4 / 55
4
しおりを挟む習った通り貴族令嬢らしく対応したが、目の前の男子生徒の反応に不安になってしまう。
判断を間違えてしまったかしら……
そう思っていると我に返った男子生徒が口を歪ませ私をチラチラ見てきた。
「ふ、ふん、なるほど。今度は記憶喪失と偽り私の気をひく気か」
「えっ、なぜ、私があなたの気をひかなければならないのですか?」
思わず首を傾げてしまう。途端に教室中がどよめき、男子生徒は心底ショックを受けた表情を浮かべたのだ。
そんな光景を見た私は表情に出るぐらい焦ってしまった。
これは、間違いなく誤った行動をしたわ……
そう思い助けを求めてロイドの方を向こうとしたら、突然、男子生徒が私の腕を掴み怒鳴ってきたのだ。
「ふざけるな! 流石にそれは失礼すぎるだろう!」
「えっ、何が失礼なのですか?」
「なっ、まだ演技を続ける気か!」
「演技って……まさか、私の記憶喪失の事を疑っているのですか?」
「今までの事を考えるとそんなの当たり前だろう!」
そう言って腕を掴む力を強めていく。私は痛みで顔を顰めていると男子生徒の腕を丸めた本で軽く叩く者が現れたのだ。
私はロイドだろうと思い助かったとばかりに振り返る。しかし、そこに立っていたのはロイドではなく教員服を着た黒髪の若い男性だった。
「お前は人前で女性の腕に痣をつける趣味でもあるのか?」
男性が呆れた表情をしながらそう言うと、男子生徒は顔を真っ赤にして慌てて私から手を離した。
「そ、そんな趣味は持ち合わせていない! こいつが私の事を愚弄したからついカッとなっただけだ!」
「ほお、愚弄とはお前を覚えていないという事か。なら、診断をした王国御用達の医師に文句を言ってやれ」
男性がそう言うと男子生徒は顔を真っ青にさせ驚く。
「そんな……。じゃあ、記憶喪失は本当なのか?」
「疑うなら自分で聞いてこい」
面倒臭げに男性が答えると男子生徒は再び顔を真っ赤にして憤慨した。
「なっ! さ、さっきからなんなんだその態度は! 私が誰だか知らないのか!」
「知っている。だが、聖エールライト魔法学院に通う生徒に貴族も平民もない。つまりは皆平等だ。そして教員の俺はここでは神だろうがなんだろうが生徒なら注意できる立場なんだよ。そもそもお前の立場ならわかるだろう?」
「くっ……」
男性……男性教員の言葉に男子生徒は悔しげな表情をする。そんな男子生徒を見て男性教員は鼻を鳴らした。
「ふん、とにかくもう、授業が始まる。さっさと席につけ」
男性教員はそう言うが男子生徒は動かなかった。いや、おそらく今だに悔しさで我を忘れて聞こえていないだけだろう。案の定、桃色髪の女子生徒の「席に戻ろう」という言葉にハッとすると笑顔で頷き、一緒にいた人達と席へと戻っていった。それを皮切りに皆、席へとついていく。
そんな中、自分の席がわからないことに気づいた私は戸惑っていると、男性教員が声をかけてきた。
「君はエレーヌ・ミルフォードだな。席はそこだからさっさと着け」
「あ、はい」
私は男性教員が指差す席に慌てながら座る。すると、ロイドは何も言わずに従者や侍女が使う待機部屋に行ってしまったのだ。私は複雑な気分になったが黒板の方を向いた。男性教員が喋り出したからだ。
「今日からこちらに赴任してきたアルフォンスだ。じゃあ、授業を始める」
アルフォンス先生はそう言った後、さっさと授業を始めだしてしまった。そのため、何人かの生徒は不満そうな表情を向けたが、私はお礼を言いたい気分だった。あのままだったらきっと男子生徒と深刻なトラブルになっていたから。それに、久々の学院だったはずなのに今の件で緊張せずに済んだのである。
そして何よりアルフォンス先生のあの発言だ。
注意できる教員が来てくれたのなら、もしかしたら私と王太子殿下との問題を解決できるかもしれないわね。
そう思いながら黒板に書かれている文を書きとっていると、アルフォンス先生が私の隣に座る赤毛の女子生徒を指差した。
「ローライト国王の長ったらしいこの憲法三条を簡単に訳してみろ」
「ええと……」
女子生徒は困った顔を浮かべる。どうやら、答えがわからないらしい。
それを不憫に思った私は小声で答えを囁く。すると女子生徒は一瞬驚くが、私が教えた答えを言った。
