ドッペル 〜悪役令嬢エレーヌ・ミルフォードの秘密

しげむろ ゆうき

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19 レイノルside

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 私、レイノル・グリーンシスはその後バーレン子爵率いる鉄鼠の精鋭と合流し、ミルフォード侯爵家が所有する別邸に向かっていた。向かっていたのだが、現在、両脇を森に囲まれた薄暗い道を見て溜め息を吐いていた。

「ずいぶんと辺鄙な場所に建てましたね……」

 そう呟く私にバーレン子爵が疑いの目を向けてくる。

「本当にこの先にミルフォード侯爵家の別邸があるんですか?」
「ええ、この先に小さめの屋敷が建っているはずです。まあ、言っておいて自信がなくなりましたが……」

 私は申し訳なさそうに言うとバーレン子爵は首を横に振る。

「気にしないで下さい。確認してみれば良いんです」

 バーレン子爵は目で合図すると、連れてきた鉄鼠の三人は音もなく薄暗い道を進んでいった。その様子に私はつい目を細める。

「鉄鼠の精鋭は王家の影より動けそうですね」
「動けそうじゃなく動けるんです。だから、期待していて下さい。きっと何か情報を得られるはずですから」
「ええ、もちろん。ただ、私も探し物は得意ですから参加させてもらいますけどね」

 私は笑みを浮かべるが実際ははったりである。それは探す場所がミルフォード侯爵家お抱えの医師の部屋で十分だと考えているからだ。

 きっと、そこにミルフォード侯爵令嬢の秘密があるはずです。まあ、最悪なくても見つかったということにすれば良いんですけどね。

 私は偽造した診断書を入れたポケットを見つめた後、自分の名前が縫われたハンカチを取り出す。そして愛おしそうに見つめながらルイーザと初めて会った時のことを思い出した。
 私とルイーザが初めて会ったのは、父であるグリーンシス公爵に嫡男としての資質を問われて思い悩んでいた日でもあった。
 宰相である父ビルグリッドから非常な決断をしなければいけない仕事の話を聞いたからだ。しかも「お前はできるのか?」と。そんな頭を抱えて悩んでいる私にルイーザは言ったのだ。「親なんて関係ない。レイノルが正しいと思った考えでやれば良いんだよ」と。
 最初は何を言っているんだと思ったが、試しに自分の思った通りにやってみると父に褒められたのだ。「道筋はどんなやり方でもいい。ただ、目的地は間違えるなよ」と。それからの私は思い悩むことはなくなった。
 そして父のやり方にも次第に抵抗がなくなり私は誰もが認めるグリーンシス公爵家の嫡男になったのだ。

 全てルイーザのおかげです。だから、今度は私が恩返しをする番ですよ。

 私は心の中で呟くとハンカチに口づけを落とす。そして大切そうにポケットにしまうと薄暗い道をバーレン子爵と共に進み始めた。
 だが、しばらく進んだところで立ち止まった。辺りに霧が漂い始めたからだ。しかも、私にもわかるほど濃い魔力を含んだ霧であった。

「これは自然に出る霧と違いますね」
「どういう事ですか?」
「魔力が混ざっています。おそらく魔法で出した霧でしょう」

 私がそう答えるとバーレン子爵は驚いた顔を向けてきた。

「魔法? まさか我々の行動がバレたというのですか⁉︎」
「……可能性はありますね」

 そう答え、忌々しげに霧を払う仕草をすると前の方から悲鳴が聞こえてきた。

「ぎゃあああーー!」
「あれはうちの連中の声だ! 何かあったのかもしれない!」

 バーレン子爵は悲鳴が聞こえた方向に走り出すが慌てて立ち止まる。先ほどより霧が濃くなり前が全く見えなくなってしまっていたからだ。

「クソッ、霧が濃すぎて何も見えない! それに息苦しくなってきた……」

 バーレン子爵の言葉を聞き、私は舌打ちする。

「きっとこの霧に何かしら息苦しくする効果があるのかもしれません。なら、消し飛ばすまでですよ。ウインドブラスト」

 私は杖を取り出し魔法を唱えると周りに突風が巻き起こり霧を四散させていく。

「これで大丈夫でしょう。それにしても、ミルフォード侯爵家の別邸の近くでこれとはもしかしたら噂が本当になるかもしれないですね」
「本当ならローライト王国全土を揺るがしますよ」
「……確かに」

 私は頷くと笑みを浮かべた。

 ふふ、ここで手柄を立てればルイーザは確実に私を選んでくれる。ケルビン殿下には悪いですが全て私の手柄にさせてもらいますよ。

 それから、私達は再び歩き出しミルフォード侯爵家の別邸に近づいていく。すると先に向かっていた鉄鼠の三人が門の前で白目を向き倒れていたのだ。

「死んでる……」

 三人の脈をとっていき無念そうに言うバーレン子爵に私は内心舌打ちしてしまう。

 精鋭と言っても所詮は馬鹿な貴族の屋敷に盗みに入るだけしかできない連中か。だけど、あなた達には感謝しますよ。ミルフォード侯爵家はこれで自分達が黒だと言ったようなものですからね。

 私は小馬鹿にした顔でミルフォード侯爵家の別邸を見る。そして、三人の側に佇むバーレン子爵に声をかけた。

「バーレン子爵、私はこれからあの別邸に侵入します。ただ、あなたは帰った方がいい。相手はかなり強い魔法を使いこなせるようですからね」

 しかし、バーレン子爵は佇むだけで答えてくることはなかった。そんなバーレン子爵に私は一瞬、顔を顰めるがすぐに笑顔を作り肩に手を置く。その瞬間バーレン子爵の首がゆっくりとズレて足元に落ちたのだ。

「なっ⁉︎」

 そんな驚く私の背中に突然、衝撃が走る。そして目の前には真っ赤に染まった腕が現れ、手に握られた自分の心臓が見えたのだ。その瞬間私は必死にその心臓を取り返そうと手を伸ばす。


 しかし、途中で力尽きて腕が下がるとレイノルは立ったまま息絶えたのだった。
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