てば、そこには神殿のごとき建築物がそびえていた。
オメガの胸にしがみついていたアルファは、彼の手から解き放たれると神殿の入口に立ちすくむ。
「これは?」
「わたしが作りました。何しろ、途方もなく長い年月をあなたが目覚めるのを待っていましたので」
「すごい――」
驚きをもってオメガの言葉に聞き入ったアルファだったが、頭上を仰いで見上げた時、そこに見つけたのは――
「うゎああああっ!!」
――宝石のように光り輝く青い星。
「すごい! 蒼い! 真っ蒼!」
緑と水に恵まれた命あふれる星――
「そうです。あれこそがあなたが再生したあの星です」
「私が?」
「はい――」
オメガが答える。
「あなたがあなた自身のすべてを費やして生み出した星です」
アルファは自らの脚で立つと、オメガの傍らに寄り添いながら頭上の青い星を見つめ続けた。
「すごい――」
「はい、地上には数多くの生命が溢れ、すでにいくつかの知的生命体が生まれる兆候が確認できています。見えませんか? 目を凝らせば、今の我々なら確認できるはずです」
「うん、やってみる!」
アルファは教えられたままに地球の姿を見つめる。そして彼女にも――
「見えた! 命にあふれている――」
「アルファ、ほらあそこ――」
「え? だれだろう二人の男の人と女の人がいる」
「あれは――名前は〝アダム〟と〝イブ〟」
「あ、あっちにもいる! 判る! 私にも判る! こっちの二人は〝イザナギ〟と〝イザナミ〟」
「他にも居ますよ。これからまだまだ増えるでしょう」
「うん――でも今度こそ――幸せになってほしい」
「えぇ、私もそう思います」
オメガはアルファの手を手を握りしめ、導くようにあるき出した。
「今度は私たちがあの星の生命を導かねばなりません。二度とあやまちを犯さないように」
「そうだね、私たち二人で――」
そして、アルファはつぶやいた。
「ねぇ、ここから私の歌声届くかな?」
「もちろんですよ。あなたの歌声は世界の果てまで届きますから」
「じゃぁ――」
アルファは笑顔を溢れさせながら誓いの言葉を口にした。
「――わたし、歌い続ける! この世界が幸せで満ちるように!」
「ならば私は――」
オメガもアルファの傍らに寄り添うと、こう告げたのだ。
「――これからもあなたをお護りします」
「うん!」
そして、アルファがオメガにその体を寄せると、オメガはアルファの体をしっかりと抱きしめていた。
「これからもよろしくね」
「はい――」
それは世界への祝福――
長い時を超えて届けられる〝愛の歌〟
誰も知らない――
――星屑の物語――
その少女はようやくに目覚めた。
そこは満点の星空の下だった。
「え?――ここどこ?」
薄っすらと目を開けながら体を起こしていく。そして自らが置かれた状況を理解し始めた。
「なにもない?」
見渡す限りの石ころだらけの世界。そして、空はなく、海もない。昼と夜の境目もなく、ただ漆黒の夜空が広がっているだけだった。
少女は驚き立ち上がる。そして、背後から人の気配が迫ってくるのを感じて振り返った。
「やっと目を覚ましましたね」
そこに佇んでいたのは屈強な若者だった。
ただし、身につけていたのは神代の時代を思わせる純白の衣だった。だが少女にはその姿は見に覚えがなかった。
「あの――どなたですか?」
そう問いかけつつ、自らの姿にも目を凝らせば、彼のように大柄な白い布をその体に巻き付けて衣装としていた。
なぜこのような姿を? そういぶかしがれば、青年は問い返してきた。
「お忘れですか? 私の声を」
「声?」
そう告げられて少女は思い出す。
「まさか――オメガ?」
名前を言い当ててもらえて笑顔を浮かべる。
「お久しぶりです。アルファ――」
「え? どうして? その姿は?」
「驚かれるのは無理もありません。私もこの姿でこの岩だらけの空もない星に降り立ったのですが、わからない事だらけです。ですがおそらくは、私達に肉体はもう無いのかもしれません」
「つまり――魂?」
「えぇ、多分」
そう答えながら、オメガはアルファを抱き寄せる。そして、横抱きにしてかかえると運び始めた。
「あなたにお見せしたいものがあります」
そしてオメガは軽く地面を蹴ると、空をかけるように驚くような速さでその星の大地を移動し始めた、
「みせたいものって?」
「もうすぐですよ」
アルファの疑問にオメガはただ静かに微笑むだけだ。だが、二人がその星の上をしばらく進んだときだった。
「キャッ!」
アルファが思わず悲鳴をあげる。
それは光。
まばゆいばかりの光。
そして、アルファがまだ見たことのない光だった。
「これってなに?」
「太陽です。遥か彼方からすべてを照らします。そしてあれが――」
オメガははるか頭上を指し示していた。
「〝地球〟です」
「地球?」
二人が地上に再び降り立てば、そこには神殿のごとき建築物がそびえていた。
オメガの胸にしがみついていたアルファは、彼の手から解き放たれると神殿の入口に立ちすくむ。
「これは?」
「わたしが作りました。何しろ、途方もなく長い年月をあなたが目覚めるのを待っていましたので」
「すごい――」
驚きをもってオメガの言葉に聞き入ったアルファだったが、頭上を仰いで見上げた時、そこに見つけたのは――
「うゎああああっ!!」
――宝石のように光り輝く青い星。
「すごい! 蒼い! 真っ蒼!」
緑と水に恵まれた命あふれる星――
「そうです。あれこそがあなたが再生したあの星です」
「私が?」
「はい――」
オメガが答える。
「あなたがあなた自身のすべてを費やして生み出した星です」
アルファは自らの脚で立つと、オメガの傍らに寄り添いながら頭上の青い星を見つめ続けた。
「すごい――」
「はい、地上には数多くの生命が溢れ、すでにいくつかの知的生命体が生まれる兆候が確認できています。見えませんか? 目を凝らせば、今の我々なら確認できるはずです」
「うん、やってみる!」
アルファは教えられたままに地球の姿を見つめる。そして彼女にも――
「見えた! 命にあふれている――」
「アルファ、ほらあそこ――」
「え? だれだろう二人の男の人と女の人がいる」
「あれは――名前は〝アダム〟と〝イブ〟」
「あ、あっちにもいる! 判る! 私にも判る! こっちの二人は〝イザナギ〟と〝イザナミ〟」
「他にも居ますよ。これからまだまだ増えるでしょう」
「うん――でも今度こそ――幸せになってほしい」
「えぇ、私もそう思います」
オメガはアルファの手を手を握りしめ、導くようにあるき出した。
「今度は私たちがあの星の生命を導かねばなりません。二度とあやまちを犯さないように」
「そうだね、私たち二人で――」
そして、アルファはつぶやいた。
「ねぇ、ここから私の歌声届くかな?」
「もちろんですよ。あなたの歌声は世界の果てまで届きますから」
「じゃぁ――」
アルファは笑顔を溢れさせながら誓いの言葉を口にした。
「――わたし、歌い続ける! この世界が幸せで満ちるように!」
「ならば私は――」
オメガもアルファの傍らに寄り添うと、こう告げたのだ。
「――これからもあなたをお護りします」
「うん!」
そして、アルファがオメガにその体を寄せると、オメガはアルファの体をしっかりと抱きしめていた。
「これからもよろしくね」
「はい――」
それは世界への祝福――
長い時を超えて届けられる〝愛の歌〟
誰も知らない――
――星屑の物語――
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