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旅立ち
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アランは瞳を閉じていると眠っていた。
夜も深くなり、外は一層闇が深くなっていた。
『まだ夜中か、もう一度寝ないと。』
アランは窓の外を一度見ると再び横になった。
ーーアラン。
どこかから声が聞こえた。母以外の声だった。すっかり静まり返った街から聞こえているように感じた。
『こんな時間に?僕を呼んでる?』
アランは眠い目を擦りながら窓の外を覗いた。家の前にはローブを着てフードを深く被った人物が立っていた。
『誰だろう?でも、夜中だからここから声をかけるのは…』
窓越しに注視していると、人物は窓へ向けて顔を上げた。暗いながらも、街灯と月明かりに照らされた顔には目元を覆う金属の仮面が見える。
ーーアラン、迎えにきたよ。こっちへおいで。
口元の動きはなかったように見えたが、アランの耳には言葉が聞こえた。
『なんだろう、魔法かな?でも、怪しいし…』
ーー降りておいで、待ってるよ。
アランは少し躊躇しながらも、練習用の木刀を取ってゆっくり静かに玄関に向かった。
母のリリーはすでに眠っているようで、家の中は静かだった。気づかせてしまわないように玄関の扉をゆっくりと開けてアランは外へ出た。
窓越しに見ていたローブの人物が目の前にいた。背丈は普通の男性程度あり、細身で華奢に見えた。
「アラン、来てくれたんだね。」
直接聞いた声は優しく、男性にしては高く聞こえた。
「あなたは誰?」
「私は君を迎えにきたんだ。」
「迎えって…?」
「私と一緒に旅に出よう。」
唐突に誘われたアランはたじろいだ。今初めて出会った男にいきなり旅へ出ようと言われたことで、左手に握った木刀をいっそう強く握った。
「警戒しないでいい。私は君の能力を見込んで旅をしたいと言っているんだ。」
「どうして僕の名前を?僕の能力って何?」
ローブの男は手元から不思議な壺のようなものを取り出して言った。
「私は占い師。未来を見て君とこれから行くべきだと知ったんだ。」
無茶苦茶な話にアランは一層不信感を抱き、怪訝な顔をした。
「君は今、すべきことに悩んでいる。そうだね?」
急に自分しか知らないことを見抜かれてドキッとした。怪訝そうな顔から驚いたような表情へと変わる。
「…お父さん、しばらく会ってないんだろ、会ってみないか?」
全て初対面では知り得ない情報だった。アランは父の話をされて、少し興味が出ていた。
「父さんに…王都へ行くってこと?」
「そうだよ。悪い話ではないんじゃないかな?」
アランは迷っていた。俯いて少し考えた。
母を寂しがらせるかもしれない。そんなことをしたら憎い父親と同じなのではないか。
何も返せずにいるアランを見た男は優しく声をかける。
「今すぐでなくていい。明日の昼、この街の西の広場にいるから、心が決まったら来るといい。」
そう言い残すと、男は静かに街の闇の中へ消えていった。
『明日の昼…か。』
アランはその日、寝ることもなくひたすら考えていた。
最近は母親ともうまくいっていない。母は僕の旅立ちをどう思うだろうか。
ひたすら考えて、朝を迎えると、アランはカバンに荷物を詰め込んだ。
朝食を食べる席で、アランは意を決してリリーへ切り出した。
「母さん、僕、旅に出ようかと思ってる。」
リリーは突然の言葉に驚き、食事を止めた。
「旅って…どこへ行くつもりなの?」
「父さんに、会いたいんだ。父さんに会うために、王都まで行きたい。」
「でも、危険じゃないの?」
「それでも、僕は父さんに会いたい。」
アランは真剣な眼差しをリリーへ向けた。リリーはその瞳を見て、想いを受け止めた。
「…危ないと思ったら、戻ってきなさい。」
リリーは少し震えた声で返した。
「ありがとう、母さん…」
「必ず連絡はするのよ。」
リリーは俯いて、食器を片付けた。そんな姿を見てアランは申し訳ない気持ちが溢れた。しかし、認めてくれたことをきちんと胸に受け止めて、朝食を済ませると支度をした。
太陽が真上に差し掛かった頃、アランは家を出て西の広場へ向かった。
「来てくれたんだね。」
昨日と同じ声がした方を見ると、ローブを着た男が立っていた。
明るい中で見ると、彼の肌は透き通るように美しく、繊細な体をしていた。
「行こうか。」
男の言葉にアランはうなずき、西の門から街を出る。
