STARDUSTER  ―終わりのオメガと始まりのアルファ―

美風慶伍

文字の大きさ
上 下
9 / 10

9:ラストソング―― 『STARDUSTER』 ――

しおりを挟む
 飛翔する間、アルファとオメガはまさに二人きりになっていた。
 
「アルファ」
「はい」
「もうすぐお別れです」
「え?」
「私ははじめからそう長くはない」
 
 その言葉に耳にしてアルファはオメガの左手に目をやった。
 
「オメガ?」
 
 そこに見えたのはボロボロに劣化したオメガの体だった。
 ひび割れ、擦り切れ、今にも崩壊寸前だったのだ。
 
「もともと私の体は廃棄予定の警備ロボットからのリサイクルです。激しい戦闘には耐えられない」
「そんな! それならなぜ?」

 アルファの疑問の声が告げられる。
 その言葉を耳にしながら、オメガはアルファを地下都市の構造体の最上部へと運んでいた。
 その二人の頭上には分厚い隔壁がある。その向こうはあの荒れ果てた外部世界だ。
 
「あなたにも残された時間が無いからです」

 それは残酷な現実だった。
 
「これは私が都市管理の目を盗みながら手に入れた機密情報です」

 驚くアルファをオメガの水色の眼がじっと見つめていた。

「都市管理ははじめからあなたを最終段階まで成長させるつもりはありませんでした。彼らが望む量産用途に適する段階になれば、育成過程を打ち切る予定だったんです。そして――」

 アルファはオメガの瞳をじっと見つめながら言葉を待つ。
 
「――あなたの命も、それを前提とした形で短く短縮されていたんです」
「だから、私を凍結するの?」
「はい――、成功例のサンプルとして」

 それは絶望、そして悪意。
 逃れられぬ運命だった。
 
「だから私は、その最後のタイム・リミットが来る前にあなたに心から歌ってほしかった。そしてあなたの歌の素晴らしさを人々に知ってほしかった。ですがそれももう――」

 オメガの体から火花が漏れる。
 戦闘モードの無理が彼の最後の時を着実に刻んでいた。
 
「オメガ!」
「――あなたの最後の歌を」
「いや! 死なないで!」

 アルファの涙声が響く。その無機質な空間の中でアルファは泣いていた。
 
〔アルファ――オメガ――聞こえる?〕

 それは二人に備えられた無線通信の音声だった。そして、二人が聞き慣れた育ての親の声だった。
 
「―おかあさん―?」
「マスター」

 二人は思わず呼びかける。だが彼女にも時間がないのは解っていた。
 
〔いい? ふたりともよく聞いて――〕

 その言葉の続きを二人は待った。
 
〔――最終プログラムを実行しなさい〕

 それは覚悟の末の言葉だった。
 
〔すでに私たちの研究施設は都市管理によって接収されてしまった。あなた達の命を維持することもできない。そしてなにより、私たち人間は、この星をここまで荒廃させた過ちをまた繰り返してしまった!〕

 その声は涙に曇っていた。
 
〔もう人は救われない。助かる価値もない! ならばせめて、この星のすべてを――人を含めたすべてを――無に返してゼロからやり直す以外にない!〕

 それが心ある者たちが導き出した答えだったのだ。
 
〔アルファ――〕
「はい、―おかあさん―」
〔あなたの力を全開放すればこの星の全てをリセットしてやり直すことができる。ただし、あなたは自らの存在を使い果たし消滅してしまう。それでもいいわね?〕

 覚悟を求める声が届く。アルファはそれに答えた。

「はい、喜んで歌わせていただきます」
〔ありがとう、アルファ――、そしてオメガ――〕
「はい」
〔今までアルファを守ってくれてありがとう。あなたは――役目を完璧にこなしてくれた〕
「いいえ、当然のことです」

 オメガの答えに一切の奢りはない。ただひたすらに自らの役目に純粋であった。

 そして時は来る。
 
〔さぁ、お行きなさい。あなた達の役目を果た――す――ため――に――ブッ――〕

 都市管理により通信システムすら掌握された。ここも安全ではない。
 
「始めましょう、アルファ」
「はい」

 オメガの声にアルファは頷く。
 その瞬間、オメガの体から火柱が吹き上がる。
 
「お別れです、アルファ。またどこかでお会いしましょう」

 アルファはオメガに笑顔で答えた。
 
「はい――、またどこかで――」

 オメガの体が崩れ落ちる。すべての力をアルファへと捧げ尽くしたかのように。
 そしてアルファは覚悟を決める。
 
「――最終プログラム――を実行します」

 シンプルな言葉。
 そして、覚悟の言葉。
 
「ラストソング―― 『STARDUSTER』 ――」

 それは最後の裁き――
 それは最後の鐘――
 それは最後の祝福――
 それは――
 
――最後の救い――

 アルファの体が輝きを放つ。
 七色に、金色に、まばゆいばかりの光を放ちながら、その歌声は宇宙空間にまで響き渡る。
 
 そして世界は――
 
――星屑へと生まれ変わる――

 アルファのすべてが光となり、それは死した星の全てを包み込んでいく。
 大地を
 海を
 枯れ果てた緑を
 そして息絶えた命を
 わずかに残った人間をも

――何もかもを包み込む――

 そして世界は――
 
【 やすらぎに満ちたのだ 】
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ひたすら楽する冒険者業

長来周治
ファンタジー
意識低い系戦士のだらだら冒険記。吉日更新。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

とあるおっさんのVRMMO活動記

椎名ほわほわ
ファンタジー
VRMMORPGが普及した世界。 念のため申し上げますが戦闘も生産もあります。 戦闘は生々しい表現も含みます。 のんびりする時もあるし、えぐい戦闘もあります。 また一話一話が3000文字ぐらいの日記帳ぐらいの分量であり 一人の冒険者の一日の活動記録を覗く、ぐらいの感覚が お好みではない場合は読まれないほうがよろしいと思われます。 また、このお話の舞台となっているVRMMOはクリアする事や 無双する事が目的ではなく、冒険し生きていくもう1つの人生が テーマとなっているVRMMOですので、極端に戦闘続きという 事もございません。 また、転生物やデスゲームなどに変化することもございませんので、そのようなお話がお好みの方は読まれないほうが良いと思われます。

素材採取家の異世界旅行記

木乃子増緒
ファンタジー
28歳会社員、ある日突然死にました。謎の青年にとある惑星へと転生させられ、溢れんばかりの能力を便利に使って地味に旅をするお話です。主人公最強だけど最強だと気づいていない。 可愛い女子がやたら出てくるお話ではありません。ハーレムしません。恋愛要素一切ありません。 個性的な仲間と共に素材採取をしながら旅を続ける青年の異世界暮らし。たまーに戦っています。 このお話はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。 裏話やネタバレはついったーにて。たまにぼやいております。 この度アルファポリスより書籍化致しました。 書籍化部分はレンタルしております。

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

眠りにつく世界

はの
ファンタジー
人類の滅亡が確定した世界。 人類は、自らの手で死ぬことを選んだ。 人々を永遠に眠らせる『安眠薬』を服用し、人類は永遠の眠りについた。 はずだった。

魔法少女になれたなら【完結済み】

M・A・J・O
ファンタジー
【第5回カクヨムWeb小説コンテスト、中間選考突破!】 【第2回ファミ通文庫大賞、中間選考突破!】 【第9回ネット小説大賞、一次選考突破!】 とある普通の女子小学生――“椎名結衣”はある日一冊の本と出会う。 そこから少女の生活は一変する。 なんとその本は魔法のステッキで? 魔法のステッキにより、強引に魔法少女にされてしまった結衣。 異能力の戦いに戸惑いながらも、何とか着実に勝利を重ねて行く。 これは人間の願いの物語。 愉快痛快なステッキに振り回される憐れな少女の“願い”やいかに―― 謎に包まれた魔法少女劇が今――始まる。 ・表紙絵はTwitterのフォロワー様より。

処理中です...