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48 アルフォンスside
しおりを挟むあれから捜査も少しずつだが進展していった。だが、俺が欲しい証拠は出なく段々と焦りが出始めた頃、モンドがある情報を持ってきたのだ。二十年前に遠く離れた国からある人物がローライト王国に入ってきてミルフォード侯爵家に接触したと。
「マリアン・ベネチカ……現ミルフォード侯爵夫人か」
「調べた限りベネチカという名の公爵家は三十年以上前に滅んでます。きっと偽名でしょう」
「ローライト王国はなぜ裏どりをしなかった?」
「影響力のあるミルフォード侯爵の所為ですね。当時二人は貴族内では珍しい恋愛結婚だったみたいですから」
「……そうか」
呟いた後、俺は考えてしまう。ルイーザ嬢が来る前、エレーヌ嬢とケルビン王太子の仲はどうだったのだろうかと。だが、すぐに頭を振った。
はあっ、何を考えているんだ俺は……
思わず頭を抱えそうになっているとモンドが「ミルフォード侯爵家をいつ調査をしますか?」と尋ねてきた。
俺はすぐさま現状を考え答える。
「……やはりミゲルが特別権限書を持ってきてからだな」
「強行でいくことはないということですか?」
「証拠にチャンスがあればやる。まあ、何も出なかった場合はこの国から追い出されるが」
「そうでしたね……」
モンドはグリーンシス公爵との事を思い出したのだろう。悔しそうな表情をする。
もちろん俺も今の状況は歯痒さを感じている。だが、慎重にいかねばならない。魔王軍の生き残りが誰で何をしようとしているのかを。
でなければ凄惨な光景を見ることになるからな。
そう思って俺達は慎重に動いていた。だが、この国のバカ共はそれをさせてはくれなかったのだ。
なぜなら数日後、ミルフォード侯爵家が火事になったと知らせが来たから。しかも知らせてくれたグラビス騎士団長の話はとんでもない内容だったからだ。
「ケルビン王太子が火事を起こした可能性があるだと?」
「きっとケルビン王太子殿下だけの考えではないだろう」
グラビス騎士団長はそう答え、後ろにいた人物、ブラフ・レインコール伯爵を睨む。すると彼は怯えた表情で口を開いた。
「ミルフォード侯爵家を陥れるためだ。彼らはこのローライト王国にとってはもう邪魔な存在でしかない」
「聖女アリスティアの末裔だぞ?」
俺が思わずそう尋ねるとレインコール伯爵は首を横に振った。
「過去の威光では食べてはいけない。財政を支えているグリーンシス公爵やその他の貴族はそう考えている」
「だから、王家に入る前に噂を本当の事にして消してしまおうと?」
「……おそらく今は裏で証拠固めをしているだろう。国王陛下抜きで……」
「ちっ」
俺は舌打ちしてしまう。改めてローライト王国が危機意識がない事を理解したからだ。
やはり強引に調べるか? だが、証拠が出なければ……
そう思っていたら、モンドが慌てて部屋に入ってくる。そして俺に耳打ちしてきた。俺はすぐにレインコール伯爵に声をかける。
「あなたはこれからどうするつもりだ? 場合によっては席を外してもらいたい」
するとレインコール伯爵は俯きながら答えてきた。
「私は間違った判断をした。だから挽回したい。あなた方は魔王軍の生き残りを倒しに来たのだろう。だから手伝わせて欲しい」
「その言葉に嘘はないな?」
「もちろん」
俺はレインコール伯爵をしばらく観察する。そして頷いた。
「わかった。では、これから話すことは内密に頼む。今さっき怪我をした意識不明の老人を保護した。ミルフォード侯爵家の屋敷の側でな」
「やはり、あそこは怪しいな」
グラビス騎士団長は顎に手を当てる。それから俺を見てきた。
「タイミングを見て騎士団に強制捜査をさせるか?」
「してもらいたい。だができるのか?」
「近いうちに行われる聖アリスティア聖誕祭はどうだろう。ミルフォード侯爵家は総出でパーティーに出て屋敷は手薄になる。もちろん影からの支援は必要だが……」
グラビス騎士団長が俺を見てくる。もちろん意味を理解しているため頷くとグラビス騎士団長は満足気な表情を浮かべた。
「これで魔王軍の生き残りとミルフォード侯爵家が接触しているか調べられるな」
「まあ、その前に動かれてしまう可能性もあるが……」
「そうならないよう祈るしかないだろう」
グラビス騎士団長の言葉に俺は頷く。
まあ、その前にミゲルが戻って来たら行動を早めればいいだけだからな。
俺はそう思いながらこれからの事を考える。そして溜め息を吐いた。最近、色々と動き回っているカイル第二王子のことを思いだしたからだ。
余計なことをしないように釘を刺しておくか。出ないとあいつ自身も危険な目に会うかもしれない。
そう考えた後、俺は頭を振った。
違うな。本音はカイル第二王子に静かになってもらいたいだけだ。彼女のためにも。だから仕掛けさせてもらうぞ。
俺は口角を上げると早速グラビス騎士団長にカイル第二王子の事を相談をするのだった。
◇
学院内でのカイル第二王子の動きが日増しに怪しくなってきた。おそらく近いうちにエレーヌ嬢に仕掛けてくるのだろう。
まあ、既に罠は張っているから俺にとっては好都合だった。ただし気持ちは酷い気分だ。それはそうだろう。知っていながらエレーヌ嬢を危険な目に合わせているからだ。
「最低だな……」
そう呟くと側にいたモンドが目を細める。
「ずいぶんと肩入れしてますね。冷酷と言われるあなたにしては珍しい。もしかして彼女に……」
「違う……」
すぐに否定するとモンドは呆れた顔で俺を見てくる。
「別にいいじゃないですか。私からみたら二人はなかなかお似合いだと思いますよ」
そう言ってくるモンドに俺は何も言えなかった。口に出せば自分を止められなくなりそうだからだ。まあ、要は自分でもわかっているのだ。エレーヌ嬢に夢中になっているのを。
だが、記憶が戻れば彼女は……
そう考えたら胸が苦しくなる。なにせ記憶喪失前の彼女はケルビン王太子に熱心だったからだ。
記憶が戻ったらまたそうなってしまうのか? しかし、その時はきっと傷つくのだろうな……
ケルビン王太子とルイーザ嬢のことを思い浮かべる。だが、同時にホッとしてしまう自分もいたのだ。
本当に最低な奴だな。
俺は溜め息を吐く。しかし、すぐに立ち上がった。エレーヌ嬢に渡した魔導具の防御魔法が使われたのを感じたからだ。
「私は待機しているグラビス騎士団長に声をかけてきます」
勘のいいモンドはそう言ってくる。俺は頷くとすぐさま駆け出す。今頃エレーヌ嬢は危険な目に遭っているだろうからだ。
案の定、彼女はカイル第二王子に押され階段から落ちるところだった。
俺はすぐさま抱き止める。
「アルフォンス先生……」
耳元に心地良い声が聞こえてくる。こんな時だというのに頬が緩んでしまった。
全く最低過ぎる。だが、それでも……
俺はエレーヌ嬢を見つめ口を開く。
「遅れてすまない。もう、心配ない」
そして今度は第二王子殿下を睨みつけるのだった。
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