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43 ケルビンside
しおりを挟む私、ケルビン・ローライトは思わず読んでいた報告書を落としてしまう。冒頭の一文を読んでしまったから。
「カイルが捕まっただと……」
すると報告書を持ってきたグリーンシス公爵が頷いた。
「第二王子殿下がミルフォード侯爵令嬢を階段から突き落としたらしいです。まあ、未遂に終わりましたが……」
「……なぜ、そんなことに?」
「報告書にはミルフォード侯爵令嬢に告白したが断られ、逆上したからと……」
「はっ、あいつがエレーヌを?」
「ええ、バレないよう水面下で色々としていたらしいです。まあ、全て失敗したらしいですが」
グリーンシス公爵は落ちている報告書を拾うと私に渡してくる。そのため再び読み始めるがある報告に疑問を持ち口を開いた。
「……デビット達を殺したのは違うと書いてあるが本当か?」
「そこは間違いないですね。ああ、ただミルフォード侯爵家の別邸近くの森にあったレイノル達の遺体を動かしたのは第二王子だそうです。あなた達への嫌がらせですね」
「……そうか。で、処分は?」
「カイル第二王子殿下は病気を理由に長く離宮で過ごすことになりそうです」
グリーンシス公爵は淡々とそう言ってくる。私は大きく溜め息を吐いた。
あの髑髏の仮面の人物はカイルで私を監視していたと……。しかも、エレーヌの階段落ちの件にも関わっている?
まだ半分も読んでいないが、私は報告書を机に投げてしまった。猛烈に頭が痛くなったからだ。
前からあいつのことは変な奴だとは思っていたが……ここまでだったのか。
私は目を閉じ、こめかみを抑える。それから、しばらくして口を開いた。
「……この件、公になっているのか?」
「いいえ。なので、例の件に支障はないですよ」
グリーンシス公爵にそう言われ、私はハッとする。
そうだった。最悪、アリスティア生誕祭どころじゃなくなるところだった。しかし、向こうはこんなことになったのなら婚約破棄を言ってくるんじゃないか?
私はそんな事を思いながら再び報告書を読むがホッとしてしまった。
「ミルフォード侯爵家から抗議すらなかったのか……」
「それどころか、アリスティア生誕祭のパーティーにも出るそうです」
「……怪しくないか? その日に何か仕掛けてくるとか……」
するとグリーンシス公爵は口角を上げた。
「構いませんよ。その前にこちらから仕掛ければいいのです。王太子殿下、パーティーが始まってすぐには国王陛下は来ません」
「そこで例のものを出し断罪すれば良いんだな」
「ええ、後は騎士団でなくこちらで用意した兵がミルフォード侯爵家全員を捕縛します」
「父上が来る頃は全て終わっているという事だな」
「はい」
グリーンシス公爵は満足そうな表情を浮かべるため、私は苦笑しながら頷いた。
「わかった。後は皆に注目されるような台詞を考えておく」
「お願いしますよ。未来の国王陛下」
そう言ってグリーンシス公爵は一礼して去っていった。私は息を吐き椅子の背もたれにもたれる。
「なんとか上手くいきそうだな。しかし、カイルがそんな事をするとは……。いや、もしかしたらエレーヌに騙されたのかもな」
父上が呆れるほど勉強ができない愚弟の事を思い出し、私は溜め息を吐く。
全く馬鹿だから、あいつの上辺しか見れなかったんだろう。その点、私は違う。真実の愛を見つけることができたんだからな。
そう思いながら私は机の引き出しを開け、小箱を見つめる。
結婚式を挙げる時、お互いに同じ形の指輪を交換し左手の薬指にはめあうか……。なんて素晴らしい儀式なんだろう。しかも、教えてくれたのが更に素晴らしい君なんて。
私は頬を緩ませながら小箱をそっと撫でる。
「会いたいな、ルイーザ」
しかし、すぐに頭を振った。
「ダメだ。まずは全てを仕込んでからだ。だから待っててくれ」
私はグリーンシス公爵に隠れて作った計画表を取り出すと、それを眺めて笑みを浮かべるのだった。
◇
遂に待ちに待ったアリスティア生誕祭の日になった。現在、私の目の前には煌びやかなプリンセスドレスを着たルイーザが立っている。しかし、そのドレスとは正反対に表情は曇っていた。
どうしたんだろう?
私はそんなことを思いながら、ルイーザの頬に手を持っていく。するとルイーザは私の手をそっと握りながら口を開いた。
「……ねえ、私みたいな低い身分のものが王太子であるケルビンと一緒にアリスティア生誕祭のパーティーなんかに出ていいの? さすがにこれは良くないんじゃないかな?」
不安そうに尋ねてくるルイーザに私は微笑む。
「大丈夫だよ。このローライト王国の王太子である私がいいと言っているんだからね」
「で、でも、国王陛下はどうなの?」
「大丈夫、君がエレーヌの悪事を暴く手伝いをしてくれたことを伝えれば喜ん王族席での同席まで認めるさ」
私がそう答えるとルイーザは一瞬驚くが、嬉しそうに私の手を離し両手を勢いよく合わせた。
「エレーヌさんはやっぱり悪いことしていたの? きっと、あの崖での出来事ね。……良かった」
ルイーザは勝手に勘違いしているが、私にとってはどうでも良かった。何せルイーザが安心しているからだ。
結果が良ければそれでいいだろう。
私は頷き、そう思っていると護衛達が声をかけてきた。
「王太子殿下、そろそろ時間ですから行きましょう」
「ああ、わかった」
私はルイーザの方を向き、腕を出して微笑む。するとルイーザが私の腕を掴んで言ってきた。
「楽しみだね。パーティー」
「ああ、きっと最高のパーティーになる。さあ、それじゃあ行こうか」
私はそう言うとルイーザをエスコートしながらパーティー会場に向かう。もちろん、パーティーを楽しみにいくわけではない。エレーヌを断罪するためである。
そして、ルイーザを私の婚約者として皆に認めさせる場でもあるんだ。
私はそう思いながらパーティー会場に入る。そしてしばらく演奏を聴きながらルイーザと談笑し、時を待った。
来たか。
入り口から真っ白いマーメイドドレスを着たエレーヌが扇を仰ぎながらこちらに向かって真っ直ぐにやってきた。私はルイーザをゆっくりと後ろに隠す。そして腕を組み待っているとエレーヌが咎めるような口調で言ってきた。
「酷いではないですか。婚約者を置いて先にいってしまうなんて」
「……誰が婚約者だ」
「私ですわ、王太子殿下」
そう言って笑みを浮かべるが、私はゆっくりと首を横に振りエレーヌを指差す。
「エレーヌ、私はお前との婚約を破棄する!」
なるべくパーティー会場中に聞こえるよう、わざと大きな声を出す。案の定、皆が私達の方に注目しだした。
よし、まずは第一段階は成功だ。さあ、どうするエレーヌ?
私はエレーヌを睨む。するとエレーヌは首を傾げた。
「……何を仰っているのですか、王太子殿下?」
エレーヌは心底わからないという表情で私を見てくる。そんなエレーヌに私は嘲笑するように口角を上げた。
「ふん、白々しいな。お前はルイーザの教科書を破いたり、罵倒したり、周りにバレないよう魔法で突き飛ばしていただろう! 私は知っているんだぞ!」
私が言い終わると同時に周りがどよめき始めた。何せ聖女の末裔と言われる者がそんな酷いことをしているのだから。私はそんな周りの光景を見て目を細めた後、ポケットから一枚の用紙を取り出し、エレーヌに見えるように掲げた。
「それにこれはお前が階段から転げ落ちた時の診断書だ。頭は打ったが記憶喪失なんてどこにも書いていない。いったいどういう事だ?」
そう言って睨むとエレーヌは片眉を上げ、後ろを振り向く。そこには車椅子に乗って俯いているアーサー・ミルフォード侯爵とマリアン・ミルフォード侯爵夫人が立っていた。
「どういうことですか、お母様?」
エレーヌはミルフォード侯爵夫人を睨む。するとミルフォード侯爵夫人は苦笑しながら口を開いた。
「きっと偽造されたのでしょうね。宰相もお人が悪い。まあ、正直どっちでもいいじゃない。そうでしょう、エレーヌ?」
そう言ってミルフォード侯爵夫人は微笑むとエレーヌは溜め息を吐いた。
「……仕方ありませんね。本当は卒業パーティーまでとっておきたかったのに……」
エレーヌは残念そうな表情を浮かべると私の方に向く。そんなエレーヌに私は怒りを向けながら言った。
「さっきから、私の質問に答えずわけのわからないことを! もういい、エレーヌ・ミルフォード! お前の卑劣な行動と王家への嘘は決して許されない! よって、お前との婚約は破棄とし、私の隣にいるルイーザ・スミノルフ男爵令嬢と婚約者とする!」
私はそう言って振り返るとルイーザに微笑んだ。しかし、ルイーザは何故か驚いた顔で私から後ずさってしまったのだ。
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