ドッペル 〜悪役令嬢エレーヌ・ミルフォードの秘密

しげむろ ゆうき

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 別邸の外には青いマントを着た沢山の騎士とローライト王国騎士団が揃っていた。その中からドノバンが駆け寄ってくる。

「お嬢様!」
「ドノバン! 無事だったのね。良かった……」
「マグルスの杖の皆様のおかげです」

 ドノバンはそう言って青いマントを着た騎士を見つめる。そういうドノバンも青いマントを着ていたので私は首を傾げているとアルフォンス先生が言ってきた。

「ドノバンはうちで雇うことになった。ミルフォード侯爵家は被害者とはいえ、おそらくなくなるだろうからな。それでなんだが……リア、考えておいてくれないだろうか。もし、ま、魔法に興味があるならマグルスの杖で一緒に……いや、違う」

 アルフォンス先生は先ほどと違い覚悟を決めた表情で私を見つめてくる。

「リア、こんな時にどうかしてると思われても仕方ないがどうか俺の側にいてくれないだろうか?」

 アルフォンス先生は熱を帯びた視線で私を見つめてくる。もちろん私の頭は真っ白になった。まさか、アルフォンス先生にこんな嬉しいことを言われるとは思わなかったから。
 でも、すぐに私は思いだす。そして、なんとなか力を振り絞り口を開いた。

「私はあなたには相応しくありません。もっと素敵な女性がいるはずですよ……」

 私は必死に作り笑いを浮かべる。気持ちがバレないように。だってミルフォード侯爵家は間違いなくなくなる。それに私はそもそも存在しない人間なのだ。
 だから、アルフォンス先生にはもっと素敵な人と一緒になってほしい。そう思ってしまう。
 しかし、アルフォンス先生は私を更に熱の帯びた視線で見つめる。

「素敵な女性ならもう目の前にいる」
「アルフォンス先生……」
「君じゃなければダメなんだ。俺にはもう君以外考えられない」

 こんなことを言われたらもう自分の気持ちを抑えるなんてできなかった。私は真っ赤になりながら頷いた。

「……はい。私もアルフォンス先生の側にいたいです」
「リア!」

 アルフォンス先生は私を強く抱きしめる。すると周りから沢山の拍手や口笛が聞こえてきた。それで私は状況を思い出し慌ててしまう。

「アルフォンス先生!」
「アルだ」
「えっ?」
「アルと呼んでほしい」
「そ、そうではなくて……」

 しかし、アルフォンス先生は黙って私をジッと見つめてくる。だから言うしかなかった。

「……アル」
「リア」

 そして再び強く抱きしめられてしまったのだ。そんな私達の側にマシューがくる。

「アルフォンス様、そんなに強く抱きしめられてはリアお嬢様がおかわいそうですよ」
「はっ! す、すまない……」

 アルは慌てて私を少しだけ離す。どうやら下ろす気はないならしい。私は苦笑しているとマシューが声をかけてくる。

「リアお嬢様、行かれるのですね」
「ええ、お母様達に会ってくるわ」
「わかりました。アルフォンス様、リアお嬢様をよろしくお願いします」
「わかった」

 アルは頷くと私を抱えながら馬車に向かっていく。するとマグルスの杖の皆様とローライト王国騎士団も慌ただしく動き出す。そんな彼らを見ながらアルは口を開く。

「これから王家のパーティー会場に向かう。そこにいるミルフォード侯爵家とエランドを俺達マグルスの杖は捕縛、やむを得なければ殺すつもりだ。だから覚悟をしておいてくれ」

 私を馬車に乗せるとアルはそう言ってくるので頷いた。

「大丈夫です。ただ余裕があればお母様達と話をしてみます」
「任せろ。なんとか時間を作ってみる」

 アルが頷くと同時に馬車は走り出す。私は思わず揺れに耐えられなくフラつくとすぐにアルが支えてくれた。

「ありがとうございます」
「いや、当然のことをしたまでた。それよりこの首飾りをそろそろ外そう。今、罠がないか見てみる」

 そう言って首飾りを調べる。しばらくして私に頷いてきた。

「ゆっくり外してみてくれ」
「はい」

 私は首飾りを外す。直後、体が淡く光り出したのだ。しかし、しばらくすると収まっていく。思わずアルを見るとゆっくりと口を開いた。

「間違いなく聖なる力だ。やはりミルフォード侯爵はリアの聖なる力を使ってエランドの闇の力を抑えようとしたんだろう」
「でも間に合わなかったのですね……」
「いや、リアだけは助かった。夫人の願いは叶ったんだよ」
「お母様の?」
「エランドにバレないよう俺に合図を送ってきた。さっさと仕事をしてリアを助けろってな」

