33 / 55
33
しおりを挟むボヤ騒ぎから数日後に学院から手紙が来た。そろそろ授業を再開するとのことだ。ちなみにバーレン子爵令息を襲った暴漢が捕まったという話しは聞いていないし、休校になった説明も手紙に書かれていなかった。
「再開して大丈夫なのかしら……」
そう呟くと、手紙を部屋まで持ってきてくれたマシューが答えてくる。
「世間的には何も事件が起きていない状況ですから、いつまでも休校にできなかったのでしょう」
「……世間的にはそういうことになっているのね」
「はい、それとお屋敷のボヤ騒ぎもなかった事になっています」
「それはお母様の手紙が効いているということ?」
「間違いなく」
「じゃあ、向こうは何も起きていないからこちらを責める事もできないわけね……」
「ええ。ですが時間の問題でしょう」
「そうね……」
私はあの日の王太子殿下を思い出し、うんざりした表情を浮かべているとマシューが微笑んできた。
「……今日、奥様が旦那様のところに行きます」
私はその言葉を聞き、マシューを見ると無言で頷いてくる。きっとその時がドノバンに会いにいくタイミングなのだろう。
いったい何が聞けるのかしら。
そんな事を考えながら窓の方を眺めていると、マシューの声を聞こえる。
「そういえばお嬢様、そろそろ聖女アリスティア様の生誕祭がありますね」
「確か王都で盛大にお祭りをするんだったわね。ぜひ見てみたいけれど無理なのでしょう?」
私が苦笑しながら尋ねると、マシューは申し訳なさそうに頷く。
「はい。残念ながら聖女アリスティア様の末裔であるお嬢様は王家主体で行われる生誕祭パーティーに参加が決まっております」
「じゃあダンスの練習をしないと……」
私は思わず溜め息を吐く。何せ体を動かすのが苦手だという事をダンスレッスンをして痛いほど理解していたから。
あそこまで動けないなんて思わなかったわ。記憶喪失になる前は魔法で動きでも良くしていたのかしらね。はあっ……。正直、静かに本を読むパーティーに変更してもらえないかしら。それだったら、パーティーも楽しめるのだけれど……
そう思いながらも私はレッスン部屋に向かうことを仕方なく考えていたところ、扉がノックされ上機嫌な様子のお母様が部屋に入ってきた。
「エレーヌ、今大丈夫かしら?」
「はい、大丈夫です」
「そう、良かったわ。先ほど国王陛下から手紙が来て王太子殿下をしばらく謹慎させるって。それで反省しないようなら婚約解消させるって仰ってきたわよ」
「そうですか。それは仕方ありませんね」
私はつい微笑んでしまうとお母様は頬に手を当て苦笑する。
「ふふ、まあ、だからって国王陛下はまだエレーヌと王太子殿下との婚約は諦めていないと思うわ。だから、今から旦那様のところに行ってそれも含めて今後どうするか相談してくるわね。ああ、コーデリア先生はロイドを看ないといけないから留守番してもらうわ」
「わかりました、気をつけて行ってらして下さいね」
「ありがとう。エレーヌもしっかりと勉強をしておくのよ」
お母様は私の頭をひと撫でしてからそう言うと、嬉しそうな表情を浮かべ去っていった。
「よほど、お父様に会えるのが嬉しいのね」
お母様が去った方を頬を緩ませながら見つめていると、マシューが声のトーンを落とし話しかけてくる。
「お嬢様、ダンスレッスンが終わりましたら私は使用人全員を集めて屋敷内の掃除をさせようと思います」
「……そう、わかったわ」
私はマシューの意図に気づき心の中で感謝しながら頷く。するとマシューも頷き微笑んできた。
「では、行きましょうか」
「ええ」
私も微笑み返しマシューと共にレッスン部屋へと向かうのだった。
◇
あれからダンスレッスンを終わらせた私はマシューと共にドノバンの元へと向かっていた。
「お嬢様、ここを真っ直ぐ行けばドノバンの小屋ですよ」
マシューがそう言ってきたので私は前方に目を凝らす。木々に囲まれた小屋らしきものが見えた。
「見えるわ。あそこにドノバンが住んでいるのね」
「はい、旦那様がドノバンのためにわざわざ自ら庭を弄り、私達使用人と一緒に建てた自慢の小屋です」
そう説明しながら小屋の方を見つめるマシューはとても楽しそうだった。しかし、突然、慌てた様子になり小屋の方に走っていってしまう。
そのため、私も後を追ったのだが見えてきた小屋を目にして固まってしまった。なぜなら小屋の至るところに刃物でつけた傷跡が沢山ついていたからだ。
「ドノバン!」
マシューが叫びながら小屋へと入っていく。その後を私もついていったのだが、思わず後退ってしまった。それは小屋の中も外と同じようになっていたからだ。
「滅茶苦茶じゃない……。いったい何が起きたの? それにドノバンは無事なの?」
私は小屋の中を見回すがドノバンの姿は見当たらなかった。すると、マシューが真っ青な顔で私の方を向き直り頭を下げてきたのだ。
「すみません、お嬢様。私にはもう何もできません」
「えっ……」
「本当にすみません」
マシューはそう言うと小屋を出ていき屋敷の方に走っていってしまう。おかげで、残された私はただ呆然と立ち尽くすしかなかったのだった。
13
お気に入りに追加
566
あなたにおすすめの小説
虐げられた人生に疲れたので本物の悪女に私はなります
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
伯爵家である私の家には両親を亡くして一緒に暮らす同い年の従妹のカサンドラがいる。当主である父はカサンドラばかりを溺愛し、何故か実の娘である私を虐げる。その為に母も、使用人も、屋敷に出入りする人達までもが皆私を馬鹿にし、時には罠を這って陥れ、その度に私は叱責される。どんなに自分の仕業では無いと訴えても、謝罪しても許されないなら、いっそ本当の悪女になることにした。その矢先に私の婚約者候補を名乗る人物が現れて、話は思わぬ方向へ・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

