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21 ケルビンside
しおりを挟む私達は王宮の一室でローライト王国の国王であり父でもあるゼビオスと、レイノルの父である宰相ビルグリッド・グリーンシス公爵に事情を説明した。
「朝早くから何事かと思って来てみればなんて馬鹿な事を……」
頭を抱える父上にグリーンシス公爵が頭を下げる。
「陛下、申し訳ありません」
「なぜ、お前が謝る?」
「レイノルの部屋からこれが……きっと主体で動いたのは息子でしょう」
そう言ってレイノルが調べたミルフォード侯爵家の資料を父上に渡す。それを読んだ父上は溜め息を吐いた後に私を睨んだ。
「……なぜ止めなかった?」
「申し訳ありません」
「それで済むと思っているのだとしたらお前にこの国は任せられんな」
「……挽回するチャンスを下さい」
私は頭を下げるが父上は顔を顰めるだけだった。そんな重苦しい雰囲気の中、グリーンシス公爵が口を開く。
「国王陛下、今回の件はミルフォード侯爵の噂を放置してしまっていたのも原因かと思います」
「だからといってミルフォード侯爵家を調べろと? その必要はない」
「しかし、現在のミルフォード侯爵家の者達は聖魔法は使えません。それに最近は不穏な噂も」
「噂は噂だ。それに聖魔法を使えないから聖女アリスティア様の末裔ではないと? 肖像画の聖女アリスティア様に生写しなエレーヌ・ミルフォード侯爵令嬢のあの姿を見てもか? 馬鹿らしい。それに事件はミルフォード侯爵家の近くで起きただけだ」
「しかし、二回も立て続けに起きたのです。せめて一度だけでも……」
「ならん。せっかく跡取りが一人しかいないミルフォード侯爵家に頼み込み、やっとの事で婚約に漕ぎ着けたのだ。聖女アリスティア様の血筋を王家に取り込むチャンスなのだぞ! なのにそんな事をして破談になったらどう責任をとるんだ!」
父上が怒鳴り、睨みつけるとグリーンシス公爵は一瞬拳を握るがすぐに頭を下げた。
「余計な事を言いました」
「わかればいい。では、今回の事件は引き続き騎士団に任せろ。ああ、それと王都の混乱を防ぐために犯人が捕まるまでこの件は世間に公表するなよ。後はケルビン、しっかりとミルフォード侯爵令嬢との仲を深めろ。わかったな」
父上はそう言うと、私の返事も待たずにさっさと部屋を出て行ってしまう。その様子に私は俯いている事しかできずにいるとグリーンシス公爵が頭を下げてきた。
「王太子殿下、レイノルが申し訳ありませんでした」
「……謝るのは私の方だ。私がしっかりと判断を下せていればレイノルにバーレン子爵、それにデビットは死ぬ事がなかった」
私は項垂れると突然グリーンシス公爵に力強く肩を掴まれてしまう。思わず驚くが、すぐにその驚きは恐怖に変わった。なぜならグリーンシス公爵の穏やかな表情とはうってかわってその瞳の中にドス黒い感情を読みとってしまったからだ。
そんな恐怖に怯える私に穏やかな口調でグリーンシス公爵は囁いてくる。
「……そう思っているなら力を貸してくれますか」
もちろん私は恐怖に屈して頷いてしまう。するとグリーンシス公爵は満足そうな顔になり私の肩から手をどけた。
「では、王太子殿下は婚約者としてミルフォード侯爵令嬢に会いに屋敷にいきなさい。ああ、どちらか一人を連れてね。そうしたら何故か執務室から一番離れた場所で火事が起きますから、あなたはミルフォード侯爵令嬢を必ず外に連れ出してくれればいいです」
そう言って私にポケットから手の平に収まる大きさの魔導具を出し渡してくる。それを見たラルフが驚いた表情でグリーンシス公爵を見た。
「僕かバリーにその魔導具で屋敷に火をつけろと……正気ですか?」
「さあ、何の事でしょう。ただ、そろそろ過去の栄光に浸って国民の税を貪り食っているミルフォード侯爵家にはご退場してもらいたかったんですよ。願わくば王家に入る前にね」
グリーンシス公爵は先ほど父上が出ていった扉を冷めた瞳で見つめる。すると同じ方向を見たバリーが頷いた。
「なら、その役は俺がやります。ただ、本当にこの国のためであってレイノルの仇を討ちたいからではないですよね?」
バリーは私から魔導具を奪い、探るような視線を向けるとグリーンシス公爵は頷く。
「レイノルは残念でしたがローライト国王の膿を出せる栄光に携われたのだから本望でしょう」
「……わかりました。ただ、タイミングはこちらに任せて下さい」
「良いでしょう。期待してますよ」
グリーンシス公爵はそう言うと用が済んだのか部屋を出て行ってしまう。すると、ラルフが心配そうにバリーを見た。
「良いのバリー?」
「あの感じだと何があってもグリーンシス公爵が揉み消してくれるから大丈夫だろう。しかし冷たい人だな。もうレイノルの事は見切りをつけてやがった」
「グリーンシス公爵には後二人の息子がいるからね。きっと今頃どちらかを嫡男にしようか考えているよ」
「その点、俺は嫡男じゃないから安心だな」
そう言って肩をすくめるバリーにラルフは頭を振った。
「そういう理由ならバリーがする事はないよ。僕だって妹に任せれば良いし」
「駄目だ。ラルフはルイーザのブローチを壊した犯人を見つけろ」
「えっ、なんで今更そんな事を?」
「ミルフォード侯爵令嬢が記憶喪失なのかはっきりさせたい」
「……確かに記憶喪失かどうかで計画の難易度は変わるな」
バリーの言葉を聞いた私は納得して頷く。
「ああ、場合によっては今回の件に関わっているかもしれないしな」
「そんなわけ……ないとはいえなくなってきたよ。何せエレーヌも当事者であるミルフォード侯爵家の一員なんだよな……」
「まあ、そういう事だ。だからラルフは犯人探しを頼む。俺とケルビン殿下はその間にこいつを仕掛ける為の計画を練るから」
魔導具を見つめるバリーにラルフはなんとも言えない表情で頷いた。
「……わかったけれど、二人とも無茶は駄目だよ」
「ケルビン殿下がいるからやらないよ」
「だそうだ」
私が肩をすくめるとラルフとバリーは苦笑する。それで緊張感も解けたのか二人は大きな欠伸をした。
「今日はもう解散しよう。ああ、ルイーザにはデビットの件と同様に黙っていてくれよ」
「わかった」
「うん」
二人は頷くと再び欠伸をしながら部屋を出ていく。その様子を見ていた私も盛大に欠伸が出てしまい苦笑した。
少し休ませてもらうか。
私は近くのソファに横になる。だが眠気があるのになかなか眠ることができなかった。しかも、嫌な考えが思い浮かんでしまったのだ。
デビット達を殺した奴はまだ生きている。しかも、グリーンシス公爵の手伝いをすればいずれ出会うかもしれない……。その時はきっと……
急に手が小刻みに震えだしてしまった。
くそっ、情けない……。これじゃ、誰も守れないじゃないか。
そう思っていたら、模擬戦をしている時に応援してくれたルイーザの姿が思い浮かんだ。
ルイーザ……
私はハッとしてポケットから継ぎ接ぎだらけのハンカチを取り出し握りしめる。すると不思議と心が落ち着いてきたのだ。
やはり、君は私にとっての聖女だな……。なら、もう少しだけ私の我儘に付き合ってくれ。
そう心の中で言うと、私はハンカチを握りしめて目を瞑るのだった。
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