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しおりを挟む何かあったのかしら……
学院に到着し、馬車から降りた私は入り口付近にいる警戒している騎士団を見てそう思っていると、騎士の一人がこちらに気づき足早に近寄ってきた。
「失礼、私はローライト騎士団の長をしているシールド侯爵家当主グラビスと申します。エレーヌ・ミルフォード侯爵令嬢、少し話を聞かせてもらっても良いですかな?」
そう言ってくるシールド侯爵からは拒否は許さないという雰囲気が漂っていた。だが、別に私に拒否する理由はないので快く頷く。
「大丈夫ですよ。シールド侯爵」
そう答えて微笑むとシールド侯爵は一瞬驚くがすぐに表情を戻し、質問してきた。
「では、数日前に馬車で事故を起こされたと聞きましたが、ずっとあなたは屋敷の中で治療をされていたのですか?」
「ええ、ほとんど横になっていました」
「一度も外には出られませんでしたか?」
「はい」
そう答えると、シールド侯爵は探るように私を見てきたがすぐに笑顔に変わる。
「わかりました。ご協力ありがとうございます」
「……いえ、お気になさらず。それより、わざわざ騎士団長自ら出てきたぐらいですから学院で何か大きな事件があったのですか?」
「ここでは何も起きてません。なので心配しなくて大丈夫です」
そう答えてくるシールド侯爵に「では、なぜ騎士団が学院にいるのですか?」とは尋ねれなかった。なぜなら、シールド侯爵の目がいっさい笑っていなかったから。だから、私は余計な事は言わずに頷いた。
「……わかりました」
そう返事するとシールド侯爵は感心した様子で頷き、仲間の騎士達の方に戻っていく。しかし、途中で思いだしたかのように振り返ってきた。
「ああ、ミルフォード侯爵令嬢。馬車の事故の件ですがこちらで調べた報告書を送りましたので確認しておいて下さい。まあ、そちらの言う通り車輪のネジが外れて馬車が横転した単独事故でしたよ」
シールド侯爵はそう言って頭を軽く下げ今度こそ部下達のいる方に行ってしまう。そんな後ろ姿を見ながら私は思わず疑問を抱く。あの事故は襲撃されて起きたはずだから。
どういうこと?
思わず馬車の方を見る。ちょうど荷物を持ったロイドが降りてきた。私はここぞとばかりに眉間に皺を寄せると詰め寄った。
「ロイド、なぜあの馬車の事故が単独事故になっているの? あれは何者かに襲撃されたでしょう」
そう言って睨むと、なぜかロイドは呆れた顔をしてきたのだ。だから、私は首を傾げてしまった。
あら、注意しているように見えなかった? それとも、もっと大きい声を出した方が良かったかしら?
そう思い、息を大きく吸い始めるとロイドは私に背を向けて歩き出してしまう。そのため、慌てて後を追うとロイドは歩きながら私に向かって言ってくる。
「まだ犯人が何者か判断できていないのに、ローライト騎士団に言えるわけないでしょう」
「えっ、どうして? 国内の犯罪を取り締まりするのがローライト騎士団の仕事だって習ったわよ。もしかして違うのかしら?」
「本来、出てくることのない騎士団長が出張ってきたんですよ。しかも、お嬢様を嫌っている王太子殿下の側近バリー・シールド侯爵令息の父親がね」
「つまり襲撃者はローライト騎士団も関係していると? さすがにそれは考えすぎじゃないかしら……」
「まあ、そう思うならそれでも良いですよ」
そう言うとロイドは黙って前を向いてしまうため、私は内心溜め息を吐く。もうこれ以上話を聞いても無駄だと判断したから。
だから、もう黙って後をついていくことにした。しかし、数歩歩いたところで後ろからもの音と叫び声が聞こえたのだ。
「きゃあっ!」
「えっ、何?」
思わず振り返るとそこには涙目になったスミノルフ男爵令嬢が倒れていた。
「ス、スミノルフ男爵令嬢……」
私は驚いてしまったが、すぐに助け起こそうと手を伸ばす。しかし、その前にグリーンシス公爵令息が駆け寄りスミノルフ男爵令嬢を抱き上げるとなぜか私を睨んできたのだ。
思わず首を傾げてしまうとグリーンシス公爵令息は私から距離を取り、吐き捨てるように言ってきた。
「触らないでくれますかね」
まるで汚らわしいものを見るように睨んでくるグリーンシス公爵令息に私は思わずたじろぎ一歩下がる。すると、すぐさまその間に王太子殿下が入りこみ私を睨んできたのだ。
「また、ルイーザを虐めたのか。少しはマシになったと思ったがどうやら記憶を失ってもお前は根っからの悪人だったという事だな」
そう言ってくる王太子殿下に私は慌てて頭を振る。
「ち、違います。後ろでもの音と叫び声が聞こえたので、振り向いたらスミノルフ男爵令嬢が倒れていたのです」
「ふん、やり方は変わったようだが相変わらずか。やはりデビットの言う通りなのか……」
王太子殿下はなぜか悲しげに呟いた後、私を指差す。
「エレーヌ、お前の悪事は必ず暴く。だから覚悟しておけ」
そう言うとスミノルフ男爵令嬢を抱きかかえたグリーンシス公爵令息と一緒に去っていってしまう。そんな様子を呆然と見つめているとロイドが怒りのこもった声で言ってきた。
「あいつらには何を言っても無駄です。だから、奥様にちゃんと相談した方が良いですよ。まともな会話ができないから仲を深める事はできないってね」
私はロイドの言葉を聞き否定できなかった。それぐらい私の言葉が王太子殿下に届かない事を理解してしまったから。だから、ゆっくりと頷き、帰ったらお母様に事情を説明しようと心から思うのだった。
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