死神憑きの微笑み

戸山紫煙

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陰陽庁

陰陽庁

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陽が傾き、空は紫色に染まっていた。陽が伸びてまだ昼間の暑さが残っている。
沙夜は講義の終わった教室から足早に出て志木河の元へ向かった。
「お待たせしました。」
先ほど別れた喫煙所で再び落ち合う。志木河は沙夜に気がつくと軽く右手を上げた。
「大丈夫?疲れてない?」
「いえ、大丈夫です。」
志木河はタバコをふかしながら沙夜を気遣う。一通り吸い終えると灰皿にタバコを押し付け、火を消して軽くため息をついた。
「じゃ、行こうか。」
志木河は空き時間で歩いて回った道を慣れた足取りで歩き、駅へと向かう。その後ろを沙夜がついていく。
時折志木河は後ろを振り向いて沙夜の様子を伺いながら歩いた。
地下鉄の駅に着くと、地下から生ぬるい風が吹き上げてきた。
「地下鉄、使うんだっけ?」
志木河はさりげなくそう聞いた。
「普段は地上の電車を使ってます。」
「そうなんだ。」
他愛もない会話をしながら階段を下っていく。
改札を抜け、ホームに着くと志木河は電光掲示板を見て次の電車を確認した。
「ちょっとあるな…喉、乾いた?」
「あ、いえ、そんな。お気遣いなく…」
「いや、いいんだよ。俺が勝手に連れてきちゃったし。」
控えめな沙夜を横目に志木河は改札の横にある自動販売機に向かう。沙夜もそれについていく。
志木河はポケットから直に小銭を取り出し、何枚か自動販売機に入れる。いくつもの種類の飲み物のランプがつくと志木河は自動販売機の前からすっと外れた。
「何がいい?選んで。」
「あ…えっと…」
沙夜は少し悩んだ後、小さいペットボトルのお茶を選んだ。ガコン、と音がすると沙夜がかがむより前に志木河が飲み物を取り出して沙夜に渡した。
「あ、ありがとうございます。」
そのまま志木河は小銭を入れ直し、缶の微糖のコーヒーを選んだ。
そうしているうちに電車はホームへ入ってきた。
「5駅くらいだから。」
そう志木河は沙夜を車内に導きながら説明した。
電車は静かに動き出した。2人はドアのそばの手すりに掴まった。車内はそれほど混んでおらず、席もまばらに空いていたが少しの間だからと座らずに過ごした。1駅、2駅と進むうち、沙夜は少し緊張していた。
『研究所って、一体…何をしているのかな…』
そんなことを考えていると、5駅先の目的地についた。
仕事帰りのサラリーマンが向かいのホームの電車に多く見える。そんな中、志木河と沙夜は改札を出た。
都会のビル群。そこには政府の機関が集まり仰々しい雰囲気を携えていた。
「こっち。」
志木河はリードするように前を歩き出す。少し早い歩きに沙夜は急いで追いつこうと早歩きになる。
言葉を交わすことのない静かな夕暮れの道を二人は歩いた。
「ここ。入るときは俺が証明書出すから、着いてきて。」
着いたのはある省庁の大きな建物。見知った省庁の名前は陰陽庁とは関係がなさそうに見えた。
「あの…ここでいいんですか?」
「ああ、あってるよ。」
怯えるように沙夜は志木河に駆け寄りくっついて歩く。入り口の警備員は志木河の差し出したカードを見て礼をして通した。
「ここの7階。ちょっと狭いから気をつけてね。」
そう言いつつ建物奥のエレベーターのスイッチを押す。
『ついに…研究所に…』
沙夜は固唾を呑んでエレベーターの到着を待っていた。
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