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終幕:ケジメ
終幕の七:ケジメ/別れと願い
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その言葉に天龍の旦那がうなずいている。
「それは俺も同感だ。人生経験が浅いと言うか――〝何も教わらずに〟世の中に放り出された奴らが今どきは多いんだ」
「勿体ねぇ話だ。人は財産だって言うのによ」
天龍と堀坂の爺さんの言葉にエイトが頷いている。
「そのとおりです。だからこそ――〝古い人間〟が必要な事を教えてやらないといけねぇ。俺は時代遅れのポンコツだが、俺にも教えてやれる事があるはずだ。そして、そうすることで、死にかけの俺を拾ってくれた今の組織への恩返しになるはず。そう信じてます」
薄々は解っていた。エイトのおっさんは自分の死期を覚悟している。残りの時間が少ないことも解っている。だからこそだ、残りの時間をより厳選させて一つの事に費やしたいのだ。
でも、エイトのおっさんよ――
「なぁ、俺なんかで良いのかよ?」
――俺はネット越しにしか世の中で威張り散らせねぇ小物だ。腰抜けと言っていい。俺なんかより――
――ゴッ――
いきなりエイトのおっさんのゲンコツが飛んでくる。後頭部から思い切り殴られた。
「いでっ! 何すんだよ!」
「馬鹿言ってんな! 始めっから一人前になれるやつなんてどこにも居ねえんだよ!」
「言いたいことは判るけど本気でなぐんなよ! 俺のアバター壊れやすいんだぞ!」
「どこまでだったら大丈夫かくらい、殴り慣れてるからしってるよ!」
「ちくしょう、覚えてろ! 絶対見返してやるからな!」
「期待しねえで待ってるよ。俺がくたばる前に組織のトップ盗ってみろ!」
「元からそのつもりだよ!」
今までにも何度も繰り返したやり取り――おっさんからゲンコツを食らうたびに俺が悪態をつき、それをおっさんがあしらうのだ。これを世の中で何ていうんだっけ?
「〝喧嘩するほど仲がいい〟ってよく言ったもんだがなぁ」
そうそうそれ――って何笑ってんるんだよ爺さん。
「なるほど、こいつは期待できそうだ」
それに続くように天龍の旦那までが、腹の底まで納得がいったような満面の笑みで俺達を見ていた。
「行きましょう。御老――」
「あぁ、行こうか」
二人とも、未練は残していなかった。
「世話になったな。縁があったらまたどこかで会おうぜ」
そう言葉を残したのは堀坂の爺さんだった。
「エイトさん、フォーさん、これからも世話になると思います。何かあったら遠慮なく言ってください」
天龍のおっさんも肩の力が抜けた楽しげな顔で言葉を残していった。
堀坂の爺さんが先に乗り、天龍の旦那が一礼しながら運転席に乗る。そして、車をUターンさせると音を潜めながら走り去っていく。
「行こうか」
エイトのおっさんの声がする。心のつかえが取れたような穏やかな声。だが、どことなく寂しそうだ。
「あぁ」
俺が答え返す。いや、まだ告げる言葉がある。
「帰り道は俺が車転がしてくよ」
「そうか? それじゃ頼むわ」
エイトのおっさんはあっさり受け入れる。アバターゆえに外見にはわからないが、ここ数日ずっと緊張が続いていた。体力的にもかなりギリギリのはずなんだ。
「助手席でゆっくり休んでろよ」
「そうさせてもらう。流石に疲れた」
来たときとは違い、おっさんが助手席で、俺が運転席に座るとジープを走らせる。
月明かりの下、車をUターンさせると来た道を戻っていく。おそらくここには二度と来ることも無いだろう。
俺の名はビークラスターのフォー、サイレントデルタでちょっとばかり粋がっている若造だ。
俺は今、本物の任侠ヤクザから教えを受けている。
世話になっているやつの名は、ガトリングのエイト、筋金入りの本物の漢のヤクザだ。
都会の闇が俺たちを待っている。
なぁ、おっさん。
