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しおりを挟む私はサーザント子爵令嬢に記憶をなくす前の自分が何をしていたのか教えてもらった。
スミノルフ男爵令嬢を怒って罵倒する、持ち物を破る、更には周りにバレないよう魔法で突き飛ばす……
想像して目眩が起き、私は目頭を押さえる。そんな私をサーザント子爵令嬢が心配そうに見ながらも話を続けてきた。
「突き飛ばすのは私だけしか見てませんが、他は皆知ってます。だからミルフォード侯爵令嬢は皆から恐れられ陰では悪役令嬢と囁かれているんです」
「悪役令嬢……良くわからないけれど私は中々に酷い人物だったようですね」
がっかりした口調でそう言うとサーザント子爵令嬢は頭を振った。
「いえ、元はといえば婚約者がいるのにわざわざ近づいていったスミノルフ男爵令嬢が悪いんです。しかも、最初に虐められたとか物を隠されたとか嘘を吐いたのはスミノルフ男爵令嬢なんです。それを、ミルフォード侯爵令嬢が嘘吐きじゃ可哀想だから本当の事にしてあげるわって……」
話を聞いていた私は項垂れた。
「後半の部分は聞きたくなかったわ……。もっと違うやり方はなかったのかしら……」
「ま、まあ、それ程スミノルフ男爵令嬢の行動に腹が立っていたのではないでしょうか。何せ元婚約者にちょっかいをかけられていた私も当時は怒り浸透でしたからね。なので、悪いとは思いつつもミルフォード侯爵令嬢の行動にはスカッとしていたんです。きっと私だけではないと思いますよ」
そう言って慰めてくるが、おそらくサーザント子爵令嬢の雰囲気から賛同していたのはほんの少数だろう。だから私は苦笑しながら首を横に振る。
「でも、私がやっていた事をサーザント子爵令嬢の所為にされてしまったという事は、私の所為で婚約解消になってしまった様なものでしょう……」
「いいえ! それは絶対違います。スミノルフ男爵令嬢の嘘を元婚約者が鵜呑みにして信じたのがいけないんです。まあ、所詮、私との関係はそれぐらい酷い状態だったので遅かれ早かれ婚約解消になっていたはずですから、ミルフォード侯爵令嬢は気にしないで下さい」
そう言ってサーザント子爵令嬢は少し寂しそうな顔をして俯く。私は思わずどう声をかけていいかわからなくなってしまっていると、サーザント子爵令嬢が慌てて両手を振ってきた。
「ああ、しんみりするのはやめて明るい話をしましょう! そうだ! スミノルフ男爵令嬢なんですけど、あんなに沢山の令息を捕まえて、このローライト王国でハーレムでも作るつもりなんでしょうかね⁉︎」
「ハーレム?」
また知らない単語が出てきたので私は首を傾げると、サーザント子爵令嬢は急に目を輝かせながら饒舌に喋り出したのだ。
「良いですか! 遥か南西の砂漠地帯にある王国の女王が沢山の男性を夫に持つ風習をハーレムって言うんですよ! ちなみに百人いたらしいですよ! 百人!」
そう鼻息荒く説明してくるサーザント子爵令嬢に私は引き気味になる。しかし、同時に疑問も感じてしまったのだ。だから私は尋ねてしまう。
「でも、このローライト王国は一夫一妻制ですから無理ではないでしょうか?」
するとサーザント子爵令嬢は腕を組み考える仕草をした。
「確かにスミノルフ男爵令嬢はお金がない男爵家だし、側にいる男子生徒の親が許さないでしょうね。まあ、あの人達は気にしなさそうですが……」
サーザント子爵令息はそう言ったあと、私に絡んできた男子生徒を蔑んだ目で見つめる。しかし、ハッとすると時計を見て慌てだした。
「いけない! 次に来る先生は先に教科書やノートの準備をしてないと怒るんですよ! だから、ミルフォード侯爵令嬢もちゃんと準備をした方が良いです」
「そ、そう、わかったわ」
私は頷き慌てて授業の準備をしだす。おかげで次の授業の時に先生に怒られるメンバーに入らなかったが、サーザント子爵令嬢との会話は結局中途半端に終わってしまったのだ。
◇
「私がしていたのは注意じゃなく虐めだったじゃない。何であの時、教えてくれなかったの?」
昼休憩になり私は中庭にロイドを連れだしそう尋ねると、悪びれる様子もなく答えてきた。
「何を言っているんです。最初に仕掛けてきたのはあのルイーザ・スミノルフ男爵令嬢って女子生徒じゃないですか。エレーヌお嬢様は良く言っていましたよ。嘘はいけないから本当にあった事にしてあげたって」
「けれども……」
「何を言おうがもう過ぎた事だし今更でしょう。それに俺はエレーヌお嬢様がした事は正しいと思っていますからね」
私の言葉を遮りそう言うとロイドはもう話は終わりとばかりに離れた場所に移動してしまう。きっと、見守りはするが会話はしたくないとの意思表示だろう。
私は近くにあったベンチに座って溜め息を吐いた。
「……これじゃあ私も婚約解消されてしまうじゃない」
記憶をなくす前の自分がした事を考えると間違いなく酷い令嬢である。そんな令嬢と婚約を続けたいだろうかと考えるとまず婚約解消の一択だろう。そう考えた瞬間、お母様に言われた事を思いだしてしまった。
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「本当に私にできるのかしら?」
そう呟いた後にふと気づいてしまう。自分が王太子殿下の顔を知らない事に。
マシューに教えてもらうのを忘れていたわ。確か同じクラスなのよね。今はまだお昼休憩だから挨拶だけでもしておきましょう。悩むよりはまずはそこからね。
私はそう考え、王太子殿下を探しに教室へと向かったのだった。
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