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実力者
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午後になると演習の授業が始まる。剣術を学生同士で競うというものである。
皆簡単な木製の練習用鎧を身につけ、持ち寄った木刀を持ち決められた相手と手合わせをする。それは年齢も背丈も異なるアランももちろんのことだった。
「いいか?全員いるか?では、手合わせ始め!」
剣術に長けたガタイの良い先生の合図でそれぞれ手合わせを始める。今日のアランの初めの相手は背丈の高い細身の男だった。
相手の男はこれまでの授業で習ったように綺麗な剣さばきを見せる。空を切る木刀の音がアランの耳元を掠める。授業で習う剣術は基本的なもので、その動きをそのまましていると次の振りまでの隙が出来やすい。しかしそんなことは18歳級の者たちは身をもって知っており、それぞれが工夫して隙のないような立ち回りを見せようとしている。だがアランは小ぶりな体を生かした身のこなしで上級生たちの攻撃をすり抜け、一瞬の隙を突くのだ。
アランから見れば大きな太刀である木刀を軽々振り回す相手の手元にひらりと入り込み、アランはその小刀のような木刀を相手の胸に突き上げる。ゴツンという鈍い音とともにバランスを崩した相手はドサリと座り込んだ。
周りの組はまだ手合わせをしているところも多いが、アランの組は挨拶を交わし、手合わせを終えた。
「アランは相変わらずすごいな。学校始まって以来の最年少卒業者というだけはある。」
先生はアランに声をかけるが、当のアランは軽く会釈をして流す。
そうして1日にローテーションして5人ほどと手合わせをする。どの相手でも僅かな隙に接近して胸や足を一突きし、軽く勝利を挙げるのだった。
そんな様子を見せていると周りの学生からはヒソヒソとした声があがる。
「あいつ、ずるいよ。体格が違うんだし、立ち回りが違うっての。」
「ほんと、ネズミみたいでいやらしいぜ。」
「剣術ばっか上手くて上がってきたんだろ。調子乗ってるよな。」
「なんか俺らの代の首席として卒業挨拶するんだとか?」
「マジで?なんか納得いかないわ。」
断片的に聞こえる陰口にアランは一瞥をくれるのをぐっと我慢した。というよりも、もはやそれにすら飽きてしまったのかもしれない。アランは陰口が耳に入ってしまうくらいならば、いっそずっと剣を振るっていたいと思いながら遠くを見つめていた。
「さて、ここまで。こうして全員と手合わせできるのもあと少しだから、こういう機会はいつも以上に大事にするように。」
先生の一声で剣術の授業は終わった。バラバラと鎧を脱ぎながら教室へ帰っていく人の流れから少し時間をおいてアランは一人で帰っていった。一人でいる時間、今日のアランはただ一つのことを考えていた。
『卒業してから…か。』
卒業後のことを考えても何度も頭の中は霞むばかりだった。どうなってしまうのだろうかという不安、何も変わらないんじゃないかという楽観、今より少しはマシになるだろうという希望が入り混じった脳内の霧は実際に卒業してみるまで晴れることはなかった。むしろ、卒業してからもなお霧は濃くかかり続けていたのだった。
皆簡単な木製の練習用鎧を身につけ、持ち寄った木刀を持ち決められた相手と手合わせをする。それは年齢も背丈も異なるアランももちろんのことだった。
「いいか?全員いるか?では、手合わせ始め!」
剣術に長けたガタイの良い先生の合図でそれぞれ手合わせを始める。今日のアランの初めの相手は背丈の高い細身の男だった。
相手の男はこれまでの授業で習ったように綺麗な剣さばきを見せる。空を切る木刀の音がアランの耳元を掠める。授業で習う剣術は基本的なもので、その動きをそのまましていると次の振りまでの隙が出来やすい。しかしそんなことは18歳級の者たちは身をもって知っており、それぞれが工夫して隙のないような立ち回りを見せようとしている。だがアランは小ぶりな体を生かした身のこなしで上級生たちの攻撃をすり抜け、一瞬の隙を突くのだ。
アランから見れば大きな太刀である木刀を軽々振り回す相手の手元にひらりと入り込み、アランはその小刀のような木刀を相手の胸に突き上げる。ゴツンという鈍い音とともにバランスを崩した相手はドサリと座り込んだ。
周りの組はまだ手合わせをしているところも多いが、アランの組は挨拶を交わし、手合わせを終えた。
「アランは相変わらずすごいな。学校始まって以来の最年少卒業者というだけはある。」
先生はアランに声をかけるが、当のアランは軽く会釈をして流す。
そうして1日にローテーションして5人ほどと手合わせをする。どの相手でも僅かな隙に接近して胸や足を一突きし、軽く勝利を挙げるのだった。
そんな様子を見せていると周りの学生からはヒソヒソとした声があがる。
「あいつ、ずるいよ。体格が違うんだし、立ち回りが違うっての。」
「ほんと、ネズミみたいでいやらしいぜ。」
「剣術ばっか上手くて上がってきたんだろ。調子乗ってるよな。」
「なんか俺らの代の首席として卒業挨拶するんだとか?」
「マジで?なんか納得いかないわ。」
断片的に聞こえる陰口にアランは一瞥をくれるのをぐっと我慢した。というよりも、もはやそれにすら飽きてしまったのかもしれない。アランは陰口が耳に入ってしまうくらいならば、いっそずっと剣を振るっていたいと思いながら遠くを見つめていた。
「さて、ここまで。こうして全員と手合わせできるのもあと少しだから、こういう機会はいつも以上に大事にするように。」
先生の一声で剣術の授業は終わった。バラバラと鎧を脱ぎながら教室へ帰っていく人の流れから少し時間をおいてアランは一人で帰っていった。一人でいる時間、今日のアランはただ一つのことを考えていた。
『卒業してから…か。』
卒業後のことを考えても何度も頭の中は霞むばかりだった。どうなってしまうのだろうかという不安、何も変わらないんじゃないかという楽観、今より少しはマシになるだろうという希望が入り混じった脳内の霧は実際に卒業してみるまで晴れることはなかった。むしろ、卒業してからもなお霧は濃くかかり続けていたのだった。
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