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邂逅
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人気のない公園に綾川が着くと、木陰のベンチにビジネスバッグを置き、中から物を取り出した。
液体の入った小さいスプレーと、猫の好む魚のペーストのようなチューブ菓子。綾川はスプレーをそばに何度か噴霧し、ベンチに座る。
するとその匂いを嗅ぎつけてか、体が汚れた野良猫が現れた。綾川の姿を見つけて警戒しながらも、徐々に距離を詰めてくる。
そこで綾川はチューブ菓子を開け、猫の方へと差し向けてみた。
その途端猫は心を許したのか、サクサクと綾川の方へ行き、おやつを食べ始めた。
綾川はチューブ菓子を舐めながら嬉しそうにする猫を冷たい目で見ていた。その目はこれまでテレビや他人に向けたどのようなものよりも冷たかった。
その目と相反して優しい手つきで猫を撫でる。荒んで固い毛並みを優しく、癒すように撫でる姿は、側から見れば優しいイメージ通りの姿だった。
安心したのか、猫は綾川の手にじゃれつくようになった。菓子を食べ終えてリラックスしたように転がる。
その姿を手懐けている傍らでスーツのポケットから折り畳まれた刃物を取り出した。
片手でそれを展開すると、甘えて仰向けになっている猫の腹部に狙いを定める。
刃が突き刺さる鈍い音共に声にもならない猫の鳴き声が虚しく響く。
猫の驚き、悲しげな表情を見つめながら綾川は何度も刃を振り下ろす。その顔にはうっすらと笑みが浮かんでいる。その手にはまだ生暖かい血がべっとりとついている。
興奮から呼吸が荒くなる。すっかり動かなくなり、ぐったりとした生き物を見つめて綾川は興奮の奥に後悔を少しだけ潜ませた目をした。
小さな血溜まりから亡骸を拾い上げると、公園の隅の植え込みの影にそれを隠すと、綾川は公衆トイレへと駆け込んだ。
電球すらちかつくほど古びたトイレの個室に入ると興奮の高まりを自ら収めた。薄汚れたタイルの壁にもたれながらぐったりと視線を落とす。呼吸が次第に整い、落ち着くと個室から出て血に染まった手を念入りに洗う。同じく血に塗れた刃物も綺麗に血を流し、洗面台に血が残らないように気をつける。
少しだけ汚れてしまったスーツを見て綾川は冷静に『クリーニングに出さなくては。』などと考えながら徐々に後悔が高まった。
尽きかけていた石けんで丁寧に手を洗い、ハンカチで手を拭きながら外に出る。辺りはすっかり暗くなり、まばらな街灯がかろうじて道を照らしていた。
帰り道を調べようとスーツのポケットからスマホを取り出す。しかし、運悪く電池が切れてしまっており、道が調べられない。
『しまったな。』
少し焦りながらも、辺りを見渡し、より明るい光がありそうな方向を目指して歩き始める。綾川はただ、その道が正しいことを祈っていた。
液体の入った小さいスプレーと、猫の好む魚のペーストのようなチューブ菓子。綾川はスプレーをそばに何度か噴霧し、ベンチに座る。
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そこで綾川はチューブ菓子を開け、猫の方へと差し向けてみた。
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綾川はチューブ菓子を舐めながら嬉しそうにする猫を冷たい目で見ていた。その目はこれまでテレビや他人に向けたどのようなものよりも冷たかった。
その目と相反して優しい手つきで猫を撫でる。荒んで固い毛並みを優しく、癒すように撫でる姿は、側から見れば優しいイメージ通りの姿だった。
安心したのか、猫は綾川の手にじゃれつくようになった。菓子を食べ終えてリラックスしたように転がる。
その姿を手懐けている傍らでスーツのポケットから折り畳まれた刃物を取り出した。
片手でそれを展開すると、甘えて仰向けになっている猫の腹部に狙いを定める。
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猫の驚き、悲しげな表情を見つめながら綾川は何度も刃を振り下ろす。その顔にはうっすらと笑みが浮かんでいる。その手にはまだ生暖かい血がべっとりとついている。
興奮から呼吸が荒くなる。すっかり動かなくなり、ぐったりとした生き物を見つめて綾川は興奮の奥に後悔を少しだけ潜ませた目をした。
小さな血溜まりから亡骸を拾い上げると、公園の隅の植え込みの影にそれを隠すと、綾川は公衆トイレへと駆け込んだ。
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