悪役令嬢、猛省中!!
***あかしえ
恋愛
「君との婚約は破棄させてもらう!」
――この国の王妃となるべく、幼少の頃から悪事に悪事を重ねてきた公爵令嬢ミーシャは、狂おしいまでに愛していた己の婚約者である第二王子に、全ての罪を暴かれ断頭台へと送られてしまう。
処刑される寸前――己の前世とこの世界が少女漫画の世界であることを思い出すが、全ては遅すぎた。
今度生まれ変わるなら、ミーシャ以外のなにかがいい……と思っていたのに、気付いたら幼少期へと時間が巻き戻っていた!?
己の罪を悔い、今度こそ善行を積み、彼らとは関わらず静かにひっそりと生きていこうと決意を新たにしていた彼女の下に現れたのは……?!
襲い来るかもしれないシナリオの強制力、叶わない恋、
誰からも愛されるあの子に対する狂い出しそうな程の憎しみへの恐怖、
誰にもきっと分からない……でも、これの全ては自業自得。
今度こそ、私は私が傷つけてきた全ての人々を…………救うために頑張ります!

第一王子は私(醜女姫)と婚姻解消したいらしい
麻竹
恋愛
第一王子は病に倒れた父王の命令で、隣国の第一王女と結婚させられることになっていた。
しかし第一王子には、幼馴染で将来を誓い合った恋人である侯爵令嬢がいた。
しかし父親である国王は、王子に「侯爵令嬢と、どうしても結婚したければ側妃にしろ」と突っぱねられてしまう。
第一王子は渋々この婚姻を承諾するのだが……しかし隣国から来た王女は、そんな王子の決断を後悔させるほどの人物だった。
タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒―
私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。
「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」
その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。
※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています
転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜
みおな
恋愛
私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。
しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。
冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!
わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?
それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?
悪役令嬢に転生しましたが、行いを変えるつもりはありません
れぐまき
恋愛
公爵令嬢セシリアは皇太子との婚約発表舞踏会で、とある男爵令嬢を見かけたことをきっかけに、自分が『宝石の絆』という乙女ゲームのライバルキャラであることを知る。
「…私、間違ってませんわね」
曲がったことが大嫌いなオーバースペック公爵令嬢が自分の信念を貫き通す話
…だったはずが最近はどこか天然の主人公と勘違い王子のすれ違い(勘違い)恋愛話になってきている…
5/13
ちょっとお話が長くなってきたので一旦全話非公開にして纏めたり加筆したりと大幅に修正していきます
5/22
修正完了しました。明日から通常更新に戻ります
9/21
完結しました
また気が向いたら番外編として二人のその後をアップしていきたいと思います

村娘になった悪役令嬢
枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。
ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。
村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。
※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります)
アルファポリスのみ後日談投稿しております。

光の王太子殿下は愛したい
葵川真衣
恋愛
王太子アドレーには、婚約者がいる。公爵令嬢のクリスティンだ。
わがままな婚約者に、アドレーは元々関心をもっていなかった。
だが、彼女はあるときを境に変わる。
アドレーはそんなクリスティンに惹かれていくのだった。しかし彼女は変わりはじめたときから、よそよそしい。
どうやら、他の少女にアドレーが惹かれると思い込んでいるようである。
目移りなどしないのに。
果たしてアドレーは、乙女ゲームの悪役令嬢に転生している婚約者を、振り向かせることができるのか……!?
ラブラブを望む王太子と、未来を恐れる悪役令嬢の攻防のラブ(?)コメディ。
☆完結しました。ありがとうございました。番外編等、不定期更新です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる