2 / 12
2
しおりを挟む屋敷に戻るとすぐに侍女のナタリアに詰め寄った。
「あなたよくも嘘を吐いたわね」
「わ、私は本当の事を言っただけです! だから、叩かないで下さい!」
ナタリアは怯えた表情で頭を守るようしゃがみ込む。まるで、私が普段から叩いている様な感じである。すると、ロルイド伯爵夫人であり私の母アマリリスが慌てた様子で声をかけてきた。
「メ、メリー、どうしたの? また、ナタリアに暴力を振るったの?」
「いいえ、誓って私はそんなことをしてませんよ。お母様は信じるのですか?」
するとお母様は周りにいる何人かの侍女に声をかけた。
「あなた達は見たの?」
「はい、私はナタリアに暴力を振るったのを見ました」
「はい、頭を何度も……」
「あんな酷い事をするなんて……」
侍女達は震える体を手で押さえながら言ってくる。
どうやら、侍女は全員仲間にしたのね……
私は溜め息を吐いているとお母様が怒鳴ってきた。
「なんて事をするのメリー! ナタリアに謝りなさい!」
「嫌です。やっていないのに何故、謝るのですか?」
「メリー、あなたって子はどうして……」
「提案があります。頭を叩かれているか医師を呼んでナタリアの頭を調べたらどうです?」
私はお母様の話を遮ってそう提案する。ナタリアや他の侍女は一気に青ざめた。だが、お母様は全く気づかずに私を睨む。
「メリー、聞いてるのよ。あざを作らないように上手く叩いているって」
お母様の言葉を聞き私は固まってしまう。
何を言っているんだろう、この人は……
私は息が詰まりそうになりながら、なんとか声を振り絞り口を開く。
「……誰が言ったのですか?」
「アレッサよ、あの子は優しいからナタリアをとても心配してるのよ」
私は心底、目の前の人物に呆れはててしまった。
何が優しいだ……。自分の言うことを聞かない侍女は陰で虐めて辞めさせているくせに……
今ではアレッサやナタリアの言うことしか聞かない侍女で構成されてるじゃない。なんで、気づかないのよ。
私はつい言ってしまった。
「無知は罪って知ってますか?」
その瞬間、アマリリスは私に詰め寄り頬を叩いた。
「親になんて事を言うの! 今日は夕食は抜きよ!」
アマリリスは怒った顔をしながら、部屋に戻って行く。
その時、侍女達がニヤッとしたのを私はしっかりと見ていたが気にせずに私も部屋に戻る。その際、近くの額縁の上に隠していたものを誰にも見られないように回収すると、ポケットにねじ込んだ。
ふう……。疲れた。
勢いよくベッドに倒れ込むと埃が舞い上がる。私は溜め息を吐くと魔力を練り上げ魔法を唱えた。
「クリーン」
部屋の中が掃除をした様に綺麗になる。ちなみになぜ部屋が埃まみれになっているのかというと、学院の特別室で寝泊まりしてる事が多いから。それと部屋に誰にも入れない様に魔法で施錠しているのだ。
何をされるかわからないものね。しかし、うちは落ち着かないわね。学院の方がいいわ……
私は起き上がり周りを見る。正直、ほとんど何もない。アレッサに辞めさせられた侍女に少しでもお金になればと思い金品になりそうなものは渡しているから。
後、ナタリアを筆頭に盗まれているのもある……。
まあ、今は魔法で泥棒がはいらないように施錠しているから大丈夫だけど。
自分の家のはずなのになんでこんなことしなきゃいけないのだろうと溜め息を吐いていると扉がノックされた。
「誰?」
「ダンです、お嬢様」
「わかったわ」
私はすぐに扉を開ける。廊下には髭を整えた壮年の男性、料理長のダンが立っていた。ダンはすぐに紙袋を私に渡すと去っていった。
そんなダンの背中に心の中で感謝する。ダンはロルイド伯爵家で陰ながら私の味方をしてくれている一人なのだ。
料理長のダン、庭師のドノバン、そして執事のアルフ……けど、最近、アルフは私に近づかなくなっている。多分、アレッサが何かしているのだろう。
「アルフは大丈夫かしら……」
私はそう呟きながら、紙袋からサンドイッチと瓶に入った冷たいレモン水を出す。
「美味しい。ダンにはいつも危ない橋を渡らせてしまってるわ……」
私はダンに申し訳ない気持ちになりながらも、サンドイッチを頬張り続ける。そして、全部食べ終わるとベッドにまた倒れ込んだ。
はあ、徐々に詰めてこられてるわね。しかし、私を貶めて何がしたいのかしら?
正直、私はアレッサの行動がさっぱりわからないのだ。今のこのすぐ楯突く性格で嫌われるならわかるが、本当に小さい頃から嫌われているのでわからない。
何かをしたわけでもない。そう、私から何か意地悪な事をしたことは一度すらないのだ。むしろ、アレッサがひたすら意地悪をしてくる。まあ、大概、魔法で防いであげたが……
もしかして私が頭が良いのが気に入らない? いや、昔の私はむしろ頭が悪い方だったわ。
アレッサが本を取り上げられてしまうから何も学べなかったのだ。頭が良くなったのはバルサ王国魔導学院に入ってからである。
それにアレッサも私の頭の良さに関して何も言ってきたことはない。
じゃあ、なんなのだろう? 私が実をいうと養子だった? もしくは姉が養子だった?
そう考えたがすぐ頭を振った。両親の仲は凄く良いし噂すらたったことがないからだ。
ただ、最近わかったのだが両親は頭が弱いという事である。調べずに信じ込んでしまうのだ。おかげてロルイド伯爵家の財政は何度も傾いたことがある。
私がバルサ王国魔導学院に入ったあたりは更に酷かった。
だから、私が便利な魔導具を作り、その特許を王家に売って手に入れたお金を資金面に回したのだ。
だから、本来ならロルイド伯爵家の皆には感謝してもらいたいぐらいなのだがアレッサの所為で現在はあんな感じだ。
しかし、なんでアレッサは私を嫌うのかしらね……
私は首を捻る。そしてある考えを思いついた。
単に嫌いって線もあるわね……。いや、あり得るわ。
「でも、それだと、どうもできないじゃない……」
私は頭を押さえ唸ってしまう。それからポケットから四角い形をした魔導具を出す。
やっぱり、もうこれしかないのかな……
そう考えたら深く溜め息が出てしまうのだった。
205
お気に入りに追加
976
あなたにおすすめの小説

