相死相哀

戸山紫煙

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最期

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その後も二人の微妙な関係は続いた。
食事をしたり、買い物をしたり。だが、前のように家に誘ったりすることはめっきりなくなり、距離もやや離れたように見えた。
そんなある日、平日のど真ん中の夜に真衣から連絡が来た。
「お酒、飲みたいです!」
そんな唐突な連絡も初めてだったし、平日に誘われるのも初めてだった。
「いいですよ。今週末ですか?」
「明日とか、ダメですか?」
すぐに連絡が返ってきた。平日に誘うなんてことも初めてだった。
綾川はにわかに心配だったが、翌日もその次の日もある程度余裕があったため、快諾した。
「ありがとう!」
いつになく嬉しそうな様子が文面からも窺えた。
綾川はいつも通り、仕事をこなして夜に待ち合わせたバーへ向かった。

「ありがとうございます。ごめんなさい、無理言って。」
昨日の文面とは打って変わって遠慮がちな真衣はそれでも早く飲みたいと言いたげにメニューを開いた。
お酒を飲みながら綾川は気にかけていることを聞いた。
「何か、ありました?」
「あ、わかっちゃいましたか…」
真衣は少し恥ずかしそうに小さくなりながら話す。
「実は…仕事で嫌なことがあって。」
そう言って真衣はぽつりぽつりと話し始めた。仕事で失敗したこと。後輩の失敗をなすりつけられたこと。怒られることが立て続けに起こったこと。そのせいで調子が出ないこと。
「私って、向いてないのかなあ。」
いつも明るい真衣の憂いのある表情を見て、綾川は複雑な気持ちになった。
こんな顔を見せてくれるほど信頼してもらえた喜びと共に、もっといろんな顔が見たいと思った。それは、もっと暗い、絶望の顔さえ。
「向いてないなんて、うまくいかないことは誰にだってありますよ。」
「綾川さんは順調そうじゃないですかー。」
少しいじけたように膨れ顔で綾川を見る。その顔は薄暗いバーの中でも少し赤らんでいることがわかった。
「そんなことないですよ。嫌われたり、嫌味言われたり、日常茶飯事です。」
綾川も色々と仕事のことを思い出しながら優しく語る。
そんな話を聞きながらも真衣はヤケになったようにお酒を頼む。
「んー、綾川さんはそれでも人気だからいいじゃないですか。」
寂しそうに真衣はそう言った。
「人気…そんなの、大したものじゃないですよ。もっと確かな…」
そこまで綾川が言いかけると真衣はぐったりと綾川にもたれかかってきた。
「笹谷さん?」
「んー、少し、眠くなっちゃった。」
すっかりお酒が回ってぐったりとした真衣を綾川が支える。
お会計を頼み、真衣を抱えるようにして綾川は店を出るとタクシーを呼んだ。
「笹谷さん、帰れます?」
真衣から言葉は帰ってこない。すっかり寝息を立てて寝ているようだった。
困った綾川は停めたタクシーを前にどぎまぎしながら二人で乗り込んだ。
「ーーまで。」
綾川は自宅まで帰るように伝えた。
『仕方ないか…』
そう思いながら真衣を介抱して家に帰る覚悟を決めた。
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