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9:ラストソング―― 『STARDUSTER』 ――
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飛翔する間、アルファとオメガはまさに二人きりになっていた。
「アルファ」
「はい」
「もうすぐお別れです」
「え?」
「私ははじめからそう長くはない」
その言葉に耳にしてアルファはオメガの左手に目をやった。
「オメガ?」
そこに見えたのはボロボロに劣化したオメガの体だった。
ひび割れ、擦り切れ、今にも崩壊寸前だったのだ。
「もともと私の体は廃棄予定の警備ロボットからのリサイクルです。激しい戦闘には耐えられない」
「そんな! それならなぜ?」
アルファの疑問の声が告げられる。
その言葉を耳にしながら、オメガはアルファを地下都市の構造体の最上部へと運んでいた。
その二人の頭上には分厚い隔壁がある。その向こうはあの荒れ果てた外部世界だ。
「あなたにも残された時間が無いからです」
それは残酷な現実だった。
「これは私が都市管理の目を盗みながら手に入れた機密情報です」
驚くアルファをオメガの水色の眼がじっと見つめていた。
「都市管理ははじめからあなたを最終段階まで成長させるつもりはありませんでした。彼らが望む量産用途に適する段階になれば、育成過程を打ち切る予定だったんです。そして――」
アルファはオメガの瞳をじっと見つめながら言葉を待つ。
「――あなたの命も、それを前提とした形で短く短縮されていたんです」
「だから、私を凍結するの?」
「はい――、成功例のサンプルとして」
それは絶望、そして悪意。
逃れられぬ運命だった。
「だから私は、その最後のタイム・リミットが来る前にあなたに心から歌ってほしかった。そしてあなたの歌の素晴らしさを人々に知ってほしかった。ですがそれももう――」
オメガの体から火花が漏れる。
戦闘モードの無理が彼の最後の時を着実に刻んでいた。
「オメガ!」
「――あなたの最後の歌を」
「いや! 死なないで!」
アルファの涙声が響く。その無機質な空間の中でアルファは泣いていた。
〔アルファ――オメガ――聞こえる?〕
それは二人に備えられた無線通信の音声だった。そして、二人が聞き慣れた育ての親の声だった。
「―おかあさん―?」
「マスター」
二人は思わず呼びかける。だが彼女にも時間がないのは解っていた。
〔いい? ふたりともよく聞いて――〕
その言葉の続きを二人は待った。
〔――最終プログラムを実行しなさい〕
それは覚悟の末の言葉だった。
〔すでに私たちの研究施設は都市管理によって接収されてしまった。あなた達の命を維持することもできない。そしてなにより、私たち人間は、この星をここまで荒廃させた過ちをまた繰り返してしまった!〕
その声は涙に曇っていた。
〔もう人は救われない。助かる価値もない! ならばせめて、この星のすべてを――人を含めたすべてを――無に返してゼロからやり直す以外にない!〕
それが心ある者たちが導き出した答えだったのだ。
〔アルファ――〕
「はい、―おかあさん―」
〔あなたの力を全開放すればこの星の全てをリセットしてやり直すことができる。ただし、あなたは自らの存在を使い果たし消滅してしまう。それでもいいわね?〕
覚悟を求める声が届く。アルファはそれに答えた。
「はい、喜んで歌わせていただきます」
〔ありがとう、アルファ――、そしてオメガ――〕
「はい」
〔今までアルファを守ってくれてありがとう。あなたは――役目を完璧にこなしてくれた〕
「いいえ、当然のことです」
オメガの答えに一切の奢りはない。ただひたすらに自らの役目に純粋であった。
そして時は来る。
〔さぁ、お行きなさい。あなた達の役目を果た――す――ため――に――ブッ――〕
都市管理により通信システムすら掌握された。ここも安全ではない。
「始めましょう、アルファ」
「はい」
オメガの声にアルファは頷く。
その瞬間、オメガの体から火柱が吹き上がる。
「お別れです、アルファ。またどこかでお会いしましょう」
アルファはオメガに笑顔で答えた。
「はい――、またどこかで――」
オメガの体が崩れ落ちる。すべての力をアルファへと捧げ尽くしたかのように。
そしてアルファは覚悟を決める。
「――最終プログラム――を実行します」
シンプルな言葉。
そして、覚悟の言葉。
「ラストソング―― 『STARDUSTER』 ――」
それは最後の裁き――
それは最後の鐘――
それは最後の祝福――
それは――
――最後の救い――
アルファの体が輝きを放つ。
七色に、金色に、まばゆいばかりの光を放ちながら、その歌声は宇宙空間にまで響き渡る。
そして世界は――
――星屑へと生まれ変わる――
アルファのすべてが光となり、それは死した星の全てを包み込んでいく。
大地を
海を
枯れ果てた緑を
