上 下
13 / 15
第二章

2-4.アドルフの苦悩2

しおりを挟む
「みんなの前で着替えなきゃいけないの? 」

アレクに「そうだよ」と言われ、セシルは慣れない作法に戸惑いながらも服のボタンを外そうとする。

そのぎこちない素直な反応に、まさか本当に信じるとは思わなかったアレクが赤面して慌てる。

想定外の反応に動揺するアレクに代わってルイが後ろからやってくると、「そんなわけないよ」と、シャッとカーテンを締めた。

嘘だとわかったセシルは衝撃を受けたが、カーテンを閉められたことで試着室は少し薄暗くなり、ただでさえ凝ったデザインで着辛いところ、更に手元がよく見えずドレスに苦戦する。

ドレスを着ることはできたものの、背中の調整紐を一人で結ぶことができない。

セシルはカーテンをから器用に顔だけ出して、キョロキョロと店員を探す。

「一人じゃ、着れない?」

セシルの様子に待ってましたと言わんばかりに学習しないアレクが近づいてくるも、セシルは先ほどの嘘を思い出して拒絶する。

「アレクはだめ!」

大袈裟に落ち込んだようなリアクションを見せるアレクの代わりに、先ほど紳士的な対応を見せたルイにセシルは目を遣る。

「ルイ」

セシルが申し訳なさそうに控えめに、座っていたルイを呼ぶので、ルイが立ち上がりセシルの元へくる。

「どうした? 」

「背中の部分どうすればいいかわからなくて…」

ルイは少し迷って、同じように女性店員を探すも、人払いしてしまったせいでそこには誰もいない。

「入っていい? 」

警戒心なく、うん、と頷くセシルに促され、「ルイだけずるい! ずるい!」とふてくされるアレクを無視して、ルイが試着室に入る。




背中の紐を編み上げるためにウエストに手が置かれると、セシルはまた心拍数が上がるのを感じた。

「細いな」

すぐ後ろから皇太子の低く甘い声をかけられるせいで、胸がつまりそうになる。

逃げ出したくなる羞恥をセシルはグッと我慢して、人形のようになされるがままになる。

ルイは器用に手早く結ぶと、「できたよ」とセシルを正面に向かせた。

水色の淡いシルクのドレスで、セシルの可憐さが際立つドレスだった。

「ありがとうございます! 」

苦戦していた着替えをいとも簡単に整えてもらえたので、セシルは揚々として試着室を出ようとする。

すると、ルイに腕を掴まれる。

「これは、あんまり見せたくないな」

ルイは少し困ったように呟く。

「え?」

ルイの見つめる先には、ドレスから伸びる長い手足、華奢でありながら美しい曲線が綺麗に浮き出た肢体。

ざっくり開いたデコルテは、少女だったはずのセシルから女性らしく艶めかしさを感じさせる。

しっかりとしたドレスを着たことのなかったセシルは、まじまじと自分の服装を見て、改めて恥ずかしくなる。

「や、やっぱ脱ぐ! 」

そう言ってルイに退室してもらおうとしていた時に、「セシル着れた?」と、アレクの陽気な声が響く。

「アレク、私やっぱりドレスじゃないのが着たい、着替える! 」

しかし聞く気はないのか、アレクがカーテンに手をかける。

「開けるよ!」

「え、待って、やだ! だめ!」

セシルの静止虚しく、シャッとカーテンが開けられる。

そして一言「うわお! めちゃめちゃ艶かしいね!」

アレクはご満悦といった風。

ノリノリで出た言葉に、セシルは真っ赤になってしゃがみ込み、ぐずぐずと泣き出す。

「ドレスやだ、恥ずかしい」

一方のアレクはどこ吹く風で、「セシルのスタイルの良さを際立たせるためにも、もうちょっとウエスト絞ったデザインがいいかな」とぶつぶつと言いながら、採寸のために女性店員をようやく呼んで、指示を出そうとする。

セシルは羞恥から立ち上がれずに「舞踏会行きたくない」と泣く。

ルイはあやすように頭を撫でて、丈の微調整のために試着室の外に連れ出すとそのままソファに座る。

アレクからドレスを隠すように、ルイの胸に身を寄せながらセシルはぐずぐずと不安を漏らす。

そして、中に入ってきたアドルフがその不可思議な光景にあんぐりと口を開け、冒頭の状態というわけだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

実は私が国を守っていたと知ってましたか? 知らない? それなら終わりです

サイコちゃん
恋愛
ノアは平民のため、地位の高い聖女候補達にいじめられていた。しかしノアは自分自身が聖女であることをすでに知っており、この国の運命は彼女の手に握られていた。ある時、ノアは聖女候補達が王子と関係を持っている場面を見てしまい、悲惨な暴行を受けそうになる。しかもその場にいた王子は見て見ぬ振りをした。その瞬間、ノアは国を捨てる決断をする――

そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?

氷雨そら
恋愛
 結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。  そしておそらく旦那様は理解した。  私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。  ――――でも、それだって理由はある。  前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。  しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。 「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。  そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。  お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!  かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。  小説家になろうにも掲載しています。

自業自得って言葉、知ってますか? 私をいじめていたのはあなたですよね?

長岡更紗
恋愛
庶民聖女の私をいじめてくる、貴族聖女のニコレット。 王子の婚約者を決める舞踏会に出ると、 「卑しい庶民聖女ね。王子妃になりたいがためにそのドレスも盗んできたそうじゃないの」 あることないこと言われて、我慢の限界! 絶対にあなたなんかに王子様は渡さない! これは一生懸命生きる人が報われ、悪さをする人は報いを受ける、勧善懲悪のシンデレラストーリー! *旧タイトルは『灰かぶり聖女は冷徹王子のお気に入り 〜自業自得って言葉、知ってますか? 私をいじめていたのは公爵令嬢、あなたですよ〜』です。 *小説家になろうでも掲載しています。

【完結】聖女を害した公爵令嬢の私は国外追放をされ宿屋で住み込み女中をしております。え、偽聖女だった? ごめんなさい知りません。

藍生蕗
恋愛
 かれこれ五年ほど前、公爵令嬢だった私───オリランダは、王太子の婚約者と実家の娘の立場の両方を聖女であるメイルティン様に奪われた事を許せずに、彼女を害してしまいました。しかしそれが王太子と実家から不興を買い、私は国外追放をされてしまいます。  そうして私は自らの罪と向き合い、平民となり宿屋で住み込み女中として過ごしていたのですが……  偽聖女だった? 更にどうして偽聖女の償いを今更私がしなければならないのでしょうか? とりあえず今幸せなので帰って下さい。 ※ 設定は甘めです ※ 他のサイトにも投稿しています

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

【完結】魅了が解けたあと。

恋愛
国を魔物から救った英雄。 元平民だった彼は、聖女の王女とその仲間と共に国を、民を守った。 その後、苦楽を共にした英雄と聖女は共に惹かれあい真実の愛を紡ぐ。 あれから何十年___。 仲睦まじくおしどり夫婦と言われていたが、 とうとう聖女が病で倒れてしまう。 そんな彼女をいつまも隣で支え最後まで手を握り続けた英雄。 彼女が永遠の眠りへとついた時、彼は叫声と共に表情を無くした。 それは彼女を亡くした虚しさからだったのか、それとも・・・・・ ※すべての物語が都合よく魅了が暴かれるとは限らない。そんなお話。 ______________________ 少し回りくどいかも。 でも私には必要な回りくどさなので最後までお付き合い頂けると嬉しいです。

処理中です...