ドッペル 〜悪役令嬢エレーヌ・ミルフォードの秘密

しげむろ ゆうき

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 ボヤ騒ぎから数日後に学院から手紙が来た。そろそろ授業を再開するとのことだ。ちなみにバーレン子爵令息を襲った暴漢が捕まったという話しは聞いていないし、休校になった説明も手紙に書かれていなかった。

「再開して大丈夫なのかしら……」

 そう呟くと、手紙を部屋まで持ってきてくれたマシューが答えてくる。

「世間的には何も事件が起きていない状況ですから、いつまでも休校にできなかったのでしょう」
「……世間的にはそういうことになっているのね」
「はい、それとお屋敷のボヤ騒ぎもなかった事になっています」
「それはお母様の手紙が効いているということ?」
「間違いなく」
「じゃあ、向こうは何も起きていないからこちらを責める事もできないわけね……」
「ええ。ですが時間の問題でしょう」
「そうね……」

 私はあの日の王太子殿下を思い出し、うんざりした表情を浮かべているとマシューが微笑んできた。

「……今日、奥様が旦那様のところに行きます」

 私はその言葉を聞き、マシューを見ると無言で頷いてくる。きっとその時がドノバンに会いにいくタイミングなのだろう。

 いったい何が聞けるのかしら。

 そんな事を考えながら窓の方を眺めていると、マシューの声を聞こえる。

「そういえばお嬢様、そろそろ聖女アリスティア様の生誕祭がありますね」
「確か王都で盛大にお祭りをするんだったわね。ぜひ見てみたいけれど無理なのでしょう?」

 私が苦笑しながら尋ねると、マシューは申し訳なさそうに頷く。

「はい。残念ながら聖女アリスティア様の末裔であるお嬢様は王家主体で行われる生誕祭パーティーに参加が決まっております」
「じゃあダンスの練習をしないと……」

 私は思わず溜め息を吐く。何せ体を動かすのが苦手だという事をダンスレッスンをして痛いほど理解していたから。

 あそこまで動けないなんて思わなかったわ。記憶喪失になる前は魔法で動きでも良くしていたのかしらね。はあっ……。正直、静かに本を読むパーティーに変更してもらえないかしら。それだったら、パーティーも楽しめるのだけれど……

 そう思いながらも私はレッスン部屋に向かうことを仕方なく考えていたところ、扉がノックされ上機嫌な様子のお母様が部屋に入ってきた。

「エレーヌ、今大丈夫かしら?」
「はい、大丈夫です」
「そう、良かったわ。先ほど国王陛下から手紙が来て王太子殿下をしばらく謹慎させるって。それで反省しないようなら婚約解消させるって仰ってきたわよ」
「そうですか。それは仕方ありませんね」

 私はつい微笑んでしまうとお母様は頬に手を当て苦笑する。

「ふふ、まあ、だからって国王陛下はまだエレーヌと王太子殿下との婚約は諦めていないと思うわ。だから、今から旦那様のところに行ってそれも含めて今後どうするか相談してくるわね。ああ、コーデリア先生はロイドを看ないといけないから留守番してもらうわ」
「わかりました、気をつけて行ってらして下さいね」
「ありがとう。エレーヌもしっかりと勉強をしておくのよ」

 お母様は私の頭をひと撫でしてからそう言うと、嬉しそうな表情を浮かべ去っていった。

「よほど、お父様に会えるのが嬉しいのね」

 お母様が去った方を頬を緩ませながら見つめていると、マシューが声のトーンを落とし話しかけてくる。

「お嬢様、ダンスレッスンが終わりましたら私は使用人全員を集めて屋敷内の掃除をさせようと思います」
「……そう、わかったわ」

 私はマシューの意図に気づき心の中で感謝しながら頷く。するとマシューも頷き微笑んできた。

「では、行きましょうか」
「ええ」

 私も微笑み返しマシューと共にレッスン部屋へと向かうのだった。



 あれからダンスレッスンを終わらせた私はマシューと共にドノバンの元へと向かっていた。

「お嬢様、ここを真っ直ぐ行けばドノバンの小屋ですよ」

 マシューがそう言ってきたので私は前方に目を凝らす。木々に囲まれた小屋らしきものが見えた。

「見えるわ。あそこにドノバンが住んでいるのね」
「はい、旦那様がドノバンのためにわざわざ自ら庭を弄り、私達使用人と一緒に建てた自慢の小屋です」

 そう説明しながら小屋の方を見つめるマシューはとても楽しそうだった。しかし、突然、慌てた様子になり小屋の方に走っていってしまう。
 そのため、私も後を追ったのだが見えてきた小屋を目にして固まってしまった。なぜなら小屋の至るところに刃物でつけた傷跡が沢山ついていたからだ。

「ドノバン!」

 マシューが叫びながら小屋へと入っていく。その後を私もついていったのだが、思わず後退ってしまった。それは小屋の中も外と同じようになっていたからだ。

「滅茶苦茶じゃない……。いったい何が起きたの? それにドノバンは無事なの?」

 私は小屋の中を見回すがドノバンの姿は見当たらなかった。すると、マシューが真っ青な顔で私の方を向き直り頭を下げてきたのだ。

「すみません、お嬢様。私にはもう何もできません」
「えっ……」
「本当にすみません」

 マシューはそう言うと小屋を出ていき屋敷の方に走っていってしまう。おかげで、残された私はただ呆然と立ち尽くすしかなかったのだった。
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