ドッペル 〜悪役令嬢エレーヌ・ミルフォードの秘密

しげむろ ゆうき

文字の大きさ
上 下
35 / 55

35 ケルビンside

しおりを挟む

 数日後、父上より部屋を出ていいと許可が降りた私、ケルビン・ローライトは部屋を出るなり医療施設に向かっていた。それは、父上の仕事の手伝いをしていた際、騎士団の報告書を目にしたからだ。

 くそっ。まさかルイーザもラルフと一緒に怪我をしていたなんて。

 医療施設に着いた私は急ぎ足で、ルイーザの病室に向かう。

「ルイーザ!」

 私の呼び声にベッド上で頭や手に包帯を巻いたルイーザが振り返る。その痛々しい姿を見て思わずルイーザをそっと抱きしめた。

「ごめんなさい。私の所為でラルフが……」

 腕の中で涙を流し、そう言ってくるルイーザに私は首を横に振る。

「報告書を読んだ。君の所為じゃない。ラルフだって絶対にそう思っているさ」

 私はそう言ってルイーザの頭を撫でる。
 しかし、ルイーザは暗い表情で俯いたままだった。きっと優しいルイーザのことだから責任を感じているんだろう。

 許せないな……

 私はルイーザ達を酷い目に遭わせた犯人に怒りを感じていると、ルイーザが俯いた状態で質問してきた。

「……ねえ、犯人の目星ってついたの?」
「いや、全くだ。現場に魔法の痕跡があったが、調べた結果ありえないらしい」
「……ありえない?」
「ルイーザとラルフ、そして今だに目を覚まさないライラ・フレバン伯爵令嬢を吹き飛ばした魔法だけれど、聖魔法だったんだ」

 私がそう説明するとルイーザはビクッとなる。おそらく攻撃を受けた時のことを思い出してしまったのだろう。
 私は優しく背中をさすってあげると、エレーヌが少しだけ顔を上げてくる。

「……聖魔法って、聖女様の末裔であるエレーヌさんは?」
「ありえないな。あいつは聖魔法を使えない」
「……そうなの? あの時、エレーヌさんに聞かれてしまったからとそう思ったんだけれど……」

 そう言ってくるルイーザに私は思わず聞き返してしまう。

「どういうことだルイーザ?」
「学院が休校する前の話なんだけれど……ライラさんからきた手紙の内容で孤児院の裏側を指定してきた事を何でだろうと、つい本人に会った時に聞いちゃったことがあったの。そうしたら、凄い怯えて逃げちゃって……。仕方なく諦めて教室に戻ろうとしたら……少し離れた場所でエレーヌさんを見たの」
「なるほど。要はブローチを壊したのはエレーヌで、それをフレバン伯爵令嬢が見てしまい罪悪感を感じてルイーザに教えるため呼び出したと……。だが、先ほども行ったようにエレーヌは聖魔法は使えない。もしもブローチを壊した犯人がエレーヌだったとしても、ルイーザ達を怪我させた犯人ではないよ。それに何より、ルイーザ達が怪我した日はあいつは私と……」

 そう言った後にハッとする。それは、ある考えが思い浮かんだからだ。

 別にエレーヌが手を下さなくてもいい。聖魔法を使える者に頼めばいいのだから。

 その時、レインコール伯爵の言葉を思い出す。

 ……もしかしたら、聖魔法の力を譲度する儀式も研究していて、ミルフォード侯爵は既に聖魔法を使えるようになっていたら……。いや、流石にこれは突拍子もない考えか。

 私はそう思っているとルイーザが言ってきたのだ。

「さっきからケルビンはエレーヌさんが聖魔法を使えないって言ってるけれど……もしかしたら、使えるようになってるかもしれないよ」

 私は驚いてルイーザを見つめる。

「ど、どういうことだルイーザ?」
「偶然、街で耳にはさんだんだけど、エレーヌさんのお家は聖魔法を使えるようになるため、街に潜伏している魔王軍の生き残りとある取り引きをしたって……」
「なっ……」

 私はルイーザの言葉を聞き、目を見開く。
 ミルフォード侯爵家の屋敷や別邸近くでデビットやレイノルが殺され心臓が奪われたことが、ルイーザが言ったことで全てが繋がってしまったのだ。

 ローライト王国に潜伏していた魔王軍の生き残りは誰かに闇魔法の力を譲渡しようとした。だが、おそらく自分達では何かしらの理由があってできなかったのだろう。
 だから、聖魔法が使えず、聖女アリスティアの末裔じゃないと世間で噂されていたミルフォード侯爵に取り引きを持ちかけた。手伝えば聖魔法が使えるようになると。
 そして、ミルフォード侯爵は頷いてしまった。
 辻褄が合う。そして、この考えが正しければ……

 私はハッとする。

「ルイーザ、すまない。用事ができた」

 そう言うとルイーザを横にして私は病室を飛び出したのだった。


 ケルビンが去った後、ルイーザはホッとした様子になる。

「良かった……。これで……」

 そう呟き、大きく息を吐くのだった。



「なぜ、私のところに報告を?」

 医療施設を出た後、私は父上じゃなくグリーンシス公爵の元に向かっていた。だから、そう尋ねてくるグリーンシス公爵に私ははっきり答える。

「父上では、まともに取り合ってくれないと思ったからだ。私の考えが正しければこれは早急に対応しなければいけない。そうなるとグリーンシス公爵の方だと判断したんだ」
「なるほど……」

 グリーンシス公爵は感心したように頷く。

「成長しましたね。これでローライト王国の将来は安泰ですよ」
「そういうのはいい。それより、早く調べてくれ」
「そうしたいところですが、すぐは無理です」
「なぜだ?」
「ミルフォード侯爵家は色々と噂はされていますが、世間的には今だに絶対的な人気と支持があります。そんなミルフォード侯爵家に王家があるかどうかもわからない疑いをかけたら大変なことになりますよ」

 そう言ってくるグリーンシス公爵に私は唇を噛む。しかし、そんな私の目の前にグリーンシス公爵がある報告書を出してきた。
 私はそれを読んだ瞬間、口角が上がる。

「やはり、手に入れていたか」
「ええ、これさえあればミルフォード侯爵家を追い詰めることができます。ただ……世間を黙らせるための舞台が欲しいのです」
「なるほど、沢山の人が見ているなかで公表すれば効果は絶対だからな」

 私はそう言った後、すぐにある考えが思い浮かんだ。

「……二週間後のアリスティアの生誕祭を祝うパーティーで使うのはどうだ?」
「素晴らしい。古くからこの国を支えている名のある貴族も来ますからね」
「なら、決まりだな」

 私は内心笑みを浮かべる。なにせ、その時にエレーヌに婚約破棄も宣言できると判断したからだ。

 父上だってこれで私のことを認めてくれるだろう。だから、待っていてくれ。

 私はそっと、継ぎ接ぎだらけのハンカチを握りしめるとルイーザの事を思うのだった。
しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

虐げられた人生に疲れたので本物の悪女に私はなります

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
伯爵家である私の家には両親を亡くして一緒に暮らす同い年の従妹のカサンドラがいる。当主である父はカサンドラばかりを溺愛し、何故か実の娘である私を虐げる。その為に母も、使用人も、屋敷に出入りする人達までもが皆私を馬鹿にし、時には罠を這って陥れ、その度に私は叱責される。どんなに自分の仕業では無いと訴えても、謝罪しても許されないなら、いっそ本当の悪女になることにした。その矢先に私の婚約者候補を名乗る人物が現れて、話は思わぬ方向へ・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

悪役令嬢、猛省中!!

***あかしえ
恋愛
「君との婚約は破棄させてもらう!」 ――この国の王妃となるべく、幼少の頃から悪事に悪事を重ねてきた公爵令嬢ミーシャは、狂おしいまでに愛していた己の婚約者である第二王子に、全ての罪を暴かれ断頭台へと送られてしまう。 処刑される寸前――己の前世とこの世界が少女漫画の世界であることを思い出すが、全ては遅すぎた。 今度生まれ変わるなら、ミーシャ以外のなにかがいい……と思っていたのに、気付いたら幼少期へと時間が巻き戻っていた!? 己の罪を悔い、今度こそ善行を積み、彼らとは関わらず静かにひっそりと生きていこうと決意を新たにしていた彼女の下に現れたのは……?! 襲い来るかもしれないシナリオの強制力、叶わない恋、 誰からも愛されるあの子に対する狂い出しそうな程の憎しみへの恐怖、  誰にもきっと分からない……でも、これの全ては自業自得。 今度こそ、私は私が傷つけてきた全ての人々を…………救うために頑張ります!

第一王子は私(醜女姫)と婚姻解消したいらしい

麻竹
恋愛
第一王子は病に倒れた父王の命令で、隣国の第一王女と結婚させられることになっていた。 しかし第一王子には、幼馴染で将来を誓い合った恋人である侯爵令嬢がいた。 しかし父親である国王は、王子に「侯爵令嬢と、どうしても結婚したければ側妃にしろ」と突っぱねられてしまう。 第一王子は渋々この婚姻を承諾するのだが……しかし隣国から来た王女は、そんな王子の決断を後悔させるほどの人物だった。

タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒― 私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。 「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」 その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。 ※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています

転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜

みおな
恋愛
 私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。  しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。  冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!  わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?  それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?

悪役令嬢に転生しましたが、行いを変えるつもりはありません

れぐまき
恋愛
公爵令嬢セシリアは皇太子との婚約発表舞踏会で、とある男爵令嬢を見かけたことをきっかけに、自分が『宝石の絆』という乙女ゲームのライバルキャラであることを知る。 「…私、間違ってませんわね」 曲がったことが大嫌いなオーバースペック公爵令嬢が自分の信念を貫き通す話 …だったはずが最近はどこか天然の主人公と勘違い王子のすれ違い(勘違い)恋愛話になってきている… 5/13 ちょっとお話が長くなってきたので一旦全話非公開にして纏めたり加筆したりと大幅に修正していきます 5/22 修正完了しました。明日から通常更新に戻ります 9/21 完結しました また気が向いたら番外編として二人のその後をアップしていきたいと思います

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

光の王太子殿下は愛したい

葵川真衣
恋愛
王太子アドレーには、婚約者がいる。公爵令嬢のクリスティンだ。 わがままな婚約者に、アドレーは元々関心をもっていなかった。 だが、彼女はあるときを境に変わる。 アドレーはそんなクリスティンに惹かれていくのだった。しかし彼女は変わりはじめたときから、よそよそしい。 どうやら、他の少女にアドレーが惹かれると思い込んでいるようである。 目移りなどしないのに。 果たしてアドレーは、乙女ゲームの悪役令嬢に転生している婚約者を、振り向かせることができるのか……!? ラブラブを望む王太子と、未来を恐れる悪役令嬢の攻防のラブ(?)コメディ。 ☆完結しました。ありがとうございました。番外編等、不定期更新です。

処理中です...