アランは生まれ育った街を振り返ると、そのまままだ見たことのない街道を進みはじめた。
夜も深くなり、外は一層闇が深くなっていた。
『まだ夜中か、もう一度寝ないと。』
アランは窓の外を一度見ると再び横になった。
ーーアラン。
どこかから声が聞こえた。母以外の声だった。すっかり静まり返った街から聞こえているように感じた。
『こんな時間に?僕を呼んでる?』
アランは眠い目を擦りながら窓の外を覗いた。家の前にはローブを着てフードを深く被った人物が立っていた。
『誰だろう?でも、夜中だからここから声をかけるのは…』
窓越しに注視していると、人物は窓へ向けて顔を上げた。暗いながらも、街灯と月明かりに照らされた顔には目元を覆う金属の仮面が見える。
ーーアラン、迎えにきたよ。こっちへおいで。
口元の動きはなかったように見えたが、アランの耳には言葉が聞こえた。
『なんだろう、魔法かな?でも、怪しいし…』
ーー降りておいで、待ってるよ。
アランは少し躊躇しながらも、練習用の木刀を取ってゆっくり静かに玄関に向かった。
母のリリーはすでに眠っているようで、家の中は静かだった。気づかせてしまわないように玄関の扉をゆっくりと開けてアランは外へ出た。
窓越しに見ていたローブの人物が目の前にいた。背丈は普通の男性程度あり、細身で華奢に見えた。
「アラン、来てくれたんだね。」
直接聞いた声は優しく、男性にしては高く聞こえた。
「あなたは誰?」
「私は君を迎えにきたんだ。」
「迎えって…?」
「私と一緒に旅に出よう。」
唐突に誘われたアランはたじろいだ。今初めて出会った男にいきなり旅へ出ようと言われたことで、左手に握った木刀をいっそう強く握った。
「警戒しないでいい。私は君の能力を見込んで旅をしたいと言っているんだ。」
「どうして僕の名前を?僕の能力って何?」
ローブの男は手元から不思議な壺のようなものを取り出して言った。
「私は占い師。未来を見て君とこれから行くべきだと知ったんだ。」
無茶苦茶な話にアランは一層不信感を抱き、怪訝な顔をした。
「君は今、すべきことに悩んでいる。そうだね?」
急に自分しか知らないことを見抜かれてドキッとした。怪訝そうな顔から驚いたような表情へと変わる。
「…お父さん、しばらく会ってないんだろ、会ってみないか?」
全て初対面では知り得ない情報だった。アランは父の話をされて、少し興味が出ていた。
「父さんに…王都へ行くってこと?」
「そうだよ。悪い話ではないんじゃないかな?」
アランは迷っていた。俯いて少し考えた。
母を寂しがらせるかもしれない。そんなことをしたら憎い父親と同じなのではないか。
何も返せずにいるアランを見た男は優しく声をかける。
「今すぐでなくていい。明日の昼、この街の西の広場にいるから、心が決まったら来るといい。」
そう言い残すと、男は静かに街の闇の中へ消えていった。
『明日の昼…か。』
アランはその日、寝ることもなくひたすら考えていた。
最近は母親ともうまくいっていない。母は僕の旅立ちをどう思うだろうか。
ひたすら考えて、朝を迎えると、アランはカバンに荷物を詰め込んだ。
朝食を食べる席で、アランは意を決してリリーへ切り出した。
「母さん、僕、旅に出ようかと思ってる。」
リリーは突然の言葉に驚き、食事を止めた。
「旅って…どこへ行くつもりなの?」
「父さんに、会いたいんだ。父さんに会うために、王都まで行きたい。」
「でも、危険じゃないの?」
「それでも、僕は父さんに会いたい。」
アランは真剣な眼差しをリリーへ向けた。リリーはその瞳を見て、想いを受け止めた。
「…危ないと思ったら、戻ってきなさい。」
リリーは少し震えた声で返した。
「ありがとう、母さん…」
「必ず連絡はするのよ。」
リリーは俯いて、食器を片付けた。そんな姿を見てアランは申し訳ない気持ちが溢れた。しかし、認めてくれたことをきちんと胸に受け止めて、朝食を済ませると支度をした。
太陽が真上に差し掛かった頃、アランは家を出て西の広場へ向かった。
「来てくれたんだね。」
昨日と同じ声がした方を見ると、ローブを着た男が立っていた。
明るい中で見ると、彼の肌は透き通るように美しく、繊細な体をしていた。
「行こうか。」
男の言葉にアランはうなずき、西の門から街を出る。
アランは生まれ育った街を振り返ると、そのまままだ見たことのない街道を進みはじめた。
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