「どのようなことがあっても闇の力に屈してはならない」
「……正解だ」
アルフォンス先生は私を睨んでくる。どうやらバレていたらしい。私は慌てて頭を下げるが「では、次にいく」と言う言葉が聞こえてきただけだった。
てっきり怒られるかと思っていたけれど……
私はノートを取りながらそう思っていると、横から視線を感じた。きっと、先ほどの女子生徒だろう。そう思っていたら案の定、授業が終わると隣にいた女子生徒が私に頭を下げてきた。
「あの、ありがとうございますミルフォード侯爵令嬢」
「気にしないで下さい。むしろ余計な事をしてしまってごめんなさいね」
私は頬に手を当て申し訳なさそうに言うと、女生徒は慌てて手を振ってきた。
「ぜ、全然余計ではありません。むしろミルフォード侯爵令嬢に助けられて嬉しかったです」
「そうなの? それなら良かったわ」
ホッとしながら微笑むと女生徒は頬を赤くしてしまう。しかし、すぐ覚悟を決めた表情を浮かべ頭を下げてきた。
「あ、あの、私はサーザント子爵家のアメリって言います。それで、ミルフォード侯爵令嬢にはずっと謝りたいと思っていたんです」
「えっ、どういうことかしら?」
「私の元婚約者の事で色々とご迷惑をかけて……」
サーザント子爵令嬢は先ほど女子生徒をかばった五人の男子生徒の方を悲しげに見つめるため、私は納得する。
「私はあなたの元婚約者にも注意していたのですか……。でも、どうやら私がいない間に残念な結果になってしまったみたいですね……」
「はい。ミルフォード侯爵令嬢が怪我でお休み中、やってもいないスミノルフ男爵令嬢虐めを持ち出されて……。所属していた風紀委員も辞めさせられた挙句に婚約解消までされてしまいました……」
「それは酷いですね。でも、そんな嘘がまかり通るものなのですか?」
「ここで起きた揉め事は聖エールライト魔法学院内で解決すると決まってまして。その解決に動くのが元婚約者が所属し、王太子殿下を筆頭とする生徒会だけなんです」
「なるほど。解決に動く人達がスミノルフ男爵令嬢の味方なら無理ですね。納得しました……。しかし、酷いですね。生徒会に所属する方が存在しない虐めをあったことにするなんて……」
私がそう言うと、なぜかサーザント子爵令嬢はバツが悪そうに顔を背けてしまう。それで、まさかと思い尋ねた。
「もしかしてスミノルフ男爵令嬢は誰かに虐められていたのですか?」
「え、ええ……」
そう答え、一瞬チラッとこちらを見てきたサーザント子爵令嬢に私は目を見開く。
「ま、まさか、私がスミノルフ男爵令嬢を虐めていたというのですか?」
するとサーザント子爵令嬢は迷った表情を浮かべながらも小さく頷いたのである。その瞬間、私は記憶をなくす前の自分がとんでもない人物だったと理解してしまったのだ。
26
お気に入りに追加
566
あなたにおすすめの小説
虐げられた人生に疲れたので本物の悪女に私はなります
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
伯爵家である私の家には両親を亡くして一緒に暮らす同い年の従妹のカサンドラがいる。当主である父はカサンドラばかりを溺愛し、何故か実の娘である私を虐げる。その為に母も、使用人も、屋敷に出入りする人達までもが皆私を馬鹿にし、時には罠を這って陥れ、その度に私は叱責される。どんなに自分の仕業では無いと訴えても、謝罪しても許されないなら、いっそ本当の悪女になることにした。その矢先に私の婚約者候補を名乗る人物が現れて、話は思わぬ方向へ・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒―
私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。
「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」
その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。
※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています

悪役令嬢、猛省中!!
