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伍:横浜港
伍の七:横浜港/マネキンのシックス
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それから数日と置かずにサイレントデルタからのアプローチがあった。ただひとつだけ拍子抜けしたのは連絡方法がネット越しではなかったということである。
突然の電話、そして呼び出し。声の主はあの〝ビークラスターのフォー〟だった。
〔今、出て来れるか?〕
どうやって電話番号を調べたのかと驚きもしたが、元々がネットの世界で情報を支配することで利益を生み出してる連中だ。電話番号如き雑作もないだろう。
俺はちょうど、天龍のオヤジのもとで毎日の業務をこなしているところだった。すぐそばにはカツのやつもいる。表向きは社長秘書室の新人研修員という肩書きだった。
本来ならば仕事を中断して外に出るのは難しいのだが、相手がサイレントデルタとなれば話は別だ。
「分かったどこに行けばいい?」
〔渋谷に来れるか?〕
「行ける20分くらいだ」
〔それじゃ、スペイン坂まで来てくれ。俺の方からアプローチする〕
「分かった」
〔じゃぁな〕
語るだけ語ると通話は切れる。
俺は有勝に告げた。
「行くぞ、サイレントデルタの連中と打ち合わせだ」
「はい」
そして俺達は天龍のオヤジに断りを入れて会社を後にしたのだ。
自分のベンツに有勝を乗せて渋谷の指定の場所へと向かう。駐車場を見つけるのも面倒だったのて、AIのアレンに命じて適当に流すように指示した。
そしてパルコ側からスペイン坂に入り降りるように歩いて行けば、物陰から現れたのは褐色肌のギャル風のルックスの二人。見慣れた姿は3子と6美だった。
「お久しぶりです」
「元気してた?」
「おう」
挨拶もそこそこに二人は俺たちを招いていく。
「リーダーが待ってます」
「こっちだよ」
そうして連れて行かれた裏路地に、ひっそりと佇むバーがあった。
【電脳バー:〔256〕】
情報端末やVRシステムが常設され、ネットやゲームを楽しみながら酒が飲めるという場所だった。2040年代の今では決して珍しい場所ではなかった。
20人ほどが入れる店内の中、入口近くのカウンターと、テーブル席があり、テーブル席の奥の席に待っていたのがビークラスターのフォーだった。大きめの丸テーブル、その卓上に立体映像投影式の空間ディスプレイが再現されている。それを前にして何やらやっていたが俺に気づいて右手を上げて手招きしていた。
おそらくはこの店のマスターもフォーについては分かっているのだろう。あの蜂の巣頭が見えていても何も言おうとしない。
闇社会を生きる人間には大抵この手の隠れ家的な拠点がある。かくいう俺もとある場所に誰にも知られていない隠れ家を持っている。
ここはフォーにとってそういう場所なのだ。
「来たか、こっちだ」
フォーが俺に手招きしている。
そして、フォーの隣には俺と同年代くらいの外見の麗しい女性が居る。春物の7分袖のツーピースドレスを身にまとい、頭髪は黒髪でミドルボブ。白い肌に血のように赤いルージュが印象的だった。
その二人を前にして、3子と6美はバーの中、入口近くのテーブルに離れて座っている。
この状況を俺は知っている。組織の重要幹部と下位メンバーの力関係だ。フォーの隣の美女はおそらくはサイレントデルタの上級幹部に違いなかった。
俺は二人を前にして襟を正すことにした。二人の前に立つと、視線を投げかけながら挨拶の言葉を吐く。傍らでは有勝がともに佇んでいる。
「お初にお目にかかります。フォーさんのご列席の方とお見受けします。手前は緋色会の若衆の一人、柳沢永慶と申します。隣に控えているのは俺の弟分の田沼と言います。お見知りおきを」
あえて襟元を正し丁寧に語ろうとする俺にフォーはなにか言いたげだったが、それを遮るように言葉を発したのはその黒髪のボブヘアの女性だった。
「やっぱり鍛えられてるスジ者は違うねぇ。ちゃんとしてる。気に入ったよ」
そして俺たちに対して斜めに腰を下ろしていたが、改めて俺たちの方へと向かい合うと、こう切り出したのだ。
「サイレントデルタ、トリプルの一人〝マネキンのシックス〟、IDは〝666〟――よろしく頼むよ」
そう挨拶を切りながらシックスは右手を差し出してきた。その指先には赤いマニキュアが塗られている。ほっそりとした腕から視線を移動させれば、ドレスの襟元から除く胸の谷間が垣間見えている。そこはかとなく香水の匂いも漂ってくる。