【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……
buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。
みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

相手不在で進んでいく婚約解消物語
キムラましゅろう
恋愛
自分の目で確かめるなんて言わなければよかった。
噂が真実かなんて、そんなこと他の誰かに確認して貰えばよかった。
今、わたしの目の前にある光景が、それが単なる噂では無かったと物語る……。
王都で近衛騎士として働く婚約者に恋人が出来たという噂を確かめるべく単身王都へ乗り込んだリリーが見たものは、婚約者のグレインが恋人と噂される女性の肩を抱いて歩く姿だった……。
噂が真実と確信したリリーは領地に戻り、居候先の家族を巻き込んで婚約解消へと向けて動き出す。
婚約者は遠く離れている為に不在だけど……☆
これは婚約者の心変わりを知った直後から、幸せになれる道を模索して突き進むリリーの数日間の物語である。
果たしてリリーは幸せになれるのか。
5〜7話くらいで完結を予定しているど短編です。
完全ご都合主義、完全ノーリアリティでラストまで作者も突き進みます。
作中に現代的な言葉が出て来ても気にしてはいけません。
全て大らかな心で受け止めて下さい。
小説家になろうサンでも投稿します。
R15は念のため……。

誰も残らなかった物語
悠十
恋愛
アリシアはこの国の王太子の婚約者である。
しかし、彼との間には愛は無く、将来この国を共に治める同士であった。
そんなある日、王太子は愛する人を見付けた。
アリシアはそれを支援するために奔走するが、上手くいかず、とうとう冤罪を掛けられた。
「嗚呼、可哀そうに……」
彼女の最後の呟きは、誰に向けてのものだったのか。
その呟きは、誰に聞かれる事も無く、断頭台の露へと消えた。