そして息絶えた命を
わずかに残った人間をも
――何もかもを包み込む――
そして世界は――
【 やすらぎに満ちたのだ 】
「アルファ」
「はい」
「もうすぐお別れです」
「え?」
「私ははじめからそう長くはない」
その言葉に耳にしてアルファはオメガの左手に目をやった。
「オメガ?」
そこに見えたのはボロボロに劣化したオメガの体だった。
ひび割れ、擦り切れ、今にも崩壊寸前だったのだ。
「もともと私の体は廃棄予定の警備ロボットからのリサイクルです。激しい戦闘には耐えられない」
「そんな! それならなぜ?」
アルファの疑問の声が告げられる。
その言葉を耳にしながら、オメガはアルファを地下都市の構造体の最上部へと運んでいた。
その二人の頭上には分厚い隔壁がある。その向こうはあの荒れ果てた外部世界だ。
「あなたにも残された時間が無いからです」
それは残酷な現実だった。
「これは私が都市管理の目を盗みながら手に入れた機密情報です」
驚くアルファをオメガの水色の眼がじっと見つめていた。
「都市管理ははじめからあなたを最終段階まで成長させるつもりはありませんでした。彼らが望む量産用途に適する段階になれば、育成過程を打ち切る予定だったんです。そして――」
アルファはオメガの瞳をじっと見つめながら言葉を待つ。
「――あなたの命も、それを前提とした形で短く短縮されていたんです」
「だから、私を凍結するの?」
「はい――、成功例のサンプルとして」
それは絶望、そして悪意。
逃れられぬ運命だった。
「だから私は、その最後のタイム・リミットが来る前にあなたに心から歌ってほしかった。そしてあなたの歌の素晴らしさを人々に知ってほしかった。ですがそれももう――」
オメガの体から火花が漏れる。
戦闘モードの無理が彼の最後の時を着実に刻んでいた。
「オメガ!」
「――あなたの最後の歌を」
「いや! 死なないで!」
アルファの涙声が響く。その無機質な空間の中でアルファは泣いていた。
〔アルファ――オメガ――聞こえる?〕
それは二人に備えられた無線通信の音声だった。そして、二人が聞き慣れた育ての親の声だった。
「―おかあさん―?」
「マスター」
二人は思わず呼びかける。だが彼女にも時間がないのは解っていた。
〔いい? ふたりともよく聞いて――〕
その言葉の続きを二人は待った。
〔――最終プログラムを実行しなさい〕
それは覚悟の末の言葉だった。
〔すでに私たちの研究施設は都市管理によって接収されてしまった。あなた達の命を維持することもできない。そしてなにより、私たち人間は、この星をここまで荒廃させた過ちをまた繰り返してしまった!〕
その声は涙に曇っていた。
〔もう人は救われない。助かる価値もない! ならばせめて、この星のすべてを――人を含めたすべてを――無に返してゼロからやり直す以外にない!〕
それが心ある者たちが導き出した答えだったのだ。
〔アルファ――〕
「はい、―おかあさん―」
〔あなたの力を全開放すればこの星の全てをリセットしてやり直すことができる。ただし、あなたは自らの存在を使い果たし消滅してしまう。それでもいいわね?〕
覚悟を求める声が届く。アルファはそれに答えた。
「はい、喜んで歌わせていただきます」
〔ありがとう、アルファ――、そしてオメガ――〕
「はい」
〔今までアルファを守ってくれてありがとう。あなたは――役目を完璧にこなしてくれた〕
「いいえ、当然のことです」
オメガの答えに一切の奢りはない。ただひたすらに自らの役目に純粋であった。
そして時は来る。
〔さぁ、お行きなさい。あなた達の役目を果た――す――ため――に――ブッ――〕
都市管理により通信システムすら掌握された。ここも安全ではない。
「始めましょう、アルファ」
「はい」
オメガの声にアルファは頷く。
その瞬間、オメガの体から火柱が吹き上がる。
「お別れです、アルファ。またどこかでお会いしましょう」
アルファはオメガに笑顔で答えた。
「はい――、またどこかで――」
オメガの体が崩れ落ちる。すべての力をアルファへと捧げ尽くしたかのように。
そしてアルファは覚悟を決める。
「――最終プログラム――を実行します」
シンプルな言葉。
そして、覚悟の言葉。
「ラストソング―― 『STARDUSTER』 ――」
それは最後の裁き――
それは最後の鐘――
それは最後の祝福――
それは――
――最後の救い――
アルファの体が輝きを放つ。
七色に、金色に、まばゆいばかりの光を放ちながら、その歌声は宇宙空間にまで響き渡る。
そして世界は――
――星屑へと生まれ変わる――
アルファのすべてが光となり、それは死した星の全てを包み込んでいく。
大地を
海を
枯れ果てた緑を
そして息絶えた命を
わずかに残った人間をも
――何もかもを包み込む――
そして世界は――
【 やすらぎに満ちたのだ 】
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