間違いない。この女は〝闇社会〟の裏も表も知り尽くしている。そしてなにより、自らが女であることを武器にできる――そう言うタイプの人間だ。味方にしていれば強いが、敵に回すと一番恐ろしいタイプだ。
突然の電話、そして呼び出し。声の主はあの〝ビークラスターのフォー〟だった。
〔今、出て来れるか?〕
どうやって電話番号を調べたのかと驚きもしたが、元々がネットの世界で情報を支配することで利益を生み出してる連中だ。電話番号如き雑作もないだろう。
俺はちょうど、天龍のオヤジのもとで毎日の業務をこなしているところだった。すぐそばにはカツのやつもいる。表向きは社長秘書室の新人研修員という肩書きだった。
本来ならば仕事を中断して外に出るのは難しいのだが、相手がサイレントデルタとなれば話は別だ。
「分かったどこに行けばいい?」
〔渋谷に来れるか?〕
「行ける20分くらいだ」
〔それじゃ、スペイン坂まで来てくれ。俺の方からアプローチする〕
「分かった」
〔じゃぁな〕
語るだけ語ると通話は切れる。
俺は有勝に告げた。
「行くぞ、サイレントデルタの連中と打ち合わせだ」
「はい」
そして俺達は天龍のオヤジに断りを入れて会社を後にしたのだ。
自分のベンツに有勝を乗せて渋谷の指定の場所へと向かう。駐車場を見つけるのも面倒だったのて、AIのアレンに命じて適当に流すように指示した。
そしてパルコ側からスペイン坂に入り降りるように歩いて行けば、物陰から現れたのは褐色肌のギャル風のルックスの二人。見慣れた姿は3子と6美だった。
「お久しぶりです」
「元気してた?」
「おう」
挨拶もそこそこに二人は俺たちを招いていく。
「リーダーが待ってます」
「こっちだよ」
そうして連れて行かれた裏路地に、ひっそりと佇むバーがあった。
【電脳バー:〔256〕】
情報端末やVRシステムが常設され、ネットやゲームを楽しみながら酒が飲めるという場所だった。2040年代の今では決して珍しい場所ではなかった。
20人ほどが入れる店内の中、入口近くのカウンターと、テーブル席があり、テーブル席の奥の席に待っていたのがビークラスターのフォーだった。大きめの丸テーブル、その卓上に立体映像投影式の空間ディスプレイが再現されている。それを前にして何やらやっていたが俺に気づいて右手を上げて手招きしていた。
おそらくはこの店のマスターもフォーについては分かっているのだろう。あの蜂の巣頭が見えていても何も言おうとしない。
闇社会を生きる人間には大抵この手の隠れ家的な拠点がある。かくいう俺もとある場所に誰にも知られていない隠れ家を持っている。
ここはフォーにとってそういう場所なのだ。
「来たか、こっちだ」
フォーが俺に手招きしている。
そして、フォーの隣には俺と同年代くらいの外見の麗しい女性が居る。春物の7分袖のツーピースドレスを身にまとい、頭髪は黒髪でミドルボブ。白い肌に血のように赤いルージュが印象的だった。
その二人を前にして、3子と6美はバーの中、入口近くのテーブルに離れて座っている。
この状況を俺は知っている。組織の重要幹部と下位メンバーの力関係だ。フォーの隣の美女はおそらくはサイレントデルタの上級幹部に違いなかった。
俺は二人を前にして襟を正すことにした。二人の前に立つと、視線を投げかけながら挨拶の言葉を吐く。傍らでは有勝がともに佇んでいる。
「お初にお目にかかります。フォーさんのご列席の方とお見受けします。手前は緋色会の若衆の一人、柳沢永慶と申します。隣に控えているのは俺の弟分の田沼と言います。お見知りおきを」
あえて襟元を正し丁寧に語ろうとする俺にフォーはなにか言いたげだったが、それを遮るように言葉を発したのはその黒髪のボブヘアの女性だった。
「やっぱり鍛えられてるスジ者は違うねぇ。ちゃんとしてる。気に入ったよ」
そして俺たちに対して斜めに腰を下ろしていたが、改めて俺たちの方へと向かい合うと、こう切り出したのだ。
「サイレントデルタ、トリプルの一人〝マネキンのシックス〟、IDは〝666〟――よろしく頼むよ」
そう挨拶を切りながらシックスは右手を差し出してきた。その指先には赤いマニキュアが塗られている。ほっそりとした腕から視線を移動させれば、ドレスの襟元から除く胸の谷間が垣間見えている。そこはかとなく香水の匂いも漂ってくる。
間違いない。この女は〝闇社会〟の裏も表も知り尽くしている。そしてなにより、自らが女であることを武器にできる――そう言うタイプの人間だ。味方にしていれば強いが、敵に回すと一番恐ろしいタイプだ。
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