まだ、教えてもらいたいことが山ほどあるんだよ。
たのむから勝手にくたばらないでくれよ。
「それは俺も同感だ。人生経験が浅いと言うか――〝何も教わらずに〟世の中に放り出された奴らが今どきは多いんだ」
「勿体ねぇ話だ。人は財産だって言うのによ」
天龍と堀坂の爺さんの言葉にエイトが頷いている。
「そのとおりです。だからこそ――〝古い人間〟が必要な事を教えてやらないといけねぇ。俺は時代遅れのポンコツだが、俺にも教えてやれる事があるはずだ。そして、そうすることで、死にかけの俺を拾ってくれた今の組織への恩返しになるはず。そう信じてます」
薄々は解っていた。エイトのおっさんは自分の死期を覚悟している。残りの時間が少ないことも解っている。だからこそだ、残りの時間をより厳選させて一つの事に費やしたいのだ。
でも、エイトのおっさんよ――
「なぁ、俺なんかで良いのかよ?」
――俺はネット越しにしか世の中で威張り散らせねぇ小物だ。腰抜けと言っていい。俺なんかより――
――ゴッ――
いきなりエイトのおっさんのゲンコツが飛んでくる。後頭部から思い切り殴られた。
「いでっ! 何すんだよ!」
「馬鹿言ってんな! 始めっから一人前になれるやつなんてどこにも居ねえんだよ!」
「言いたいことは判るけど本気でなぐんなよ! 俺のアバター壊れやすいんだぞ!」
「どこまでだったら大丈夫かくらい、殴り慣れてるからしってるよ!」
「ちくしょう、覚えてろ! 絶対見返してやるからな!」
「期待しねえで待ってるよ。俺がくたばる前に組織のトップ盗ってみろ!」
「元からそのつもりだよ!」
今までにも何度も繰り返したやり取り――おっさんからゲンコツを食らうたびに俺が悪態をつき、それをおっさんがあしらうのだ。これを世の中で何ていうんだっけ?
「〝喧嘩するほど仲がいい〟ってよく言ったもんだがなぁ」
そうそうそれ――って何笑ってんるんだよ爺さん。
「なるほど、こいつは期待できそうだ」
それに続くように天龍の旦那までが、腹の底まで納得がいったような満面の笑みで俺達を見ていた。
「行きましょう。御老――」
「あぁ、行こうか」
二人とも、未練は残していなかった。
「世話になったな。縁があったらまたどこかで会おうぜ」
そう言葉を残したのは堀坂の爺さんだった。
「エイトさん、フォーさん、これからも世話になると思います。何かあったら遠慮なく言ってください」
天龍のおっさんも肩の力が抜けた楽しげな顔で言葉を残していった。
堀坂の爺さんが先に乗り、天龍の旦那が一礼しながら運転席に乗る。そして、車をUターンさせると音を潜めながら走り去っていく。
「行こうか」
エイトのおっさんの声がする。心のつかえが取れたような穏やかな声。だが、どことなく寂しそうだ。
「あぁ」
俺が答え返す。いや、まだ告げる言葉がある。
「帰り道は俺が車転がしてくよ」
「そうか? それじゃ頼むわ」
エイトのおっさんはあっさり受け入れる。アバターゆえに外見にはわからないが、ここ数日ずっと緊張が続いていた。体力的にもかなりギリギリのはずなんだ。
「助手席でゆっくり休んでろよ」
「そうさせてもらう。流石に疲れた」
来たときとは違い、おっさんが助手席で、俺が運転席に座るとジープを走らせる。
月明かりの下、車をUターンさせると来た道を戻っていく。おそらくここには二度と来ることも無いだろう。
俺の名はビークラスターのフォー、サイレントデルタでちょっとばかり粋がっている若造だ。
俺は今、本物の任侠ヤクザから教えを受けている。
世話になっているやつの名は、ガトリングのエイト、筋金入りの本物の漢のヤクザだ。
都会の闇が俺たちを待っている。
なぁ、おっさん。
まだ、教えてもらいたいことが山ほどあるんだよ。
たのむから勝手にくたばらないでくれよ。
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