婚約者を奪われた私が悪者扱いされたので、これから何が起きても知りません
天宮有
恋愛
子爵令嬢の私カルラは、妹のミーファに婚約者ザノークを奪われてしまう。
ミーファは全てカルラが悪いと言い出し、束縛侯爵で有名なリックと婚約させたいようだ。
屋敷を追い出されそうになって、私がいなければ領地が大変なことになると説明する。
家族は信じようとしないから――これから何が起きても、私は知りません。

公爵令嬢を虐げた自称ヒロインの末路
八代奏多
恋愛
公爵令嬢のレシアはヒロインを自称する伯爵令嬢のセラフィから毎日のように嫌がらせを受けていた。
王子殿下の婚約者はレシアではなく私が相応しいとセラフィは言うが……
……そんなこと、絶対にさせませんわよ?

二人ともに愛している? ふざけているのですか?
ふまさ
恋愛
「きみに、是非とも紹介したい人がいるんだ」
婚約者のデレクにそう言われ、エセルが連れてこられたのは、王都にある街外れ。
馬車の中。エセルの向かい側に座るデレクと、身なりからして平民であろう女性が、そのデレクの横に座る。
「はじめまして。あたしは、ルイザと申します」
「彼女は、小さいころに父親を亡くしていてね。母親も、つい最近亡くなられたそうなんだ。むろん、暮らしに余裕なんかなくて、カフェだけでなく、夜は酒屋でも働いていて」
「それは……大変ですね」
気の毒だとは思う。だが、エセルはまるで話に入り込めずにいた。デレクはこの女性を自分に紹介して、どうしたいのだろう。そこが解決しなければ、いつまで経っても気持ちが追い付けない。
エセルは意を決し、話を断ち切るように口火を切った。
「あの、デレク。わたしに紹介したい人とは、この方なのですよね?」
「そうだよ」
「どうしてわたしに会わせようと思ったのですか?」
うん。
デレクは、姿勢をぴんと正した。
「ぼくときみは、半年後には王立学園を卒業する。それと同時に、結婚することになっているよね?」
「はい」
「結婚すれば、ぼくときみは一緒に暮らすことになる。そこに、彼女を迎えいれたいと思っているんだ」
エセルは「……え?」と、目をまん丸にした。
「迎えいれる、とは……使用人として雇うということですか?」
違うよ。
デレクは笑った。
「いわゆる、愛人として迎えいれたいと思っているんだ」

溺愛されていると信じておりました──が。もう、どうでもいいです。
ふまさ
恋愛
いつものように屋敷まで迎えにきてくれた、幼馴染みであり、婚約者でもある伯爵令息──ミックに、フィオナが微笑む。
「おはよう、ミック。毎朝迎えに来なくても、学園ですぐに会えるのに」
「駄目だよ。もし学園に向かう途中できみに何かあったら、ぼくは悔やんでも悔やみきれない。傍にいれば、いつでも守ってあげられるからね」
ミックがフィオナを抱き締める。それはそれは、愛おしそうに。その様子に、フィオナの両親が見守るように穏やかに笑う。
──対して。
傍に控える使用人たちに、笑顔はなかった。

王家の面子のために私を振り回さないで下さい。
しゃーりん
恋愛
公爵令嬢ユリアナは王太子ルカリオに婚約破棄を言い渡されたが、王家によってその出来事はなかったことになり、結婚することになった。
愛する人と別れて王太子の婚約者にさせられたのに本人からは避けされ、それでも結婚させられる。
自分はどこまで王家に振り回されるのだろう。
国王にもルカリオにも呆れ果てたユリアナは、夫となるルカリオを蹴落として、自分が王太女になるために仕掛けた。
実は、ルカリオは王家の血筋ではなくユリアナの公爵家に正統性があるからである。
ユリアナとの結婚を理解していないルカリオを見限り、愛する人との結婚を企んだお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる