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幕間3:明治村近傍
幕間3-4:明治村近傍/接近戦
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「カウント3」
「OK」
エイトの声に俺は合わせる。3秒後に突入するのだ。
――1,2……――
3のタイミングでエイトが走り出すのに合わせて蜂共を突っ込ませた――はずだった。
――バチイィッ!!――
電気火花のような破裂音、それと同時にさっきよりも強い出力の電磁パルスが放出されたのだ。
「ガァアッ!」
電磁パルスノイズで蜂たちが機能不全に陥る。コントロールを失って落ちるか明後日の方に飛んでいく。俺が放った30匹の大半――26匹が一気に失われた。
「フォー!?」
エイトのおっさんが俺のことを案じる。解き放つ蜂の数が多いほどインセクトドローンのシステムはコントローラーである俺への負担が増える。それが26匹も同時に焼かれたらどうなるか?
「くっ! くそ――」
おれは思わずその場に崩れ落ちた。遠隔操作のアバターボディとはいえ、ネット経由で操縦者である俺本人へも、操縦方法によるがそれなりのダメージは来る。ましてやこう言う複数ターゲットの同時コントロール系の機能は精密さとリアルタイムさが必要になる。
だから俺は頭脳とネット回線の直結を選んでいるのだ。
「――リスクより性能を選んだのが仇になっちまったぜ」
頭痛がする。吐き気がする。なにより手足に力が入らない。この場合電磁パルスへのシールドなんか意味がない。ドローンとの接続が突然カットされることのほうがダメージが大きいのだ。
「悪ぃ――」
そう言いながら俺は地面に這いつくばる。手足に力が入らない。無様だがしかたねえ。だが――
「回復するまで、そこで寝てろ」
――そう告げるエイトのおっさんの声は怒気をはらんでいた。
それと同時に物陰から一人の男が姿を表した。
「手前ぇか――」
エイトが問い詰める。
「なんの事だ」
物陰から姿をあらわしたバイカージャケット姿の男が言う。エイトはさらに言葉を続けた。
「俺の舎弟、ヤッたのは」
その言葉で相手に意図が届いたらしい。バイカージャケットの男はしてやったりと言いたげな表情を浮かべる。
「馬鹿かオメェ」
そしてその男は両手を腰の裏に隠していたが、抜き放つのと同時にこう叫んだのだ。
「わざわざ答えるかよ」
バイカージャケットの男が腰の裏に隠していたのは、初期型の古いコルトガバメントと、米軍の正式拳銃、SIG・P320、抜き放ちざまに45ACPと357SIG弾を撃ち放った。
だがエイトも黙っては居ない。
「後悔するぞ。餓鬼が」
予備回転させていたガトリングヘッドをフル回転させると灼熱する粒子ビームを撒き散らした。
「落とし前つけろや! 三下ァ!」
だが敵もそれを読んでいた。
「つけてやるよ――」
敵が放った初弾の2発は牽制だった。エイトの攻撃が正面制圧優先の直線攻撃である事を最初から読んでいたのだ。
「――あんたをぶっ倒してなぁ!!」
撃った直後に左へとフェイントのモーションをかけてエイトのガトリングヘッドの射線を誘導する。そして、ガトリングヘッドが粒子ビームをばらまき始めるその寸前を巧みに見切って奴はこちら側へと駆け出してきたのだ。
「早ぇ!」
俺は驚きの声を上げた。
そして、奴はおそろしくフットワークが軽かった。ヤケで偶然を狙っての危ない橋じゃない。自分の能力のリミットを理解した上で俺やエイトの攻撃の効果とその限界をわかった上ですきを突いたのだ。
「くそっ!」
すぐ脇を通り抜けられたエイトは即座に振り向こうとする。だが――
――ガァン!――
敵は走り抜けながら右手のガバメントだけを後方に向けて撃ち放った。目視で照準を狙わない完全なブラインドショット――にもかかわらず奴は45ACPの重量の重い弾丸を、振り向きざまのエイトのガトリングヘッドの真横に命中させたのだ。
「ガアッ!!」
流石にエイトの旦那からも悲鳴が上がる。アバターボディの頭部とは言え、ある程度の痛覚は保持している。痛覚は肉体の故障を察知するには最適なシステムだからだ。あるいは頭部への衝撃が動きの情報として伝わったことで、オリジナルのボディである本人が何らかの苦痛を感じたのだろう。
視界の中、やつは走り抜けていく。池にかかった〝天童眼鏡橋〟を渡り〝ザビエル天主堂〟へと向かう。そしてそのまま3丁目へと向かう。おそらくは――
「野郎、仲間と合流する気だな?」
俺は立ち上がりながら言った。オリジナルの肉体に多少の頭痛がするが動くのには問題ない。俺が無事なのを理解するとエイトは俺に言った。
「追うぞ。ふんづかまえてぶちのめす」
「殺すのか?」
「死なねえ程度だよ。そうしねえと――」
エイトはいきり立つように足を踏みしめる。
「俺の気がすまねぇ」
出たぜ。エイトのおっさんの捨て台詞。こう言うところに根の荒っぽさが滲み出てくる。
「おっさん、二手に別れようぜ」
「なんだと?」
「俺が〝レンガ通り〟に先回りする。仕掛けをしてるだろうからそっちを潰す。おっさんはあの2丁拳銃を追ってくれ」
「わかった」
「何かあったらネット経由で連絡だ」
「いいだろう」
「じゃあな――」
そして俺は立ち上がり走り出す。小柄で軽量な分、本気で走ればバイクくらいの速度は出せる。大柄で重装なおっさんは頑張ってもせいぜい原付バイクくらいだが。
「フォー」
エイトのおっさんが俺に声をかけてくる。脚をとめて振り向けばおっさんは言った。
「無理はするなよ」
それはねぎらいの言葉だった。だが――
「俺だってサイレントデルタだよ」
――それは俺なりの精一杯の強がりだったのかもしれない。
分かっている。俺には絶対的な実力が足りていないと言う事を。
知力、情報力、カリスマ、戦闘力、技術力、財力――どれをとっても素人に毛が生えたレベルだ。俺も所詮は街の片隅で少しばかりハッキングスキルがあるからって粋がっているガキに過ぎない。
でも、俺と本気で向き合ってくれているこのエイトのオッサンぐらいにはなりたいと思うのだ。
俺は明治村の敷地の中をひた走る。向かうのは〝2丁目〟赤レンガ通りのある場所だ。
そこに決着があると、俺は信じていたのだ
「OK」
エイトの声に俺は合わせる。3秒後に突入するのだ。
――1,2……――
3のタイミングでエイトが走り出すのに合わせて蜂共を突っ込ませた――はずだった。
――バチイィッ!!――
電気火花のような破裂音、それと同時にさっきよりも強い出力の電磁パルスが放出されたのだ。
「ガァアッ!」
電磁パルスノイズで蜂たちが機能不全に陥る。コントロールを失って落ちるか明後日の方に飛んでいく。俺が放った30匹の大半――26匹が一気に失われた。
「フォー!?」
エイトのおっさんが俺のことを案じる。解き放つ蜂の数が多いほどインセクトドローンのシステムはコントローラーである俺への負担が増える。それが26匹も同時に焼かれたらどうなるか?
「くっ! くそ――」
おれは思わずその場に崩れ落ちた。遠隔操作のアバターボディとはいえ、ネット経由で操縦者である俺本人へも、操縦方法によるがそれなりのダメージは来る。ましてやこう言う複数ターゲットの同時コントロール系の機能は精密さとリアルタイムさが必要になる。
だから俺は頭脳とネット回線の直結を選んでいるのだ。
「――リスクより性能を選んだのが仇になっちまったぜ」
頭痛がする。吐き気がする。なにより手足に力が入らない。この場合電磁パルスへのシールドなんか意味がない。ドローンとの接続が突然カットされることのほうがダメージが大きいのだ。
「悪ぃ――」
そう言いながら俺は地面に這いつくばる。手足に力が入らない。無様だがしかたねえ。だが――
「回復するまで、そこで寝てろ」
――そう告げるエイトのおっさんの声は怒気をはらんでいた。
それと同時に物陰から一人の男が姿を表した。
「手前ぇか――」
エイトが問い詰める。
「なんの事だ」
物陰から姿をあらわしたバイカージャケット姿の男が言う。エイトはさらに言葉を続けた。
「俺の舎弟、ヤッたのは」
その言葉で相手に意図が届いたらしい。バイカージャケットの男はしてやったりと言いたげな表情を浮かべる。
「馬鹿かオメェ」
そしてその男は両手を腰の裏に隠していたが、抜き放つのと同時にこう叫んだのだ。
「わざわざ答えるかよ」
バイカージャケットの男が腰の裏に隠していたのは、初期型の古いコルトガバメントと、米軍の正式拳銃、SIG・P320、抜き放ちざまに45ACPと357SIG弾を撃ち放った。
だがエイトも黙っては居ない。
「後悔するぞ。餓鬼が」
予備回転させていたガトリングヘッドをフル回転させると灼熱する粒子ビームを撒き散らした。
「落とし前つけろや! 三下ァ!」
だが敵もそれを読んでいた。
「つけてやるよ――」
敵が放った初弾の2発は牽制だった。エイトの攻撃が正面制圧優先の直線攻撃である事を最初から読んでいたのだ。
「――あんたをぶっ倒してなぁ!!」
撃った直後に左へとフェイントのモーションをかけてエイトのガトリングヘッドの射線を誘導する。そして、ガトリングヘッドが粒子ビームをばらまき始めるその寸前を巧みに見切って奴はこちら側へと駆け出してきたのだ。
「早ぇ!」
俺は驚きの声を上げた。
そして、奴はおそろしくフットワークが軽かった。ヤケで偶然を狙っての危ない橋じゃない。自分の能力のリミットを理解した上で俺やエイトの攻撃の効果とその限界をわかった上ですきを突いたのだ。
「くそっ!」
すぐ脇を通り抜けられたエイトは即座に振り向こうとする。だが――
――ガァン!――
敵は走り抜けながら右手のガバメントだけを後方に向けて撃ち放った。目視で照準を狙わない完全なブラインドショット――にもかかわらず奴は45ACPの重量の重い弾丸を、振り向きざまのエイトのガトリングヘッドの真横に命中させたのだ。
「ガアッ!!」
流石にエイトの旦那からも悲鳴が上がる。アバターボディの頭部とは言え、ある程度の痛覚は保持している。痛覚は肉体の故障を察知するには最適なシステムだからだ。あるいは頭部への衝撃が動きの情報として伝わったことで、オリジナルのボディである本人が何らかの苦痛を感じたのだろう。
視界の中、やつは走り抜けていく。池にかかった〝天童眼鏡橋〟を渡り〝ザビエル天主堂〟へと向かう。そしてそのまま3丁目へと向かう。おそらくは――
「野郎、仲間と合流する気だな?」
俺は立ち上がりながら言った。オリジナルの肉体に多少の頭痛がするが動くのには問題ない。俺が無事なのを理解するとエイトは俺に言った。
「追うぞ。ふんづかまえてぶちのめす」
「殺すのか?」
「死なねえ程度だよ。そうしねえと――」
エイトはいきり立つように足を踏みしめる。
「俺の気がすまねぇ」
出たぜ。エイトのおっさんの捨て台詞。こう言うところに根の荒っぽさが滲み出てくる。
「おっさん、二手に別れようぜ」
「なんだと?」
「俺が〝レンガ通り〟に先回りする。仕掛けをしてるだろうからそっちを潰す。おっさんはあの2丁拳銃を追ってくれ」
「わかった」
「何かあったらネット経由で連絡だ」
「いいだろう」
「じゃあな――」
そして俺は立ち上がり走り出す。小柄で軽量な分、本気で走ればバイクくらいの速度は出せる。大柄で重装なおっさんは頑張ってもせいぜい原付バイクくらいだが。
「フォー」
エイトのおっさんが俺に声をかけてくる。脚をとめて振り向けばおっさんは言った。
「無理はするなよ」
それはねぎらいの言葉だった。だが――
「俺だってサイレントデルタだよ」
――それは俺なりの精一杯の強がりだったのかもしれない。
分かっている。俺には絶対的な実力が足りていないと言う事を。
知力、情報力、カリスマ、戦闘力、技術力、財力――どれをとっても素人に毛が生えたレベルだ。俺も所詮は街の片隅で少しばかりハッキングスキルがあるからって粋がっているガキに過ぎない。
でも、俺と本気で向き合ってくれているこのエイトのオッサンぐらいにはなりたいと思うのだ。
俺は明治村の敷地の中をひた走る。向かうのは〝2丁目〟赤レンガ通りのある場所だ。
そこに決着があると、俺は信じていたのだ
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