***あかしえ
恋愛
「君との婚約は破棄させてもらう!」
――この国の王妃となるべく、幼少の頃から悪事に悪事を重ねてきた公爵令嬢ミーシャは、狂おしいまでに愛していた己の婚約者である第二王子に、全ての罪を暴かれ断頭台へと送られてしまう。
処刑される寸前――己の前世とこの世界が少女漫画の世界であることを思い出すが、全ては遅すぎた。
今度生まれ変わるなら、ミーシャ以外のなにかがいい……と思っていたのに、気付いたら幼少期へと時間が巻き戻っていた!?
己の罪を悔い、今度こそ善行を積み、彼らとは関わらず静かにひっそりと生きていこうと決意を新たにしていた彼女の下に現れたのは……?!
襲い来るかもしれないシナリオの強制力、叶わない恋、
誰からも愛されるあの子に対する狂い出しそうな程の憎しみへの恐怖、
誰にもきっと分からない……でも、これの全ては自業自得。
今度こそ、私は私が傷つけてきた全ての人々を…………救うために頑張ります!
廃妃の再婚
束原ミヤコ
恋愛
伯爵家の令嬢としてうまれたフィアナは、母を亡くしてからというもの
父にも第二夫人にも、そして腹違いの妹にも邪険に扱われていた。
ある日フィアナは、川で倒れている青年を助ける。
それから四年後、フィアナの元に国王から結婚の申し込みがくる。
身分差を気にしながらも断ることができず、フィアナは王妃となった。
あの時助けた青年は、国王になっていたのである。
「君を永遠に愛する」と約束をした国王カトル・エスタニアは
結婚してすぐに辺境にて部族の反乱が起こり、平定戦に向かう。
帰還したカトルは、族長の娘であり『精霊の愛し子』と呼ばれている美しい女性イルサナを連れていた。
カトルはイルサナを寵愛しはじめる。
王城にて居場所を失ったフィアナは、聖騎士ユリシアスに下賜されることになる。
ユリシアスは先の戦いで怪我を負い、顔の半分を包帯で覆っている寡黙な男だった。
引け目を感じながらフィアナはユリシアスと過ごすことになる。
ユリシアスと過ごすうち、フィアナは彼と惹かれ合っていく。
だがユリシアスは何かを隠しているようだ。
それはカトルの抱える、真実だった──。

第一王子は私(醜女姫)と婚姻解消したいらしい
麻竹
恋愛
第一王子は病に倒れた父王の命令で、隣国の第一王女と結婚させられることになっていた。
しかし第一王子には、幼馴染で将来を誓い合った恋人である侯爵令嬢がいた。
しかし父親である国王は、王子に「侯爵令嬢と、どうしても結婚したければ側妃にしろ」と突っぱねられてしまう。
第一王子は渋々この婚姻を承諾するのだが……しかし隣国から来た王女は、そんな王子の決断を後悔させるほどの人物だった。
転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜
みおな
恋愛
私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。
しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。
冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!
わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?
それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?
悪役令嬢に転生しましたが、行いを変えるつもりはありません
れぐまき
恋愛
公爵令嬢セシリアは皇太子との婚約発表舞踏会で、とある男爵令嬢を見かけたことをきっかけに、自分が『宝石の絆』という乙女ゲームのライバルキャラであることを知る。
「…私、間違ってませんわね」
曲がったことが大嫌いなオーバースペック公爵令嬢が自分の信念を貫き通す話
…だったはずが最近はどこか天然の主人公と勘違い王子のすれ違い(勘違い)恋愛話になってきている…
5/13
ちょっとお話が長くなってきたので一旦全話非公開にして纏めたり加筆したりと大幅に修正していきます
5/22
修正完了しました。明日から通常更新に戻ります
9/21
完結しました
また気が向いたら番外編として二人のその後をアップしていきたいと思います

村娘になった悪役令嬢
枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。
ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。
村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。
※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります)
アルファポリスのみ後日談投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる