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しおりを挟む「もう、終わりだ。カイル・ローライト」
アルフォンス先生はそう言うと、第二王子殿下は顔を真っ赤にして地団駄を踏みだした。
「ふざけんな! 僕はこのローライト王国の第二王子だぞ!」
「いいや、お前はミルフォード侯爵令嬢を殺害しようとした犯罪者だ」
「違う! 僕はただやり直そうとしただけだ!」
「何がやり直そうとしただ……。当たりどころが悪ければ死んでいたかもしれないんだぞ」
「そんなことない! だって前回……」
第二王子殿下は言い返している途中、ハッとして口元を押さえる。しかし、もう私にはわかっていた。
「前回も先ほどと同じようにあなたが私を階段から突き落としたのですよね……」
私は冷めた目で睨むと第二王子殿下は焦った顔で何度も首を横に振る。だが言い訳する言葉は出てこないようで、ただ口をパクパクするだけだった。そんな第二王子殿下をアルフォンス先生が蔑んだ目で見つめた。
「諦めろ。さっき、お前は『またこの階段で転げ落ちてよ』と言っていたろう」
アルフォンス先生がそう言うと第二王子殿下の顔は途端に真っ青になっていき俯いてしまう。しかし、突然、顔を上げると短杖を私達の方に構えたのだ。
「くそっ! 最初からエレーヌじゃなくてハーレム計画にしとけば良かったよ! もう面倒だ! お前らを燃やし尽くして全部揉み消してやる! ファイ……」
第二王子殿下は魔法を唱えようとしたが続かなかった。アルフォンス先生が指を鳴らした瞬間、見えない何かによって第二王子殿下は床に勢いよく叩きつけられてしまったからだ。
「これが無詠唱の重力魔法だ。頭の悪いお前は体を使ってしっかり覚えておけ」
アルフォンス先生はそう言ってから私を見る。
「学院でお前を常に狙っていたのはあいつの取り巻きだ。きっと取り巻きに襲わせて自分で助けようとしたんだろう」
「自作自演ですか……」
「ああ。だから、現行犯で捕まえるチャンスだと思ってな」
「だからあの時にあやまっていたのですか」
私はあの時の事を思い出しているとアルフォンス先生は申し訳なさそうに頷いた。
「すまなかった」
「いいえ。おかげで犯人を捕まえれました。それで、これからどうされるのですか?」
「それなら……」
アルフォンス先生が階段下の方を見るとシールド侯爵が数名の騎士を引き連れて登ってきた。
「アルフォンス殿、第二王子殿下の取り巻きが全て吐いた」
シールド侯爵はそう言うと、アルフォンス先生は満足そうな顔で頷く。
「そうか。じゃあ、あいつはもう言い逃れできないな」
「ああ。しかし、ミルフォード侯爵令嬢を階段から突き落としたのが第二王子殿下だったとは……」
「それと、変化の首飾りを使って女子生徒に化けていたぞ」
「はあっ……。きっと王家の宝物庫から勝手に持ち出したのだろうな」
シールド侯爵が溜息まじりにそう呟くと、屋上の方に向かった騎士が大声を出しながら戻ってきた。
「団長! 屋上に焼け焦げた跡が!」
「そうか……」
シールド侯爵は頷くと私に尋ねてくる。
「ミルフォード侯爵令嬢、屋上で何が起きたか知っていますか?」
「はい。第二王子殿下が髑髏の仮面を付けた黒いローブの人物を魔法で攻撃しました……」
私がそう答えるとシールド侯爵と騎士達は顔を合わせて頷く。
「団長、やはり……」
「そうだな。ちなみに人がいた痕跡はあったか?」
シールド侯爵がそう尋ねると騎士は首を横に振る。
「調べましたがなかったです。きっと人形に仮面とローブを着せたのでしょう」
「なるほどな」
頷くシールド侯爵に私は思わず尋ねる。
「あれも第二王子殿下の自作自演だったのですか?」
「はい。ちなみにあの格好をして王太子殿下の方にもちょっかいをかけていたみたいです」
「そうですか……」
私は第二王子殿下の言っていた『またあの格好をして色々とやらといとなあ』という言葉を思い出す。
いったい何をしようとしていたのかしら?
私は苦悶の表情を浮かべながら倒れている第二王子殿下を見つめる。するとアルフォンス先生が向きを変えてしまい私は第二王子殿下が見えなくなってしまった。
「もう、君の瞳にアレを映す理由はないだろう。後は騎士団に任せて治療をするぞ」
そう早口で言うと返事も待たずに私を抱えたまま動き出してしまったのだ。私は思わず何か言おうとしたが結局黙ってしまう。
もう少しこのままでいたいと思ってしまったから。
王太子殿下のことはもう悪く言えないわ。
私は苦笑しながら、アルフォンス先生の横顔を見つめる。それから王太子殿下に会ったら今度はスミノルフ男爵令嬢との仲を応援しながら婚約解消の話をしてみようと思うのだった。
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