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27 ケルビンside
しおりを挟む「ミルフォード侯爵令嬢より、お返事が来ました」
そう言って私、ケルビン・ローライトに手紙を渡してくる侍女に礼を言った後、急いで手紙の内容を確認する。思わず笑みを浮かべてしまった。
「よし、これで明日ミルフォード侯爵家の屋敷に堂々と入れる」
そう言う私の隣で紅茶を飲んでいたバリーが苦笑する。
「いやいや、ケルビン殿下はミルフォード侯爵令嬢の婚約者なんだからできるだろう」
「ふん、状況が状況だから場所の変更や断りを入れてくるかもしれないだろう」
「まあ、そうだけどさ。しかし、これでやらなきゃいけなくなったな……」
「なんだ? 怖くなったか?」
私が笑みを浮かべるとバリーは肩をすくめた。
「違う。ミルフォード侯爵令嬢の記憶喪失の件がまだだろう。まあ、記憶喪失の件は仕方ないとしても……問題はグリーンシス公爵だよ。あの人、絶対に自分の力を更に強めるために動いてるぞ。本当に良いのか?」
「デビット達を殺した犯人を見つけるためにはやるしかないだろう。それに父上もグリーンシス公爵には目を光らせているから大丈夫だよ」
「なら、良いんだがな。それで動きとしてはどうする?」
「私がエレーヌを庭のテラスに誘い出す。バリー、お前は途中で忘れ物をしたと言って離れろ。そしてミルフォード侯爵の執務室から離れた部屋で魔導具を使え」
「なるほど、了解した」
バリーが納得して頷いたところで私は立ち上がる。
「よし、グリーンシス公爵にエレーヌから返事が来たことを伝えに行ってくる。バリーは部屋で待っていてくれ」
「わかったけど、余計な事を頼まれないようにしろよ」
「わかってるさ」
私は苦笑しながら頷くと部屋を出てグリーンシス公爵がいる執務室に向かった。
◇
私が見せた手紙を読み、グリーンシス公爵は目を細めてくる。
「これで後は実行するだけですね」
「ああ、そうだがグリーンシス公爵は私達がミルフォード侯爵家の屋敷に入っている間、どういう動きをするんだ?」
「火の手が上がったら、殿下の付き人としてついていく私の部下達が消火に当たります。まあ、何人かはどういうわけか屋敷内で迷ってしまいますけれどね」
「それだとミルフォード侯爵家の使用人にはバレないのか?」
「大丈夫です。姿を数秒だけ隠す使い切りの魔導具を大量に持たせますから」
そう言ってくるグリーンシス公爵に私は驚く。なぜなら魔導具というのはどんなものであっても高額品だからだ。それをグリーンシス公爵は沢山持たせると言っているのだ。
グリーンシス公爵にとってミルフォード侯爵家はそれ程邪魔なのか。まあ、もし本物の聖女アリスティアの末裔だとしても、長い間、まともな公務もせず、悠々自適な生活をしているんじゃそう思われるのも当然か。
私はそう思った時、一瞬だけエレーヌの顔がチラついてしまうが、軽く頭を振るとグリーンシス公爵に言った。
「わかった。必ず、悪事の証拠を見つけよう」
「ええ、ローライト王国のためにも」
そう言ってくるグリーンシス公爵の胡散臭そうな顔を複雑な気持ちで見ていると、執務室の扉がノックされラルフの父であるレインコール伯爵の声が聞こえてきた。
「すまない、私だが少し話たい」
するとグリーンシス公爵は私の方を一瞥した後、扉に向かって返事をした。
「入ってきて下さい」
「失礼する」
そう言ってレインコール伯爵が執務室に入ってきたのだが、私の存在に気づくと咎めるような視線をグリーンシス公爵に向けた。
「私は二人きりで話をしたいのだが……」
レインコール伯爵がそう言うとグリーンシス公爵は肩をすくめた。
「何を言っているんです。ここには私とあなたしかいません。それでレインコール伯爵、奪われた心臓は何に使われるかわかりましたか?」
そう尋ねるグリーンシス公爵にレインコール伯爵は何か言いたそうな表情を浮かべるが、溜め息を吐くと諦めたように話だした。
「……闇の力を譲度する儀式に使われる可能性がある」
「ふむ、やはり落ちるところまで落ちたか……」
「答えを急がないでほしい。ミルフォード侯爵家だとはまだ断定できない。それにまだ可能性の段階だ」
「可能性ね。では魔術協会……マグルスの杖が動きだしたのはご存知かな?」
「なんだと⁉︎」
グリーンシス公爵の言葉にレインコール伯爵は驚愕の表情を浮かべる。無理もない。魔王軍の生き残りと戦う魔術協会の中でも謎に包まれた闇払い集団、マグルスの杖が動きだしたのだ。二人の会話についていけない私でもマグルスの杖の名を聞けば嫌でも理解できてしてしまうことがある。
「今回、起きている件に魔王軍の生き残りが関係しているのか?」
私が思わずそう尋ねるとレインコール伯爵は真っ青になって俯く。しかし、グリーンシス公爵の方は悠然と首を横に振ってきた。
「残念ながら証拠が見つからないのですよ。証拠がね。だから、これからどうすべきかレインコール伯爵と話し合わなければいけないのです」
そう言ってグリーンシス公爵は扉の方を見つめたので私は苦笑しながら頷いた。
「ああ、わかった。邪魔者は消えるよ」
「すみませんね、王太子殿下。それとこの事は……」
「わかっているよ」
そう返事するとレインコール伯爵はあからさまに安堵した表情になったので、私は理解してしまった。
アリスティア教団とミルフォード侯爵家が闇の力を研究していた噂も本当だったんだな。ラルフが知ったらどんな顔をするのやら。
私はそう思いながら執務室を出ていく。そしてすぐ溜め息を吐いてしまった。何せ王都に魔王軍の生き残りがいる可能性があるのだ。しかも、聖女アリスティアの末裔であるミルフォード侯爵家と関係がある可能性が出てきたのである。これは相当な問題だろう。
そんな危険な相手に王太子である私を使おうとするなんて、やはりグリーンシス公爵には注意しないとな。
私は振り返ると執務室を睨みがらそう思うのだった。
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