ドッペル 〜悪役令嬢エレーヌ・ミルフォードの秘密

しげむろ ゆうき

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「ルネ達はちゃんと休めたのかしら……」

 起床してすぐ昨夜の事を思い出した私は扉の方を見つめると、その扉をノックして当の本人が声をかけてきた。

「おはようございます、エレーヌお嬢様」
「お、おはよう、ルネ」
「よろしければ着替えを手伝いましょうか?」

 そう扉ごしに聞いてくるルネに私は一瞬悩んでしまうが頷いた。

「……お願いしようかしら」
「わかりました。では失礼します」

 そう言ってルネが部屋に入ってくると、得体の知れない何か嫌なものを感じてしまう。だが、私は顔を引き攣らせながらもなんとか微笑んだ。

 ミルフォード侯爵家のために頑張っているのに顔に出しちゃ駄目。

 そう思い、ルネに着替えを手伝ってもらうが、その際あることに気づいた私は思わず項垂れてしまった。それはルネが顔全体を真っ白く塗るほど濃い化粧をしていることに気づいたからだ。

 きっと疲れを見せないためにやっているのでしょうね……

 そう思い着替え終わると私はルネに心の底から感謝した。

「ありがとうルネ」
「いいえ」

 いつものように淡々とした口調でそう答えてくるルネに私はホッとする。

 すぐに倒れるとかはなさそう。でも、早く何とかしてあげないと。

 そう思っていると、突然、上機嫌な様子のお母様が部屋に入ってきたのだ。

「おはよう、エレーヌ」
「おはようございますお母様」
「ふふ、良く眠れたみたいね」
「はい、おかげ様で……」

 そう答えた後に私はルネの方を一瞥し、早速相談しようと口を開きかけたが、すぐ閉じてしまう。なぜならコーネリア先生の言葉を思い出してしまったから。

 そうだったわ。これ以上は侍女を増やせないのよね。これは別の手を考えないと……。ごめんなさいルネ……

 私はルネの方を再び一瞥した後、顔を俯かせる。するとお母様が楽しげに声をかけてきた。

「ふふ、悩み事かしら?」
「……いえ、たいしたことではありません」
「そう……。まあ、何かあれば言ってね。ただし、しばらくは無理だけれど」

 そう言って微笑むお母様に私は思わず顔を上げ、尋ねる。

「それはどうしてですか?」
「これから旦那様に会いにいくから、しばらく屋敷を留守にするのを伝えにきたのよ」
「そうだったのですか……」

 私が残念そうにするとお母様が側にきて頭をひと撫でしてくる。

「ちゃんとあなたと王太子殿下の事も伝えておくわ。だから、安心して良い子にしているのよ」
「あの、私は……」

 私は今だにお父様に会えないことを残念に思っていると伝えようとしたのだが、なぜが頭がボーッとしてきてしまい「はい……」と頷いてしまう。するとお母様は私の頭をもう一度ひと撫でした。

「本当に良い子。だからこそ……」


 しかし、途中で口を閉じるとマリアンは苦笑しながら部屋を去っていってしまう。
 残されたエレーヌは焦点の合っていない瞳でしばらく立ち尽くしていたが、突然ハッと我に返り辺りを見回した。


「あら、お母様は? さっきまでここにいたわよね……」

 そう呟き首を傾げるとルネが答えてきた。

「もう出かけました」
「出かけた……ああ、お父様のところね」

 そう言った後になんとなく違和感を感じてしまうが、馬車の動き出す音が聞こえ納得する。

「わかったわ。それじゃあ、後は一人で出来るからルネは自分の仕事に戻ってちょうだい」
「わかりました」

 ルネは頷き去っていく。私は足早に窓を開けにいき思いきり深呼吸をした。

「やっぱりきついわね……」

 口元をそっと押さえる。それからしばらく外の空気を堪能すると、決心するように頷いた。

 今度コーネリア先生に侍女達……いえ、使用人全般のことを相談してみましょう。それと……ルネ達が使っている薬か湿布の種類を変えられないかも……

 私は何度も深呼吸しながら切実にそう思うのだった。



 あれから、王太子殿下達が絡んで来なくなった。おかげでこの数日間は平穏な日々が続いていた。特に今日は確実に平穏な日が約束されている。何せ絡んでくる五人全員が来ていないのだから。

「今日は特別授業をやる。魔王の幹部でもありもっとも人々に恐れられた人形遣いのジョルリーの話だ。さて、この人形遣いの恐ろしいところは何だ?」

 アルフォンス先生が教壇の上から周りを見回すと、男子生徒の一人が手を上げ答えた。

「人と変わらない姿の人形を町に潜り込ませて内部から混乱させ人々同士で争わせたんです」
「その通りだ。そして人形遣いの所為で町がいくつも壊滅したんだが、それを止めた人物がいる。誰かわかるか?」

 アルフォンス先生が再び周りを見回すと女子生徒が手を上げ答えた。

「魔術師エレトワ・マグルスが作った闇属性の力が込められている人形の識別を可能する魔導具です」
「正解だ。ちなみに魔導具がなくても聖女アリスティアなら見分ける事ができたんだが……。末裔であるミルフォード侯爵令嬢、君ならわかるだろう?」

 アルフォンス先生は私を見てきたのだが答える事ができなかった。何せ聖女アリスティアについての勉強をマシューから受けていなかったからだ。だから、私は素直に頭を下げる。

「わかりません」

 途端に教室中がどよめいた。しかも中には嘲笑する者まで現れてしまう。まあ、聖女アリスティアの末裔が答えられないのだからこの反応は仕方ない。それに記憶喪失とはいえ勉強する時間はあったのにしなかった私の落ち度である。
 するとアルフォンス先生が教壇を軽く叩いて鎮まらせると私に言ってきた。

「気にするな。記憶を失くしてる君に質問して恥をかかせてしまった私が悪い。すまなかった。では、答えを教えよう。聖女アリスティアは聖魔法の使い手であるから闇の力に敏感だったんだ。それで闇の力を持つ者を……」
「授業は中止だ!」

 アルフォンス先生が説明している最中、突然、慌てた様子の教員が飛び込み大声で叫んできたのだ。
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