41 / 55
41
しおりを挟む「もう、終わりだ。カイル・ローライト」
アルフォンス先生はそう言うと、第二王子殿下は顔を真っ赤にして地団駄を踏みだした。
「ふざけんな! 僕はこのローライト王国の第二王子だぞ!」
「いいや、お前はミルフォード侯爵令嬢を殺害しようとした犯罪者だ」
「違う! 僕はただやり直そうとしただけだ!」
「何がやり直そうとしただ……。当たりどころが悪ければ死んでいたかもしれないんだぞ」
「そんなことない! だって前回……」
第二王子殿下は言い返している途中、ハッとして口元を押さえる。しかし、もう私にはわかっていた。
「前回も先ほどと同じようにあなたが私を階段から突き落としたのですよね……」
私は冷めた目で睨むと第二王子殿下は焦った顔で何度も首を横に振る。だが言い訳する言葉は出てこないようで、ただ口をパクパクするだけだった。そんな第二王子殿下をアルフォンス先生が蔑んだ目で見つめた。
「諦めろ。さっき、お前は『またこの階段で転げ落ちてよ』と言っていたろう」
アルフォンス先生がそう言うと第二王子殿下の顔は途端に真っ青になっていき俯いてしまう。しかし、突然、顔を上げると短杖を私達の方に構えたのだ。
「くそっ! 最初からエレーヌじゃなくてハーレム計画にしとけば良かったよ! もう面倒だ! お前らを燃やし尽くして全部揉み消してやる! ファイ……」
第二王子殿下は魔法を唱えようとしたが続かなかった。アルフォンス先生が指を鳴らした瞬間、見えない何かによって第二王子殿下は床に勢いよく叩きつけられてしまったからだ。
「これが無詠唱の重力魔法だ。頭の悪いお前は体を使ってしっかり覚えておけ」
アルフォンス先生はそう言ってから私を見る。
「学院でお前を常に狙っていたのはあいつの取り巻きだ。きっと取り巻きに襲わせて自分で助けようとしたんだろう」
「自作自演ですか……」
「ああ。だから、現行犯で捕まえるチャンスだと思ってな」
「だからあの時にあやまっていたのですか」
私はあの時の事を思い出しているとアルフォンス先生は申し訳なさそうに頷いた。
「すまなかった」
「いいえ。おかげで犯人を捕まえれました。それで、これからどうされるのですか?」
「それなら……」
アルフォンス先生が階段下の方を見るとシールド侯爵が数名の騎士を引き連れて登ってきた。
「アルフォンス殿、第二王子殿下の取り巻きが全て吐いた」
シールド侯爵はそう言うと、アルフォンス先生は満足そうな顔で頷く。
「そうか。じゃあ、あいつはもう言い逃れできないな」
「ああ。しかし、ミルフォード侯爵令嬢を階段から突き落としたのが第二王子殿下だったとは……」
「それと、変化の首飾りを使って女子生徒に化けていたぞ」
「はあっ……。きっと王家の宝物庫から勝手に持ち出したのだろうな」
シールド侯爵が溜息まじりにそう呟くと、屋上の方に向かった騎士が大声を出しながら戻ってきた。
「団長! 屋上に焼け焦げた跡が!」
「そうか……」
シールド侯爵は頷くと私に尋ねてくる。
「ミルフォード侯爵令嬢、屋上で何が起きたか知っていますか?」
「はい。第二王子殿下が髑髏の仮面を付けた黒いローブの人物を魔法で攻撃しました……」
私がそう答えるとシールド侯爵と騎士達は顔を合わせて頷く。
「団長、やはり……」
「そうだな。ちなみに人がいた痕跡はあったか?」
シールド侯爵がそう尋ねると騎士は首を横に振る。
「調べましたがなかったです。きっと人形に仮面とローブを着せたのでしょう」
「なるほどな」
頷くシールド侯爵に私は思わず尋ねる。
「あれも第二王子殿下の自作自演だったのですか?」
「はい。ちなみにあの格好をして王太子殿下の方にもちょっかいをかけていたみたいです」
「そうですか……」
私は第二王子殿下の言っていた『またあの格好をして色々とやらといとなあ』という言葉を思い出す。
いったい何をしようとしていたのかしら?
私は苦悶の表情を浮かべながら倒れている第二王子殿下を見つめる。するとアルフォンス先生が向きを変えてしまい私は第二王子殿下が見えなくなってしまった。
「もう、君の瞳にアレを映す理由はないだろう。後は騎士団に任せて治療をするぞ」
そう早口で言うと返事も待たずに私を抱えたまま動き出してしまったのだ。私は思わず何か言おうとしたが結局黙ってしまう。
もう少しこのままでいたいと思ってしまったから。
王太子殿下のことはもう悪く言えないわ。
私は苦笑しながら、アルフォンス先生の横顔を見つめる。それから王太子殿下に会ったら今度はスミノルフ男爵令嬢との仲を応援しながら婚約解消の話をしてみようと思うのだった。
12
お気に入りに追加
567
あなたにおすすめの小説

第一王子は私(醜女姫)と婚姻解消したいらしい
麻竹
恋愛
第一王子は病に倒れた父王の命令で、隣国の第一王女と結婚させられることになっていた。
しかし第一王子には、幼馴染で将来を誓い合った恋人である侯爵令嬢がいた。
しかし父親である国王は、王子に「侯爵令嬢と、どうしても結婚したければ側妃にしろ」と突っぱねられてしまう。
第一王子は渋々この婚姻を承諾するのだが……しかし隣国から来た王女は、そんな王子の決断を後悔させるほどの人物だった。
お言葉を返すようですが、私それ程暇人ではありませんので
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<あなた方を相手にするだけ、時間の無駄です>
【私に濡れ衣を着せるなんて、皆さん本当に暇人ですね】
今日も私は許婚に身に覚えの無い嫌がらせを彼の幼馴染に働いたと言われて叱責される。そして彼の腕の中には怯えたふりをする彼女の姿。しかも2人を取り巻く人々までもがこぞって私を悪者よばわりしてくる有様。私がいつどこで嫌がらせを?あなた方が思う程、私暇人ではありませんけど?

タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒―
私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。
「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」
その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。
※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています

公爵令嬢の辿る道
ヤマナ
恋愛
公爵令嬢エリーナ・ラナ・ユースクリフは、迎えた5度目の生に絶望した。
家族にも、付き合いのあるお友達にも、慕っていた使用人にも、思い人にも、誰からも愛されなかったエリーナは罪を犯して投獄されて凍死した。
それから生を繰り返して、その度に自業自得で凄惨な末路を迎え続けたエリーナは、やがて自分を取り巻いていたもの全てからの愛を諦めた。
これは、愛されず、しかし愛を求めて果てた少女の、その先の話。
※暇な時にちょこちょこ書いている程度なので、内容はともかく出来についてはご了承ください。
追記
六十五話以降、タイトルの頭に『※』が付いているお話は、流血表現やグロ表現がございますので、閲覧の際はお気を付けください。

村娘になった悪役令嬢
枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。
ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。
村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。
※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります)
アルファポリスのみ後日談投稿しております。
乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?
シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。
……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

【完結】あなたを忘れたい
やまぐちこはる
恋愛
子爵令嬢ナミリアは愛し合う婚約者ディルーストと結婚する日を待ち侘びていた。
そんな時、不幸が訪れる。
■□■
【毎日更新】毎日8時と18時更新です。
【完結保証】最終話まで書き終えています。
最後までお付き合い頂けたらうれしいです(_ _)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる