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35 ケルビンside
しおりを挟む数日後、父上より部屋を出ていいと許可が降りた私、ケルビン・ローライトは部屋を出るなり医療施設に向かっていた。それは、父上の仕事の手伝いをしていた際、騎士団の報告書を目にしたからだ。
くそっ。まさかルイーザもラルフと一緒に怪我をしていたなんて。
医療施設に着いた私は急ぎ足で、ルイーザの病室に向かう。
「ルイーザ!」
私の呼び声にベッド上で頭や手に包帯を巻いたルイーザが振り返る。その痛々しい姿を見て思わずルイーザをそっと抱きしめた。
「ごめんなさい。私の所為でラルフが……」
腕の中で涙を流し、そう言ってくるルイーザに私は首を横に振る。
「報告書を読んだ。君の所為じゃない。ラルフだって絶対にそう思っているさ」
私はそう言ってルイーザの頭を撫でる。
しかし、ルイーザは暗い表情で俯いたままだった。きっと優しいルイーザのことだから責任を感じているんだろう。
許せないな……
私はルイーザ達を酷い目に遭わせた犯人に怒りを感じていると、ルイーザが俯いた状態で質問してきた。
「……ねえ、犯人の目星ってついたの?」
「いや、全くだ。現場に魔法の痕跡があったが、調べた結果ありえないらしい」
「……ありえない?」
「ルイーザとラルフ、そして今だに目を覚まさないライラ・フレバン伯爵令嬢を吹き飛ばした魔法だけれど、聖魔法だったんだ」
私がそう説明するとルイーザはビクッとなる。おそらく攻撃を受けた時のことを思い出してしまったのだろう。
私は優しく背中をさすってあげると、エレーヌが少しだけ顔を上げてくる。
「……聖魔法って、聖女様の末裔であるエレーヌさんは?」
「ありえないな。あいつは聖魔法を使えない」
「……そうなの? あの時、エレーヌさんに聞かれてしまったからとそう思ったんだけれど……」
そう言ってくるルイーザに私は思わず聞き返してしまう。
「どういうことだルイーザ?」
「学院が休校する前の話なんだけれど……ライラさんからきた手紙の内容で孤児院の裏側を指定してきた事を何でだろうと、つい本人に会った時に聞いちゃったことがあったの。そうしたら、凄い怯えて逃げちゃって……。仕方なく諦めて教室に戻ろうとしたら……少し離れた場所でエレーヌさんを見たの」
「なるほど。要はブローチを壊したのはエレーヌで、それをフレバン伯爵令嬢が見てしまい罪悪感を感じてルイーザに教えるため呼び出したと……。だが、先ほども行ったようにエレーヌは聖魔法は使えない。もしもブローチを壊した犯人がエレーヌだったとしても、ルイーザ達を怪我させた犯人ではないよ。それに何より、ルイーザ達が怪我した日はあいつは私と……」
そう言った後にハッとする。それは、ある考えが思い浮かんだからだ。
別にエレーヌが手を下さなくてもいい。聖魔法を使える者に頼めばいいのだから。
その時、レインコール伯爵の言葉を思い出す。
……もしかしたら、聖魔法の力を譲度する儀式も研究していて、ミルフォード侯爵は既に聖魔法を使えるようになっていたら……。いや、流石にこれは突拍子もない考えか。
私はそう思っているとルイーザが言ってきたのだ。
「さっきからケルビンはエレーヌさんが聖魔法を使えないって言ってるけれど……もしかしたら、使えるようになってるかもしれないよ」
私は驚いてルイーザを見つめる。
「ど、どういうことだルイーザ?」
「偶然、街で耳にはさんだんだけど、エレーヌさんのお家は聖魔法を使えるようになるため、街に潜伏している魔王軍の生き残りとある取り引きをしたって……」
「なっ……」
私はルイーザの言葉を聞き、目を見開く。
ミルフォード侯爵家の屋敷や別邸近くでデビットやレイノルが殺され心臓が奪われたことが、ルイーザが言ったことで全てが繋がってしまったのだ。
ローライト王国に潜伏していた魔王軍の生き残りは誰かに闇魔法の力を譲渡しようとした。だが、おそらく自分達では何かしらの理由があってできなかったのだろう。
だから、聖魔法が使えず、聖女アリスティアの末裔じゃないと世間で噂されていたミルフォード侯爵に取り引きを持ちかけた。手伝えば聖魔法が使えるようになると。
そして、ミルフォード侯爵は頷いてしまった。
辻褄が合う。そして、この考えが正しければ……
私はハッとする。
「ルイーザ、すまない。用事ができた」
そう言うとルイーザを横にして私は病室を飛び出したのだった。
ケルビンが去った後、ルイーザはホッとした様子になる。
「良かった……。これで……」
そう呟き、大きく息を吐くのだった。
◇
「なぜ、私のところに報告を?」
医療施設を出た後、私は父上じゃなくグリーンシス公爵の元に向かっていた。だから、そう尋ねてくるグリーンシス公爵に私ははっきり答える。
「父上では、まともに取り合ってくれないと思ったからだ。私の考えが正しければこれは早急に対応しなければいけない。そうなるとグリーンシス公爵の方だと判断したんだ」
「なるほど……」
グリーンシス公爵は感心したように頷く。
「成長しましたね。これでローライト王国の将来は安泰ですよ」
「そういうのはいい。それより、早く調べてくれ」
「そうしたいところですが、すぐは無理です」
「なぜだ?」
「ミルフォード侯爵家は色々と噂はされていますが、世間的には今だに絶対的な人気と支持があります。そんなミルフォード侯爵家に王家があるかどうかもわからない疑いをかけたら大変なことになりますよ」
そう言ってくるグリーンシス公爵に私は唇を噛む。しかし、そんな私の目の前にグリーンシス公爵がある報告書を出してきた。
私はそれを読んだ瞬間、口角が上がる。
「やはり、手に入れていたか」
「ええ、これさえあればミルフォード侯爵家を追い詰めることができます。ただ……世間を黙らせるための舞台が欲しいのです」
「なるほど、沢山の人が見ているなかで公表すれば効果は絶対だからな」
私はそう言った後、すぐにある考えが思い浮かんだ。
「……二週間後のアリスティアの生誕祭を祝うパーティーで使うのはどうだ?」
「素晴らしい。古くからこの国を支えている名のある貴族も来ますからね」
「なら、決まりだな」
私は内心笑みを浮かべる。なにせ、その時にエレーヌに婚約破棄も宣言できると判断したからだ。
父上だってこれで私のことを認めてくれるだろう。だから、待っていてくれ。
私はそっと、継ぎ接ぎだらけのハンカチを握りしめるとルイーザの事を思うのだった。
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