ドッペル 〜悪役令嬢エレーヌ・ミルフォードの秘密

しげむろ ゆうき

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 放課後、職員室に呼びだされた私はアルフォンス先生の姿が視界に入ると同時に謝罪した。

「申し訳ありませんでした」

 しかし、返ってきた言葉は私が想像していたものとは違っていた。

「体の調子はどうだ?」
「えっ……。あ、いえ、大丈夫です」
「そうか、体調が優れない場合はすぐに医務室に行けよ。それと記憶喪失に関して何か思い出す事があればすぐに言ってこい」
「はい……」

 私は面食らいながらもそう答えると、アルフォンス先生は何か探る様に見つめてきた後、自分の胸元を指差した。

「……ところで、届出には魔法学科はしばらく実習でと書いてあるが、なぜ魔力を封印するネックレスまでつけているんだ?」
「それは、今の状態で魔法を使わせるのは危険だからとお母様が……」
「なるほど、確かに一理あるな。しかし、そこまでするものなのか……」

 アルフォンス先生は首を傾げながら呟くが、すぐに私に向き直ると質問してきた。

「まあ、良い。ところで君は魔法に興味はあるか?」
「魔法ですか……」

 そう呟いた後、魔法に関して何も習っていないのを思い出す。
 だから、どう答えていいか迷っていると急にアルフォンス先生が指先に炎を出し、私の前に指を持っていくと次々と炎の色を変えていったのだ。そんな突然の出来事に驚いてしまったが、炎を見ているうちに自然と感嘆の声が出てしまった。

「綺麗……。私もやってみたい」

 私はつい頬を緩ませ見惚れていると、アルフォンス先生が視線を逸らしながら口を開く。

「……どうやら、魔法には興味はあるようだな。では俺の方からミルフォード侯爵令嬢の側に教師を付きっきりで一人つけるからなるべく早く魔法学科の実技を受けれるよう、ミルフォード侯爵家に進言してみる」
「ありがとうございます、アルフォンス先生」
「気にするな。魔法適正があるのに使わないのはもったいないからな。それになにより聖女アリスティアの末裔である君の力をいつまでも封印しておくのは惜しい」
「その言い方ですと聖女アリスティアの魔法は凄かったのですか?」

 そう尋ねるとアルフォンス先生は口角を上げ頷く。

「ああ、とてつもない魔力量に希少な聖魔法まで使えたんだ」

 そう楽しそうに答えるアルフォンス先生に私もつい頬を緩ませる。そんな私をアルフォンス先生は少し考えるような仕草をして見てきた。

「ふむ、噂はあてにならないものだな。いや、記憶を失った事でそうなったのか……。まあ、とにかく何かあれば俺や他の教員を頼れよ」
「はい」
「では、以上だ。気をつけて帰れ」

 そう言ってアルフォンス先生は次の授業に使うのだろう資料を見始めたので、私は頭を下げると帰宅するために職員室を出たのだった。



「大丈夫でしたか?」

 職員室を出てから合流したロイドがすぐにそう聞いてきたので私は頷いた。

「ええ、体の調子を聞かれたのよ。それと何かあれば頼るようにと。とても良い先生だったわ」
「……そうですか」

 どこか不満そうにそう呟くロイドに私は気づかないふりをして馬車に乗り込む。本当は先ほど言った言葉の真意を問い正したかったのだが、それ以上にしばらく距離をおいて接した方が良いだろうと、今日一日、ロイドに接して判断したのである。

 今の記憶のない私を認めたくないみたいだし、その方がお互いに良いでしょう。

 そんな事を揺れる馬車の中で思っていると、突然、御者台からロイドの切迫した声が聞こえた。

「お嬢様、少し飛ばすのでどこかに掴まっていて下さい」
「えっ、何かあったの?」

 私は驚いてそう聞くがロイドからの返事はなく、かわりに馬車の速度が速くなった。
 それで何かが起きたと判断した私は扉についた窓から外を覗いたのだが慌てて窓から顔を離してしまった。なぜなら、髑髏の仮面を付けた黒いローブ姿の人物が浮遊しながら追いかけてきていたからだ。

 あの人に追われているの? でも、なぜ?

 そう思っていると、ロイドの声が聞こえる。

「魔法攻撃がきますからしっかり掴まってて下さい!」
「えっ……」

 私は驚いて声を出した瞬間、強い衝撃に襲われ扉に勢いよく頭をぶつけてしまう。そして、ゆっくりと崩れ落ちるとそのまま意識を失ってしまったのだった。
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