 アルが苦笑するため、私も思わず頬が緩む。しかし、すぐにお母様のことを考えてしまった。

 お母様はずっと戦っていたのね……。そして今はエレーヌと共に行動している。そうなると……

 なんとなくだが理解してしまう。お母様の考えが。だから早くパーティー会場に着いてほしいと思ってしまう。でないともう会えなくなりそうだから。

 お母様……
 
 私は祈るように手を合わせているとアルが声をかけてくる。

「そろそろパーティー会場に着く。これを着ておくといい」

 アルは青いマントを渡してくる。

「多少の攻撃はこれが防いでくれる。それと君はマグルスの杖のリアだ。いいね」
「はい」

 私は意味を理解して頷く。するとそれがタイミングだったのか馬車がゆっくりと止まった。

「到着しましたね」
「ああ、じゃあ、早速……」

 アルは私を抱えようとしたので慌てて手で制す。

「じ、自分の足で歩いて行きますよ」
「……そうか」

 アルは残念そうな顔をしたがすぐに腕を差し出してくる。私は頷くとその腕に手を置き歩き出した。パーティー会場に向かって。だが、しばらくして立ち止まる。
 ナイフを持ったロイドがいたから。

「やはり、来ましたか……」

 ロイドは私を睨んでくるとすぐにアルやマグルスの杖の皆様にローライト王国騎士団が前に出ようとする。そのため私は前に出て手で制した。

「少し話をさせて下さい」

 そして更に前に出るとロイドが苦笑しながら私を見つめてきた。

「ずいぶんと様になってますよ。お嬢様」
「リアよ」
「俺にとってはどうでもいいです。それよりも屋敷に帰って頂けませんか?」
「この国に私の帰る場所はないの。ロイド、そこをどいて」
「嫌です。俺はエレーヌお嬢様の従者ですから」

 ロイドは両手を広げる。そんなロイドに私は更に近寄りもう一度口を開いた。

「退きなさい」
「やめてくれ! 俺を惑わすのは!」
「ロイド……」
「くそ……最初はどうでもいいと思っていたんだ。だって俺にとってはエレーヌお嬢様が全てだったから。でも、あなたがどんどん俺の中で大きくなって……」

 ロイドは膝を突き項垂れる。すると、あっという間にロイドはローライト王国騎士団に捕縛されてしまった。私は思わずロイドに声をかけようとしたが、アルに制され首を横に振られる。

「今は考える時間をやった方がいい。それよりも急いだ方がいい。パーティー会場で何か起きている」

 アルは険しい表情でパーティー会場を見る。私もなんとなく感じていた。あの得体の知れない不快感が高まるのを。
 私は頷き歩き出すと、新たに馬車が到着し中からシールド侯爵親子とレインコール伯爵令息が出てきた。

「始まったか……」

 シールド侯爵が呟くとアルが頷く。

「騎士団の配置を頼む」
「わかった」

 シールド侯爵は去り際、私に頭を下げていく。すると顔色の悪いシールド侯爵令息と体中に包帯を巻き車椅子に乗ったレインコール伯爵令息が近づいてくる。そして二人して頭を下げてきたのだ。

「罪は償います。ただ俺達も連れていってほしい」
「僕達、ケルビン殿下を助けたいんだ」

 二人は切実な表情で私達を見てくる。私はアルを見ると肩をすくめられてしまった。

「問題児の責任を取りたくない。……だがお前達が勝手についてくるのは問題ないだろう」

 そう言って私をエスコートしはじめると、後ろの方で喜ぶ声が聞こえてきた。私は思わずアルに微笑む。しかし、すぐにパーティー会場に視線を向けた。闇の力が高まるのを感じたから。しかも使っているのが誰かわかってしまう。

 エレーヌ……

 私は今までのことを思い出し体が震えてくる。やはりエレーヌは私にとって恐怖の象徴だから。けれど、すぐにその恐怖は消え去る。私の体のなかの聖なる力が高まったから。そしてアルがしっかりと手を握りしめてくれたから。
 私は頷く。

「行きましょう」

 そしてパーティー会場へと足を踏み入れる。
 
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